ASEANスタートアップに聞く(2)工場内物流向けロボットを開発(マレーシア)

2018年12月13日

シリーズの第2回は、工場や倉庫内の物流に利用できる無人搬送車(AGV)などのロボットを開発するマレーシアのDFオートメーション&ロボティクスを紹介する。英国で学び、マレーシア工科大学の上級講師である共同創業者のヨン・チェ・ファイ博士が、いくつかの非効率的なマレーシアの工場を見て起業を決意した。簡単にカスタマイズできる同社のシンプルなロボットは、新興国などで好評を得ており、マレーシア国外での販売を伸ばしている(取材日:2018年9月12日)。

工場・倉庫の生産性を向上させるロボット

質問:
起業の契機、どこにマレーシアの課題を見つけたか。
答え:
英国に4年間留学した経験があり、米国のシリコンバレーに滞在したこともある。外国滞在中に多数の起業家との交流があり、グラブの創業者であるアンソニー・タン氏も友人の一人。そうした中で、自分でも起業を検討していた。マレーシアに帰国後、国内工場ではルーティンワークや工場内物流に多大な人手がかかっており、その非効率性に疑問を感じた。日本のFA(ファクトリーオートメーション)メーカーの製品が普及していればよいが、マレーシアは小さい市場なので力を入れられていない。マレーシアの倉庫に適したロボットがあれば、生産性向上に貢献できると考え、2012年に起業した。

DFオートメーション&ロボティクスのロゴと共同創業者、ヨン・チェ・ファイ取締役(同社提供)
質問:
具体的な製品・サービスについて。
答え:
無人搬送車(AGV)などのロボットを開発・製作している。当社のAGVは、1万平方メートルまでの工場や倉庫の内部で利用が可能だ。顧客工場では生産工程を始めるにあたって、作業員が毎朝、部品を倉庫から生産ラインまで運んでいた。ある工場では、作業員が毎日、500kgの荷物を載せた台車を3km運んでいた。当社のAGVはこうした作業員の荷物運搬を補助することが可能だ。AGVのルートは簡単に設定することが可能で、マグネットテープを床に貼り付け、地図をコンピュータ上で作成するだけだ。カスタマイズも簡単にできる。当社のAGVは、マレーシア、シンガポール、タイ、インド、ベトナム、インドネシア、メキシコの多国籍企業に納入実績がある。AGV以外では、回転ずし店のロボットも開発し、米国や英国向けに納入している。

DFオートメーション&ロボティクスが開発・製作しているAGV(同社提供)
質問:
アーリーアダプターはどのようにみつけたか。
答え:
最初の顧客を見つけるのは非常に難しい。初めて当社製品を購入してくれたのは、大手外資系AGVメーカーがまだ参入していない国にある工場だった。最初に販売した顧客工場において、当社製品が生産性の改善と労務負担の削減に役立ったため、これが良い実績となった。現在では他の工場でも多くの実績を重ね、それが評判となり、販売を毎年拡大することができている。
質問:
ロボットを使うと、どれくらいのメリットが生まれるのか。
答え:
例えばインドの顧客工場では、当社AGVを40台導入した。主に生産工程の中で重い荷物を運搬する目的で利用されている。AGV1台当たりで最大6人分くらいの働きができると仮定すると、AGV40台を導入すれば、40~100人分の人員が削減できる可能性がある。人を雇用する場合、給料以外にも、食事や寮など多くのベネフィットを支払う必要があり、労働訴訟リスク、ストライキの発生リスクもある。

マレーシアのベンチャー向けサービスは不十分

質問:
チームについて。
答え:
約50人の従業員がおり、平均年齢は27歳と若い。当社のチームはロボット技術に強い熱意を持っており、ロボットに関して、この地域のリーディング・カンパニーを創ろうとしている。なお、本社はジョホール州に立地し、販売拠点がクアラルンプール、ペナンにある。
質問:
起業家として、マレーシアの問題点は感じたか。
答え:
政府は、マレーシア・デジタルエコノミー公社(MDEC)、マレーシア・グローバル・イノベーション創造性センター(MaGIC)などいくつかの機関を通じて、起業家に手厚い支援を行っている。しかし、日本に比べて、マレーシアにはスタートアップ向けサービスを行う企業が十分にない。マレーシアのベンチャーキャピタル(VC)ファンドで、1,000万ドル超を投資してくれるような企業はほとんど存在しない。よって、マレーシア国外のエコシステムに移転する以外、選択肢がなくなってしまう。また、マレーシアのVCは、電子商取引(EC)などデジタルサービスやソフトウエア開発を好む傾向にあり、当社のようなハードウエアやセンサー開発などの事業には投資したがらない。

高成長が続く世界市場で売り上げの増大を目指す

質問:
今後のプランについて。
答え:
世界のロボット市場は高成長を続けており、年平均で15.6%成長している。当社の売り上げは230万ドル(2018年)程度まで伸びており、2021年には1,200万ドルを目指している。適切な時期に上場することも考えている。
質問:
日本企業との提携についてはどうか。
答え:
日本国外では、顧客である日系企業にソリューションを提供する上で、いくつかのパートナーと協力している。ただ、日本国内では納入実績がないため、日本市場に参入するにあたって一緒に活動してくれるシステム・インテグレーターのような戦略的パートナーを探している。また、当社に投資してくれる資本パートナーも歓迎だ。

※本連載のスタートアップは、ジェトロが一般社団法人海外産業人材育成協会(AOTS)から「日ASEAN新産業創出事業」を受託し、デジタル、ヘルスケア、IoT(モノのインターネット)、サービスなどの新産業分野において、日本企業とASEAN企業の連携により、新産業創出に資する実証事業や連携促進を行う観点から招聘(しょうへい)しています。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2009~2012年)、ジェトロ大阪本部ビジネス情報サービス課(2012~2014年)、ジェトロ・カラチ事務所(2015~2017年)を経て現職。