加速する脱炭素化、在外日系企業の4割超が取り組む(世界)
7,000社超の日系企業アンケート調査から

2022年12月19日

脱炭素化への日系企業の対応は、この1年で大きく進展した。各国・地域の法整備や規制の強化が進むにつれ、海外に進出する日系企業は、脱炭素化に取り組まなければ、グローバルサプライチェーンから除外されるリスクが現実的になり始めている。本レポートでは、ジェトロが毎年行っている在外日系企業のアンケート調査「2022年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)」(注1)の最新の結果から、脱炭素化に関する取り組みの実態を取り上げる。

欧州で取り組み進む一方、アジアでは「時期尚早」の声

ジェトロが11月24日に発表した「2022年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)」によると、海外に進出する日系企業のうち、脱炭素化〔温室効果ガス(GHG)の排出削減〕に既に取り組んでいると回答した企業は42.4%と、前回の2021年度(33.9%)から8.5ポイント上昇した。この1年で脱炭素化への取り組みが大きく進展したことがわかる。主に欧州で先行しており、フランスでは7割超の企業が何らかの取り組みを実施。英国、オランダ、ドイツでも半数を超えた(図1参照)。

図1:海外進出日系企業の脱炭素化への取り組み状況

取り組み状況
「すでに取り組んでいる」が42.4%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が31.9%、「取り組む予定はない」が25.8%。全体のnは6,368。
国・地域別
フランスで「すでに取り組んでいる」が72.9%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が13.6%、「取り組む予定はない」が13.6%。英国で「すでに取り組んでいる」が58.3%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が25.0%、「取り組む予定はない」が16.7%。オランダで「すでに取り組んでいる」が55.2%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が26.4%、「取り組む予定はない」が18.4%。ドイツで「すでに取り組んでいる」が50.0%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が31.9%、「取り組む予定はない」が29.5%。米国で「すでに取り組んでいる」が20.5%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が39.1%、「取り組む予定はない」が31.5%。中国で「すでに取り組んでいる」が38.5%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が33.9%、「取り組む予定はない」が27.5%。タイで「すでに取り組んでいる」が33.7%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が33.0%、「取り組む予定はない」が33.3%。ベトナムで「すでに取り組んでいる」が29.4%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が39.7%、「取り組む予定はない」が30.9%。香港で「すでに取り組んでいる」が23.5%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が34.8%、「取り組む予定はない」が41.7%。

注:国・地域は上位、下位それぞれ5カ国を記載。無回答を除く。
出所:ジェトロ「2022年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)」

欧州委員会は、2019年に「欧州グリーン・ディール」、2021年に「Fit for 55」、2022年には「リパワーEU計画」など、気候変動対策に関する政策を矢継ぎ早に発表し、GHG削減や再生可能エネルギーへの転換を急いでいる。これら政策に基づき、排出量取引制度(ETS)の導入や炭素国境調整措置(CBAM、注2)の設置規則などの法整備を進めている。GHG排出が比較的多いエネルギー関連や製造業などの業種が先行して制度の対象となっている。また、自動車などの輸送機器や輸送機器部品メーカーも喫緊の対応を迫られている。EUが2025年以降の施行を目指している次期排ガス規制「Euro 7」は、現行の「Euro 6」の規制項目に加え、アンモニア、メタン、二酸化窒素に対する規制を追加し、厳しい基準になる可能性がある。これらの基準を満たすべく、欧州の大手自動車メーカーは自社の脱炭素化のみならず、部品メーカーを含むサプライチェーン全体に排出削減の目標を課す動きが進んでいる。

他方、脱炭素化に「取り組む予定がない」という進出企業の回答比率はアジアで高い傾向がみられる。特に香港やタイ、ベトナムなどの回答比率は3割以上に上る。回答企業(カッコ内は進出先)からは「時期尚早」(ベトナム/一般機械、インドネシア/食料品)、「法的な規制をベトナムでは求められていないため」(ベトナム/建設)、「脱炭素のアイテムを開発しても興味は持たれるが、コスト増は認めてもらえない」(中国/繊維)などの声が聞かれた。アジア各国・地域でもGHG排出削減強化の世界的な流れを受け、脱炭素化に対する方針が出されているものの、企業による具体的な対応は限定的なようだ。

未対応は機会損失リスクにつながる可能性も

自社のGHG排出のみならず、調達から生産、販売、廃棄に至る各段階での排出も合せたサプライチェーン全体の排出量を意識し、削減に取り組む考え方は近年急速に浸透している。サプライチェーンの脱炭素化を経営課題として認識しているかどうかという質問には、71.3%が「認識している」と回答した。理由として、多くの企業が「日本本社が課題と認識している」ことを挙げた。「認識していない」との回答では、非製造業を中心に「炭素排出がない/少ない」「調達権限がなく、サプライチェーンが限定的で対応困難」「進出先の国・地域で規制が少ない」といった理由が挙げられた。

サプライチェーン上の活動に伴う排出量の算定には、米国のシンクタンクなどが主導する「GHGプロトコル」という基準が国際的なデファクトスタンダートとなっている。GHGプロトコルによると、サプライチェーン上の活動に伴う排出量は、主に自社による排出(Scope1、2)と、サプライチェーン上の他社または消費者などによる間接排出(Scope3)に分けられる(注3)。Scope3にはさらに15のカテゴリーがあり、購入した商品・サービス、販売した商品・サービス、原材料や製品の輸送に関する排出量などが含まれる。

脱炭素化に「すでに取り組んでいる」または「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」と回答した企業によると、Scope1と2の削減の取り組み内容では、「省エネ・省資源化」(67.7%)、「再エネ・新エネ電力の調達」(40.3%)の順に高い(図2参照)。太陽光発電を設置して使用電力を再エネ化したり、LED電灯の導入で電力消費を抑えたりする取り組みが大勢を占める。また、Scope3の削減に関する取り組みでは、「環境に配慮した新製品の開発」(36.9%)、「グリーン調達(調達先企業への脱炭素化の要請)」(29.3%)が上位となった(複数回答)。特に、グリーン調達は前回調査(13.1%)から倍増した。サプライチェーン排出量削減への需要の高まりが反映されたといえる。業種別でみると、電気・電子機器部品(45.9%)、ゴム製品(40.3%)などの業種で回答比率が高かった。

前出のサプライチェーン上の脱炭素化を経営課題として認識している企業からは、「取引の前提条件になるリスクとして考慮」(インド/輸送用機器部品)や「顧客から炭素排出量の確認やカーボンニュートラルへの取り組みに関する問い合わせが増加傾向」(中国/化学・医薬)など、取引先の関心・要請が増えているという点に関するコメントが多く寄せられた。自動車産業などでは、脱炭素化への取り組みを取引条件とし、対応できないサプライヤーとは契約しないことを発表するメーカーも見られ、脱炭素への未対応は機会損失につながるリスクが示唆される。また、調査時点では顧客の要請はないとした企業でも、「将来的に納入先から脱炭素の要求があると思われる」(インドネシア/輸送用機器部品)、「自動車業界で事業を営んでいることから、(顧客からの)要請は時間の問題」(米国/鉄鋼)として、対応に備える姿勢も見られた。今後、供給先や販売、サービス網への脱炭素化をサプライヤーに対して要請する動きは徐々に本格化するとみられる。

図2:脱炭素化の取り組み内容(複数回答)
「省エネ・省資源化」が67.7%、「再エネ・新エネ電力の調達」が40.3%、「エネルギー源の電力化」が23.2%、「市場からの排出削減のクレジット購入」が7.1%、「その他(Scope1&2)」が5.7%、「環境に配慮した新製品の開発」が36.9%、「グリーン調達」が29.3%、「調達・出荷の際の物流の見直し」が21.8%、「その他(Scope3)」が3.1%。全体のnは4,460。

注:nは「すでに取り組んでいる」、または「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」と回答した企業数。無回答を除く。
出所:図1に同じ

重層化する脱炭素化への取り組み、ビジネスチャンスも

脱炭素化への取り組みが重層化するにつれ、新たなビジネスチャンスを見いだす企業もある。新規ビジネスや新たな投資プロジェクトの有無を尋ねたところ、「リサイクル材・バイオマス材を使用した商品の開発」を行う企業(米国)や、「二酸化炭素を吸収するコンクリートの開発・普及」を行う企業(バングラデシュ)など、環境に配慮した原材料・部品への切り替え需要に対応した商品開発を進める動きがある。そのほか、サービス業でも、「グリーン預金やグリーンファイナンスなど、資金使途を特定したプロダクトの開発・推進」(オーストラリア)や、「再エネ事業への製品供給、客先設備でのエネルギー最適化のための見える化システム提供」(米国)など、脱炭素化を推進する企業を支える周辺サービスなどに取り組むコメントがあった。また、脱炭素化に資する技術やシステムを持つ他社と協業・連携して取り組む日系企業もあった。提携相手先では、国営の石油・エネルギー関連企業からスタートアップ企業に至るまでさまざまだった。このように、脱炭素化への世界的な動きは、日本企業にとっても新たなビジネスチャンスの創出機会となっている。

脱炭素化の取り組み課題には地域差

取り組みが進展する一方、企業はさまざまな課題にも直面している。日系企業の脱炭素化の取り組みの課題について、国・地域にかかわらずに共通で聞かれたのは、現地従業員の意識の低さや、エネルギーや材料の切り替えに伴うコスト増加だった。特に、再生可能エネルギーへの変換は、導入に際して多額の投資を伴うため、中小企業にとってはハードルが高い。そもそも、進出先国・地域で再生可能エネルギーが調達できないという外部要因も新興国・地域を中心に多い。また、輸送車両の電気自動車(EV)への切り替えや、環境に配慮した商品の調達(グリーン調達)を行おうとしても、対応しているサプライヤーが現地にいないなど、個社の努力だけでは脱炭素化に行き詰まる事例もある。

さらに、地域別にみると、アジアやアフリカなどの新興国では、政府目標の曖昧さや、従来型エネルギー脱却の難しさが課題として浮き上がった。具体的には、「現地の制度が不明確」(ラオス)、「ガソリン補助金があるので、クリーンエネルギーの提案ができない」(ナイジェリア)などのコメントが聞かれる。一方、取り組みが進む欧州では、EUでルールの共通化を図ろうとしている傍ら、加盟国間の規制に違いがあることへの不公平感があるようだ。各国の規制に沿った対応を取りつつ、欧州域内諸国と比べていかに競争力を維持するかが今後の取り組みへのカギとなる。同時に、欧州ではロシアのウクライナ侵攻による影響も深刻だ。液化天然ガス(LNG)価格の高騰や、先行きの不透明さから、サプライチェーンが安定しないといったコメントが聞かれ、世界情勢に左右される企業の姿がうかがえる(表参照)。

表:脱炭素への取り組みの課題・対応が難しい現地の規制や制度(地域別)
地域 進出日系企業の課題
北米
  • 米国の従業員にはエコという概念が希薄で、脱炭素、省エネという概念を浸透させるには時間が掛かる。(米国/精密・医療機器)
  • カリフォルニア州のようなトラックの規制強化は、トラック台数の大幅な減少を生み、コスト上昇や手配が困難となる(米国/運輸・倉庫)
中南米
  • 排ガス規制の強化など業界として推進する一方で、規定を満たしている燃料性状の普及が遅れている。規制の対象とならない中古車の輸入を政府が後押しするなど逆行する流れが存在する。(メキシコ/販売会社)
  • 社内的な目標設定は可能も、社外に許容される脱炭素定量化の定義、分類などが課題(ブラジル/電気・電子機器)
欧州
  • 脱プラによる包装材コストアップ(英国/販売会社)
  • クレジットが必要となる最低生産量の計算が各地の政府当局によって異なるため、競合先との間で公平な規制となっていない。(ベルギー/化学・医薬)
  • リサイクルに関する規制が各国でばらばらに進む傾向が強まっている。商品ラベルの記載変更など対応に苦慮している。(ドイツ/食料品)
  • 脱石炭のハードルが非常に高い。特にロシアのウクライナ侵攻以降の液化天然ガス(LNG)高騰によってますます難しくなることが想定される。(ポーランド/ゴム製品)
アジア大洋州
  • さまざまな廃棄物を原料として再利用できる基準が整備されていない。(ベトナム/その他非製造業)
  • 現地の制度が不明確(ラオス/電気・電子機器部品)
  • 弁当などのプラスティック容器の代替品の入手困難(インド/飲食業)
中国・北アジア
  • 再生材料を使用することで脱炭素を検討しているが、材料品質が安定しない。(中国/繊維・衣服)
  • 法規制が実態にそぐわないケースが多く、結果としてグレーな状況ができやすい(韓国/販売会社)
  • 輸送車両をEVに切り替える場合、大規模な投資と運用の見直しが必要(台湾/運輸)
中東
  • 脱炭素は唱えられているものの、新たな規制や達成目標がなく、その必要性に実感がわかない。(UAE/商社・卸売業)
  • 電力料金がもともと安いので、太陽光パネル設備を導入しても、投資回収年が長過ぎてメリットが出にくい。(サウジアラビア/輸送用機器)
アフリカ
  • 良質な包材サプライヤーが少ない。脱炭素に配慮した製造設備の輸入が困難。(アルジェリア/食料品)
  • ガソリン補助金があるので、クリーンエネルギーの提案ができない(ナイジェリア/商社)

出所:図1に同じ

世界的に一層関心が高まる中、国際的な枠組みや各国政府の政策動向だけでなく、企業による取り組みにも社会の注目は集まりやすくなっている。国・地域ごとに規制などに濃淡はあるものの、サプライチェーンに組み込まれた多くの企業にとって、脱炭素化への対応は待ったなしとなりつつある。

各国・地域の制度や企業動向などに関しては、ジェトロのウェブサイト「特集 世界の脱炭素・カーボンニュートラル動向」も参照してほしい。


注1:
ジェトロの海外事務所ネットワークを活用して抽出した海外86カ国・地域の日系企業(日本側出資比率10%以上の現地法人、日本企業の支店・駐在員事務所)1万9,143社を対象に、オンライン配布・回収によるアンケートを実施。7,173社から有効回答を得た。有効回答率37.5%。
注2:
CBAMとは、EU域内の事業者がCBAMの対象となる製品をEU域外から輸入する際に、域内で製造した場合にEU排出量取引制度(ETS)に基づいて課される炭素価格に対応した価格の支払いを義務付けるもの。
注3:
Scope1:事業者自らの温室効果ガス(GHG)の直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
伊尾木 智子(いおき ともこ)
2014年、ジェトロ入構。対日投資部(2014~2017年)、ジェトロ・プラハ事務所(2017年~2018年)を経て現職。