リモートワーク(在宅勤務)への移行などが商機を拡大
「コロナ禍」での事業拡大事例を見る(その6)

2020年8月6日

コロナ禍の下で、リモートワーク(在宅勤務)への移行に伴う通信機器や、ビデオ会議サービスなどに対する需要の高まりが各地でみられる。また、リモートワークの増加とも関連するが、自宅での巣ごもり、さらには人との接触を低減させる自動化や遠隔業務に応じた企業の動きについて紹介する。

リモートワーク対応

ロシアでは、リモートワークへの移行に伴う通信機器(電子デバイス、ルーター、データ移送システム接続機器など)の購入・支出額が増加(注1)。また、ビデオ会議サービスが急成長し、米国のズーム・ビデオ・コミュニケーションズは2020年6月2日、同年2~4月期の売上高が前年同期比2.7倍(3億2,816万ドル)になった旨を発表(注2)。リモートワークの長期化による専用端末に対する需要の高まりから、同社は同年7月15日、家庭で使うビデオ会議用機器の販売も始める旨、発表している(注3)。

一方、ビデオ会議サービスでは、アマゾンが米国新興スラック・テクノロジーズと提携。マイクロソフトもクラウドサービス「チームズ」のビデオ会議機能を段階的に強化し、在宅勤務向けのニーズに対応し利用者を拡大させている(注4)。

アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は、日本経済新聞によるインタビューで、日本でも、自宅にテレワーク環境を整える人が増えたことで、以前はネット通販ではあまり購入されなかった机や椅子などの家具の販売が増えている旨に言及している(注5)。

また、米国ではコロナ禍の下、自宅で仕事をしている人や隔離生活を強いられた大人は、スマートスピーカーでニュース、情報、音楽、エンターテインメントなどを聞くことが増えており、自宅のスマートスピーカーを増設する傾向がある(注6)。

自家製料理を宅配するサービスを提供するブラジル企業イーツ・フォー・ユーは、これまではB to Bプラットフォームを通じて料理人と企業をマッチングさせ、料理人が作る自家製昼食を配送していた。ところが、新型コロナの感染拡大と自治体による自宅待機措置により企業からの注文が激減したことから、リモートワークに目を付けて、いわゆる「ウーバーイーツの自家製料理版」として、家庭向けにB to Cサービスを開始した。レストラン閉鎖により、同社サイトへの料理人登録も増加している、という(注7)。

自宅での巣ごもり対応

巣ごもり対応として、新型コロナ渦中には、自宅での食事頻度の高まりによる食材や小型調理家電(炊飯器、電子レンジなど)、また、自宅や周辺で過ごす時間が長くなったことから、自宅などでの「コト消費」関連での販売や、コンテンツ動画配信も好調であった。

中国ビッグデータ分析大手の奥維クラウドによると、中国では2020年1月~3月17日に炊飯器、電子レンジなど小型調理家電の販売額が前年同期比で増加。自炊する人が増えたことが、その理由と見られている(注8)。ジェトロ・大連事務所からの報告でも自炊に興味を示す人が増加し、パンやクッキーの材料の売り上げが伸びたとの声も聞かれた(注9)。ジェトロ・上海事務所からの報告では、食品関連日系企業の中には、レストラン経営から手を引き、動画配信プラットフォームで日本料理の作り方を紹介するとともに、使用している調味料の紹介・販売などを行っているところもある。新型コロナ発生以降、自宅で料理をする習慣が根付き、日本料理を作る中国人も多く、すき焼きのたれの売れ行きは好調、とされる。さらに、中国でコロナ感染が落ち着きを見せると、感染拡大下での外出自粛期間中には困難であった取り付け作業ができるようになったことから、エアコンなどの大型家電・生活電気製品の売り上げが急増している、とのことである(注10)。

また、自宅や周辺で過ごす時間が長くなったことから、前述の通りDIY(日曜大工)製品に対する需要が高まった旨の声も各地で聞かれる。加えて、保冷ボックスメーカーの米国イグルーは2020年5月26日、新型コロナの影響で自宅周辺や自宅の庭で過ごす人が増え、保冷ボックス需要が拡大しているとして、テキサス州ヒューストン近郊の製造拠点で最大500人の短期雇用を行うと発表した (注11)。

一方、映画館の休業なども追い風となり、コンテンツ動画配信サービスに対する需要が高まりをみせた。米国ネットフリックスは2020年7月16日、4~6月期の決算に関し、巣ごもり需要を反映し、売上高が前年同期比25%増の61億4,828万ドル、純利益が約2.7倍の7億2,019万ドルと、売上高、純利益ともに過去最高になった旨を発表。有料会員数も6%増の1億9,295万人となった、としている(注12)。

なお、ドイツ連邦食糧・農業省によるアンケート調査によれば、同国でもより多くの消費 者が家庭で料理に時間を費やしていることが明らかになるとともに、物流ルートが短い「地産地消」を重視する傾向が強まった、としている(注13)(表1参照)。

表1:コロナ禍でリモートワーク、自宅での巣ごもり関連に対応する主な企業事例
項目 企業名 事例の概要
リモートワーク ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(米) ビデオ会議サービスが急成長し、売り上げが大幅増。家庭でのビデオ会議用機器販売も開始する。
アマゾン・ドット・コム(米) スラック・テクノロジーズと提携し、オンラインビデオ会議のユーザー拡大に取り組み。
マイクロソフト(米) クラウドサービス「チームズ」のビデオ会議機能を段階的に強化し、在宅勤務向けのニーズに対応。
イーツ・フォー・ユー(ブラジル) リモートワークに目を付け、家庭向けに料理人をマッチングさせ、料理人が作る自家製昼食を配送。
巣ごもり対応 イグルー(米) 自宅周辺や自宅の庭で過ごす人が増え、保冷ボックス需要が拡大し、保冷ボックス製造工場で最大500人の短期雇用を行う。
ネットフリックス(米) 2020年4~6月期の決算で巣ごもり需要を反映し、売上高、純利益共に過去最高。

出所:メディア報道などからジェトロ作成

自動化対応(セルフサービスレジや、レジなし無人店舗の導入等)

人との接触機会を避けるため、レジなしの無人店舗の開設や、自分のスマートフォンを利用して飲食店での注文・支払いを行う端末に対する関心の高まりなども見られた。 ロシア高級スーパーマーケットチェーンのアズブカフクサが、オフィスビル街「モスクワシティ」でレジなしの無人店舗を開設する旨を、共同事業者である同国最大手行のズベルバンクが2020年5月20日に発表した。利用者は同行が開発したアプリを携帯端末にダウンロードし、支払いカード情報、領収書受け取りのためのメールアドレスを登録する必要がある。ただし、無人店舗の導入には多額の費用がかかり、より安価なセルフサービスレジやロシアの安い人件費との兼ね合いで、同国での普及は限定的と見る向きもある(注14)。

また、オーストラリア企業me&uは、コロナ禍前の2019年7月に、スマホをかざすだけで注文や支払いができる直径8センチほどの円形の端末me&uを開発したが、多くの人が触るメニューに触れることなく、また、店員との接触なしに対応できることから、コロナ禍の下、me&uに対する引き合いが増えているとされる(注15)。イタリアのスタートアップ企業Dishcoveryも、飲食店のデジタルメニューの作成にビジネスチャンスを見いだしている。具体的には、イタリア語のメニューをあらかじめ翻訳したものを同社がQRコードに変換し、来客はスマホでそのQRコードを読み取ることで瞬時に自身の言語で(メニューの詳細な説明など含め)読むことが可能となる(注16)。一方、英国書店チェーンのウォーターストーンズは、営業自粛時に店舗営業再開に備え、安全対策を検討。来店客に対し、手で触れた書籍は書架に戻さず台車に置いてもらい、倉庫で少なくとも72時間放置することを計画。そのほか、レジ前の透明スクリーン設置、店内の顧客数制限などの感染防止対策が含まれる (注17)。

日本の住宅メーカーによる、新たな試みもみられる。木造注文住宅のアキュラホームは、2020年 4 月 1 日から、さいたま市内のモデルハウスにおいて、次世代モバイル通信 第5世代移動通信システム(5G)新時代を見据え、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)、ロボット技術を取り入れたシステムにより運営される無人モデルハウスをスタート。来場した顧客をロボットが案内するほか、遠隔地のモデルハウスも案内できる最先端のスマートモデルハウスを実現(注18)。そして、同月29日からは、無人モデルハウスを全国 17 カ所でスタート。今後の事業展開として、5G 接続エリアの拡大とともに、先端技術を駆使した近未来型の無人モデルハウストータルリモートシステムを、顧客の自宅などいつでもどこからでも接続して利用できるようにしていきたい、としている(注19)。また、同社は、ウィズコロナ時代の新生活様式に対応したトータル提案を開始。ウイルスを家の中に持ち込みにくくする設計や設備を多数採用するほか、ニューノーマルな働き方である「テレワーク」も快適に実現する住まいの販売を2020 年 7 月 12 日から開始している(注20)。

遠隔業務対応

製造業、非製造業ともに、コロナ禍でデジタル技術の導入などを活用した遠隔業務に取り組む企業がみられる。日本では、AGCがガラスの試作品の確認に仮想現実(VR)を活用。牧野フライス精機も2020年5月から、出荷前の工作機械の検査の一部をオンラインでの顧客向けリアルタイム配信に切り替えた。また、米国マイクロン・テクノロジーの広島工場でも、欧州のソフト会社のエンジニアが来日できなくなったことから、従来は現場で実施していた電力設備向けのソフトウエアの導入作業を遠隔で実施している、という(注21)。

リコーも、遠隔での生産管理に取り組み、中国で2020年7月に稼働させる複合機工場で生産ラインの稼働状況を日本から遠隔で管理する、と報じられている(注22)。さらに、東京海上日動火災保険も工場や倉庫の事故リスクの診断業務を写真や動画で、遠隔診断可能にする、とされる(注23)。

その他

パナソニックとパナソニック システムソリューションズ ジャパンは2020年7月2日、顔認証ソリューション、センシングソリューション(注24)、高性能エッジデバイスを統合し、新事業「現場センシングソリューション」を立ち上げた。顔認証などの非接触やセンシングソリューションを使い、新たなビジネスの「お役立ち」を実現する(注25)。

一方、ドイツ総合電機大手シーメンスと米国ソフトウエア開発セールスフォースは2020年6月23日、コロナ禍の下での安全な業務復帰環境整備を支援する製品を共同開発する旨、発表。セールスフォースのプラットフォームとシーメンスのスマートインフラ事業で連携し、従業員の復職時、携帯電話に建物内の部屋の人数が許容上限に達したかどうかなどのデータが送信されるようにする、とされる(注26)(表2参照)。

表2:コロナ禍で自動化、遠隔業務関連に対応する主な企業事例
項目 企業名 事例の概要
自動化対応 アズブカフクサ(ロシア) ロシア最大手行ズベルバンクと共に、オフィスビル街でレジ無しの無人店舗を開設。
me&u(オーストラリア) コロナ禍前に、スマホをかざすだけで注文や支払いができる円形の端末を開発したが、コロナ禍を機に引き合いが増加。
Dishcovery(イタリア) イタリア語を他国語に翻訳した詳細なデジタルメニューの作成。
ウォーターストーンズ(英) 書店内で触れた書籍は書架に戻さず台車に置いてもらい、倉庫で少なくとも72時間放置することや、レジ前の透明スクリーンの設置、店内の顧客数制限などを行う。
アキュラホーム(日) 2020年4月より、AIやIoT、ロボット技術を取り入れたシステムで運営される無人モデルハウスをスタート。
遠隔業務対応 AGC(日) 硝子の試作品の確認に仮想現実(VR)を活用。
リコー(日) 2020年7月に中国で稼働させる複合機工場で生産ラインの稼働状況を日本から遠隔で管理。
東京海上日動火災保険(日) 工場や倉庫の事故リスクの診断業務を写真や動画で、遠隔診断可能にする。

出所:メディア報道などからジェトロ作成


注1:
ジェトロビジネス短信、2020年4月17日付「外出禁止令導入後、通信機器購入と酒屋での支出が増加」
注2:
日本経済新聞、2020年6月6日付「米ズーム、売上高2.7倍」
注3:
Zoom Video Communications, Inc. Press Release, July 15, 2020, “Zoom Launches Zoom For Home”
注4:
日本経済新聞、2020年6月6日付「ビデオ会議市場争奪」
注5:
日本経済新聞、2020年6月30日付「経済観測 ネット通販の変化は デジタル消費、自粛後も拡大」
注6:
TechCrunch Japan、2020年5月1日付「新型コロナ禍でスマートスピーカーの利用頻度が米国の若年層を中心に増加」
注7:
ジェトロ地域分析レポート、2020年4月15日付「新型コロナ危機を逆手に取った新たなスタートアップビジネスが台頭(ブラジル)」
注8:
ジェトロビジネス短信、2020年5月8日付「新型コロナウイルス下で小型調理家電が好調」
注9:
ジェトロビジネス短信、2020年3月4日付「新型コロナウイルス、日本産食品のオンライン販売への影響は限定的」
注10:
ジェトロビジネス短信、2020年5月14日付「リベンジ消費でもECが活況」
注11:
Houston Business Journal, May26,2020,“Igloo to hire up to 500 temporary workers to meet coronavirus-related demand”
注12:
ITmedia NEWS、2020年7月17日付「Netflix決算は過去最高の増収増益だが有料会員数増加率は鈍化」
注13:
ジェトロビジネス短信、2020年6月10日付「新型コロナウイルスの影響で食材の地産地消の傾向強まる」
注14:
ジェトロビジネス短信、2020年5月26日付「高級スーパーがレジなし無人店舗の導入に着手」
注15:
日本経済新聞、2020年7月15日付「飲食店での注文、スマホで 豪、高まる「非接触」需要」
注16:
ジェトロ地域・分析レポート、2020年6月30日付「イタリアのスタートアップ、コロナ禍をチャンスに変える」
注17:
The Guardian, May18 ,2020,“Waterstones plans to put its books under a 72-hour quarantine”
注18:
アキュラホームグループニュースリリース、2020年 3 月 2 6 日付「5G 開幕 で住宅業界 では日本初 無人モデルハウスを実現するトータルシステムをスタート 新型コロナウイルス感染症対策にも有効」。
注19:
アキュラホームニュースリリース、2020年4月28日付「案内ロボット「ゴーカンナ君 」の遠隔操作 で無人モデルハウスを全国に展開“ステイホーム週間”は自宅からもモデルハウス見学が可能に」
注20:
アキュラホームニュースリリース、2020 年7 月 1 日付「ウィズコロナ時代のニューノーマルとなる「新生活様式」を盛り込んだ モデルハウス を発表 日本初のオゾンシステム等でウイルスをシャットアウトするトータル提案」
注21:
日本経済新聞、2020年6月24日付「製造業 広がる遠隔業務」
注22:
日本経済新聞、2020年6月25日付「工場在宅勤務「3割超に」リコー、遠隔で生産管理」
注23:
日本経済新聞、2020年6月17日付「工場事故リスク 写真で遠隔診断 東京海上、コロナ受け」
注24:
センシングソリューションとは、IoTの導入に伴う各種センシング技術とデータ処理システムを提供し、業務上の問題を解決するサービス。
注25:
CNET Japan、2020年7月2日付「パナソニック、顔認証で非接触--ニューノーマル時代のビジネスを支える新事業立ち上げ」
注26:
Reuters, June 23, 2020 “Siemens, Salesforce aim to sell products for COVID-19 back-to-work plans”
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部上席主任調査研究員
川田 敦相(かわだ あつすけ)
1988年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、シンガポール、バンコク、ハノイ事務所などに勤務、海外調査部長を経て2019年4月から現職。主要著書として「シンガポールの挑戦」(ジェトロ、1997年)、「メコン広域経済圏」(勁草書房、2011年)、「ASEANの新輸出大国ベトナム」(共著)(文眞堂、2018年)など。