EU CBAM本格適用:変わる競争環境と各国・企業の対応EU CBAM、排出量算定の実務対応

2026年9月18日

EU CBAMは、2023年10月に移行期間が開始し、2026年1月から本格適用が開始した。本格適用により、域外から輸入されるCBAM対象製品の体化排出量に応じた炭素価格の負担が発生し、排出量の算定結果や削減努力が企業負担を左右する段階に入ったといえる(本特集記事「EU CBAM本格適用、排出量の把握や管理がコストや競争力に影響」参照)。本稿では、2027年9月の初回報告に向け、域外の生産者にとってCBAM対応の中核となる排出量算定のポイントや、実排出量を使用する場合に必須となる検証機関の整備状況を整理し、日本企業が取るべき対応について考察する。デフォルト値の活用は日本企業にとって一定の負担軽減につながる一方、EU域内の取引先は、域外生産者に実測値の提供を求めたり、排出量が低い調達先に切り替える可能性があり、自社にとって合理的な算定方法を見極めることが重要だ。当面はデフォルト値を活用する場合も、将来的にEU市場で競争力を維持するために、実測値算定・検証に向けた体制整備が求められる。

CBAMでは製品単位の体化排出量が必要

EU CBAMでは、製品の種類別に体化排出量(embedded emissions、単位:製品1トン当たりのCO2換算排出量〔トン〕)を算定し、体化排出量に対応して納付するCBAM証書(CBAM certificate)数が決定される。体化排出量は、EU域外から域内に輸入された対象製品の生産に伴い排出される温室効果ガス(GHG)の量を示し、工場など施設単位ではなく、製品ごとに算出する必要がある。体化排出量は、対象製品の生産工程で排出される「直接排出量」と、対象製品の生産工程で消費される電力の生産から排出される「間接排出量」からなる。日本からの輸出が多い鉄鋼・アルミニウムでは、原則として直接排出量だけが対象となっている(注1)

製品に含まれる体化排出量は、対象製品・統合製品カテゴリ・生産施設・生産プロセスおよび前駆体を特定し、システム境界(体化排出量の算定対象とするライフサイクルの範囲)を確定した上で算定する。CBAM対象製品の生産に使用される中間素材のうち、CBAM対象製品であるものは、「前駆体(precursor)」として算定対象に含まれる。生産施設の排出量を製品別に帰属させ、前駆体の排出量を算定した後、製品1トン当たりの特定体化排出量を算定する(図1参照)。

図1:体化排出量算定に必要なステップ

図1:PDF版を見るPDFファイル(263KB)

システム境界の特定は次の通り。① 対象製品の特定。輸出製品のうち、CBAM規則対象製品をCNコードで特定。② 統合製品カテゴリーの特定。CBAM規則対象製品が属するAggregated goods category(統合製品カテゴリー)を特定。③ 施設と生産プロセスの特定。Installation(施設)とProduction Process(生産プロセス)を特定。④ 前駆体の特定。生産プロセスに投入される前駆体を特定。排出量の算定は次の通り。⑤ 施設の排出量の算定。燃料・電気などの施設で使用するエネルギー量の把握、排出係数の設定。⑥ 生産プロセスへの排出量の帰属。施設の排出量を生産プロセスに「帰属」させる。⑦ 前駆体の排出量の算定。ステップ4で特定した前駆体のサプライヤーから情報を収集して算定。⑧ 製品の特定体化排出量の算定。ステップ5~7で算定した排出量の情報を整理し、製品の特定体化排出量を算定。

出所:調査レポート「EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)に対応する排出量の算定実務マニュアル(2026年3月)」を基にジェトロ作成

システム境界の特定における留意事項

システム境界とは、CBAMで体化排出量の算定対象となるライフサイクルの範囲を指す。対象となるのは、製品およびその前駆体の製造工程のみであり、製品ライフサイクル全体を対象とする製品カーボンフットプリント(PCF)の範囲とは異なる点に留意が必要だ(図2参照)。また、簡素化規則および排出量算定に関する実施規則により、一部の仕上げ工程がシステム境界から除外された。鉄鋼製品では、切断、溶接、めっき、仕上げの工程は除外された。一方、加熱、再溶融、鋳造、熱間・冷間圧延、鍛造、酸洗、焼鈍、コーティング、亜鉛めっき、伸線の工程はシステム境界に含まれる。

図2:鉄鋼製品のシステム境界(イメージ)

図2:PDF版を見るPDFファイル(334KB)

鉄鋼製品の生産におけるCBAM算定対象範囲を示したフロー図。システム境界内には「前駆体の生産」と「鉄鋼製品の生産」が含まれる。前駆体の生産では、粗鋼・鉄鋼半製品を使用し、追加で前駆体を使用する場合は銑鉄、直接還元鉄(DRI)、合金鉄、鉄鋼製品が対象となる。鉄鋼製品の生産では、加熱、再溶融、鋳造、熱間・冷間圧延、鍛造、酸洗、焼鈍、コーティング、亜鉛めっき、伸線などを行う(切断、溶接、めっき、仕上げ工程は除く)。燃料の使用と、廃ガス・排ガス処理材(使用している場合)も生産工程に投入され、工程からCO2直接排出が発生する。システム境界外には、施設インフラや設備の購入・維持管理、銅や樹脂などのCBAM対象外原材料、電力の生産があり、電力の生産に伴うCO2間接排出が示されている。最終的に鉄鋼製品が生産される。

出所:欧州委員会「Guidance No. 5d - Sector-specific guidance document on iron and steel」、経済産業省「ねじ・ボルト等におけるEU-CBAM用算定ガイドライン(第3版)」を基にジェトロ作成

2026年分の排出量算定に向け、欧州委は2026年8月、EU域外事業者が準備すべき事項や体化排出量の算定方法、検証機関の認定・検証に関するガイダンス、セクター別のガイダンスを公表した(2026年8月26日付ビジネス短信参照)。例えば、鉄鋼製のねじ、ナットなどの川下製品の場合、事業者は施設の燃料消費に伴う直接排出量に加え、前駆体の体化排出量および前駆体投入係数(製品1トン当たりに使用される前駆体量)を把握・報告する必要がある。切断・機械加工などの工程で前駆体の一部がスクラップとなる場合も、スクラップの体化排出量はゼロとして扱われるため、投入した前駆体の全量が最終製品の体化排出量に組み込まれる。そのため、原材料のロスは最終製品の体化排出量を増加させる可能性がある。

サプライチェーンのデータ把握がカギ

鉄鋼製品の製造では、複数の前駆体がシステム境界に含まれる場合もある(図3参照)。前駆体となる中間素材を購入している場合、一次、二次サプライヤーから体化排出量データを取得する必要があり、サプライチェーン全体でデータを把握することが求められる。

図3:熱延鋼板の製造工程の例(高炉の場合)

図3:PDF版を見るPDFファイル(242KB)

鉄鋼製品の製造工程を5つの生産ルートで示したフロー図。生産ルート1では焼結工場で焼結鉱石を製造し、前駆体として供給する。生産ルート2では高炉で銑鉄を製造し、前駆体として次工程へ送る。生産ルート3では転炉(製鋼)で粗鋼を製造する。生産ルート4では粗鋼を熱間圧延し、最終製品である熱延鋼板(CNコード7208)を生産する。生産ルート5では廃ガスを利用して発電所で電気を生産する。各生産ルートは矢印で連結されており、焼結鉱石から銑鉄、粗鋼を経て熱延鋼板が製造される流れと、廃ガスから電気が生産される流れが示されている。

出所:欧州委員会「Guidance No. 5d - Sector-specific guidance document on iron and steel」を基にジェトロ作成

日系企業からは、サプライヤーが実排出量を算定できない場合や、排出量データに生産効率や工程に関する機微な情報が含まれることから、サプライヤーから情報を得ることが困難との課題も聞かれる。そのため実務上は、前駆体の体化排出量についてはデフォルト値を利用し、自社の施設からの排出量のみ実測値を利用する場合も想定される。前駆体の体化排出量の算定にデフォルト値を利用する場合であっても、輸出する対象製品ごとに使用する前駆体のCNコード、生産国(前駆体に対する最後の加工工程が行われた国)、投入重量を特定する必要がある。前駆体の生産国が特定できない場合は、欧州委が委任規則で定める保守的な値を使用する必要がある。特定できない場合のデフォルト値は、日本のデフォルト値よりも約4~9倍高く設定されており、体化排出量が増加する可能性が高い(表参照)。

表:主な前駆体のデフォルト値の比較注:(1)はマークアップなし、total emissions。CBAM証明書数の算出には、「総排出量」欄のデフォルト値を使用する。(2)は付属書IVに基づく。
CNコード 前駆体 (1)日本のデフォルト値 (tCO₂e/t) (2)生産国が特定できない場合 (tCO₂e/t) (2)/(1)
7201 銑鉄(Pig iron) 1.960 7.920 4.0
7207 11 11 半製品(鉄鋼の半製品) 2.100 8.230 3.9
2601 12 00 鉄鉱:凝結させたもの 0.200 1.610 8.1
7601 アルミニウムの塊 0.360 3.198 8.9

注:(1)はマークアップなし、total emissions。CBAM証明書数の算出には、「総排出量」欄のデフォルト値を使用する。(2)は付属書IVに基づく。

出所:デフォルト値に関する実施規則(2026/1740)を基にジェトロ作成

なお、在欧日系企業が輸入者(認可申告者)として報告義務を負う場合、制度上は認可申告者が報告方法(実測値またはデフォルト値)を選択することができる。ただし、実務上は、輸入者が実測値を使いたい場合でも、サプライチェーン側の対応可否に左右されるのが実態だ。

実測値の場合、第三者検証が必須

実測値を使用する場合、認定検証者による検証を受けなければならず、検証報告書がない場合はデフォルト値を使用しなければならない。CBAMにおける検証を実施できるのは、EU加盟国の国家認定機関(NAB)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(297KB)から認定を受けた認定検証機関に限られる。EU域外の検証機関も、NABに認定検証機関としての認定を申請することができる。2026年9月時点で、14カ国のNABがCBAM検証機関の認定を行っており、うち5機関(フランス、イタリア、オランダ、ポーランド、スウェーデン)が域外の第三国からの申請を受け付けている。欧州委は、9月にはCBAM認定検証機関による検証が開始され、2027年1月に検証報告書が発行される予定としている。

実排出量データの検証体制はなお整備途上にあるが、CBAMにおけるモニタリングプランや検証の制度設計はEU ETSに類似しており、欧州の検証機関は対応しやすいと言われる。さらに、初年度は施設への現地訪問が必須となっている。域外の生産国での検証に対応する認定検証機関の不足が懸念される中、トルコ認定機関(TÜRKAK)とオランダのNAB(RvA)が2026年中の認定に向け協力し、ウクライナの国家認定機関(NAAU)とスウェーデンのNAB(SWEDAC)が認定手続きの簡素化に向けた連携で合意するなど、EUへのCBAM対象製品の輸出が多い第三国では、いち早くEU域内のNABとの連携が進みつつある。日本の検証機関が認定を得られるかは現時点で不透明だ。

欧州委は域外生産者にもCBAM登録簿への登録を推奨

欧州委員会は、2026年6月に各加盟国でCBAMの実施・執行を担う「管轄当局(NCA:National Competent Authority)」のリストPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(350KB)を公開した。環境省、気候変動・エネルギー関連の省庁、税関当局などが指名されている。NCAは、対象製品の輸入事業者に「認可申告者」の認可を与え、CBAM申告書とCBAM証書数に対する審査を行い、認可申告者に対する罰則を判断する。税関当局は輸入品の通関管理を担い、CBAM対象製品の輸入量、原産地や再輸出加工手続きなど通関制度の利用状況などの通関情報をCBAM登録簿に登録することで(注2)、通関情報とCBAM登録簿の申告情報を照合できる。

欧州委は適用開始時のデータ共有基盤として、CBAM登録簿(CBAM Registry)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを設置している。認可申告者は、CBAM登録簿を通してCBAM申告書の提出やCBAM証書の登録を行う。CBAM登録簿には、認可申告者のほか、加盟国のNCAと税関当局、域外施設の事業者、認定検証者がアクセスできる。域外の生産者も、CBAM登録簿内の専用ポータル(O3CI)に排出量や検証報告書を直接登録でき、複数の輸入者に個別にデータを提供せずとも効率的に情報を共有できる。そのため、欧州委は域外の生産者に対してもCBAM登録簿への登録を推奨している。

実測値対応が将来的な競争力に

CBAMで求められる体化排出量の算定プロセスは、一般的なカーボンフットプリントの算定とは異なる点も多く、実測値の算定・検証には追加的なコストが発生する。そのため、デフォルト値での報告が可能となったことは、対応が難しい企業にとって一定の負担軽減につながると考えられる。また、前提として、EU側の輸入者が2025年に採択された簡素化措置によりCBAMの適用対象外となっている場合もある(注3)。特に中小企業にとっては、自社の取引先が本格適用後もCBAM対象となるか、再度確認することも重要だ。

一方、域内の顧客(輸入者)は、CBAM報告の負担軽減や炭素コストの価格転嫁の観点から、域外の生産者に実測値の提供を求めたり、排出量が低い調達先に切り替えたりすることも想定される。EUに対象製品を輸出する日本企業は、デフォルト値を下回る実測値を提供できれば、EU市場で競争力につながる可能性がある。もっとも、認定検証機関の整備や第三国で支払った炭素価格の控除(2026年7月3日付ビジネス短信参照)など、なお不確定な事項も残る。2026年分はデータや体制の未整備を理由にデフォルト値を活用する場合も、将来的にEU市場で競争力を維持するために、実測値対応に向けた準備を進めておくことも一案だろう。

排出量算定に取り組む日本企業は、自社の対象製品や前駆体のサプライチェーンを把握するとともに、自社の既存の取り組みとCBAM要件とのギャップを特定した上で、自社にとって合理的な算定方法を見極め、必要な体制を構築することが重要だ。


注1:
ただし、鉄鋼のうちCNコード「2601 12 00:鉄鉱(精鉱および焼いた硫化鉄鉱を含む):凝結させたもの」は、直接排出量と間接排出量が対象。CBAMにおける直接排出とは、生産プロセスで消費される温冷熱の発生に伴う排出と定義され、自社・他社からの供給を問わない。間接排出は、生産プロセスで消費される電力の発電に伴う排出と定義され、自社による発電であっても間接排出に当たる。 本文に戻る
注2:
税関当局との情報共有範囲に関する実施規則(2025/2619)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。 本文に戻る
注3:
簡素化規則により、電力・水素を除くCBAM 対象製品の輸入量が年間 50トン以下の輸入事業者について、CBAM規則の対象外とする免除措置が導入された。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
川嶋 康子(かわしま やすこ)
2023年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2025年4月から現職。