特集:成長への活路はどこに―国内3000社アンケートから紐解く供給制約・円安による企業活動への影響大、リスク分散の動きが加速

2023年3月30日

ジェトロが実施した2022年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(以下「本調査」)では、国際ビジネス環境の変化による業績への影響について尋ねた。 新型コロナ、ウクライナ紛争などを背景に、世界的なサプライチェーンの混乱が続く中、日本企業による自社のサプライチェーン再構築の取り組みについて、特に供給制約や円安への対応に焦点を当て、考察する。

50%超の企業が原材料・部品の供給に不足感

本調査では、供給制約の現状について、原材料・部品の供給不足感、最も不足感を感じている原材料・部品、供給不足感への対策に関する質問を設けた。「原材料・部品全般の供給に対して不足感があるかどうか」を尋ねた結果、「不足感がある」と回答した企業は全体の50.4%となり、「不足感はない」の29.1%を大きく上回った(図1参照)。

図1:原材料・部品などの供給不足感の有無(全体)(単位:%)
全体3,118社中、不足感がある50.4%、不足感はない29.1%、わからない18.6%、無回答ふ2.0%

出所:2022年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

グローバル・サプライチェーン圧力指数(GSCPI)(注1)をみると、2022年ごろから緩和傾向ではあるものの、2022年11~12月はそれぞれ1.23、1.18と、依然として調査対象期間中の平均より高い水準を示しており、世界的なサプライチェーンの逼迫が続く状況を裏付けている(図2参照)。

「不足感がある」と回答した企業を企業形態別にみると、国内企業(29.0%)に比べて、輸出企業(54.2%)、海外進出企業(53.3%)、輸入企業(45.6%)(注2)の割合が高く、サプライチェーンが国外に広がる企業ほど、供給不足を感じる割合が高いといえる(図3参照)。

図2:グローバル・サプライチェーン圧力指数(GSCPI)の推移(2010年1月~2023年1月)
2010年は、1月-0.13、2月-0.11、3月0.40、4月0.37、5月0.44、6月-0.02、月0.06、8月0.30、9月0.31、10月0.48 、11月0.40、12月0.69。2011年は、1月0.88、2月0.34、3月0.67、4月1.47、5月0.91、6月0.17、7月0.18、8月-0.14、9月-0.59、10月-0.42、11月0.08、12月-0.08。2012年は、1月0.35、2月-0.05、3月-0.38、4月-0.36、5月-0.71、6月-0.69、7月-0.67、8月-0.18、9月-0.28、10月-0.11、11月-0.41、12月-0.19。2013年は、1月-0.03、2月-0.38、3月-0.54、4月-0.76、5月-0.84、6月-0.64、7月-0.67、8月-0.55、9月-0.31、10月-0.16、11月-0.67、12月-0.49。2014年は、1月-0.59、2月-0.27、3月-0.59、4月-0.80、5月-0.80、6月-0.64、7月-0.80、8月-0.62、9月-0.78、10月-0.55、11月-0.91、12月-0.37。2015年は、1月-0.45、2月-0.29、3月-0.39、4月-0.44、5月-0.51、6月-0.83、7月 -0.40、8月-0.65、9月-0.43、10月-0.21、11月-0.63、12月-0.59。2016年は、1月-0.72、2月-0.73、3月-0.66、4月-0.32、5月-0.71、6月-0.30、7月-0.13、8月0.06、9月-0.29、10月-0.07、11月-0.29、12月-0.20。2017年は、1月0.16、2月0.18、3月0.11、4月0.10、5月-0.09、6月0.13、7月0.07、8月0.41、9月0.53、10月0.81、11月0.83、12月0.69 。2018年は、1月0.62、2月0.10、3月0.45、4月0.54、5月0.38、6月0.42、7月0.49、8月0.52、9月0.46、10月0.40、11月0.44、12月0.45 。2019年は、1月0.62、2月0.11、3月0.20、4月-0.04、5月-0.65、6月-0.52、7月-0.47、8月-0.33、9月0.08、10月0.03、11月0.07、12月0.00 。2020年は、1月-0.02、2月1.09、3月2.44、4月3.10、5月2.43、6月2.15、7月2.67、8月1.30、9月0.56、10月 0.10、11月0.68、12月1.63 。2021年は、1月1.30、2月1.90、3月2.21、4月2.93、5月2.99、6月2.73、7月2.45、8月3.24、9月3.26、10月4.12、11月4.23、12月4.30 。2022年は、1月3.59、2月2.74、3月2.76、4月3.29、5月2.65、6月2.35、7月 1.78、8月1.47、9月0.94、10月1.12、11月1.23、12月1.18。2023年は1月0.95。

注1:バルチック海運指数や各国の製造業購買担当者景気指数(PMI)など27の変数を基に算出。
注2:対象期間(1997年9月~2023年1月)の平均をゼロとし、値が大きいほどサプライチェーンが逼迫している状況を示す。
出所:米国ニューヨーク連邦準備銀行

図3:原材料・部品などの供給不足感の有無(企業形態別)(単位:%)
輸出企業(n=1,395)は、不足感がある54.2%、不足感はない32.2%、わからない13.0%、無回答0.6%。海外進出企業(n=1,246)は、不足感がある53.3%、不足感はない24.3%、わからない20.1%、無回答2.3%。輸入企業(n=149)は、不足感がある45.6%、不足感はない33.6%、わからない18.8%、無回答2.0%。国内企業(n=245)は、不足感がある29.0%、不足感はない32.7%、わからない32.7%、無回答5.7%。

出所:図1に同じ

続いて、「不足感がある」と回答した企業を業種別にみると、製造業が58.8%に対し、非製造業は38.6%と大きく差が開いた(図4参照)。製造業の中でも特に、一般機械(83.0%)、精密機器(82.3%)、電気機械(82.1%)では、「不足感がある」と回答した割合がいずれも8割を超えた。

図4:原材料・部品などの供給不足感の有無(業種別・上位10業種)(単位:%)
製造業(n=1,814)は、不足感がある58.8%、不足感はない27.6%、わからない12.4%、無回答1.2%。非製造業(n=1,304)は、不足感がある38.6%、不足感はない31.1%、わからない27.1%、無回答3.2%。一般機械(n=147)は、不足感がある83.0%、不足感はない7.5%、わからない8.2%、無回答1.4%。精密機器(n=79)は、不足感がある82.3%、不足感はない7.6%、わからない8.9%、無回答1.3%。電気機械(n=106)は、不足感がある82.1%、不足感はない9.4%、わからない7.5%、無回答0.9%。情報通信機械/電子部品・デバイス(n=55)は、不足感がある70.9%、不足感はない20.0%、わからない7.3%、無回答1.8%。化学(n=77)は、不足感がある70.1%、不足感はない22.1%、わからない6.5%、無回答1.3%。窯業・土石(n=30)は、不足感がある63.3%、不足感はない23.3%、わからない10.0%、無回答3.3%。自動車・同部品/その他輸送機器(n=82)は、不足感がある59.8%、不足感はない24.4%、わからない14.6%、無回答1.2%。医療品・化粧品(n=63)は、不足感がある57.1%、不足感はない28.6%、わからない14.3%、無回答0%。その他の製造業(n=242)は、不足感がある55.8%、不足感はない30.6%、わからない12.8%、無回答0.8%。飲食料品(n=473)は、不足感がある51.6%、不足感はなし31.5%、わからない15.6%、無回答1.3%。

注:製造業、非製造業および「不足感がある」と回答した比率が高い上位10業種。 出所:図1に同じ

では、具体的にどのような原材料・部品に不足感があるのか。不足感を感じている割合が高い製造業に絞り、「最も不足感を感じる原材料・部品」を単一選択式で尋ねた。機械関連の業種では、電子部品および半導体の不足感が強かった。「電子部品」は、一般機械で51.6%と半数を超える企業が最も不足感がある製品として選択した(図5参照)。「半導体」は、情報通信機械/電子部品・デバイス(38.5%)、電気機械(34.5%)と電気・電子機械関連の業種で不足感が強かった。加えて、近年、電動化が進む自動車・同製品/その他輸送機器でも30.6%が「半導体」が最も不足していると回答し、他の原材料・部品と比較しても高い結果となった。

図5:最も供給不足感がある原材料・部品(製造業・業種別)
一般機械(n=122)は不足感があると回答した割合が83.0%。品目は、電子部品が51.6%、半導体(製品およびウェーハを含む部材)が15.6%、樹脂/ナイロン(材料/製品)が4.1%、鉄鋼(材料/製品)が8.2%、石油製品が0.8%、その他金属材料/製品が6.6%、銅(銅線/銅材)が1.6%、その他が4.9%、無回答が6.6%。 精密機械(n=65)は不足感があると回答した割合が82.3%。品目は、電子部品が44.6%、半導体(製品およびウェーハを含む部材)が27.7%、樹脂/ナイロン(材料/製品)が10.8%、鉄鋼(材料/製品)が6.2%、その他金属材料/製品が1.5%、その他が3.1%、無回答が6.2%。電気機械(n=87)は不足感があると回答した割合が82.1%。品目は、電子部品が46.0%、半導体(製品およびウェーハを含む部材)が34.5%、樹脂/ナイロン(材料/製品)が3.4%、鉄鋼(材料/製品)が5.7%、石油製品が1.1%、その他金属材料/製品が2.3%、銅(銅線/銅材)が1.1%、その他が1.1%、無回答が4.6%。情報通信機械/電子部品・デバイス(n=39)は不足感があると回答した割合が70.9%。品目は、電子部品が23.1%、半導体(製品およびウェーハを含む部材)が38.5%、樹脂/ナイロン(材料/製品)が10.3%、鉄鋼(材料/製品)が5.1%、その他金属材料/製品が5.1%、その他が5.1%、無回答が12.8%。化学(n=54)は不足感があると回答した割合が70.1%。品目は、食品(原材料含む)が1.9%、電子部品が3.7%、半導体(製品およびウェーハを含む部材)が5.6%、樹脂/ナイロン(材料/製品)が24.1%、鉄鋼(材料/製品)が1.9%、石油製品が27.8%、その他金属材料/製品が3.7%、その他が29.6%、無回答が1.9%。 窯業・土石(n=19)は不足感があると回答した割合が63.3%。品目は、樹脂/ナイロン(材料/製品)が5.3%、鉄鋼(材料/製品)が5.3%、繊維(材料/製品)が5.3%、その他金属材料/製品が5.3%、木材・木製品が10.5%、その他が57.9%、無回答が10.5%。自動車・同部品/その他輸送機器(n=149)は不足感があると答えた割合が59.8%。品目は、電子部品が18.4%、半導体(製品およびウェーハを含む部材)が30.6%、樹脂/ナイロン(材料/製品)が16.3%、鉄鋼(材料/製品)が18.4%、石油製品が2.0%、その他金属材料/製品が4.1%、木材・木製品が2.0%、その他が6.1%、無回答が2.0%。

注:製造業のうち、原材料・部品に供給「不足感がある」と回答した割合が、製造業平均(58.8%)よりも高い業種。
出所:図1に同じ

供給不足感は「悪化」が「改善」を上回る

原材料・部品の供給不足は、新型コロナ流行を契機に、急激な需要回復による生産・物流の乱れ、中国などでの局地的な規制強化、自然災害、ウクライナ紛争など、様々な要因が複雑に絡み合い、長期化の様相を呈している。本調査の調査時期から約1年前(2021年11~12月)と比較して、供給不足感が変化したかどうかを製品・材料別に聞いたところ、「鉄鋼(材料/製品)」を除く全ての製品・材料で「悪化している」と答えた割合が「改善している」と答えた割合を上回った(図6参照)。「食品(原材料含む)」「繊維(製品/材料)」では、「悪化している」と回答した企業の割合が半数を超えており、ここ1年での供給不足感が強まっている。繊維や銅では、主な生産地である中国における新型コロナによる規制強化の影響を、食品では、ウクライナ紛争によるサプライチェーンの混乱ほか、気候変動による不作・不漁の影響を受けたものと考えられる。飲食料品の製造業では、「その他」として食品包材やパッケージ資材が不足しているとの声も多かった。

機械関連の業種で不足感が強い「半導体」「電子部品」では、「変わらない」と回答した企業の割合がそれぞれ47.3%、45.6%と、他の製品と比較して高かった。半導体、電子部品の供給不足は、2020年後半ごろから始まっており、供給不足感の常態化を表しているといえるだろう。

ハイテク機器の取り扱いが多い米国・西海岸に所在する日系フォワーダーは、半導体の供給不足感について、「先端半導体とパワー半導体とで状況が異なる」と話す(2023年2月14日時点)。先端半導体は、「2022年中、需要はうなぎ上りで、日本を含むアジアから米国向けの輸送は増加を続けていた」という。しかし、2023年以降は「利上げおよびインフレ高騰により米国でのデバイス需要が落ち込みはじめ、在庫が積み上がり始めている」状況だ。他方、自動車や産業機器などに使われるパワー半導体については、「製造装置も含めて、2023年に入ってからも供給不足が続いている」状況だという。少なくとも2023年中は不足感が続くとの見通しだ。

図6:原材料・部品などの供給不足感の変化(製品別)(単位:%)
鉄鋼(材料/製品)(n=115)は、改善している27.8%、変わらない40.0%、悪化している27.0%、わからない2.6%、無回答2.6%。樹脂/ナイロン(n=144)は、改善している22.9%、変わらない40.3%、悪化している29.2%、わからない5.6%、無回答2.1%。木材・木製品(n=46)は、改善している21.7%、変わらない34.8%、悪化している41.3%、わからない2.2%。半導体(n=182)は、改善している20.9%、変わらない47.3%、悪化している27.5%、わからない4.4%。石油製品(n=71)は、改善している18.3%、変わらない35.2%、悪化している39.4%、わからない4.2%、無回答2.8%。電子部品(n=283)は、改善している17.0%、変わらない45.6%、悪化している32.9%、わからない2.1%、無回答2.5%。その他金属材料/製品(n=62)は、改善している16.1%、変わらない43.5%、悪化している30.6%、わからない6.5%、無回答3.2%。繊維(n=89)は、改善している13.5%、変わらない30.3%、悪化している51.7%、わからない4.5%。食品(n=309)は、改善している7.4%、変わらない23.6%、悪化している61.8%、わからない3.9%、無回答3.2%。

注:本調査期間(2022年11~12月)から約1年前の2021年11~12月との比較。
出所:図1に同じ

調達先の多角化や代替品への変更で対応

供給不足への対策としては、「調達先の多角化」で対応する企業の割合が47.5%と、最も高かった(図7参照)。次いで、「代替品に変更」(36.9%)、「納期の延長」(33.9%)が続く。先行きの見通しが不安定なことから、調達先を変更する動きよりも、多角化することでリスクを分散させる対応を行う企業の方が多い結果となった。詳細は後述するが、円安による原材料・部品のコストの高騰も、「調達先の多角化」や「代替品に変更」の動きを加速させる一因となっている。

図7:供給不足への対応策(企業規模別)(単位:%)
有効回答数は、全体が1,570社、大企業が224社、中小企業が1,346社。調達先の多角化は、全体が47.5%、大企業が54.5%、中小企業が46.3%。代替品に変更は、全体が36.9%、大企業が44.2%、中小企業が35.7%。納期の延長は、全体が33.9%、大企業が39.3%、中小企業が33.1%。在庫の積み増しは、全体が28.4%、大企業が29.0%、中小企業が28.3%。調達にかける資金の増額は、全体が15.5%、大企業が17.0%、中小企業が15.2%。製品・サービスの仕様の変更は、全体が13.8%、大企業が9.8%、中小企業が14.4%。調達先の変更(第三国から日本)は、全体が11.5%、大企業が13.8%、中小企業が11.1%。調達先の変更(第三国から第三国)は、全体が8.9%、大企業が10.7%、中小企業が8.5%。調達先の変更(日本から第三国)は、全体が8.5%、大企業が9.8%、中小企業が8.2%。内製化は、全体が4.6%、大企業が6.7%、中小企業が4.3%。

注:その他、特になし、無回答を除く。
出所:図1に同じ

円安進行、業績にマイナス影響が半数

原材料・部品の供給不足と並び、ビジネスリスクとなったのが、2022年初頭から急激に進んだ円安だ。この円安の進行が2022年の業績に与える影響についても尋ねた。「全体としてマイナスの影響がある」と回答した企業の割合が47.0%と約半数を占め、「全体としてプラスの影響がある」と回答した企業の割合(16.5%)を大きく上回った(図8参照)。

「全体としてプラスの影響がある」と答えた割合は大企業25.1%、中小企業は15.0%と10ポイント近く大企業が上回った。企業形態別にみると、「全体としてプラスの影響がある」と回答した企業の比率は、海外進出企業が21.0%と最も高く、次いで、輸出企業(16.8%)、国内企業(4.1%)、輸入企業(0.7%)となった。海外進出企業および輸出企業において円安がプラスに働いた背景を自由回答形式で聞いたところ、ドル建て取引による為替差益の影響、輸出・海外拠点での販売強化などが挙げられた。「全体としてマイナスの影響がある」と答えた企業の割合は、輸入企業が86.6%と圧倒的に高く、円安による輸入原材料・部品の調達コストやエネルギーコストの上昇分を為替差益分などで相殺できないことが主因と考えられる。

図8:円安の進行が2022年の業績に与える影響(単位:%)
全体(n=3,118)は、全体としてプラスの影響がある16.5%、全体としてマイナスの影響がある47.0%、プラスとマイナスの影響が同程度17.0%、影響はない8.2%、わからない10.0%、無回答1.2%。大企業(n=466)は、全体としてプラスの影響がある25.1%、全体としてマイナスの影響がある30.0%、プラスとマイナスの影響が同程度22.3%、影響はない7.3%、わからない11.6%、無回答3.6%。中小企業(n=2,625)は、全体としてプラスの影響がある15.0%、全体としてマイナスの影響がある50.0%、プラスとマイナスの影響が同程度16.1%、影響はない8.3%、わからない9.8%、無回答0.8%。輸出企業(n=1,395)は、全体としてプラスの影響がある16.8%、全体としてマイナスの影響がある46.5%、プラスとマイナスの影響が同程度18.1%、影響はない8.7%、わからない9.5%、無回答0.4%。海外進出企業(n=1,246)は、全体としてプラスの影響がある21.0%、全体としてマイナスの影響がある43.1%、プラスとマイナスの影響が同程度19.8%、影響はない6.1%、わからない8.3%、無回答1.6%。輸入企業(n=149)は、全体としてプラスの影響がある0.7%、全体としてマイナスの影響がある86.6%、プラスとマイナスの影響が同程度6.0%、影響はない1.3%、わからない4.7%、無回答0.7%。国内企業(n=245)は、全体としてプラスの影響がある4.1%、全体としてマイナスの影響がある49.8%、プラスとマイナスの影響が同程度4.9%、影響はない18.8%、わからない20.4%、無回答2.0%。

出所:図1に同じ

また、円安の影響を業種別にみると、情報通信機械/電子部品・デバイス(32.7%)、電気機械(27.4%)、化学(27.3%)などで、「全体としてプラスの影響がある」と回答した割合が3割近かった。いずれも輸出比率が高い業種であり、他業種よりも円安が追い風となった。

自社にとって望ましい為替レート(ドル・円レート)についても尋ねたところ、1ドル当たり「110~114円」が23.2%と最も高かった(図9参照)。輸出企業と輸入企業に分けてみると、輸出企業はより円安、輸入企業はより円高を望む傾向が強い。ただし、輸出企業であっても、130円以上のレートを望む企業は全体の約11%にとどまる。輸出企業についても、原材料・部品を輸入している企業も多く、生産時のエネルギーコストの上昇の影響も受けるため、円安であればあるほど望ましいということではないのが実態だ。

図9:望ましい為替レート(単位:%)
有効回答数は、全体が3,118社、輸出企業が1,395社、輸入企業が149社。100円未満は、全体が5.7%、輸出企業が5.6%、輸入企業が15.4%。100~104円は、全体が7.4%、輸出企業が7.7%、輸入企業が9.4%。105~109円は、全体が10.6%、輸出企業が11.2%、輸入企業が15.4%。110~114円は、全体が23.2%、輸出企業が21.9%、輸入企業が22.8%。115~119円は、全体が13.6%、輸出企業が12.8%、輸入企業が15.4%。120~124円は、全体が16.8%、輸出企業が18.4%、輸入企業が10.1%。125~129円は、全体が5.2%、輸出企業が6.2%、輸入企業が2.9%。130~134円は、全体が4.4%、輸出企業が4.5%、輸入企業が3.4%。135~139円は、全体が2.1%、輸出企業が1.8%、輸出企業が1.3%。140~144円は、全体が1.5%、輸出企業が1.7%、輸入企業は回答数ゼロ。145~149円は、全体が0.7%、輸出企業が1.1%、輸入企業は回答数ゼロ。150~154円は、全体が0.7%、輸出企業が1.1%、輸入企業が1.3%。155~160円は、全体が0.0%、輸出企業が0.1%、輸入企業は回答数ゼロ。160円以上は、全体が1.5%、輸出企業が2.2%、輸入企業は回答数ゼロ。無回答は、全体が6.5%、輸出企業が3.9%、輸入企業が3.4%。

出所:図1に同じ

価格転嫁とサプライチェーン見直しの両にらみ

円安進行への対応策も尋ねた。自由記述形式で得られた、延べ926社による回答のうち、「価格への転嫁(値上げ)」(346社)、「為替リスクヘッジ」(166社)、「調達先の多角化・変更」(107社)による対応が多かった。

価格転嫁では、「調達コスト、エネルギーコスト、輸送費など、上昇分を価格に転嫁」「円建て取引の海外販売製品については値上げを実施」というコメントが大半を占めた。他方、「顧客から値上げを却下された」「原価上昇分の全てを価格転嫁できていない」というコメントも散見された。値上げで対応できない分については、調達先・生産地の変更、製品仕様の変更、新商品の開発などで対応しているという。他方、「ドル建て製品の単価を下げて失注を防ぐ」など、円安によりドル建て価格を値下げするとのコメントも数は少ないが見受けられた。取引決済通貨によっても、価格改定の方針は異なるようだ。また、価格改定に関しては、今後の為替の動きを考慮し、「急激に円高になった際に極端に利幅が下がらないような売価の調整」を行っている企業もあった。

供給不足への対応で最大の回答比率だった「調達先の多角化・変更」は、円安進行への対応策としても取り組む企業が多くみられた。多角化・変更する調達先として、円安の長期化を想定して日本国内を検討する企業が多かったのが特徴的だ。ただし、原材料・部品によっては「現段階ではまだ輸入品価格の方が安い」との声も多く、検討段階の企業が多い。「単価は上がるが、国産原料という付加価値を付けることでニーズに応える」など価格以外の価値の追求にシフトする動きもある。対して、海外での販売比率を引き上げるため、海外生産拠点の拡大を検討するとのコメントもある。サプライチェーンの見直しを迫られる中、100社100通りの対応がみてとれた。

供給不足や円安の影響は、業種や企業形態により濃淡はあるものの、多くの企業が影響を受けていることが本調査結果からわかった。また、新型コロナ、ウクライナ紛争の行く末、各国・地域での金融政策の動向など、不安定な要素が多いが、すでに多くの企業がサプライチェーンの再構築のために具体的な対策の実施・検討を進めていることも明らかとなった。2023年は、世界の経済成長も低調、インフレ率も高い水準で推移する見通しで、企業活動への逆風が強い1年となりそうだが、2024年以降の緩やかな回復も見込まれている。供給不足、円安ともに長期化の見通しが色濃く、今後の計画が立てづらい状況ではあるが、海外情勢の変化に向けた備えとして、サプライチェーンの見直し・再構築の重要性は高まっている。


注1:
世界のサプライチェーンに影響を及ぼす潜在的な混乱を、包括的に測る目的で開発された指標。米国ニューヨーク連邦準備銀行が2022年1月から公表を開始した。
注2:
「輸出企業」は輸出を行っているが海外進出をしていない企業、「輸入企業」は輸入のみを行っている企業(輸出なし、海外進出なし)、「国内企業」は輸出・輸入・海外進出のいずれも行っていない企業。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。