特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の現状と今後拡大する市場は魅力も、国産化優先政策が投資環境上のリスクに(インドネシア)

2023年3月28日

ジェトロは2022年8~9月に「2022年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査(以下、日系企業調査)」を実施した。本稿では、インドネシア進出日系企業368社(製造業196社、非製造業172社)から得た回答を基に、在インドネシア日系企業の「営業見通し」や「今後の事業展開」「ビジネス環境」「経営上の問題点」に加え、「雇用創出オムニバス法の影響」「脱炭素化への対応」などについて、分析した結果を報告する。

営業利益見込み、7割超の企業が黒字

2022年の営業利益見込みについて聞いたところ、「黒字」と回答した企業は73.2%に上った。前回調査(2021年度調査)で設定した同種の質問への回答(63.4%)から9.8ポイント増加した。一方、「赤字」とした企業は前回調査の21.4%から13.0%へ大幅に低下した。2022年の営業利益見込みが前年に比べてどうなるかとの問いに対しても、回答企業の約半数(47.0%)が「改善する」と回答。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ2020年、2021年から回復している企業の姿が浮かび上がった。

今後1~2年の事業展開の方向性については、「拡大する」と答えた割合が47.8%だった。業種別にみると、「拡大する」と答えた割合は製造業では、プラスチック製品が100%、食料品が85.7%と高く、非製造業では、情報通信業が80.0%、金融・保険業も75.0%と高い水準だった。特に食料品では、中間所得層の増加に加え、都市部を中心にコールドチェーンの整備を背景とした新たな需要が期待できることなどが背景にあると考えられる。

拡大する国内市場は大きな魅力

日系企業調査の結果から、在インドネシア日系企業にとっての投資環境上のメリットをみると、「市場の成長性」と答える企業が78.5%と最も高く、在ASEANの日系企業の中で最大だった。以下、「現在の市場規模」(61.9%)、「従業員の雇いやすさ(一般ワーカー、一般スタッフ・事務員等)」(43.1%)、「言語・コミュニケーションの容易さ」(30.8%)、「駐在員の生活環境」(23.1%)と続いた(図1)。

図1:インドネシアのビジネス環境メリット(上位10項目)
市場の成長性78.5%、現在の市場規模61.9%、従業員の雇いやすさ(一般ワーカー、一般スタッフ・事務員等)43.1%、言語・コミュニケーションの容易さ30.8%、駐在員の生活環境23.1%、人件費の水準21.2%、従業員の雇いやすさ(専門職・技術職等)18.5%、土地/事務所スペース18.1%、離職率の水準17.7%、自社が求める人材の雇いやすさ(マネージャー・管理職等)16.9%となった。特に非製造業では、市場の成長性89.6%、現在の市場規模70.4%と高かった。

出所:2022年度進出日系企業調査

このうち、市場の成長性については、人口が2022年時点で約2億7,000万人と、世界第4位かつASEAN最大の人口であることや、新型コロナ禍で経済がいったん落ち込んだとはいえ、年平均5%程度の成長を続けていることなどを背景に、拡大する消費に魅力を感じている企業が多いことがうかがえる。直近の事例では、2022年11月にダイキン工業が空調機の新工場設立を発表した。同社によると、インドネシアの空調市場はアジア最大級で、今後の経済成長に伴う中間所得層の増加から、住宅用を中心にさらに拡大することが予想される。また、2022年10月に回転ずしチェーン「スシロー」などを運営するFOOD & LIFE COMPANIESがインドネシアへの子会社設営を発表したほか、2023年1月にコメダホールディングスが「コメダ珈琲店」の東南アジア1号店をバリ島にオープンしている。

税制・税務手続きの効率性が投資環境上のリスクに

他方、投資環境上のリスクをみると、「税制・税務手続きの効率性」を挙げる企業の割合が最も高く、69.1%となった。これに、「法制度の整備状況(外資優遇・規制など)」(67.7%)、「行政手続きの効率性(許認可など)」(66.3%)、「人件費の水準」(59.4%)が続いた(図2)。

図2:インドネシアのビジネス環境リスク(上位10項目)
税制・税務手続きの効率性69.1%、法制度の整備状況(外資優遇・規制など)67.7%、行政手続きの効率性(許認可など)66.3%、人件費の水準59.4%、政治・社会情勢58.3%、制度・政策の運用の透明性58.3%、雇用・労働制度58.3%、ビザ・就労許可手続き53.5%、為替レートの変化49.3%、物価変動44.1%となった。 特に、非製造業では、税制・税務手続きの効率性75.9%、法制度の整備状況(外資優遇・規制など)79.0%、行政手続きの効率性(許認可など)75.9%と高かった。

出所:2022年度進出日系企業調査

「税制・税務手続きの効率性」については、インドネシアでは輸入金額に対して、品目に応じた所得税の前納義務がある。前納した所得税は、年度決算を経て過払いとなった場合に還付請求できるが、還付請求すると税務調査が入るなど、手続きが煩雑な上、還付までに半年~1年程度の時間を要するなど、企業にとって負担が大きい制度になっている。

次に、「法制度の整備状況(外資優遇・規制など)」と「行政手続きの効率性(許認可など)」について、インドネシアではさまざまな分野で輸入規制が存在し、関連法令が急きょ改正されることが多い。その上、政府が2018年から実施している国産品優先政策(P3DN)の影響も大きいと考えられる。この政策は、国内産業の競争力強化のため、インドネシア産の原材料・部品の利用を積極的に促進するものだ。2021年2月にはアグス・カルタサスミタ工業相が国内産業を発展させるため「P3DNの取り組みを加速していきたい」と発言し、その後、同政策を強化する姿勢を見せている(2022年5月27日付地域・分析レポート参照)。

P3DN政策は、政府調達品について満たすべき国産比率を指定している上、間接的な影響として、完成品の輸入許可も運用を厳格化する動きをもたらしている。同政策をはじめとした輸入関連の法規制と運用実態については、今後も注意深く情報収集することが必要だ。

賃金上昇が大きな課題も、近年の賃金上昇率は5%以下で推移

2022年の日系企業の経営上の問題点としては、「従業員の賃金上昇」と答える企業が82.8%あった。続いて、「調達コストの上昇」(80.9%)、「税務(法人税、移転価格課税など)の負担」(73.9%)だった。

従業員の賃金上昇について、各国製造業の2023年の賃金上昇率をみると、インドネシアは4.6%で、タイ(3.2%)よりは高く、ベトナム(5.5%)よりは低い結果だった(図3)。インドネシアはかつて翌年の最低賃金上昇率を「前年9月から当該年9月までの物価上昇率と、前年第3四半期(7~9月)から当該年の第2四半期(4~6月)までのGDP成長率の和」で算出すると規定されていたことなどを背景に、高い上昇率となっていたものの、近年では政令の改定などもあり、5%以下で推移している。

図3:前年比昇給率の推移(タイ、インドネシア、ベトナム)
インドネシアが2016年に10%超、ベトナムが約10%だったが徐々に低下し、2020年には双方共に8%程度になった。2021年以降、インドネシアがベトナムを下回っている。この間、タイは常に5%未満で3カ国で最も低い水準にある。2023年の前年比昇給率はベトナム5.5%、インドネシア4.6%、タイ3.5%と見込まれている。

出所:ジェトロ海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

雇用創出オムニバス法の影響

本年度調査では、インドネシア特有の質問事項として、労務面、投資面それぞれで「雇用創出オムニバス法」(雇用創出に関する法2021年11号)の影響を探った。雇用創出オムニバス法とは、投資促進による雇用創出という共通の目的の下、約80の法律を一括して改正した法令だ。

労務面では、有期社員の雇用法制、アウトソーシング規制、解雇法制などに重要な変更が生じている。プラス面では「有期雇用の契約期間緩和」「アウトソース対象業種の拡大」、マイナス面では「有期雇用者への退職補償金を支払う必要が生じ、労務費の支出が増えた」といった声が聞かれた。

投資面では、「投資面での影響はない」と回答する企業が多かった。だが、この調査はあくまでも既に進出している企業を対象としたもので、新規進出を検討している企業を対象としたものではないことに留意したい。雇用創出オムニバス法の施行後、インドネシアの外資企業の最低払込資本金は、従前の25億ルピア(約2,200万円、1ルピア=約0.0088円、注1)から、2021年6月2日以降、100億ルピアに増額された〔投資調整庁規則2021年4号による改正(注2)〕。この最低払込資本金100億ルピアの規制は、インドネシアへの新規参入を検討する企業にとって非常に大きなハードルとなっている。

脱炭素への対応で高い成長可能性

本調査では、脱炭素化への対応についても調査を実施した。進出先で何らかの脱炭素化に取り組んでいる、もしくは取り組む予定があるかという質問に対しては「既に取り組んでいる」が35.7%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が44.6%、「取り組む予定はない」が19.7%という回答だった。既に取り組んでいる、または検討中の企業に具体的な取り組み内容を聞いたところ、最も多かったのが「省エネ・省資源化」で70.5%、次いで「再エネ・新エネ電力の調達」が44.1%だった。

インドネシアは、2060年までにカーボンニュートラルを達成することを表明している。歩調を合わせるように、主な国営企業も2060年を目標年として達成目標を掲げている。脱炭素に向けて取り組むインドネシア企業には、日系をはじめとした外国企業などとの連携を進めている事例も見られる。例えば、国営電力会社PLNはIHIと提携し、火力発電所で燃焼時に二酸化炭素(CO₂)を排出しないアンモニアなどのカーボンニュートラル燃料の混焼にかかる技術検証を実施している。インドネシアが掲げるカーボンニュートラル達成に向けた動きは、日系企業にとって、新たな事業機会になっている(2022年7月15日付地域・分析レポート参照)。

一方、日本ブランドが約9割と圧倒的なシェアを占める自動車市場について、インドネシアは「脱炭素」の観点からも、電気自動車(EV)普及を目指す姿勢だ。パリ協定に対する「国が決定する貢献:NDC」では、エネルギーセクターの長期的アプローチとして「脱炭素化された電気を利用し、効率的な交通機関システムやEVを開発する」と明記している。既に中国企業や韓国企業は国営インドネシアバッテリー公社(IBC、注3)との連携に取り組み、インドネシアのEVサプライチェーンで存在感を高めているほか(2022年3月25日付地域・分析レポート参照)、中国の上汽通用五菱汽車や韓国の現代自動車は積極的に新型EVを投入し、着実に存在感を高めている。インドネシアがカーボンニュートラル達成に向け、自動車分野でもEVシフトに向けた中長期的ロードマップを掲げて動き出すとともに、中韓が勢いを増す中、今後も政策状況や企業の動きに注視する必要がある。


注1:
投資調整庁規則2020年1号6条2項b(同規則は投資調整庁規則2021年4号により廃止済み)
注2:
投資調整庁規則2021年4号12条7項で規定。
注3:
国営企業のMIND ID、アネカ・タンバン、プルタミナ、PLNが共同出資する持ち株会社で、2021年3月にEV向けバッテリーのサプライチェーン構築などを目指して設立された。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
八木沼 洋文(やぎぬま ひろふみ)
2014年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ・北九州、企画部企画課を経て現職。