特集:中東Eコマースのポテンシャル新型コロナ禍を通じて成長するオンライングローサリー市場(UAE)

2020年12月16日

elGrocer外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(エルグロサー)は、グローサリー(食品や消費財)を中心とした宅配プラットフォームを運営するスタートアップだ。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで、2015年に創業した。

ユーザーは、スマートフォンを通して、アプリに出店しているスーパーマーケットや食品小売店に商品を注文する。その後、通常30分から1時間程度で自宅やオフィスに配達を受けることができる。

ドバイは夏には日中50度近くまで気温が上がるため、もともとデリバリーのニーズは高かったが、新型コロナ感染拡大を受け、さらに生活に不可欠なサービスとなった。昨今は同業他社や新規参入も多い。その中でもelGrocerは、2016年からドバイで本格的に事業を展開する最古参の企業だ。それだけに、利用のしやすさやサービスの充実度に自信を持つ。UAE国内を主なターゲット市場とし、同業種では唯一、国内7首長国の全てで展開している。

創業者のナデル・アミリ氏に、同社の成り立ちや戦略、UAEのEコマース市場の特徴についてインタビューした(11月4日)。


右がelGrocer創業者のナデル・アミリ氏(同社提供)
質問:
elGrocerを創業したきっかけは。
答え:
創業するまでは、主にドバイで食品大手のクラフト社やコカ・コーラなどの日用消費財(FMCG)分野で仕事をしてきた。その中で、ドバイの食品デリバリーやEコマースの分野には、成長の余地が大いにあると感じていた。当時から、スーパーマーケットや商店がデリバリーサービスを行ってはいた。しかし、宅配の時間や正確性で質が高いものとは言えず、自分で改善したいという気持ちが芽生えた。そこで、同じ思いを抱いていた友人や同僚と、2015年にelGrocerを創業した。初めの1年間は「ベータ版」として、ドバイの一部エリアで小規模に開始した。試行錯誤を繰り返しながらデータを収集した結果、ビジネスとして成長していけると判断し、本格的にサービス展開することになった。
質問:
ビジネスモデルは。
答え:
elGrocerが用意するプラットフォームに小売店が出店する形式のマーケットプレース・モデル。収益源は、大きく分けて3つある。1つ目は、出店する小売店舗がプラットフォームを通して売り上げた金額に対するコミッション(手数料)。2つ目は宅配料だ。商品を注文した消費者が支払うが、1回の宅配につき3ディルハム(約85円、1ディルハム=約28.4円)から9ディルハムほど。3つ目は食品ブランドからのスポンサー料(広告料)。アプリの中で商品を目立つように表示したり、商品を紹介するメールを発信したりする。
プラットフォームに出店している小売店は、地域に根差した小規模な店舗から大手のスーパーマーケット、精肉店やベーカリーなどの食品関連で、規模や種類はさまざまだ。
質問:
創業時と拡大時の資金の調達方法は。
答え:
他のスタートアップとは違い、投資家から資金を調達することはしなかった。創業時は家族や友人から資金を募った。
本格的にビジネスを開始する際には、「Eureeca」というクラウドファンディング・サイトを活用した。そこで、100万ドルを集めることができた。非常にスムーズに資金を獲得でき、投資家の目も気にしなくてよく、社内での決断も迅速に行うことができた。
ただし、今後のビジネス拡大に向けては投資家からの出資を模索することになると思う。
質問:
サービスの強みは。
答え:
最も大事なのは、顧客重視の姿勢だ。多くの競合他社が参入してきている。その中で、われわれの強みは、商品のピックアップから宅配まで社員にきちんと教育を行い、ユーザーに満足してもらえるサービスの質を保つ努力を怠らないことと考えている。この方針は創業当時から変えていない。顧客がどのような商品を検索しているかなどのデータを活用し、小売店には品ぞろえのアドバイスも行っている。
また、取り扱う分野をグローサリーに特化し、サービスの質を高めている点も強みだ。独自の「ショッピングリスト」機能やレシピの提案など、自社のアプリをユーザーの「食」に関する生活の一部により取り込んでもらえるように工夫している。
質問:
なぜUAE、ドバイを選んだのか。
答え:
ビジネスを始めるのであればUAEからと決めていた。インフラが整っており、会社設立も簡単で、スタートアップにとっては非常に魅力的なビジネス環境だ。UAEでビジネスを固め、その後に多国に展開していく戦略を立てた。UAE国内でのビジネスを広げる中で最も効果的なシステムを構築し、ノウハウをためた。そうして、2020年1月には国内7首長国の全てで操業を開始した。
次はモロッコや南アフリカ共和国などアフリカへの展開を見据えて、投資家と議論をしているところだ。
質問:
新型コロナウイルス感染拡大の影響は。
答え:
Eコマースやデリバリーを取り巻く環境は、大きく変わった。UAEのグローサリー市場にオンライン販売が占める割合は1%に満たなかった。しかし、コロナ禍を経て、今では約10%に達している。
ドバイでは、4月に約3週間のロックダウン(終日外出禁止令)(注)が導入された。その最初の週に売り上げが通常の5倍にもなり、本当に驚いた。幸いだったのは、規模拡大に向けてシステムやテクノロジーをアップグレードしていたこと。そのため、利用の急増にも問題なく対応できた。一方で、宅配の人員は足りず、急いで雇用を進めた。 コロナ禍を通じて、人々がグローサリーをオンラインで買う習慣がより浸透してきている。今後もわれわれのマーケットがどんどん広がっていくことは間違いないとみている。

注:
ドバイでは、4月4~23日に終日外出禁止令が発令された。ただし、食料品を扱う小売店や病院、薬局などのエッセンシャル(生活に必要不可欠な)業種は営業を許可された。elGrocerを含む食品デリバリーサービスも営業を続け、市民の生活を支えた。

企業プロフィール:elGrocer

(1) 設立年:
2015年
(2) 主要商品:
主に食品、消費財
(3) 売上高:
非公開
(4) 展開国:
UAE
(5) 企業リンク:
https://www.elgrocer.com/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
山村 千晴(やまむら ちはる)
2013年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ岡山、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2019年12月から現職。執筆書籍に「飛躍するアフリカ!-イノベーションとスタートアップの最新動向」(部分執筆、ジェトロ、2020年)。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
ガーダ・アシュラフ
カイロ大学卒業後、6年間の調査会社での勤務等を経て2016年4月ジェトロ・ドバイ事務所入所。大学ではマーケティングを専攻。