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感染防止対策として個人防護具、医療用機器など生産やサービス提供に積極的な動き(後編)
「コロナ禍」での事業拡大事例を見る(その3)

2020年8月6日

引き続き今回は、感染防止対策としての医療用機器などの生産や、清掃・衛生管理業務などのサービスに新たに携わる企業ついて以下に概説する。

人工呼吸器

スイスのセンサー製造センシリオンは2020年6月15日、新型コロナウイルス治療に必要な人工呼吸器用のガスセンサーの販売拡大などから、2020年度の業績見通しを上方修正。同社は「新型コロナ感染症流行で、世界中で人工呼吸器の需要が急増している」とし、「納入のピークは第2四半期(4~6月)と第3四半期(7~9月)になるだろう。その先の動向は不透明で、今後の感染状況に大きく左右される」としている(注1)。フランスでも、唯一の人工呼吸器メーカーである産業ガス大手エアリキードを中心に、自動車PSAグループ、自動車部品バレオ、電気電子機器シュネデール・エレクトリックなどがコンソーシアムを形成し、生産を拡大している(注2)。英国でも、エアバスやBAEシステムなどからなるコンソーシアムが人工呼吸器の生産に従事していたが、生産余剰が生じたため7月5日に生産を終了した(注3)。

一方、チリでは、政府主導でチリ製の人工呼吸器の製造に向けた計画が進んでいる。アンドレス・クブ科学・技術・知識・イノベーション相による2020年7月8日の発表によると、科学・技術・知識・イノベーション省、経済・振興・観光省が中心となった官民の協力によって、メード・イン・チリの人工呼吸器を製造する態勢を整え、社会課題の解決を図ろうというもの。現状では、1.民間企業DTS、航空関連の国営企業エナエル、チリ国軍へ武器などを供給する国営企業ファマエの3社の協力によるもの、2.国営造船会社アスマルとコンセプシオン大学の共同プロジェクトがそれぞれ進行中であり、自国産人工呼吸器の生産開始が期待される(注4)。

体温計・体温測定器

テルモは2020年4月、体温計を介した院内感染を防ぐため、感染管理に配慮し開発した消毒しやすい電子体温計(わきの下で測定)を同年5月12日から医療機関向けに販売する旨、発表(注5)。オムロンヘルスケアも、新型コロナ感染拡大防止の取り組みなどによるグローバル規模での検温需要の高まりに対応するため、体温計の生産体制を強化。同年10月から三重県松阪工場で新たに電子体温計の生産ラインを増設し、国内向けの商品供給を強化する。現在の生産工場であるオムロン大連の生産ラインをベースに、安全性や耐久性、省人化、高速性を追求した新たな生産ラインを松坂工場で構築し、年間最大300万本を供給する(注6)。

日本の半導体メーカー・ザインエレクトロニクスは、国内で新型コロナの感染が拡大する2020年2月末から、新規事業として非接触型人工知能(AI)顔認証検温システムの発売開始。中国のパートナー企業の持つカメラとAI技術を組み合わせて日本向けにカスタマイズしたとされる。計量・計測機器メーカー・エー・アンド・デイのブルートゥース付き電子体温計も日々の検温データをいちいち手入力する手間が省け、コロナ禍を機に受注が増えているという(注7)。

ウイルスや細菌を不活性化・殺菌するための製品

ウシオ電機は2020年6月2日、米国子会社ウシオ・アメリカが紫外線が持つウイルスの不活化や殺菌効果を生かした新装置(照明器具に取り付け)を2020年後半に北米で商品化すると発表(注8)。日本の光触媒製品開発ナノウェーブ社は新型コロナ感染防止需要を見込み、発光ダイオード(LED)を使って細菌やウイルスを分解する空気清浄機を開発。家電量販店などで販売するとされる(注9)。

一方、ダイキン工業子会社のエアフィルター大手・日本無機は、新型コロナウイルスを不活性化する高性能フィルターを用いてコロナ感染者隔離用の簡易ブースを開発した。カーテンで密閉空間をつくり、気圧を外より低くし、排気機器のフィルターがウイルスを捕まえることで、ウイルスの外部流出を防ぎ、医療従事者の2次感染の軽減につなげるとしている(注10)。

海外では、米国フォードは2020年5月27日、警察車両向けの車内除菌ソフトウエアを発表。米国やカナダなどで2013~2019年型の警察車両に搭載が可能。パワートレインと空調システムで車内温度を15分間、華氏133度(摂氏56度)まで引き上げ、新型コロナを死滅させる仕組み。オハイオ州立大学と提携し、ニューヨーク、ロサンゼルス、ミシガン、マサチューセッツなどで試験を実施した(注11)。

チリでは、政府が率先し、伝統輸出品である銅のナノ粒子を用いたアインテック社の製品を活用し、施設の除菌に取り組んでいる。同社が開発した銅ナノ粒子は空気中の99.9%の病原体を除去し、バクテリアやウイルスの拡散を防止し、1度の使用で約2週間の効力を持つとされる(注12)。

その他、感染防止に資する製品(自転車、電動キックボード、3Dプリンター)

その他、新型コロナ感染防止に資する製品として、公共交通機関の利用を避ける観点から、自転車や電動キックボード、マスク、防護メガネ、呼吸器などの製造に必要となる金型の代替としての3Dプリンターに対する需要の高まりが見られる。

イタリアなど欧州各地では、新型コロナ感染予防のため公共交通機関を避け、自転車の利用を推奨する動きがあり、中国から欧州向け自転車輸出が増加している。中国自転車メーカーSAVAの関係者によると、2020年4月以降の受注台数は前月比3割増、電動キックボードメーカーのSheng Miloも生産拡大予定とされる(注13)。台湾の自転車メーカーにも追い風となり、ジャイアント(巨大機械工業)やメリダ(美利達)は最大の輸出先であるEUで生産能力を拡充している。ジャイアントはハンガリーで自転車と電動アシスト自転車の工場を建設中(投資額は計4,800万ユーロ)である。2020年7月から本格生産を始め、2021年の生産規模は年間30万台、将来は同100万台を目指す。同社は2019年に工場があるオランダで欧州物流センターの建設に着手し、2020年末までの完成、運営開始を計画している。一方、メリダは1,000万~1,200万ユーロを投じてドイツに工場を建設。2020年末に完成予定で、翌年から生産を開始し、2022年には年産9万台を目指すとしている(注14)。

新型コロナの影響による防疫用品の供給不足解消のため、3Dプリンターでマスクや防護メガネ、呼吸器などを製造しようとする国・地域が多い。3Dプリンターを使用すれば金型は不要で、迅速かつ柔軟な生産が可能になる。中国で同製品出荷数1位の創想三維は2020年1~5月の輸出台数は既に前年2019年の出荷総数(50万台)を超え、2020通年では前年比3倍を見込んでいる(注15)。

表1:感染防止対策としての医療用機器などの生産に従事する主な企業事例
項目 企業名 事例概要
人工呼吸器 センシリオン(スイス) 人工呼吸器用のガスセンサーの販売が拡大。
エアリキード(フランス)、PSAグループ(フランス)など 2020年5月中旬までに1万台の人工呼吸器を生産。
エアバス(英)などコンソーシアム 人工呼吸器の生産に従事。7月上旬に生産終了。
DTS、エナエル、ファマエの3社(チリ)協力や、アスマル(チリ) チリ製の人工呼吸器の製造に向けた計画が進行中。
体温計・体温測定器 テルモ(日) 消毒しやすい電子体温計を5月中旬から医療機関向けに販売開始。
オムロンヘルスケア(日) 体温計の生産体制を強化。2020年10月より新たに電子体温計の生産ラインを増設。年間最大300万本を供給する。
ザインエレクトロニクス(日) 新規事業として非接触型AI顔認証検温システムの販売開始。
エー・アンド・デイ(日) ブルートゥース付き電子体温計の受注が増加。
ウイルス・細菌を不活性化・殺菌するための製品 Ushio America〔米(日系)〕 紫外線が持つウイルスの不活性化や殺菌効果を活かした新装置(照明器具に取り付け)を北米で商品化する。
ナノウェーブ(日) LEDを使って、細菌やウイルスを分解する空気清浄機を開発。
日本無機(日) ウイルスを不活性化する高性能フィルターを用いた、感染者隔離用の簡易ブースを開発。
フォード(米) 警察車両向けの車内除菌ソフトウエアを発表。
アインテック(チリ) 銅のナノ粒子をを用いた自社開発製品を活用し、施設の除菌に取り組み。

出所:メディア報道などからジェトロ作成

感染防止対策としてのサービス提供

感染防止策としてのサービス提供面では、清掃・衛生管理業務や、新型コロナ感染者追跡用や市民生活支援用のアプリの開発などが見られる。

(1)清掃・衛生管理業務

ブラジル企業テンポテンはもともと、B to Cプラットフォームを通じて、個人宅向けの鍵製作・開錠や電気工事といった各種設備業者サービスを提供していたが、今回の新型コロナ感染拡大を受け、家庭内の清掃・衛生管理業務の需要増加に着目。ウイルス駆除を目的として家庭向けに清掃サービスを提供する。ブラジル国家衛生監督庁(AIVISA)の認可を取得し、サービスを開始している(注16)。

(2)アプリ開発

  1. 感染者追跡用
    アルジェリアでは、コロナ禍中の2020年3月下旬、保健・人口・医療改革省がスタートアップのIncubMeとの協力で、新型コロナ感染拡大防止に役立つ公式アプリを開発。また、テクグラフ、ゴールデンコープ・アルジェリアのスタートアップ2社も、感染拡大防止に資するアプリを開発し、感染者のトレーサビリティー関連情報や予防のための健康上のアドバイス提供に取り組んだ(注17)。
  2. 市民生活支援用
    インドネシア・スタートアップのクルーは、人が密集する場所や支援物資が届かない場所の情報を共有できる機能を実装した一般ユーザー向けアプリ「QlueApp」を開発。国家防災庁主導の新型コロナ政府特別チームはこのアプリで市民生活を支援している(注18) 。

(3)外出制限時の市街監視ロボット

チュニジアでは、スタートアップのエノバ・ロボティックスがAI搭載の最新ロボットを開発し、外出制限時に市街の監視役として活用した。ミニ戦車のような容貌の地上監視ロボットで、内務省のカメラシステムにつながり、外出者を見つけると接近して遠隔から係員が外出理由を問うことができるという(注19)。

表2:感染防止対策としてのサービス提供企業事例
項目 企業名 事例概要
清掃・衛生管理業務 テンポテン(ブラジル) 設備業者サービスを提供していたが、コロナ禍で家庭向け清掃サービス分野に参入。
アプリ開発 IncubMe(アルジェリア) アルジェリア政府と協力し、感染拡大防止に役立つ公式アプリを開発。
テクグラフ、ゴールデンコープ・アルジェリア(アルジェリア) 感染者のトレーサビリティ関連情報や予防のための健康上のアドバイスを提供するアプリを開発。
クルー(インドネシア) 密集場所などを情報共有できる機能を実装したアプリを開発。
監視ロボット エノバ・ロボティックス(チュニジア) 外出者を見つけると接近し遠隔から係員が外出理由を問うことができるAI搭載の最新人工機能ロボットを開発。

出所:メディア報道などからジェトロ作成


注1:
ロイター日本語版、2020年6月15日付「スイスのセンシリオン、人工呼吸器用センサーの販売急増」
注2:
ジェトロビジネス短信、2020年4月3日付「マスク、人工呼吸器の国内生産を増大、脱中国依存に向け」
注3:
NNA EUROPE 2020年7月7日付「英コンソーシアム、人工呼吸器の製造を終了」
注4:
ジェトロビジネス短信、2020年7月13日付「メード・イン・チリの人工呼吸器製造へ向けて」
注5:
テルモ・プレスリリース、2020年4月27日付「テルモ、消毒しやすい体温計を発売」
注6:
オムロンヘルスケア・ニュースリリース、2020年5月19日付「電子体温計の生産体制強化に関して」
注7:
msnニュース、2020年6月18日付「アフターコロナ特需 数十倍売れたBT付き電子体温計、6000万円の「紫外線照射ロボ」、導入激増のサーモカメラ」
注8:
ウシオ電機ニュースリリース、2020年6月2日付「222nm紫外線殺菌・ウイルス不活化モジュール「Care222」、米国大手照明器具メーカーへの供給を開始」
注9:
日本経済新聞、2020年6月22日付「LED使う空気清浄機、ナノウェーブ、高出力で除菌力向上」
注10:
日本経済新聞、2020年7月11日付「コロナ患者を簡易隔離 ダイキンがブース 二次感染の軽減狙う」
注11:
Ford Media Center, May 27,2020, “Packing Heat: How Ford’s Latest Tech Helps Police Vehicles Neutralize COVID-19”
注12:
ジェトロビジネス短信、2020年5月15日付「新型コロナウイルス対策で銅を用いた除菌に注目」
注13:
ジェトロビジネス短信、2020年6月12日付「中国産自転車の欧州向け輸出が急増、新型コロナ対策で利用奨励」
注14:
時事通信社JIJI-WEB、2020年6月29日付「自転車大手2社、欧州で生産拡充=ジャイアントとメリダ-台湾」で、台湾経済紙・工商時報、同年6月27日付A4面の記事内容に言及。
注15:
ジェトロビジネス短信、2020年6月23日付「欧米向け3Dプリンターの輸出が倍増」
注16:
ジェトロ地域分析レポート、2020年4月15日付「新型コロナ危機を逆手に取った新たなスタートアップビジネスが台頭(ブラジル)」
注17:
ジェトロビジネス短信、2020年4月6日付「アルジェリアのスタートアップが新型コロナウイルス感染拡大防止に積極的に貢献」
注18:
ジェトロビジネス短信、2020年6月3日付「新型コロナ禍で活躍するインドネシアのスタートアップ」
注19:
ジェトロビジネス短信、2020年4月6日付「AI搭載ロボットを内務省が外出制限令の監視役に採用、チュニジアのスタートアップ」
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部上席主任調査研究員
川田 敦相(かわだ あつすけ)
1988年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、シンガポール、バンコク、ハノイ事務所などに勤務、海外調査部長を経て2019年4月から現職。主要著書として「シンガポールの挑戦」(ジェトロ、1997年)、「メコン広域経済圏」(勁草書房、2011年)、「ASEANの新輸出大国ベトナム」(共著)(文眞堂、2018年)など。

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