EU CBAM本格適用:変わる競争環境と各国・企業の対応EU CBAM排出量検証制度 日本企業は検証にどう備えるか
2026年10月27日
EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)では、EU域内の認可申告者(輸入者)がCBAM対象となる輸入品の実排出量を用いて申告する場合、EU加盟国の国家認定機関(National Accreditation Body:NAB)から認定を受けた独立した第三者検証機関(Accredited Verifier:認定検証機関)による検証が必要となる。一方、欧州では検証機関の認定制度が立ち上げ段階にあり、日本企業の間でも対応を支援する検証機関への関心が高まっている。本稿では、CBAMの検証制度の概要を整理するとともに、日本で主要検証機関となり得る各社の取り組みを紹介する。
認定制度の整備が本格化
欧州委員会はCBAM検証制度に関するページ
を公開し、認定検証機関の登録制度を本格的に開始した。2026年8月に欧州委が公表したCBAM検証者向けガイダンス(2026年8月26日付ビジネス短信参照)では、検証業務に求められる評価手法や判断基準が詳細に整理された。その重要な要素の一つとして、「合理的保証(Reasonable level of assurance)」の考え方が具体化された。合理的保証とは、検証者が実排出量データについて重大な誤りがないことを高い水準の確信をもって確認することを意味し、単なる書類確認にとどまらず、算定方法の適切性、データフローや内部統制の有効性、根拠資料との整合性などを総合的に審査することが求められる。また、検証者には、独立性と「職業的懐疑心(Professional scepticism)」を維持しながらリスク分析や現地訪問を実施し、報告された排出量が実際の生産活動を適切に反映しているかを検証することが求められることも明確化された。
欧州委によれば、最初のCBAM認定検証機関が2026年9月頃に認定されるとの見通しを示していた。認定検証機関のリストは同委ウェブサイトで公表される予定だが、本稿執筆時点では掲載されていない(本特集記事2026年9月18日付「EU CBAM、排出量算定の実務対応」参照)。
| 時期 | 主な内容 |
|---|---|
| 2026年1月 | 輸入者が認可申告者の申請を開始し、CBAM対象製品の輸入を開始 |
| 2026年1月 | 域外施設の事業者が体化排出量のモニタリングおよび算定を開始 |
| 2026年4月 | EU加盟国の国家認定機関(NAB)がCBAM検証機関の認定を開始 |
| 2026年9月 | 認定検証機関がCBAM登録簿(CBAM Registry)への登録を開始 |
| 2026年9月 | 初回検証を開始(文書審査、現地訪問) |
| 2027年1月 | 認定検証機関が初の検証報告書を発行 |
| 2027年1月 | 域外施設の事業者が検証報告書を認可申告者と共有可能に |
| 2027年2月 | 認可申告者がCBAM証書の購入を開始 |
| 2027年9月 | 認可申告者が2026年分のCBAM申告書を提出し、必要なCBAM証書を納付 |
出所:欧州委CBAM検証制度に関するページ
からジェトロ作成
日本企業に求められる検証への備え
CBAMの本格適用に伴い、EU向け輸出企業には排出量データの信頼性確保がこれまで以上に求められる。そのため企業は、排出量の算定結果だけでなく、どのような方法や管理体制に基づいて算定したのかを示すモニタリングプランを作成する必要がある。排出量算定が温室効果ガス(GHG)排出量を計算する作業であるのに対し、モニタリングプランは対象設備、生産工程、データソース、算定手法、品質管理体制などを文書化し、排出量報告の信頼性を担保する役割を果たす。2026年8月に公表されたガイダンスでは、モニタリングプランには、モニタリング方法の基本原則のほか、管理手順、補足手順書、品質管理措置、モニタリングプランの更新手続きなどを盛り込むことが求められた。検証者はこれに基づき、事業者の排出量算定・報告プロセスの妥当性を確認することになる。
出所:欧州委公表資料、検証機関資料を基にジェトロ作成
現時点では欧州委による認定検証機関の登録作業が進められており、今後は認定検証機関が域外施設の排出量データやモニタリングプランを検証し、CBAM申告に必要な検証報告書を発行する役割を担う。また、認定検証機関は原則として製造拠点を現地訪問し、排出量の算定方法やデータ管理体制、生産工程の実態などを確認する必要がある。初回の検証では現地訪問が必須となる。一方、2年目以降は、前回の現地訪問以降に設備や生産工程、エネルギー供給、モニタリングプランなどに大きな変更がない場合、オンラインでの訪問・確認が認められる(図参照)。
検証機関の担当者によると、検証を受ける企業の主な留意点として、(1)排出量算定に必要なデータと根拠の整理、(2)社内の部門間連携の強化の2点が重要であるという。まず、排出量算定では、単に排出量の数値を示すだけでなく、その数値に至るまでのプロセスを体系的に整理し、文書化しておくことが重要だ。例えば、製品100トンの製造に使用した燃料量や原材料投入量を基に、どの計算式を用いて排出量を算定したのか、その根拠となるデータや証憑(しょうひょう)も含めて説明できる状態にしておく必要がある。もう一つの課題が、社内の部門間連携だ。原材料の調達情報は購買部門、燃料使用量は生産管理部門、排出量算定はサステナビリティー担当部門が管理するケースが多く、必要な情報が社内に分散している。そのため、CBAM対応を特定の担当部署だけで進めるのではなく、関係部門間で継続的に情報共有できる体制を整備することが重要となる。
CBAM関連サービスを提供する主要な検証機関
こうした中、EU排出量取引制度(ETS)やGHG排出量検証で実績を有する検証機関は、CBAM分野への参入に向けた準備や関連サービスの拡充を進めている。各検証機関はNABからの正式認定取得に向けた準備を進める一方、企業向けにCBAM対応支援、排出量算定支援、プレ検証などのサービスを提供している。本格適用前の段階では、正式な検証に先立ち、排出量算定方法やデータ品質上の課題を把握するため、プレ検証サービスを活用することも一つの方法となる。
検証機関を選ぶにあたっては、日本で検証を受けられるのか、EU ETSでの実績、グローバルでのサポート体制などがポイントとなる。日本では以下のような検証機関がCBAM関連サービスを提供しており、認定取得に向けた申請を進めている。
BSI(本社:英国):英国規格協会グループとして、マネジメントシステム認証や各種保証サービスを提供している。CBAMについては、研修サービス、準備状況評価(Gapアセスメント)、排出量データの検証支援などを実施している。日本ではGXリーグの登録検証機関として登録されている(注) 。
ビューローベリタス(本社:フランス):認証、検査、試験、検証サービスを提供する第三者機関。CBAM関連では、排出量データの検証、算定手法のレビュー、準備状況評価(Readiness Assessment)、制度対応支援などを提供している。CBAMの検証機関として、9月に認定を取得。あわせて、GHG排出量の検証やEU ETS関連サービスも手掛けている。
DNV(本社:ノルウェー):船級協会を起源とする認証・検証機関であり、エネルギー、気候変動、脱炭素分野に関するサービスを提供している。CBAMについては、対象製品の排出量算定支援、制度対応に向けたアドバイザリー、第三者検証などを展開している。日本GXリーグ登録検証機関。
LRQA(本社:英国):排出量データ収集支援、事前検証、トレーニング、サプライチェーン管理支援などのサービスを提供している。日本GXリーグ登録検証機関。
SGS(本社:スイス):実排出量データの検証、プレ検証、適合性評価、教育・研修サービスなどを提供している。CBAMの検証機関として、10月に認定を取得。また、日本ではGXリーグ登録検証機関として、GHG排出量検証やサステナビリティー情報の検証業務を実施している。
TÜV SÜD(本社:ドイツ):製造業や重工業分野を中心に認証・検証サービスを提供している。CBAMについては、排出量算定方法や報告内容の確認を目的としたプレ検証や適合性評価サービスを展開している。日本GXリーグ登録検証機関。
認定検証機関制度は整備途上にあるものの、排出量検証の実施が本格化するにつれ、検証機関への需要の増加が見込まれる。日本企業としては、認定検証機関の動向を注視するとともに、排出量算定に用いるデータや証憑の管理体制、モニタリングプランの整備を早期に進めることが重要となる。特に、検証では算定結果だけでなく、その根拠となるデータや手続きの妥当性も確認されるため、購買、生産、施設管理、サステナビリティー担当部門などが連携し、排出量データを継続的かつ透明性の高いかたちで管理できる体制の構築が求められる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部欧州課 課長代理
伊尾木 智子(いおき ともこ) - 2014年、ジェトロ入構。対日投資部、ジェトロ・プラハ事務所、調査部国際経済課を経て2024年から現職。共著『FTAの基礎と実践-賢く活用するための手引き-』(白水社)など。





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