特集:成長への活路はどこに―国内3000社アンケートから紐解くグローバルビジネス戦略、どこから見直す?

2023年3月30日

新型コロナの流行に伴う市場・社会の変化、ロシアのウクライナ侵攻をはじめとする地政学リスクの増加など、企業はグローバルビジネスを展開する上で新たな課題に直面している。ジェトロが実施した2022年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(以下、本調査、注1)で、初めてビジネス変革の方針について聞いた。

ビジネス変革に取り組む企業、新たな人材確保に力点

急速に変化するグローバル情勢に対し、企業はビジネスモデル変革や新たなビジネス戦略構築の必要性に直面している。本調査でこれらのビジネス変革の必要性について尋ねたところ、「変革が必要」としている企業の割合は全体の約7割に上った(図1-1参照)。うち、3割はすでに変革に着手している。変革の必要性を最も認識している業種は化学で80.6%、次に木材・木製品など(76.4%)、精密機械(75.9%)と続く(図1-2参照)。また、情報通信機械/電子部品・デバイスではすでに変革に取り組んでいる企業の割合が47.3%と最も高い。新型コロナ感染拡大後、デジタル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が改めて認識され、国内でもデジタル分野での改革が進められてきた現状が見て取れる。

図1-1:ビジネス変革の方針
変革が必要であり、すでに取り組んでいる30.5%、変革が必要だが、取り組みに着手できていない39.0%、変革は特に必要ない(現状の体制で対応)26.8%、無回答3.7%。
図1-2:変革の必要性を認識している業種
「変革が必要であり、すでに取り組んでいる」、「変革が必要だが、取り組みに着手できていない」の順にそれぞれ化学40.3%、40.3%、木材・木製品/家具・建材/紙パルプ30.9%、45.5%、精密機器29.1%、 46.8%、一般機械 32.0%、42.9%、医療品・化粧品31.7%、42.9%、電気機械 28.3%、45.3%、情報通信機械/電子部品・デバイス 47.3%、25.5%、自動車・同部品/その他輸送機器24.4%、46.3%、飲食料品 23.9%、46.5%、窒業・土石 23.3%、46.7%。

注:業種は上位10業種を記載。
出所:2022年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

ビジネス変革を推進する手段としては、国内および海外での「人材の獲得」を選択する企業が多く、国内人材の獲得については48.4%、海外人材の獲得については44.0%となった(図2参照)。世界的にみても人材獲得競争が激化しており、特にDXを推進するエンジニアやマーケティングを担う専門人材などを、国内外問わず多くの企業が求めている。大企業をみると、「海外(国内の外国人材も含む)も含めた人材の獲得」をビジネス変革の手段として挙げた企業が57.4%と最も多くなったほか、「海外企業とのパートナーシップ」との回答も4割に達した。大企業のオープンイノベーションが加速するにつれ、日本にとどまらず、海外のリソースを活用してビジネス改革のヒントを模索する姿がうかがえる。

図2:ビジネス変革を行うための手段
国内での新たな人材の獲得48.4%、海外(国内の外国人材も含む)も含めた人材の獲得44.0%、経営資源の配分の見直し40.1%、採算性の低い既存事業の廃止26.6%、、支援機関の活用25.8%、海外企業とのパートナーシップ(技術提携、資本提携など)25.8%、国内企業とのパートナーシップ(技術提携、資本提携など)25.4%、新たな海外市場向けビジネスの立ち上げ(拠点設置)25.1%、大学・研究機関との共同研究21.5%、資本の調達(補助金・ベンチャーキャピタル・銀行からの借入など) 17.1%。

注:上位10項目を記載。
出所:2022年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

外国人材の雇用に関する調査はジェトロで過去にも行っているが、今回の調査で外国人材を雇用する企業の割合は、2014年度以降初めて50%を超えた(図3参照)。企業規模の差による違いは依然としてあるものの、2022年度調査では中小企業における伸びが大きく、前回調査(2018年度)の38.5%から46.7%へ拡大した。外国人材に対する企業の期待として挙げられたのは、「労働力不足の解消」(50.7%)に加え、「海外市場の営業・交渉力の向上」(50.2%)、「言語対応力の強化」(41.8%)、「海外市場のマーケティング強化」(37.0%)が上位となった。企業がグローバル化を進める上で、外国人材の雇用をその布石とする意向が見て取れる。特に大企業においては「海外市場の営業・交渉力の向上」と回答する企業が43.3%と最も高かった。

図3:外国人材を雇用する企業の割合
全体では2014年度(n=2,995)42.2%、2016年度(n=2,995)46.0%、2018年度(n=3,385)45.1%、2022年度(n=3,118)51.5%。大企業では69.4%、73.1%、74.5%、79.2%、中小企業では33.9%、38.6%、38.5%、46.7%。

注:nは全体の回答数。
出所:2022年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

外国人材への期待を在留資格別にみると、「労働力不足の解消」の期待には技能実習、その他の項目の期待には技術・人文知識・国際業務、いわゆる高度外国人材を採用する企業が最も多い。専門技術や知識を有する高度外国人材の在留者数は増加傾向にあり、在留外国人統計(法務省)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、2022年6月末の高度外国人材は30万人で、前年同期比9.2%増となっている。これらの人材は企業の海外戦略に貢献するとともに、国内においても新たなイノベーション創出のきっかけになるとの期待が高い。

カギとなるSDGs、社内体制構築と新規事業領域の開拓

次に、ビジネス変革にどのような観点から取り組むかという問いに対しては、SDGs(注2)を意識した回答が上位となった。既存のビジネスプロセスや社内体制の見直し・高度化に関する改革では、「SDGsを見据えた社内体制構築」が最も多く、44.3%が回答した(図4参照)。企業の方針策定や情報発信でSDGsに対応する姿勢を示すことで、企業イメージの向上や他社との差別化、信頼性の向上などに寄与することが期待できる。とりわけ、脱炭素化や人権尊重などに関する社内の取り組みは一般消費者だけでなく、投資家や取引先などのステークホルダーからの評価にも影響する。その他の選択肢では、「サイバーセキュリティ対策の強化」「地政学リスクに対応したサプライチェーンの見直し」でそれぞれ36.9%、34.9%の回答があった。新型コロナに続き、長引くロシアのウクライナ侵攻の影響によりサプライチェーン途絶のリスクが顕在化し、企業は調達先や輸送ルートの複線化など、サプライチェーン強靭化に向けたかじ取りを迫られる。

図4:既存のビジネスプロセスや社内体制の見直し・高度化
SDGsを見据えた社内体制構築(方針策定・情報発信)44.3%、社内コンプライアンスの強化40.9%、サイバーセキュリティ対策の強化36.9%、地政学的リスクに対応したサプライチェーンの見直し(調達先や輸送ルートの複線化など)34.9%、先端技術の積極的な導入(デジタル技術や新素材の活用など)による既存のビジネスの効率化32.7%、自然災害リスクに備えたBCPの策定・体制整備31.5%、既存ビジネスの脱炭素化への対応(省エネ推進、評価、情報発信強化等)31.0%、経済安全保障を動機とする輸出管理等の強化14.4%、人権尊重への対応(海外の人権デューディリジェンス法制化や国内ガイドラインへの準拠)12.2%、無回答 5.7%。

出所:日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(ジェトロ)

また、課題に対応する新規ビジネス領域・新規市場の開拓でも、「SDGsを見据えた新規事業領域の開拓」が1位だった(図5参照)。今後も拡大が見込まれるSDGs市場を機会と捉え、新たな製品やサービスの開発に取り組むことが、多くの企業にとって最優先課題の1つに位置付けられていることが分かる。持続可能な開発のための世界経済人会議(WBSDC)(注3)の「持続可能な開発目標CEO向けガイド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(2017年3月)によると、SDGsに関連した取り組みにより2030年までに世界全体で年間12兆ドルの市場機会が生み出されると推定している。WBSDCは、SDGsへの取り組みを社会課題の解決のみならず、経済成長のためのイノベーション・ドライバーとして位置付けており、特に医療・福祉、モビリティ、エネルギーの効率化などの分野で市場が拡大すると試算している。2位以下の回答では、「エネルギー不足や原材料価格の高騰に対応する新たな素材・技術・サービス等の開拓」や「脱炭素化に貢献する新たなビジネス・事業領域の開拓」が続く。地球温暖化による気候変動や、環境保護に配慮したエシカル消費への関心はとりわけ若年層で高く、市場における中長期的な成長領域として新たなビジネス創出の機会となっている(2022年12月19日付地域・分析レポート参照)。

図5:課題に対応する新規ビジネス領域・新規市場の開拓
SDGsを見据えた新規事業領域の開拓32.7%、エネルギー不足や原材料価格の高騰に対応する新たな素材・技術・サービス等の開拓31.3%、脱炭素化に貢献する新たなビジネス・事業領域の開拓(新技術、新サービスの開拓など)28.3%、越境ECやSNSなどを活用した販路の拡充28.2%、顧客データの取得・分析等を通じた新たな市場やビジネス領域の開拓25.9%、先端技術の積極的な導入(デジタル技術など)による新規事業領域、新規市場開拓23.9%、防災や災害対応のための新たなビジネス(製品・サービス)の開発9.5%、仮想空間(メタバース)やNFT(注)などの新たなプラットフォームの活用8.8%、わからない10.6%、その他1.2%、無回答 8.2%。

注:NFTとは、「Non-Fungible Token」の略称で、代替不可能で固有の価値を持つデジタルトークンのこと。
出所:日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(ジェトロ)

本レポートでは、ビジネス変革を行う日本企業の手段や内容について見てきた。世界経済の先行きが不透明さを増す中、地政学リスクや新たな価値基準に対応する企業の姿が浮かび上がった。グローバルに展開する企業は目まぐるしく変化する情勢をにらみつつ、持続可能な経営を実現するための人的資本への投資が今後一層必要になるだろう。


注1:
本調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用日本企業9,377社を対象に、2022年11月中旬から12月中旬にかけて実施し、3,118社から回答を得た(有効回答率33.3%、回答企業の85.1%が中小企業)。プレスリリース報告書も参照。過去の調査の報告書もダウンロード可能。
注2:
持続可能な17の開発目標。2015年9月、国連サミットで国際社会の共通目標として採択された。
注3:
持続可能な開発を目指す企業約200社のCEO(最高経営責任者)連合体。参加企業は、政府やNGO、国際機関と協力し、持続可能な発展に関する課題への取り組みや経験を共有。現在、参加企業は約35カ国。スイス・ジュネーブに本部を置く。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
伊尾木 智子(いおき ともこ)
2014年、ジェトロ入構。対日投資部(2014~2017年)、ジェトロ・プラハ事務所(2017年~2018年)を経て現職。