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特集:中東Eコマースのポテンシャル現地発の最新技術が支える世界のEコマース(イスラエル)

2020年12月16日

Eコマースは、イスラエルでも盛んに利用される。しかし、人口約900万人という小国で、市場規模は大きくはない。また他国と違い、地場に総合的に商品を扱うプラットフォーマーが存在しない。そのため、イスラエルで活躍するEC関連のスタートアップの多くは、国内市場を狙わない。市場が急速に拡大する世界をにらみ、その発展を支える技術を開発し各地に向けて提供するビジネスモデルをとっている。

本稿では、イスラエル発のスタートアップが提供するEコマースの技術に注目し、その活動を紹介する。

新型コロナ禍で世界のEコマース市場は拡大、求められる差別化と不正被害対策

近年、拡大の一途をたどってきたEコマース市場は、新型コロナ禍で一般小売市場が縮小する中、さらに存在感を高めている。「Global Ecommerce 2020 (eMarketer)」によると、2020年の世界のEコマース(注1)市場は、前年と比較するとやや減速するものの、16.5%の成長が予測される。また、2021年以降も2桁の成長率が見込まれているという(図参照)。

図:世界のEコマース市場規模
世界のEコマース市場規模は2020年現在約3.9兆ドル、2024年には約6.2兆円まで成長する見込み。 Eコマースの小売市場全体に占める割合は年々増加しており、2020年現在16.8%。2024年には21.4%まで増加する見込み。 Eコマース市場の成長率は2021年以降も二桁%を維持する見込み。以上、出所は「eMarketer」。

出所:eMarketer資料に基づきジェトロ作成

拡大するEコマース市場でより多くの顧客に継続的に購買してもらうために、企業は、オンライン上で自社製品やサービス、ブランドを差別化する必要に迫られる。1つの手法として、カスタマージャーニー(顧客体験)を高めるマーケティング戦略や、そのためのツールが注目されている。一方で、オンライン決済を介した不正取引による被害も増加している。EUの報告PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.7MB) には、「サイバー犯罪による被害総額は全世界で年間2,900億ユーロに上る」とする欧州刑事警察機構(Europol)の指摘が紹介されている。また経済産業省の報告PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.4MB) によると、日本でも、クレジットカードの不正使用に起因する被害額は235億4,000万円に上る(2018年)。このため、多くの決済にクレジットカードが利用されるEコマース市場においても、相当の被害が発生していると推測される。買い手側への被害だけではない。チャージバック(注2)などが発生することで、売り手側への被害も想定される。このことから、消費者保護に加えて、事業者保護の観点からも対策が急がれる分野とも言える。

そうしたEコマース市場で、世界各地に向けてその発展を支える技術を開発・提供するイスラエル発のスタートアップがある。その一例として、市場競争力を強化するために多様なマーケティング戦略を支援するヨットポ(Yotpo)と、オンライン決済にあたって不正を防止するソリューションを提供するリスキファイド(Riskified)を紹介する。

ECサイトにプラットフォームの力でイノベーションを―ヨットポ

ヨットポは、グロースステージにあるイスラエルのスタートアップだ。2011年1月に設立され、2020年8月にEラウンドの資金調達を完了した。同社は、日本を含む各国で、小売事業者のECサイト向けに、ユーザー生成コンテンツ(UGC)を活用したソリューションプラットフォームサービスを提供する。ジェトロは10月28日、同社のアジア太平洋地域販売責任者であるヤニフ・アミン氏に話を聞いた。

質問:
サービスの特徴は。
答え:
当社は顧客の販売会社のECサイトについて、UGCの収集と人工知能(AI)による分析を通じて、オンライン上の顧客体験全般にわたって複数の機能をプラットフォームとして提供できる。一番の特徴は、単品のサービスではないことにある。例えば、レーティング(商品やサービスの評価)や口コミ、顧客同士が商品やサービスの内容について質問し合える機能などが、パッケージとして利用できる。
自社でECサイト上の機能を独自に構築しようとすると、あの機能はこの会社、この機能はあの会社と別々に調達する必要がある。しかし当社のサービスを活用すれば、あらゆることを一括で簡便なソフトウエアとして利用できる。そのため、ITの知識を持った社内担当者がいなくても気軽に使うことができる。
2020年1月にはSMSマーケティングの企業を買収し、新たな機能として追加した。さらに当社は、相互に役員を派遣するなど、グーグルと提携している。他社では行うことのできないグーグル広告との連動や検索エンジン最適化(SEO)機能を活用することができる。
日本市場では、例えば、アウトドアブランドのスノーピークや、大手旅行代理店のHIS、カバンメーカーのACEなどが当社のサービスを利用している。
質問:
貴社のサービスを使うことで、企業は顧客に対してどのような違いが出せるのか。
答え:
当社のサービスを導入する企業が目指すのは、顧客体験をより豊かにすることで、自社商品やサービス、ブランドに対するロイヤリティを上げてもらうこと。ECサイトで単純に商品を売り買いすることは、いまやどこの会社でもやっている。また単体での商品の評価や口コミサイトも充実してきている。
そこでさらに自社サイトでのブランドの強化、顧客のロイヤリティ向上を目指すための手法の1つとして、コミュニティ形成がある。コミュニティというのは、顧客体験共有の仕組みのことだ。例えば、購入した顧客の声が他の顧客にも広く公開され、お互いに質問したり自身の体験を共有し合う中で、ブランドの価値を共感することができるようになる。そこから次の購買につながるわけだ。顧客が自身のSNSなどで公開した体験が自社サイト上にギャラリーとして反映され、それを別の顧客が見て反応するといったことが実現できる。
質問:
世界のEコマース市場に参入する企業へのメッセージは。
答え:
多くの企業にとって変化が求められるのは、Eコマースに向けた考え方だ。個別の課題に対するソリューションから、より包括的で革新的なソリューションへの意識変革が必要だろう。そのためには、自社ですべてを完結しようとする自前主義から、使える機能はプラットフォームの恩恵を受けて、効率的かつ効果的に運用していくという姿勢を持つことが重要と考えている。
当社のプラットフォームは、他の多くの企業が経験したデータと複数のサービスプロバイダーがもたらすノウハウ、そしてそれらを自動的に解析するAIを搭載する。革新的なソリューションを求める企業にとっての最適解と考えている。
今後、日本市場においても、パートナーとの提携を通じてサービス拡大を図り、多くの企業に当社のソリューションを体験してもらいたい。

ヨットポのソリューションイメージ(ヨットポ提供)

ヨットポ アジア太平洋地域販売責任者 ヤニフ・アミン氏(本人提供)

不正を防止しながら売り手の利益を最大化―リスキファイド

リスキファイドも、やはりグロースステージにある。2012年11月に設立され、2019年11月にEラウンドの資金調達を完了した。2016年の調達では、NTTドコモ・ベンチャーズも出資に加わった。

同社は、ECサイト上において顧客のアカウントを解析し、不正な利用を行うアカウントかどうかを瞬時にかつ正確に判断できる独自のAIプラットフォームを開発・提供している。ジェトロは2020年11月3日、同社の日本地域営業責任者のベン・カドリー氏に話を聞いた。

質問:
サービスの特徴は。
答え:
リスキファイドが開発したAIプラットフォームでは、非常に簡便かつ正確に、特定のアカウントの過去の取引履歴を解析できる。その結果、その取引を実行してもよいか、それとも拒否するかを判断できる機能を有している。具体的には、売り手側のサイトに登録された買い手側の氏名や発送先の住所、クレジットカード番号の一部などの情報と、当社が社内リソースで収集したデータ(行動分析やデバイスの利用履歴など)や、社外リソースから収集したデータ(SNSアカウントや地理データなど)を掛け合わせた上で、何十億という過去の取引データから導き出される数百の指標に基づいた解析をAIが瞬時に実行。その上で、当該アカウントが正当かどうかを判断する。 すでに、旅行サイト大手のブッキングドットコムやアゴダ、家具通販サイトのウェイフェア、アパレル大手のプラダ、グッチ、ファーフェッチのほか、日本市場ではバンダイ・ナムコホールディングス傘下の企業が当社のサービスを利用している。
質問:
ECサイトを運営する企業にとって、具体的なメリットは。
答え:
まず、不正な取引がないかを人間が直接確認していた過程を、全て自動化できる。すなわち、人的・時間的資源が大きく節約できる。その結果、節約できた経営資源を、企業のさらなる成長に投資することができる。また、当社のサービスでは、リスクが判定されなかった取引で万が一、チャージバックされた場合は、100%補償する仕組みにしている。そのため、チャージバックによるリスクがほとんどなくなる。アカウントの審査から取引の承認までをスピーディーに行うことにより、買い手側にとってもストレスのない顧客体験を得られるメリットがある。 なお、このアカウントチェックの機能は、オンラインだけでなく、オムニチャネル(注3)にも適用可能だ。
質問:
世界のEコマース市場に参入する企業へのメッセージは。
答え:
例えば日本のEコマース市場は、規模としては年間売り上げが8,000億ドル(注4)に迫る世界第4位の市場に成長している。当社としても、大きな成長の見込める市場と理解している。他方で、日本を含めたEコマース市場は、不正対策が必ずしも十分とは言えない。例えば日本市場においては、アカウントの不正利用によって発生したチャージバックを補償する仕組みが存在しない。つまり、高額な保険料を支払ってリスク回避する以外に手段がない。また、アカウントのスコアリング(信用度調査)を行うサービスがあるが、それだけではチャージバックのリスクを回避しきれない。最先端のテクノロジーによるサービスを活用すれば、悪意のあるアカウントの不正利用による被害を最小化しつつ、よりよい顧客体験を提供することができる。 当社は日本市場でも、強力なパートナーシップに基づき、より効率的で付加価値を生み出すサービスを提供している。ぜひ当社のソリューションを体験してみてほしい。

リスキファイド 日本地域営業責任者ベン・カドリー氏(本人提供)

注1:
元データでは「retail ecommerce」となっており、BtoBを含まない「小売Eコマース市場」を指す。ただし文中では、特段記載のない限り「Eコマース市場」と表記した。
注2:
買い手側(クレジットカード保有者)が、不正利用や取引内容に納得がいかないなどの理由により、利用代金の支払いに同意しないために、クレジットカード会社が加盟店(売り手側)に対して、支払いの取り消しまたは返金を要求すること。とくに不正利用の場合は、発送された商品を回収できない上に返金を要求されるため、売り手側としては大きな損失になる。
注3:
実店舗やネットなどの違いを意識させずに、顧客とあらゆる接点を作る販売システム。
注4:
同社による推定規模。なお、日本国内のEコマース市場規模は19兆3,609億円(BtoC、うち物販系は10兆515億円)とする経済産業省の報告PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.4MB) がある。

企業プロフィール:ヨットポ

(1) 設立年:
2011年
(2) 主要商品:
Eコマース向けUGC活用型ソリューションプラットフォーム
(3) 売上高:
非公開
(4) 展開国:
アメリカ、欧州各国、イスラエル、日本、オーストラリア、インド、北欧各国など
(5) 企業リンク:
https://www.yotpo.com/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

企業プロフィール:リスキファイド

(1) 設立年:
2012年
(2) 主要商品:
Eコマース向け不正防止AIプラットフォーム
(3) 売上高:
非公開
(4) 展開国:
世界187カ国の小売業者が同社のサービスを利用
(5) 企業リンク:
https://www.riskified.com/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ・テルアビブ事務所
吉田 暢(よしだ のぶる)
2004年、ジェトロ入構。アジア経済研究所、ERIA支援室、英サセックス大学開発研究所客員研究員、デジタル貿易・新産業部を経て、2020年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・テルアビブ事務所
アリサ・ノスキン
2019年からテルアビブ事務所に勤務。テルアビブ大学リサーチアシスタント(2017年~2020年)、テルアビブ大学修士(日本学)。
執筆者紹介
ジェトロ・テルアビブ事務所
マヤ・コーエン
2018年からテルアビブ事務所に勤務。テルアビブ大学リサーチアシスタント(2015年~2018年)、テルアビブ大学修士(日本学)。

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