特集:世界経済の混乱で求められる海外ビジネスの再構築2021年の世界貿易は過去最高水準
拡大基調継続も、ナイロンなど材料供給に不安含み

2022年11月28日

世界貿易額(輸出額ベース)は2021年、初めて21兆ドルを超えた。各国・地域では、新型コロナウイルスのワクチン接種が普及してきたことに伴い、経済・社会活動制限が徐々に緩和されている。そうしたことによる需要の反動増と、資源価格の高騰が主因とみられる。

2022年も貿易額は拡大傾向が続く。しかし当年の拡大は、需要増加よりも、鉱物性燃料などの価格上昇の結果という側面が大きい。また、国際物流の混乱、一次産品を中心とする価格高騰、原材料・部品の供給不足など、サプライチェーンにもたらす不安定要因が長期化している。

2021年の世界貿易額は過去最高水準

2021年の世界貿易(財貿易、名目輸出額ベース)は、前年比26.2%増の21兆7,534億ドルになった(図参照)。貿易数量(輸出ベース)は、前年比9.4%増になった。すなわち、金額・数量ともにプラスに転じたかたちだ。その主因は、経済・社会活動制限の緩和に伴う反動増とみられる(新型コロナの世界的蔓延とそれに伴うロックダウンの影響で、前年は経済活動が大きく落ち込んでいた)。また、貿易額に比べて数量の伸び率が低いことからすると、資源価格の高騰も貿易額全体を押し上げたとみられる。

図:世界貿易の推移
世界の輸出額は、2002年6.4兆ドル、2003年7.5兆ドル、2004年9.1兆ドル、2005年10.3兆ドル、2006年11.9兆ドル、2007年13.7兆ドル、2008年15.8兆ドル、2009年12.2兆ドル、2010年14.9兆ドル、2011年17.8兆ドル、2012年17.9兆ドル、2013年18.5兆ドル、2014年18.6兆ドル、2015年16.2兆ドル、2016年15.7兆ドル、2017年17.3兆ドル、2018年19.1兆ドル、2019年18.5兆ドル、2020年17.2兆ドル、2021年21.8兆ドル。金額伸び率(前年比)は、2002年4.7%、2003年16.7%、2004年21.3%、2005年13.4%、2006年15.2%、2007年15.3%、2008年15.6%、2009年マイナス22.9%、2010年22.4%、2011年19.2%、2012年0.7%、2013年3.4%、2014年0.5%、2015年マイナス13.0%、2016年マイナス3.2%、2017年10.8%、2018年9.9%、2019年マイナス2.8%、2020年マイナス7.0%、2021年26.2%。数量伸び率(前年比)は、2002年4.1%、2003年5.5%、2004年9.5%、2005年6.5%、2006年8.4%、2007年6.5%、2008年2.0%、2009年マイナス11.7%、2010年13.9%、2011年5.1%、2012年2.5%、2013年2.6%、2014年2.6%、2015年2.4%、2016年1.9%、2017年4.4%、2018年2.7%、2019年0.3%、2020年マイナス4.7%、2021年9.4%。

出所:ジェトロ推計値(各国・地域貿易統計から作成)およびWTOデータ

ここで、押し上げ要因の1つと考えられる鉱物性燃料などの輸出額をみてみる。2021年は、前年比62.5%増の2兆4,223億ドルになった。特に「天然ガスなど」の伸び率が高く、88.3%増だった。この傾向は2022年に入っても続いている。その背景には、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻の影響もある。その結果、価格高騰と供給不安が長期化している。足元の2022年第2四半期(4~6月)の主要33カ国・地域の輸出額の伸び率をみると、鉱物性燃料は前年同期比92.1%増。特に「天然ガスなど」は2.3倍に急増した(表1参照)。世界銀行が2022年10月に発表した一次産品価格見通しによると、2022年のエネルギーの価格指数(2010年=100)は151.7。前年の95.4を大幅に上回る予測だ。

表1:主要33カ国・地域の四半期別商品別貿易の推移(前年同期比伸び率の推移)(単位:%)(△はマイナス値)
商品 2021年 2022年
1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q
総額 17.6 42.8 21.9 19.6 15.1 12.5
階層レベル2の項目機械機器 17.5 40.9 14.1 10.3 7.1 3.6
階層レベル3の項目一般機械 17.4 30.7 16.3 13.0 7.0 0.8
階層レベル3の項目電気機器 27.1 32.3 17.5 15.0 13.0 9.8
階層レベル3の項目輸送機器 5.8 84.8 5.1 0.2 0.2 0.2
階層レベル4の項目自動車 11.5 110.5 △ 6.8 △ 6.6 △ 4.4 0.4
階層レベル5の項目乗用車 11.3 108.9 △ 9.3 △ 9.1 △ 4.2 0.1
階層レベル5の項目自動車部品(エンジン除く) 15.2 93.1 9.1 △ 4.1 0.8 0.1
階層レベル2の項目化学品 15.9 40.3 26.2 23.8 18.7 10.3
階層レベル2の項目食料品 10.7 29.4 13.1 10.1 10.5 9.1
階層レベル2の項目油脂その他の動植物生産品 31.7 34.5 29.9 29.9 25.1 22.4
階層レベル2の項目その他原料およびその製品 17.7 59.1 35.3 38.1 28.4 28.9
階層レベル3の項目鉱物性燃料など △ 2.6 96.1 87.3 103.4 78.4 93.5
階層レベル4の項目鉱物性燃料 △ 4.3 93.6 85.5 98.0 75.7 92.1
階層レベル5の項目石炭など △ 7.1 32.8 106.1 153.9 140.1 206.0
階層レベル5の項目天然ガスなど 27.9 58.9 135.7 131.0 80.1 130.0
階層レベル5の項目石油および同製品 △ 9.7 111.4 74.4 83.8 68.1 74.5
階層レベル3の項目卑金属および同製品 23.2 62.7 48.6 39.8 27.6 21.2
階層レベル4の項目鉄鋼 22.5 63.4 56.2 46.0 29.5 23.4

注:33カ国・地域は、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、中国、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、香港、インド、インドネシア、アイルランド、イタリア、日本、ルクセンブルク、マレーシア、オランダ、フィリピン、ポルトガル、シンガポール、南アフリカ共和国、韓国、スペイン、スウェーデン、スイス、台湾、タイ、英国、米国。
出所:各国・地域貿易統計からジェトロ作成

ナイロンの供給不足感続く

2021年以降、新型コロナからの経済回復に伴う需要の急増に起因して、国際物流のコスト増や原材料価格の高騰などが発生。加えて、自然災害や工場での事故などもあり、半導体や樹脂製品などを筆頭に供給不足が顕在化している。

本レポートでは、2021年2月に米国テキサス州で発生した記録的な寒波と大規模停電をきっかけに供給不足感が増しているナイロン(ポリアミド樹脂)の貿易動向を見てみる。その中でもナイロン66は、新型コロナ発生以前の2018年ごろにも需要の逼迫が生じていた。この製品は、耐熱性や耐摩耗性が強く、自動車の部分品(エアバッグ、エンジンルーム内部品など)や産業用機器のコネクターなどに幅広く使用されている。さらに、原材料となるアジポニトリルを生産する企業が世界的に限られている事情が、逼迫が生じやすい背景にある。そこへ、石油化学品生産の一大集積地テキサス州の大寒波によって主要工場が停止。国際物流の混乱が発生し、供給不足に拍車をかけた。2021年3月以降、供給不足はさらに深刻化し、原料を含めて複数のメーカーが契約不履行の責任の免除を顧客に求めるフォースマジュール(不可抗力)宣言や価格引き上げに至った。

ナイロン66を含むポリアミド樹脂(HSコード3908.10)の2021年の輸出額は、前年比51.7%増の138億ドルだった。上位輸出国はドイツ、米国、中国、ベルギー、イタリア。この上位5カ国で、輸出額全体の56.6%を占めている(表2参照)。上位各国の輸出額伸び率は、軒並み大幅増になった。もっとも、新型コロナの影響で低迷した2020年からの反動増が主因だった。

上位5カ国の2022年上半期のポリアミド樹脂の輸出をみると、金額は5カ国の全てで前年同期比増。しかし数量では、中国以外の4カ国で前年同期割れになった。中国は輸出額が36.1%増、輸出数量が29.9%増だった。2021年通年の伸び率(輸出額2.2倍、輸出数量80.2%増)と比較すると低いものの、数量を含めて輸出を伸ばしている。米国の大手メーカーによる中国工場での生産増強や、中国国内メーカーの増産などが後押ししたとみられる。対照的に輸出数量の減少が目立ったのが、ドイツ、イタリア。それぞれ14.1%減、6.3%減だった。2021年以降、上位国の2021年の輸出数量の伸び率は、金額に比べて低い。ここから、ナイロンの供給不足に伴う価格高騰が貿易額を押し上げたと推測できる。

原油高などの影響から、ナイロンの原材料価格も上昇している。そのため主要メーカー各社は、製品の値上げに踏み切った。例えば、東レは2022年7月、ナイロン66を含む合繊糸などの値上げを発表。その背景には、原材料、副資材、燃料エネルギー、輸送費など、サプライチェーンにかかるあらゆる価格の上昇がある。同社は「今後も一層の上昇が見込まれる」という見方を示した(2022年7月13日付、東レプレスリリース「合繊糸・綿(わた)・不織布の価格改定(値上げ)について」)。2022年7~8月には、オランダのDSMもナイロン66に似た性質を持つナイロン6製品について、欧州での販売価格を2カ月連続で値上げした。東レ同様、天然ガスの価格上昇に伴う原材料や副資材の価格高騰を理由に挙げた(2022年7月28日付と8月31日付、DSMプレスリリース“DSM Engineering Materials increase price for Akulon® PA6 grades in Europe”)。

表2:ナイロン(ポリアミド樹脂)の輸出金額・数量(△はマイナス値、-は値なし)
国名 金額(100万ドル、%) 数量(1,000トン、%)
2020年 2021年 2022年上半期
(1~6月)
2020年 2021年 2022年上半期
(1~6月)
金額 伸び率 金額 伸び率 数量 伸び率 数量 伸び率
世界計 9,108 13,815 51.7
米国 1,532 2,236 46.0 1,270 24.3 550 644 17.1 318 △ 2.4
ドイツ 1,647 2,241 36.1 1,212 7.7 575 617 7.4 286 △ 14.1
中国 585 1,292 120.8 789 36.1 223 402 80.2 254 29.9
ベルギー 699 1,132 62.1 617 20.4 265 345 30.3 165 △ 2.4
イタリア 555 915 64.9 540 18.1 203 249 23.0 126 △ 6.3

注1:2022年上半期の輸出金額上位5カ国。
注2:輸出量の世界合計は該当データなし。
注3:2022年上半期の伸び率は前年同期比。
出所:各国・地域貿易統計から作成

長期化する供給不足を受けて、一部のナイロンメーカーに、ナイロン66の代替材料の開発や提案を積極的に行う動きもみられる。また、大手原材料メーカーは生産増強の投資を発表している。大型事例としては、米国のインビスタの案件がある。同社は2021年8月、追加投資を発表。中国・上海に所在するナイロン66の主原料アジポニトリルの製造工場の生産能力を倍増するとした。この追加投資により、2024年には年間40万トンの生産を目指す。もっとも、投資の発表から実質的な稼働までには時間を要する。そのため、供給が不安定な状況はしばらく続く見通しだ。

減速する世界経済、見通し不透明

主要33カ国・地域の2022年上半期(1~6月)の世界貿易(輸出額ベース、四半期別)の伸び率をみると、第1四半期(1~3月)は前年同期比15.1%増、第2四半期(4~6月)は12.5%増と、2桁増を維持してきた。もっとも、2021年第2四半期をピークに伸び率は減少し続けている(表1参照)。

IMFが2022年10月に発表した世界経済成長率見通しは、2022年は3.2%、2023年2.7%で。特に米国や中国などの成長率鈍化を指摘した。また、WTOも同月に2023年の世界の財貿易量の伸び率について、1.0%増にとどまるという見通しを発表。4月発表の前回見通しから2.4ポイント下方修正した(表3参照)。

世界経済・需要の減速傾向は鮮明だ。その半面、ロシアのウクライナ侵攻に端を発するエネルギーなど資源価格の高騰、各国・地域でのインフレ上昇など、生産・調達コストの高騰が引き続き懸念される。このような状況下、需要の低迷により、原材料・部品の供給制約の先行きは不透明なままだ。

表3:世界の財貿易量(実質)伸び率(前年比)

世界の財貿易量(単位:%、ポイント)(△はマイナス値)
地域名 2020年 2021年 2022年 2023年
10月 前回比 10月 前回比
世界 △ 5.0 9.7 3.5 0.5 1.0 △ 2.4
輸出(単位:%、ポイント)(△はマイナス値)
地域名 2020年 2021年 2022年 2023年
10月 前回比 10月 前回比
北米 △ 8.9 6.5 3.4 0.0 1.4 △ 3.9
中南米 △ 4.9 5.6 1.6 1.9 0.3 △ 1.5
欧州 △ 7.8 7.9 1.8 △ 1.1 0.8 △ 1.9
CIS △ 1.7 0.5 △ 5.8 △ 10.7 3.3 0.5
アフリカ △ 8.1 5.2 6.0 4.6 △ 1.0 △ 2.1
中東 △ 8.9 1.4 14.6 3.6 △ 1.5 △ 4.4
アジア 0.9 13.3 2.9 0.9 1.1 △ 2.4
輸入(単位:%、ポイント)(△はマイナス値)
地域名 2020年 2021年 2022年 2023年
10月 前回比 10月 前回比
北米 △ 5.9 12.3 8.5 4.6 0.8 △ 1.7
中南米 △ 10.7 25.4 5.9 1.1 △ 1.1 △ 4.2
欧州 △ 7.3 8.3 5.4 1.7 △ 0.7 △ 4.0
CIS △ 5.5 9.1 △ 24.7 △ 12.7 9.4 14.6
アフリカ △ 14.7 7.7 7.2 4.7 5.7 1.8
中東 △ 10.1 8.4 11.1 △ 0.6 5.7 △ 0.5
アジア △ 1.0 11.1 0.9 △ 1.1 2.2 △ 2.3

注1:2022年と2023年の値は予測値。
注2:世界の財貿易の数値は、輸出と輸入の平均値。
注3:中南米は、南米、中央米、カリブ海を意味する。なお、メキシコは北米に含まれる。
注4:CISは、準加盟国と元加盟国を含む。
注5:この表にいう「前回」とは、2022年4月に発表されていた値を意味する。
出所:WTOプレスリリース(2022年10月5日)からジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。