特集:中東Eコマースのポテンシャルオンライン不動産プラットフォームの利用者増加(エジプト)

2020年12月16日

ジェトロは11月1日、エジプトで不動産売買プラットフォームを運営するAqarmap外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます の最高経営責任者(CEO)兼創設者のアーマッド・アルムサオディ(Amad Almsaodi)氏に、同社のECビジネスの概要、新型コロナウイルスのビジネスへの影響、エジプトのEコマース事情などについて話を聞いた。「Aqar」は、アラビア語で「不動産」を意味する。

同氏は、「新型コロナの発生後、エジプトの不動産業界では売買の動きが急激に落ち込んだ。一方で、コロナ対策による外出制限などを受けて、オンラインでの不動産検索数や予約数は増加した」と指摘。「現在のコロナ禍を乗り越えれば、自分の住居を持ちたい若年層の物件購入も増えるだろう。今後は、不動産市場の広がりが期待できる」と説く。


最高経営責任者兼創設者アーマッド・アルムサオディ氏(本人提供)

オンラインで不動産の売買をつなぐプラットフォーム運営

質問:
ビジネスの概要は。
答え:
不動産の売買をオンラインで仲介するプラットフォームを運営している。
これまではエジプトでの不動産の買い手は小規模な仲介会社やオーナーを個別に回る必要があった。そこでわれわれは、ウェブサイトやアプリ上で多くの物件の中から簡単に興味のある不動産を見つけ、売り手に直接連絡できる仕組みを作った。
運営収入は、いわゆる「広告収入モデル」を用いた。すなわち、仲介手数料は取らない。そのため、物件をより安く手に入れたい買い手が使う傾向がある。他方で、多くの不動産を検索できることから、質の高い物件を探したい富裕層にも有用なものとなっている。
また、オフラインの不動産仲介業者の物件も掲載される。そのため、既存の業者とも共存できるモデルだ。一般的にEコマースは、既存業界とで反発しあう状況に陥ることがある(オンラインショッピングに反対する小売業界、ライドシェアとタクシー業界、フィンテックと金融業界、など)。しかし、当社については、起こりにくいと考えている。
前述の「広告収入モデル」から始め、徐々に独自のサービスを追加してきてきた。現在得意としているのは、オンラインの「不動産予約システム」だ。このシステムでは、前金などを支払うことで開発中の不動産案件を予約することができる。その際の手数料が広告収入に代わる収益源として急速に成長している。

Aqarmapチーム(同社提供)
質問:
ビジネスの規模は。
答え:
不動産を探す買い手によるウェブ閲覧が月平均で200万件ほどある。また、5,000以上の不動産会社と提携している。
エジプト国内のオンライン不動産サービスの成長性は大きいと考えている。一方で、国外でもサウジアラビアなどのアラブ諸国でビジネスを展開する。2017年に湾岸諸国の複数の投資家から出資を受け、フォーブスが選ぶ「アラブ・スタートアップ100」にも選出された。
質問:
アルムサオディ氏のプロフィールは。
答え:
私は、イエメン系米国人だ。テクノロジー&イノベーションマネジメントのMBAを取得し、米国のナイキやボーイングで働いた。その後、エジプトに移住してきた。Eコマースやオンライン広告などの業界で経験を積み、2011年の「アラブの春」から数カ月後にAqarmapを設立した。

新型コロナの影響でオンラインの不動産探し活発化

質問:
新型コロナ前のビジネスの状況は。
答え:
ビジネスを開始したのは、2011年だ。2013年の政治的混乱時(注1)と2016年の変動為替制移行に伴う通貨下落時(注2)には、大きく売り上げが落ちた。しかし、それ以外の時期は安定的な成長を続けてきた。
質問:
新型コロナによるビジネスの影響は。
答え:
2020年4~6月の3カ月間は被害が大きかった。プラットフォーム内での取引数は25%~50%程度減少していた。
ウェブ閲覧数は4月に、1週間程度急激に落ちた。しかし、すぐに回復して新型コロナ前とほぼ同水準に戻った。そのため、広告収入への影響はあまり大きくはなかった。最近では、新型コロナ前を上回る閲覧数を記録することもある。外出制限を受けてオンラインでの不動産探しが活発になったと推測される。一方で、新型コロナの影響から、全般的に不動産価格が下がる傾向がある。
新型コロナ拡大以降は、前述の「不動産予約システム」が大きく伸びた。クレジットカードを利用して、返金可能な100ドルのデポジットで開発中の不動産案件が予約できるなど、各種の仕組みがある。この予約システムの利用手数料や予約案件の契約成立の報酬などが伸び、新型コロナ以降の利益の50%を占めるまでになった。オフラインの不動産仲介会社は外出制限の影響を受け、顧客からも心理的に避けられる傾向があった。そのため、われわれのモデルが利用者にとって簡便で、人気になったと考えている。
そのほかにも、2018年から、オンラインイベントなどを主催してきた。新型コロナ発生以降も複数回実施している。当イベントは、不動産仲介会社やディベロッパー(不動産開発会社)が買い手に不動産を紹介するというもので、1回に5万人程度が参加するほどの活況だ。
質問:
今後の成長見込みや事業拡大の計画は。
答え:
われわれのビジネスは安定的に成長している。新型コロナをうまく乗り越えれば、5年後には現状の取引数の10倍、20倍の成長が予測できると見込んでいる。
エジプトの人口は1億人を超えたが、特に若年層が厚い。自分の住居を持つ25~35歳の層がこれから増えるため、市場も広がると予測される。首都近郊の郊外住宅が開発され、新しい物件も増え、不動産掲載件数も伸びるだろう。
また、エジプトでは伝統的に親や親戚の近くに住む文化がある。しかし、最近の若者は、自分の住みたい場所に住む。オンラインで不動産を検索する傾向が見られるのは、そのためだろう。

今後もエジプトで広がる見込みのオンラインサービス

質問:
エジプトのEコマース事情は、他国と比べてどうか。
答え:
エジプトでは、ブラジルやインド、インドネシア、フィリピンなどの新興国と同様に、新型コロナ前までは不動産取引が増えていた。また、インターネットとスマートフォンの普及により、不動産Eコマースも成長した。
新型コロナ発生以降は世界的にオンラインの不動産仲介が増えているという認識だ。われわれ同様のビジネスは、新興国などの国際会議や展示会などでも見かける。先進国では、既に成功したビジネスモデルだ。例えば日本では、LIFULLなどが同様のビジネスを展開していると認識している。今後はエジプトを含む新興国でも、先進国の事例と同様にオンラインでのサービスが拡大するだろう。
エジプトやアラブ諸国でのビジネスを検討する企業と、不動産事業やEコマース事業、広告などで協力できる可能性がある。エジプトでは他国同様に、不動産以外のECサービスも全般として徐々に拡充してきた。

注1:
2013年、当時のモルシ政権に対し軍がクーデターを起こし、政治・経済に混乱が生じた。
注2:
エジプトではそれまで、固定相場制を取っていた。これに伴い、市中の並行レートとの乖離が生じたため、2016年11月に変動相場制に移行した。その結果、エジプト・ポンドが一気に大幅下落した。その安値で、経済が混乱に陥った。

企業プロフィール:Aqarmap

(1) 設立年:
2011年
(2) 主要商品:
不動産仲介サービス
(3) 売上高:
非公開
(4) 展開国:
エジプト、サウジアラビア
(5) 企業リンク:
https://aqarmap.com.eg/en/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課(2010年~2013年)、ジェトロ北海道(2013~2017年)を経て現職。貿易投資促進事業、調査・情報提供を担当。