アフリカにおける日本のポップカルチャーの可能性を探るアニメ・マンガ制作で世界を繋ぐ
日本企業がエジプトに制作拠点設立

2025年11月6日

エジプトは1億800万人を超える人口を抱え、年齢中央値は24.5歳(国連統計)と、主要なアジアの新興国と比べても若い。日本食、アニメなど日本の文化への関心が若年層を中心に高まり、アニメや映画など日本のポップカルチャー関連イベントも実施されている。

J-MANGA CREATE外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、「アニメ/マンガ”制作”で世界を繋(つな)ぐ」を理念とし、2022年に創業した日本のスタートアップ企業だ。中国、ベトナムへの進出に続き、2024年にエジプトに子会社を設立し、エジプトでビジネスを展開している。ジェトロは同社の岡本立也代表取締役に、同社のビジネスモデルおよび今後のエジプトでの展開について話を聞いた(取材日:2025年10月5日)。


J-MANGA CREATEエジプト法人スタッフ(J-MANGA CREATE提供)
質問:
事業概要は。
答え:
事業の柱は、アニメ制作、マンガ制作、海外クリエイター育成、海外でのIP(知的財産)ビジネスの4つだ。
事業の中心はアニメーションの受注制作。アニメ制作市場は日本で3,390億円、世界全体で3兆円の規模で、成長を続けている。日本のクリエイターはレベルが高い一方で、日本では労働環境の厳しさからクリエイター不足が問題となっている。当社はグローバルな分業体制の構築で、クリエイター不足の解決を目指している。バックオフィス業務は人工知能(AI)を活用して統一的に管理し、原画作成などの後の工程の作画は中国、ベトナム、エジプトの子会社で人間の手で行う。海外の制作拠点は100%子会社だ。直接、クリエイターを育成し、品質を管理することで、制作費を58%削減することに成功した。今後も海外のリソースの活用で高い収益を実現しつつ、海外のクリエイターにとっても平均所得を上回る待遇を確保する。
自社で企画したアニメの制作準備も進めている。子会社設立を通じて海外展開を先に進めておくことで、現地マーケットを理解し、自社企画にも生かすことができると考えている。ウェブトゥーン(注1)、縦型ショートアニメ、フルアニメ制作をすべて自社で実施できる体制を目指す。近年、SNSやショート動画との親和性が高い縦型のショートアニメやマンガが注目されており、この形態で自社企画のコンテンツに火を付け、フルアニメに昇華させたい。また、現地の英雄など、海外ならではのコンテンツをモチーフとしたアニメ制作やIPとしての商業展開も予定している。
今後は、グッズ販売の海外展開も視野に入れている。例えば、自社が扱うIPコンテンツを上映する映画館でポップアップショップを開設し、コスプレイヤーなどインフルエンサーを活用してファンを集め、IPコンテンツを広めるとともに、グッズや書籍の販売、書店でのプロモーションも行う。このような販促方法には、日本のノウハウが生かせると考える。
質問:
エジプトに拠点を設立した理由は。
答え:
中東・北アフリカ(MENA)地域は既に多くの人口を抱え、さらに、今後もさらなる人口増加が予測されている。アラビア語圏は社会・文化的な繋がりが強く、例えばエジプトで制作されたコンテンツをサウジアラビアなど他の国に横展開できる。エジプトは国としての規模も大きく、人口ボーナスも無視できない。中東のハブとして、エジプトがふさわしいと考えた。
質問:
現在までのエジプトでの展開状況は。
答え:
アニメ制作スタジオをエジプトで立ち上げた。既に1人のクリエイターを雇用し、現在3人が選考試験の真っただ中だ。エジプトでは日常的に絵を描く、クリエイターとしての素質が高い人が多いが、日本式のアニメーション作画は特殊で、選抜と訓練が必要だ。エジプトのヘルワン大学芸術学部(注2)や国立映画学院など、芸術系の学校に日本式アニメ教育を広め、学生のうちから訓練して採用することを目指している。将来的には50人を超えるクリエイターを集め、アニメ制作をエジプトでの事業の軸とすることを考えている。
クリエイターの教育については、社内のクリエイター育成ノウハウを教育コンテンツとしてオンラインで事業化、アラビア語、英語、中国語、ベトナム語での多言語展開を目指している。本事業については日本の経済産業省の補助金事業にも採択され、6~15歳向けの学校教育版と15~29歳向けの本格クリエイター版の2種類で実証実験中だ。世界中で使われている日本発の作画ソフトの制作元と提携し、このソフトの使い方も世界で広める計画だ。
質問:
中国、ベトナム、エジプトに子会社を展開しているが、各国に特色はあるか。
答え:
中国は、アニメの浸透度が高く、人口も多いため、クリエイターの数も日本の数倍に上る。作品企画を日本で実施し、作画は中国で行うなど、中国のクリエイターには助けられることも多い。ベトナムについては、日本のアニメ関係の企業が徐々に進出を始めている段階で、100人規模のクリエイターを抱えるスタジオもある。日本の企業から背景作画などの下請けをしてきたスタジオもあり、アニメ制作の素地がある。近年では、より高度な人物作画をベトナムのスタジオが受注する、現地発のアニメが制作されるなど市場開拓が進んでいる。
中国やベトナムと比べると、エジプトは日本式のアニメ制作の導入期にある。素養はあり、クリエイターの数も多いが、10~15歳といった若いうちから教育ができるとさらにクリエイターの質が上がると考える。アニメ・マンガ制作には素質も必要だが、技術も求められる。例えばマンガの間合いやアニメの構図などは理論をインプットしないと描けない。日本の場合、漫画家志望者は他の漫画家のアシスタントを経験することがほとんどで、その際に必要な技術を身に付けるが、エジプトにはこれがない。
アニメの原画作成など、上流の工程は日本のクリエイターのレベルが高いのでなかなか海外ではまねできないが、その後の工程は技術を教えれば他の国でもできる。30分のアニメを作るのに約7,000枚の作画が必要だが、すべての工程を日本で実施することは人手の面でも、コストの面でも難しい。一方で、アニメについては世界全体で3兆円の市場がある。グローバル分業体制の展開で作品を作り、アニメの市場に打って出るのが当社の目標だ。

注1:
ウェブトゥーン:スマートフォンで縦にスクロールしながら読むデジタルコミック。
注2:
ヘルワン大学芸術学部:エジプトのカイロ県にある国立大学。芸術学部は特に有名。
執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。