企業がカーボンニュートラルに向けて動き出す(インドネシア)
政府は2060年の炭素中立目標

2022年7月15日

脱炭素化は世界的な流れだ。インドネシアも、2030年までに国際支援なしで29%、国際支援ありで41%、温室効果ガスを削減する目標を打ち出している。さらに、2021年7月には「低炭素および気候レジリエンスに向けたインドネシア長期戦略2050PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(22.89MB)」を発表。2060年までにカーボンニュートラル(炭素中立)を達成すると表明した。しかし、インドネシアでは、今後の経済成長に伴い、エネルギー需要の増大が見込まれる。また、エネルギー供給源でも、石炭・天然ガスをはじめとする化石燃料への依存度が引き続き高い。その達成には多くの課題が存在する。

こうした中、脱炭素化に向け、企業による具体的な取り組みが進められるようになっている。例えば、ジャカルタ・ジャパン・クラブ(JJC、日系企業の商工会議所)は2022年4月、「カーボンニュートラル・タスクフォース」を設置した。炭素中立実現に向け日系企業の貢献を支援するのが、その狙いだ(JJCウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。インドネシアの地場企業にも、炭素中立目標を掲げるなど、脱炭素化に向け様々な取り組みが見られる。

本稿では、脱炭素に向けた動き始めたインドネシアの国営・民間企業の動きに焦点をあてる。あわせて、ネットゼロ目標や脱炭素化に向けた取り組み、日系を含む他企業との連携案件などについて概説する。

国営企業が2060年までのネットゼロを宣言

インドネシアでは、主な国有企業が2060年を目標年として炭素中立達成目標を公表している。エネルギーセクターで大きな役割を占める電力会社プルサハアン・リストリック・ネガラ(PT Perusahaan Listrik Negara、PLN)や石油・ガス会社プルタミナ(PT Pertamina)だけではない。運輸セクターのクレタ・アピ・インドネシア(PT Kereta Api Indonesia:鉄道)、工業セクターのププック・インドネシア(PT Pupuk Indonesia:肥料製造)、セメン・インドネシア(PT Semen Indonesia:セメント製造)、農林セクターのプルクブナン・ヌサンタラIII(PT Perkebunan Nusantara III:農業)、プルサハアン・ウムム・クフタナン・ネガラ(Perusahaan Umum Kehutanan Negara:林業)なども含まれる。それらは、インドネシア政府が2021年に示した目標と軌を一にする。ただし、その達成に向けては、多くの課題が存在する。

具体的な取り組み事例として、PLN(国営電力会社)は、2060年までの炭素中立目標の達成に向けて、化石燃料発電所の段階的廃止、再生可能エネルギー(再エネ)の導入を進めている。さらに、自動車の電動化に向けて、グラブやGoToグループといったオンライン配車・物流サービス大手とバッテリー交換設備の整備などで連携。電気自動車(EV)の家庭充電に対して、約24%の夜間割引を提供するなどの取り組みも進める。 さらに、インドネシア・バッテリー・コーポレーション(IBC、注)と協力。再エネ導入拡大に伴う電力供給安定化のため、(1)2022年内に5メガワット(MW)の二次電池電力貯蔵システムを設置することや、(2)PLNが保有するすべての発電所に同様の設備を導入すること、を予定している。また、国営石油プルタミナ、国営肥料製造ププック・インドネシアとの間で、グリーン水素・アンモニアの製造や再エネ供給に関して、協力を開始している。

しかし、インドネシアの電力供給は化石燃料への依存度が高いのが実態だ。国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、2020年のインドネシアの発電電力量に占める石炭の比率は62.8%、石油2.5%、天然ガス17.6%。対して、水力、地熱、バイオマスなどの再エネは、17.1%にとどまっている(図参照)。

図:インドネシアの電源構成
2020年のインドネシアの発電電力量における石炭の比率は62.8%、石油が2.5%、天然ガスが17.6%と、化石燃料の占める割合が高く、水力発電、地熱発電、バイオマス発電などの再生可能エネルギーは、残り17.1%にとどまっている。

出所:IEA統計からジェトロ作成

このような背景事情から、今後、電力セクターの脱炭素化を進めていくことが必要だ。しかし、PLNが2021年10月に公開した電力供給計画(RUPTL Dissemination Presentation 2021-2030(インドネシア語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます) (2.9MB))では、2030年時点でも石炭火力発電の比率が59.4%を占めると記されている。経済成長に伴って引き続き電力需要が増大していくインドネシアで、脱炭素化の達成は容易でなさそうだ(表1参照)。

表1:PLN電力供給計画(Electricity Supply Business Plan 2021-2030)のポイント

電力販売量の増加
2021-2025年 2021-2030年
5.20% 4.90%
エネルギーミックス(低炭素シナリオ)
項目 2025年 2030年
再生可能エネルギー 23.0% 24.8%
ガス 15.6% 15.4%
石炭 61.0% 59.4%
石油 0.4% 0.4%

出所:PLN公開資料よりジェトロ作成

民間企業には、2030年達成を宣言する企業も

一方で、民間企業の中には、2030年までの炭素中立達成を表明する企業もある。2030年と言えば、政府目標より30年も早い。

具体的な取り組みとして、例えばGoToグループ(オンライン配車、物流サービス・eコマース大手)は、電動バイク導入等の取り組みを進めている。2030年までに、自社が保有する全ての車両を電動化する計画という。同社は、すでにゴゴロ(台湾)製の電動スクーターを試験的に投入済だ。さらに、電動二輪車の導入台数を5,000台程度まで拡大する方針を示している。また、TBSエネルギ・ウタマ(炭鉱会社)との間で、合弁会社を設立し、電動二輪車の開発を進めている。

グラブも、電動バイクを段階的に数千台規模で導入する予定だ。電動バイクは、スムート・モーター・インドネシアから調達する。同社は、2022年末までに、電動バイクを含めた電動車の使用台数を1万 4,000 台にする計画を示している。

このほかにも複数のインドネシア企業が、脱炭素化に取り組んでいる。現在公表されている取り組みについてまとめたのが、添付資料PDFファイル(763KB) だ。

これらの企業の目標は野心的だ。もっとも、実効的なのかどうかについては、疑問が残る。例えば、インドネシアで電動車の普及は進んでいない。2021年のデータで、自動車全体の販売台数に占める電動車の割合は0.35%にとどまっている(2022年1月24日付ビジネス短信参照)。さらに、仮に自動車電動化が進んだとして、前述のとおり電力供給が引き続き石炭火力発電などの化石燃料に大きく依存している。そうしてみると、オンライン配車や物流サービス事業者の2030年時点でのカーボンニュートラル実現するためには、これまで以上の取り組みの強化が求められるのではないか。

日本も連携して取り組む

脱炭素化に向けて取り組むインドネシア企業には、日系をはじめとして外国企業などとの連携を進めているケースも散見される。特に、火力発電所でのアンモニア混焼、水素燃料、二酸化炭素回収貯留(CCS)、EVなど、先端的な技術をめぐり取り組み強化を目指している。こうした例としては、(1)IHIと提携するPLN(火力発電所で、アンモニア・バイオマスを利用するための技術を検証)や、(2)日揮ホールディングス、大阪ガス、INPEXと共同調査を行うプルタミナ(パームオイル搾油工程で生じる廃液から、バイオメタンを活用)などが挙げられる(表2参照)。日本企業との連携例も複数みられる。企業にとって、脱炭素分野が新たな事業機会になっていると受けとめられる。

表2:脱炭素化に向けた地場・海外企業の連携事例
企業名 パートナー 連携内容
プルサハアン・リストリック・ネガラ(PT Perusahaan Listrik Negara(PLN)) IHI PLN子会社の発電会社プンバンキタン・ジャワ・バリ(PJB)との間で、火力発電所でのアンモニアやバイオマスの混焼や将来的な専焼に向けた技術検証を実施するための基本合意書を締結。PJB所有の グレシック(Gresik)火力発電所などの既設ボイラを対象として、各種技術検討などを実施予定。その際には、アンモニアなどのカーボンニュートラル燃料の混焼、将来的な専焼の実施を想定する。
日本貿易保険(NEXI) インドネシアの電力分野脱炭素化に向け、取り組みに関する協力覚書を締結。インドネシアにで現実的にエネルギー・トランジションを実現させる上で、関連する PLN 向けファイナンス支援などを実施予定。
フランス開発庁 ジャワ・バリ両島では初の風力発電所(容量 200 MW)を建設する計画を公表。
プルタミナ(PT Pertamina) 日揮ホールディングス、大阪ガス、INPEX パームオイルの搾油工程で生じる廃液由来のバイオメタン活用に向けた共同調査に関して、契約を締結。スマトラ島とカリマンタン島で製造したバイオメタンをジャワ島などのインドネシア国内需要家に供給することを想定し、実現可能性を調査予定。
兼松 プルタミナの運送トラックの燃費改善による脱炭素化と物流効率改善への支援実証を実施。
三菱商事 グリーン水素およびグリーンアンモニアのバリューチェーン構築や、二酸化炭素回収利用貯留(CCUS)技術で協力する旨公表。
三井物産 CCUSの事業化を目指した共同調査を開始。
丸紅 パルプ製造事業で発生するバイオマス由来排出ガスからのCO2回収・貯蔵事業や、排出権の創出、バイオマス燃料の製造事業など、幅広い脱炭素事業の共同開発を実施。
SKE&S(韓国) CCS技術に関する協力。
インディカ・エナジー(PT Indika Energy) 台湾鴻海精密工業、ゴゴロ(台湾) インドネシア・バッテリー・コーポレーション(IBC)などと、EV関連産業のエコシステム構築に向けて覚書を締結。

出所:各社プレスリリースなどからジェトロ作成

今後の追加的な政策に期待

これまで述べたとおり、インドネシアでは、エネルギー関連の国有企業を中心として、企業レベルで対策が進み始めている。一方、現在公表されている取り組みだけでは、カーボンニュートラル達成の実現は容易でない。今後は、脱炭素化に向け様々な政策が導入されることが予想される。

例えば、インドネシア政府は炭素税を導入。まずは2022年から2024年まで、石炭火力発電所に限定して適用すると定めた(2022年4月6日付ビジネス短信参照)。この措置は、当初2022年4月の導入を予定していた。もっともその実施は、現時点で延期されている。いずれにせよ、2025年からは、段階的に炭素取引が完全実施(対象セクターが拡大)される予定だ(その際には、経済状況や関連セクター・関係者の準備状況、炭素税がもたらす影響が考慮されるとみられる)。また政府は2021年、石炭火力発電セクターが自主的に、パイロットプロジェクトとして排出権取引を実施した。

政策・企業の取り組みが進むなか、インドネシアは脱炭素化に向けて大きく転換し始めた。日系企業にとっては、ビジネスチャンスになる期待も高まる。一方で当地では、日本以外の各国政府・企業による取り組みも進んでいる。日本企業はインドネシアで存在感を示せるのか。いまや、その岐路に立たされている。


注:
IBCも国有企業。車載用電池製造を手掛けることでも知られている(2022年3月25日付地域分析レポート「EV車両・電池のサプライチェーン拠点化を目指す」参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所 次長
松田 明恭(まつだ あきひさ)
2005年、経済産業省入省。日EU経済連携協定(EPA)交渉、英国のEU離脱に当たっての日系企業支援、ASEAN各国とのエネルギー協力(AETI)などを担当。2021年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
スサンティ・ラハユ
2015年からジェトロ・ジャカルタ事務所で勤務。インドネシア経済概況および政策動向調査、人材関連業務などを担当。

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