特集:世界経済の混乱で求められる海外ビジネスの再構築コロナ後のスタートアップシーンを振り返る(世界)

2022年10月12日

増加するフィンテックへの投資、急成長するNFT、エグジットの多様化など、コロナ下においてもスタートアップを取り巻く環境は目まぐるしく変化した。本レポートでは主に2021年から2022年前半における世界のスタートアップ動向を、様々なリソースから概括する。

加速するフィンテック分野への投資

2021年のスタートアップなどの新興企業への投資は大幅に拡大した。世界のオルタナティブ投資動向を分析する英国プレキン(Preqin)によると、2021年の世界のベンチャーキャピタル(VC)投資額は6,586億ドルと、2020年と比較して96%増、およそ2倍となった(図1参照)。分野別にみると、情報通信が最も多く、全体の4割以上を占める。次いでヘルスケア、金融/保険サービスと続く。特に金融/保険サービスについては、2020年から3倍以上の投資額となった。新型コロナウイルスの影響で、モバイル銀行やキャッシュレス決済への需要が高まったことが要因であり、同傾向は2022年に入っても続いている。

図1:世界のVC投資推移(四半期)
VC投資額は2019年Q1は652億ドル、Q2は650億ドル、Q3は653億ドル、Q4は693億ドル。2020年Q1は607億ドル、Q2は681億ドル、Q3は1068億ドル、Q4は1007億ドル。2021年Q1は1565億ドル、Q2は1566億ドル、Q3は1720億ドル、Q4は1735億ドル。2022年Q1は1375億ドル。件数は2019年Q1は4942件、Q2は5256件、Q3は5092件、Q4は5093件。2020年Q1は4519件、Q2は4785件、Q3は5240件、Q4は5697件。2021年Q1は5830件、Q2は5841件、Q3は6064件、Q4は6589件。2022年Q1は5451件。

出所:Preqinから作成

さらに、2021年は、非代替性トークン(NFT:Non-Fungible Token)への注目が高まり、「2021年はNFT元年」と呼ばれた。スタティスタ(Statista)によると、2021年のNFT市場は140億ドルに急成長し、前年の約200倍となった。NFTとは、デジタル資産などに対し、唯一無二性や所有権を証明できる暗号技術のことで、近年、デジタルアートやゲームなどの分野で期待が高い。NFT市場のセグメント別内訳をみると、コレクティブルと言われる収集性の高いコレクションが約半数(51.0%)を占め、次にゲーム(15.4%)、アート(15.1%)と続く(図2参照)。アディダス(スポーツ用品)、マイクロソフト(ソフトウェア)、マクドナルド(飲食)、ロレアル(化粧品)、ショッピファイ(EC)など各業界大手が積極的に取り入れを表明し、活用が広がっている。

図2:NFT市場の内訳
市場規模は2021年140億ドル。シェアはコレクティブル51.0%、ゲーム15.4%、アート15.1%、メタバース4.5%、ユーティリティー0.5%、分散型金融0.1%、不明13.3%。

注:コレクティブルは、収集性の高いNFTやコレクション。ユーティリティーは、実用性の高いNFTトークンを指す。
出所:Statistaから作成

2022年に入ると、ロシアによるウクライナ侵攻やサプライチェーンの混乱、新型コロナによる局地的な都市封鎖管理、インフレの高進やそれに伴う主要国の金融引き締め措置が、市場に大きなショックを与えている。2020年以前と比較すると高い水準を維持しているものの、こうした状況下で、2022年第1四半期のVC投資額は前年同期比6.5%減と落ち込んだ。プレキンは「世界的な金利上昇と地政学的な緊張により、2022年の投資のスピードは緩やかになる」と予測している。

2021年のVC投資の増加に伴い、時価総額10億ドル以上のスタートアップ、いわゆる「ユニコーン」の数も増加傾向にある。世界のユニコーン数は2022年6月末時点で1,156社となり、2020年末時点の435社から大きく伸びた(図3参照)。2021年以降に、ユニコーン入りしたスタートアップのうち、およそ4社に1社がフィンテック分野のスタートアップであった。オンライン決済サービスを展開するストライプ(米国)、モバイル銀行を運営するチャイム(米国)などが急成長した。国別でのユニコーン数をみると、米国が53.4%と圧倒的なシェアを占める。時価総額が最も大きいのは、Tiktokを運営するバイトダンス(中国)で1,400億ドル、2位は宇宙開発企業スペースX(米国)で1,250億ドルとなった。

図3:世界のユニコーン数と国別シェア(累計)
ユニコーン数は2017年121社、2018年222社、2019年325社、2020年435社、2021年964社、2022年6月までで1156社。国別シェアは米国53.4%、中国15.0%、インド5.8%、英国3.8%、ドイツ2.5%、フランス2.1%、イスラエル1.9%、その他15.5%。

出所:CBinsightsから作成(2022年6月30日)

多様化するエグジット

日本以外の国・地域におけるスタートアップの投資回収(エグジット)方法は、M&Aが主(注1)であるが、近年、自国でのIPO(新規株式上場)だけでなく、国外株式市場の上場などへ広がりを見せる。

米国では、新型コロナを機に、特別買収目的会社(SPAC)を経由した上場方法が注目を集めた。これは、特定の事業を持たず、未公開会社や事業を買収することだけを目的とした特別買収目的会社を株式市場に上場させ、その後に実際の事業を持った企業を買収することで、未公開企業の株式を市場に流通させる方法である。従来のプロセスよりも迅速に株式公開が可能になることから、コロナ禍で資金調達に苦戦したスタートアップがこの手法を用いて上場するケースが増加した。

さらに、他国から米国市場への上場を目指す動きもあり、例えば韓国のネット通販最大手クーパンが2021年3月に、シンガポール配車アプリのグラブが同年12月に、それぞれナスダックに上場した(表1参照)。グラブは、SPACを経由した上場手法では過去最大規模となる。中国の配車アプリの滴滴出行(ディディ)は2021年6月にニューヨーク証券取引所に上場したものの、2022年5月に上場廃止を決定している。走行や利用者のデータ流出を警戒する中国のネット規制当局が、国家安全上の理由で審査を開始し上場廃止を要請していた。

表1:2021年に上場した主なスタートアップ
企業名 事業内容 上場時期 IPO時の
資金調達額
(億ドル)
リビアン 米国 電気自動車メーカー 2021年11月 119
クーパン 韓国 ネット通販 2021年3月 46
ルーシッドモーターズ 米国 電気自動車メーカー 2021年7月 46
グラブ シンガポール 配車アプリ 2021年12月 45
滴滴出行(注2) 中国 配車アプリ 2021年6月 44
ヌーバンク ブラジル デジタル銀行 2021年12月 26
オーロラ 米国 自動運転開発 2021年11月 25
ソーファイ 米国 クラウドファンディング 2021年6月 24
アイアンソース イスラエル ゲーム向け広告テクノロジー 2021年6月 23
バンブル 米国 マッチングサービス 2021年2月 21.5

注1:上場市場はすべてニューヨーク証券取引所(NYSE)。
注2:滴々出行は2022年 5 月に上場廃止を決定。
出所:Crunchbase、各社ウェブサイトから作成

IPOの際に、資金調達先として日本の証券取引所が選択されるケースもみられる。東証が「クロスボーダー企業」(表2注参照)と定義する企業のIPOは6件。外国企業、特に東アジアのスタートアップが東京証券取引所に上場し、アジアにおけるエグジットの新たな選択肢として存在感を見せている。中国からはアクシージア、HOUSEI、シンガポールからYCP・ホールディングス・リミテッド、オムニ・プラス・システム・リミテッド、台湾からはエイピアグループ、ベトナムからハイブリッドテクノロジーズが東証(グロース市場)に上場した(表2参照)。

表2:東証に上場したクロスボーダー(注)企業
企業 国・地域 事業内容 上場時期
アクシージア 中国 化粧品および健康補助食品の製造・販売 2021年2月
エイピアグループ 台湾 AIを用いたマーケティングサービス 2021年3月
オムニ・プラス・システム・リミテッド シンガポール 部品用途に応じた高機能エンジニアリング・プラスチックの開発 2021年6月
ハイブリッドテクノロジーズ ベトナム システム開発 2021年12月
YCP・ホールディングス・リミテッド シンガポール 戦略アドバイザリー 2021年12月
HOUSEI 中国 メディア企業向けシステム開発 2022年7月

注: JPXが定義する「クロスボーダー企業」の上場企業。例えば、外国に登記されている企業(外国籍企業)、過去において外国に登記されていた企業(インバージョン企業)、外国人CEOを有する日本企業など。2021年に上場した企業はすべて、グロース市場へ移行。
出所:日本証券取引所(JPX)、各社ウェブサイトから作成

日本政府、スタートアップ支援体制を強化

一方、日本のスタートアップに目を向けると、国内においてはその数やVC投資が増加傾向にあるものの、世界的に活躍するスタートアップの数はまだまだ少ないのが現状だ。日本のユニコーン数は6社と、世界シェアでわずか0.5%にとどまっている。その理由として、対GDP比におけるVC投資額が少ないことや(注2)、東証など国内市場におけるIPOに対するハードルの低さが挙げられる。2021年のIPO数は合計136社と前年から33.3%伸び、マザーズ(現グロース)市場においては過去最高件数の93社が上場した(図4参照)。ただし、2022年には、原油価格高騰や上海でのロックダウンによる景気減速への懸念などから、多くの企業がIPOを延期している。

IPOによる資金獲得や社会的信用度の高まりは、企業の成長にとっても重要な要素である一方、ベンチャーが上場した後の成長の低さ(注3)から、しばしば「上場ゴール」とやゆされてきた。シリコンバレーでCVC(Corporate Venture Capital)立ち上げの経験を持つ出馬弘昭氏は、ジェトロのインタビュー(「有識者に聞く、シリコンバレーのクリーンテック最前線」)で、「日本のスタートアップはVCからの上場プレッシャーが強くある。実際、日本のスタートアップの9割がIPOしている。国内で早期に上場してしまうと、VC側は投資回収できるが、スタートアップ側は日本でのみ成功するにとどまる」と指摘している。

図4:日本のIPO推移
マザーズ(2022年よりグロース)への上場社数は2016年54社、2017年49社、2018年63社、2019年63社、2020年63社、2021年93社。2022年1~6月は17社。 その他への上場社数は2016年30社、2017年44、2018年34社、2019年27社、2020年39社、2021年43社。2022年1~6月は30社。

出所:日本取引所グループから作成

岸田政権は、2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、年末までに「スタートアップ育成5か年計画」を策定する方針を打ち出した。スタートアップを5年で10倍に増やす目標を掲げている。2021年には、短期間での投資回収が難しいディープテック向けに「ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度」や、国内企業と海外企業のグローバルオープンイノベーション促進を目的とした「ファンドによる海外投資規制の特例」など、新たな政府支援策も打ち出した。政府支援策としては、アーリーステージからレイターステージの資金調達段階別の支援(注4)に加え、起業リスク軽減やエコシステム強化、海外展開支援と、ほぼほぼ出そろった格好だ。

課題も残る日本の起業環境だが、スタートアップ・エコシステムをめぐる環境は着実に向上している。数ある支援策や海外投資家を活用することにより、国内での早期上場を目指すだけでなく、スケールアップして世界に活躍の場を広げることを、選択肢の1つとして検討する段階にきている。

支援策の情報については、経済産業省がとりまとめた「METI Startup Policies ‐経済産業省スタートアップ支援策一覧‐外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」も参照されたい。


注1:
アジア発スタートアップに開かれる、東証マザーズIPOへの道」(2020年8月)参照。
注2:
日本のVC投資額対GDP比は0.03%。米国は0.40%、フランスは0.06%など。OECD「Entrepreneurship at a Glance」(2.32MB)(2018)より。
注3:
「上場後の成長の谷に関する共同研究レポート(2021年8月)」一橋大学大学院、グロース・キャピタル株式会社。
注4:
スタートアップの資金調達段階は、一般的に以下のように分類される。
シード:創業前の段階
シリーズA:商品のプロトタイプを作成し、ビジネスモデルを確立する段階
シリーズB:事業が軌道に乗り始め、収益が出始める段階
シリーズC:経営が安定する段階
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
伊尾木 智子(いおき ともこ)
2014年、ジェトロ入構。対日投資部(2014~2017年)、ジェトロ・プラハ事務所(2017年~2018年)を経て現職。