特集:世界経済の混乱で求められる海外ビジネスの再構築円安下、半数近くの商品が輸出数量を伸ばす(日本)
2022年上半期の貿易を分析

2022年10月12日

円安が続く中、2022年上半期は輸出・輸入とも金額で過去最大を記録した。 一般論として、円安は輸出にプラスとされる。にもかかわらず、輸出数量指数の伸びは全体としてマイナスが続く。だが、商品ごとにみると、違う実態も見えてくる。半数近くが輸出数量を伸ばしていたのだ。

2022年上半期の貿易、円とドルで勢いに大きな差

2022年上半期(1~6月)の日本の貿易額は記録ずくめになった。輸出は前年同期比15.2%増の45兆9,241億円、輸入は37.9%増の53兆8,733億円。いずれも、半期として過去最大水準に当たる(注1)。さらに、貿易収支は7兆9,492億円の赤字になる。これも、半期として過去最大の輸入超過幅を記録したかたちだ。

留意しなければならないのは、これらの「過去最大」がいずれも円ベースでということだ。毎月の実勢レートで輸出入額をドルに換算してみると、2022年上半期は輸出が3,734億ドル、輸入は4,377億ドル(注2)になる。ドルベースでは過去最高に届かない(注3)。また、貿易収支の赤字幅(644億ドル)も、過去最高の2014年上半期(742億ドル)を下回る。伸び率では、輸出が前年同期比1.0%増、輸入は20.8%増だった。円ベースと比べて、伸び率も抑えられたかたちだ。両者の動きを追うため、2018年上半期の貿易額を基準に、2022年まで各年上半期の貿易額の水準を示してみた(図1)。ここから、(1) 2021年までは、円ベース、ドルベースともほぼ同じ動きをしていたこと、(2) 2022年は円ベースの伸びが突出し、ドルベースとの勢いの差が鮮明となったこと、を読み取ることができる。

図1:日本の輸出、輸入額の水準の推移
2022年上半期まで各年上半期5期の円ベースとドルベースの貿易水準を示す。以下、2018年上半期、2019年上半期、2020年上半期、2021年上半期、2022年上半期の順。円ベースの輸出、100、95、81、99、114。円ベースの輸入、100、99、88、99、136。ドルベースの輸出、100、94、81、100、101。ドルベースの輸入、100、98、88、100、120。

注1: 2018年上半期の貿易額を100とする。
注2:ドルベースの貿易額は「Global Trade Atlas」による。
出所:「貿易統計」(財務省)、「Global Trade Atlas」(S&Pグローバル社)から作成

全体では鈍い動き、しかし半数近くの商品で輸出数量増

円とドルで異なる結果をもたらした要因は、足元で急激に進む円安ドル高だ。2021年初頭から、為替は円安方向に動いていた。その動きは、2022年春から加速している。2022年6月の月平均レートは133.86円/ドル。前年同月(110.11円/ドル)から1年間で20円以上も円安が進展した。

円安は、一般的には日本の輸出に対してプラス、輸入にはマイナスに働くとされる。輸出先市場で日本の輸出商品価格が引き下げられることにつながりやすく、次第に輸出数量を押し上げるとされるためだ。逆に輸入は割高感が増し、輸入数量が減少しがちだ。輸入では、円安に加えて、ロシアのウクライナ侵攻を背景としたエネルギーや食料などの価格高騰が輸入価格を押し上げている。エネルギーや食料などの一次産品の多くを輸入に頼る日本では、輸入数量をすぐ減らすことは難しい。図1でみられた2022年上半期の円ベース輸入の突出した伸びには、こうした要因も働いている。

一方、輸出はどうか。財務省の貿易統計によると、2022年3月以降、輸出数量指数は前年同月比でマイナスが続いている(注4)。確かに一部には、上向きの兆候がみられる。例えば、8月は、米国向けの輸出数量指数が4カ月ぶりにプラスとなった。しかし、その動きはまだ力強さに欠けている。円安のプラス効果は、数量面でまだ明確に表れていないようだ。

ここからは、輸出全体の動きを示す数量指数の動きが鈍いことが示唆される。しかし、個々の商品はどう動いているのか。そこで、2022年上半期の輸出商品(4,199品目、HS6桁レベル)につき、個数や重量など商品ごとの数量単位による変化をみた。その結果、前年同期と比べて数量が増加した商品は1,942品目と半数近くに上った(注5)。主要商品別にみると、品目数が多かったのは、「その他原料・同製品」「化学品」「繊維・同製品」などで、それぞれ約350品目で輸出数量が前年同期を上回った。また、「食料品」「一般機械」でも200超の品目で数量を伸ばした(表1参照)。

主要商品別に2022年上半期の総輸出に対する比率をみると、「食料品」「繊維・同製品」「一般機械」で半数以上の品目が輸出数量増という結果になった。特に「食料品」は、輸出数量が増加した商品の輸出額が、食料品輸出総額の7割超を占めた。輸出で主要な食料品が概ね好調だったと言えそうだ。

表1:日本からの輸出数量が増加した商品(2022年上半期)(単位:100万ドル、%)
商品 輸出数量が増加した品目数
および輸出額
商品ごとの総輸出に対する
比率(%)
品目数 金額 品目数 金額
食料品 264 2,589 54.5 74.0
化学品 350 23,652 42.3 48.0
繊維・同製品 343 2,095 51.5 59.1
鉄鋼 104 8,655 38.4 38.6
その他原料・同製品 352 21,102 46.2 59.7
一般機械 226 35,653 50.4 55.1
電気機器 96 8,440 40.0 17.5
輸送機器 56 11,067 48.3 17.6
精密機器 86 8,302 47.8 45.5
その他 65 1,757 52.0 46.6
合計 1,942 123,311 47.1 39.5

注1: 2022年上半期の日本の輸出(HS6桁レベル、4,199品目。本稿注5参照)を主要商品ごとにHS2桁レベルで集計。商品定義は以下の通り(カッコ内はHSコード)。食料品(01~24)、化学品(28~40)、繊維・同製品(50~63)、鉄鋼(72~73)、その他原料・同製品(25~27、41~49、64~71、74~83)、一般機械(84)、電気機器(85)、輸送機器(86~89)、精密機器(90~91)、その他(92~97)。なお、その他原料・同製品は、鉄鋼、繊維・同製品を除く原料品および同製品(例:鉱石類、鉱物性燃料、木材・同製品、陶磁製品)。
注2:「商品ごとの総輸出」の品目数、輸出額は、本稿注5の条件を満たす商品の合計。
出所:図1と同じ

ドル単価下落の下で輸出額を伸ばした商品も多い

では、こうした輸出数量が増加した商品の価格は、今般の円安下でどのように動いたのか。貿易統計では、商品ごとの輸出価格は公表されていない。ただし、輸出額と輸出数量から、1個当たり、あるいは1トン当たりなどの単価を算出することは可能だ(注6)。ドルベースの輸出額を利用すると、単価も円安を反映したものに近くなる。そこで、表1で示した輸出数量が増加した品目(1,942品目)について、それぞれのドルベースの単価(以下、ドル単価)の変化をみた。その結果、7割近い1,320品目で、前年同期に比べてドル単価が下落したことが読み取れた。

ただ、ドル単価が下落するだけで輸出数量が十分に増えなければ、輸出額としては増加しない。そこで、ドル単価が下落した1,320品目の輸出額がどうだったのかを追ってみた。その結果、半数を上回る861品目で前年同期から輸出額が増えていたことがわかった。これらの商品では、ドル単価の下落分を輸出数量の増加で補ったことになる。急激な円安下において、輸出が好調だった商品と捉えることができそうだ。「繊維・同製品」が175品目で最も多く、「食料品」「その他原料・同製品」「化学品」もそれぞれ140超の品目に上った(図2参照)。

品目別には、食料品では調味料類〔味噌(みそ)など〕、日本酒などのほか、練り製品(魚肉ソーセージやかまぼこなど)、即席麺類(インスタントラーメンなど)のように、消費者に直接、届く商品も上位に顔を出した。また、「その他」ではボールペンやゴルフクラブ、インクカートリッジなど、さまざまな消費財が輸出を伸ばした(表2参照)。円安による輸出先市場での価格競争力の高まりが輸出数量の増加を後押しし、市場拡大の機会を得た商品もある。

足元では円安が継続しており、この傾向はしばらく続きそうだ。円安は、海外から輸入するエネルギーや原材料価格の上昇など、生産活動にとってマイナスとなる側面も大きい。一方で、価格優位性を十分に生かせる商品をより多く見いだし、海外市場の積極的な開拓につなげていくことが、これからの輸出の回復に必要となるだろう。

図2:2022年上半期の円安下において輸出が好調だった商品(861品目)
食料品、145品目。化学品、142品目。繊維・同製品、175品目。鉄鋼、36品目。その他原料・同製品、143品目。一般機械、92品目。電気機器、39品目。輸送機器、20品目。精密機器、32品目。その他、37品目。計861品目

注:2022年上半期の日本の輸出(本稿注5参照)のうち、前年同期と比較して、(1)輸出数量が増加、(2)ドル単価が下落、(3)輸出額が増加した861品目が対象。主要品目の商品定義は本稿表1の注参照。
出所:図1と同じ

表2:2022年上半期の円安下において輸出が好調だった商品(上位品目)
項目 商品 2021年上半期=100
輸出額 数量 ドル
単価
食料品 味噌、ソース、マヨネーズ、ドレッシングなどの調味料 106.4 117.6 90.5
日本酒などの発酵酒 116.2 119.5 97.2
牛肉(生鮮、冷蔵。骨付きでない肉) 100.6 108.3 92.8
化学品 イソシアン酸塩 108.9 111.8 97.4
磨き用のペーストなどの調製品(靴用、家具用、車体用除く) 107.5 109.3 98.4
写真用プレートおよびフラットフィルム(一辺が255mm超) 104.4 124.7 83.7
繊維・同製品 合繊繊維の長繊維の織物(ポリエステル長繊維が全重量の85%以上) 113.4 113.8 99.6
合成繊維の糸(アクリル、モダクリルのもの) 113.1 118.6 95.4
再生繊維、半合成繊維の長繊維の糸(強力糸除く) 107.4 108.6 98.9
その他原料・同製品 歴青質混合物(天然アスファルト、天然ビチューメンなどを基にしたもの) 3,635.0 5,228.3 69.5
ロジウム(加工していないもの) 229.9 304.7 75.5
ガラス製品(板ガラス、鏡、容器、菅、理化学用など除く) 117.5 121.9 96.4
その他 ボールペン 105.6 109.7 96.3
ゴルフクラブ 117.4 124.2 94.5
インクカートリッジ 128.3 133.1 96.3

注:円安下で輸出が好調だった商品(図2注参照)のうち、各商品の輸出額上位3品目。
出所:図1と同じ


注1:
「貿易統計」(財務省ウェブサイト)掲載データに基づき、1979年以降を比較。
注2:
本稿にドルベースで示した日本の貿易データは、S&Pグローバル社の貿易統計データベース「Global Trade Atlas(GTA)」による。GTAは、米国の連邦準備制度理事会(FRB)が発表する月平均レート(実勢レート)を用いて、各月の円建て貿易データ(財務省通関統計に準拠)をドル換算している。
注3:
比較可能な1979年以降、半期の過去最高額(ドルベース)は、2011年下半期(輸出4,315億ドル、輸入4,522億ドル)。
注4:
2022年8月分まで。
注5:
2022年上半期の日本の輸出(HS6桁レベル、4,741品目)のうち、(1)~(3)の条件を満たす4,199品目。(1) 2021年上半期と2022年上半期の両方に、輸出額と輸出数量のデータがある(単位未満除く)、(2) HS2022改正において、HS2017から、HSコードの統合・分割などの変更がない、(3) HS000000(再輸出品)を除く。なお、4,199品目の輸出合計額が輸出総額に占めるシェアは、約85%(2021年上半期、2022年上半期とも)。
注6:
貿易統計を利用しての単価の変化をみる際には、品質向上など付加価値の側面を十分に考慮できない点などに留意する必要がある。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 国際経済課
中村 江里子(なかむら えりこ)
ジェトロ(海外調査部、経済情報部)、(財)国際開発センター(開発エコノミストコース修了)、(財)国際貿易投資研究所(主任研究員)等を経て2010年より現職。