ASEANスタートアップに聞く(6)コンドミニアム向けのデバイスでニッチ市場を狙う(タイ)

2019年1月18日

シリーズの第6回は、専用タブレット端末「ナスケット(Nasket)」により、タイのコンドミニアム向け買い物サービスなどを展開するナスケットのパリン・ソンプラチャーCEO(最高経営責任者)へのインタビュー(2018年9月12日)。同社は、ものを置くスペースが確保しにくいなどのコンドミニアムの特徴をつかみ、入居者のニーズに合わせたサービスを提供することで、ナスケットの導入台数を拡大してきている。

コンドミニアム入居者向けにターゲットを絞る

質問:
起業の契機は。誰をターゲットとしているか。
答え:
当社は2015年に創業し、専用タブレット端末の試作やテストを重ね、2017年8月から本格的にサービス展開を始めた。ナスケットは、バンコク市内の新設コンドミニアム入居者向けにターゲットを絞っている。現在、アナンダ・デベロップメント、SCアセット、ハビタットグループ、インスパイア・デベロップメント、サンシリといったデベロッパー向けに販売しており、各デベロッパーがバンコク市内で新設するコンドミニアムでの導入を進めている。展開を開始した2017年は200台の導入であったが、2018年9月時点では6,000台が導入されている。
質問:
タブレット端末ナスケットとサービスの内容は。
答え:
ナスケットはコンドミニアム入居者のコンシェルジュの代わりになる端末。壁掛け型タブレットで、下部にはバーコードリーダーを搭載している。主な機能の1つが、端末を設置したコンドミニアムの入居者向けの、買い物サービス。商品のバーコードを読み込むことで端末が商品を認識し、提携先の小売りチェーンに取り扱いがあれば、午前10時までの注文で、午後7時には自宅まで届く。コンドミニアムのロッカーへの配達も可能だ。提携している小売りチェーンには、ビッグシー(Big C)やセブン―イレブン、マックスバリューなどがあり、5万点以上のアイテムの取り扱いがある。
質問:
そのほかにはどのような機能があるのか。
答え:
買い物サービス以外には、家事代行手配、フードデリバリー、公共料金の支払い、訪問者とのビデオ通話、ニュースの閲覧・読み上げ、ビデオ通話を利用した医療相談などがある。同端末は5メートル程度離れた状態での音声認識が可能で、端末から離れて家事をしながらでもビデオ通話が可能だ。また、買い物や公共料金の支払いは、商品や請求書のバーコードを読み取り、クレジットカードで支払いができる。

パリン・ソンプラチャーCEOとコンドミニアム向け端末「ナスケット(Nasket)」(ナスケット提供)
質問:
どういった企業と提携しているのか。
答え:
家事代行は「Seekster」、住宅内の修繕は「FIXZY」、医療相談については「See Doctor Now」など、各サービスで専門の事業者と提携している。決済で提携しているのは、カシコン銀行で、QRコード決済システム「K PLUS」を導入している。
質問:
競合相手となる事業体はあるか。
答え:
アマゾンの「アレクサ」や、グーグルの「グーグルホーム」などが競合相手と考えている。しかし、ナスケットはコンドミニアム入居者向けサービスにターゲットを絞り、きめ細かなサービスを提供して、差別化を図っている。

日本では高齢者向け住宅にビジネスチャンス

質問:
今後の事業展開について。
答え:
今後は、消費者行動の把握と、サービスの多様化を図っていきたい。
消費者行動の把握としては、端末利用者の利用パターンからその人に合った最適なサービスを提供できるようなシステムの開発を進めている。サービスの多様化としては、タブレット端末のビデオ通話機能を活用して、リサーチ会社のインタビューへ利用者に答えてもらい、回答者には商品割引などのインセンティブを付与するといったシステムや、緊急時に警察へ通報できるようなシステムの導入を予定している。
質問:
日本市場についてどう考えるか。
答え:
日本では、あまりコンドミニアムが一般的ではないと聞いている。しかし、日本では高齢化が進んでいると聞いており、高齢者向けの住宅などでは一定の需要があると考えている。高齢者住宅は、住居内にものを置くスペースがそれほど確保できない場合が少なくないため、必要な時に必要な分の買い物をすることになり、ナスケットを通じた購入・宅配サービスが効果を発揮する。優良なパートナーが日本で見つかれば、日本でのサービス展開も検討したい。

※本連載のスタートアップは、ジェトロが一般社団法人海外産業人材育成協会(AOTS)から「日ASEAN新産業創出事業」を受託し、デジタル、ヘルスケア、IoT(モノのインターネット)、サービスなどの新産業分野において、日本企業とASEAN企業の連携により、新産業創出に資する実証事業や連携促進を行う観点から招聘(しょうへい)しています。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
南原 将志(なんばら しょうじ)
2014年、香川県庁入庁。2018年より現職。