特集:中東Eコマースのポテンシャル「生活用品全てをオンラインショッピングで」を目指す(サウジアラビア)

2020年12月16日

サウジアラビアに本社を置くnoon.comは、湾岸アラブ地域発のデジタル・マーケットプレースだ。アラブ首長国連邦(UAE)の政府系最大手デベロッパーのエマール・プロパティーのムハンマド・アルアッバール会長と、サウジアラビアのソブリンウェルスファンドであるパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)が共同出資している。2017年後半にUAEと本拠地サウジアラビアでのサービスを開始した後、2019年にはエジプトにもサービスを拡大させた。若い企業ながら、今やサウジアラビアとUAEでは大手Amazon.sa(注)に並ぶ2大ECプラットフォームの1つに成長している。同社のアリ・カーフィル・フセイン氏に、サウジアラビア、UAEのそれぞれの市場観や同社の戦略などについてインタビューした(10月29日)。


noon.comのアリ・カーフィル・フセイン氏(本人提供)

若年層の厚さがEコマース市場の成長を後押し

質問:
サウジアラビアのEコマース市場の特徴は。
答え:
サウジアラビアにおけるEコマース市場は拡大を続けている。若年層が厚く、スマートフォンの普及率が高いといったファンダメンタルズがあるためだ。若年層はパソコンを使うフェーズを飛び越え、今やスマートフォンで何でもこなす。現在、小売り全体の販売額に占めるオンラインショッピングの割合は数%程度ではないかとみるが、この割合は2倍、3倍の勢いで拡大しつつある。2025年までにオンラインショッピングが占める割合は50%程度まで上昇するとみている。

NowNow 配達用バイク(noon.com提供)
質問:
新型コロナウイルス感染拡大や外出規制がビジネスに与えた影響は。
答え:
Eコマース市場の拡大期に新型コロナの感染拡大に伴う外出規制が敷かれたことで、サウジアラビアの消費者の購買行動が一気にEコマースに移行した。コロナ禍では消毒液、(在宅勤務、オンライン学習用などの)ノートパソコン、(家庭内での)エクササイズ・ジム用品などが大きく伸びた。これまでEコマースといえば、携帯電話やPCなどのエレクトロニクス製品が主要な売れ筋だったが、外出規制に伴って購買行動が変化したことで、ファッションや食品などもオンラインショッピングの対象となってきた。対象品目が非常に多様化してきている。また、サウジアラビアではキャッシュ・オン・デリバリーを好むなどの現金主義がまだ残っているものの、コロナ禍の感染拡大防止策の1つだった現金(紙幣)回避の風潮がオンライン決済への急速な移行を後押しした。また、政府のキャッシュレス促進策などもEコマースを後押しする要因となっている。こうした動きはEコマースビジネスにとっては追い風だ。
質問:
サウジアラビアとUAEの市場の大きな違いは。
答え:
両国は人口構成が全く異なる。UAE市場の特徴は何といっても多様性があることだ。フィリピン人やインド人、欧米人、自国民など、それぞれのコミュニティーの幅広いニーズに対応する必要がある。他方で、サウジアラビアは自国民が3分の2を占めていることもあり、ニーズの多様性はUAEほどではない。ターゲットとなるSNSも異なる。サウジアラビアではスナップチャットが主流だが、UAEはインスタグラムを通じたインフルエンサーも存在しており、スナップチャット以外のSNSが主流。供給側に目を転じると、先行しているUAEと比較して、サウジアラビアのサプライヤーの充実度を今後さらに拡大させることが必要だと認識している。

生活用品全てをnoon.comで完結

質問:
競合他社との差別化は。
答え:
既存のプラットフォームでは、エレクトロニクスや日用品、美容関連など幅広い商品を閲覧、購入することができるが、これに加え、当社では目的に応じたサービスをすでに展開し始めている。具体的には、グローサリー専門のnoon Daily、ファッション専門のSIVVI、ディスカウントアイテム専用のKUL、地元グローサリーと提携したオンデマンドグローサリーのNowNowなどだ。フードデリバリーのサービスnoon Foodも2021年早々に開始を予定している。サウジアラビアでは現在、noon DailyとSIVVIが利用可能で、他のサービスも順次展開を開始する予定だ。noon.comで全ての買い物が完結できるような仕組みを作ることが目的で、こうした取り組みは競合他社では行っておらず、当社独自のサービスであると自負している。

グローサリー配達noon Daily (noon.com提供)

需要が見込まれる日本製品

質問:
日本企業との協業の可能性は。
答え:
サウジアラビア、UAEの人々の日本製品に対するイメージは「高品質、高技術、高い信頼性」であり、需要は高い。価格は少し高いとしても、このようなイメージに基づいて購買する一定の層はいるはずだ。特にエレクトロニクス、美容(化粧品)関連、ホーム&キッチンなどのニーズが高いのではないか。ホーム&キッチン分野では、域内でMUJIが成功しており、同様にチャンスがあるのではないか。サウジアラビア市場に限って言えば、ポイントとなるのは当地における登録。日本企業を商業省に登録するとともに、規制当局の製品認可と商品登録のプロセスを経ることとなる。
質問:
販売方法は。
答え:
販売方法としては、(1)noon.comが製品を買い取り、在庫を持つ製品、(2)マーケットプレースにサプライヤーが出品する製品の2つに分かれる。(1)は、例えば、紙おむつなど需要が非常に高い生活必需品の類。当社として、常に在庫を持つことで品切れを防ぐとともに、価格変動が起きないよう、消費者に価格を保証すべき商品が該当する。あるいは、必需品でなくとも、非常に有望な市場性を感じる製品の場合は買い取りを行うケースもある。最近では、noonブランドとしてのプライベートブランド(PB)も展開し始めた。デザインや素材、価格などあらゆる面でメーカーと協議している。PBはキッチン用品や食品、ファッションなど、その幅は拡大しつつあるので、PB分野でも日本企業との協業はあり得ると考えている。

サウジアラビア、UAEにおける従来型の消費材の販売方法では、代理店探しに始まり、物理的な店舗の開設から広告・広報を経てブランドを浸透させるまでに非常に長い時間が必要だ。「高品質、高技術、高い信頼性」のイメージを持つ日本製品であっても、当地に進出しづらい事情があった。しかし、新型コロナの感染拡大で一気にEコマースが身近になったことで、敷居の高かった消費市場にもサプライヤーがアプローチしやすい環境が整いつつある。また、商品の受け取り方法が多様化し、消費者の利便性が向上することで、両国のEコマース市場はますます拡大の一途をたどるだろう。


注:
AmazonがドバイベースのSouq.comを買収。サウジアラビアでも展開していたSouq.comは、2020年6月にそれまでのSouqからAmazon.saに正式名称を変更した。

企業プロフィール:

(1) 設立年:
2017年
(2) 主要商品:
エレクトロニクス、日用品、美容関連、アパレル、食品(noon Daily)
(3) 売上高:
非公開
(4) 展開国:
サウジアラビア、UAE、エジプト
(5) 企業リンク:
https://www.noon.com/saudi-en/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
柴田 美穂(しばた みほ)
2004年、ジェトロ入構。海外調査部(中東アフリカ課)、企画部(中東・アフリカ担当)、農林水産・食品部を経て2018年8月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
山村 千晴(やまむら ちはる)
2013年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ岡山、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2019年12月から現職。執筆書籍に「飛躍するアフリカ!-イノベーションとスタートアップの最新動向」(部分執筆、ジェトロ、2020年)。