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特集:アジア大洋州における米中貿易摩擦の影響プラスの影響と回答した割合は域内最多に(ベトナム)
米中貿易摩擦による進出日系企業への影響

2019年2月22日

米国のトランプ政権が1974年通商法301条に基づく対中関税賦課を開始して約半年が経過し、ベトナム国内でも米中関係の動向は注視されている。ベトナムにとって、米国は最大の輸出相手国であり、中国は最大の輸入相手国であるため、グエン・スアン・フック首相が「米中貿易摩擦は確実にベトナムに影響を与えるだろう」と述べている。こうした状況の中、当地の日系企業が米中貿易摩擦をどのように捉えているのか、ジェトロが実施した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(以下、日系企業調査)の結果や回答企業のヒアリングを踏まえて、読み解いていきたい。

米中貿易摩擦の影響は限定的、マイナスとプラスの両面も

日系企業調査によると、保護主義的な動きによる影響について、回答のあった在ベトナム日系企業695社のうち、「分からない」43.9%(305社)、「影響はない」28.4%(197社)と回答した企業が合わせて約7割を占めた(図1参照)。

図1:保護主義的な動きによる事業への影響の有無(ベトナム全体)
(n=695/複数回答)
「分からない」が43.9%で最多。次いで「影響がない」が28.4%、「マイナスの影響がある」が17.8%、「プラスの影響がある」が12.2%の順。

注1:母数は、有効回答数。
注2:企業によって、サプライチェーン上、「プラス」「マイナス」の両方の影響が考えられるために、「複数回答」としている。
出所:「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

現状は米中貿易摩擦による直接的な影響を受けていない企業が多いことが分かる。日系企業調査によれば、当地進出日系企業の輸出先は6割が日本向けで、中国と米国向けの輸出割合が必ずしも多くないことが一因として挙げられる。

一方、「マイナスの影響がある」と回答したのが17.8%(124社)、「プラスの影響がある」と回答したのが12.2%(85社)と、マイナス影響がプラス影響を上回った。ただ、他の国・地域での調査結果と比較すると、ベトナムは「プラスの影響がある」と回答した企業の割合がASEAN諸国の中で最も高いことがわかった。

マイナスの影響が及ぶ対象としては、海外売り上げを懸念する企業が多い(図2参照)。設備機械の販売を手掛けるA社は、米中貿易摩擦が世界経済の停滞を招き、設備機械の販売やメンテナンスの需要が落ち込むことを危惧する。鉄鋼商社のB社は、中国から米国向けの鋼材輸出が減ることで、行き場を失った鋼材が安値でアジアに輸出され、鋼材市況に悪影響を与えかねないか懸念する。また、中国にグループ会社や取引先を持つ企業からは、米国の対中関税賦課の影響で中国側の利益が落ち込み、ベトナムから中国向けの取引量や価格に影響が出ているとの声があった。

図2:マイナス影響の及ぶ主な対象(ベトナム全体)
(n=122/複数回答)
「海外売上(輸出での売上)」が41.0%で最多。次いで「調達・輸入コスト」が34.4%と続く。

注1:海外売り上げは、輸出での売り上げ。
注2:国内売り上げは、現地市場での売り上げ。
注3:母数は、有効回答数。
出所:「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

プラスの影響が及ぶ対象としては、マイナスの影響が及ぶ対象と同様、海外売り上げを挙げた企業が多かった(図3参照)。輸送用機器部品メーカーのC社は、米国の対中関税賦課を避けるため、グループ内の中国工場からC社(ベトナム工場)へ生産移管することで、輸出の増加につながることを期待している。また、電子部品の受託生産を行うD社によると、米国の対中関税賦課を避けるため、ベトナムへの発注を増やしている在中国企業も多いようだ。

図3:プラス影響の及ぶ主な対象(ベトナム全体)
(n=82/複数回答)
「海外売上(輸出での売上)」が46.3%で最多、次いで「国内売上(現地市場での売上)」が43.9%と続く。

注1:海外売り上げは、輸出での売り上げ。
注2:国内売り上げは、現地市場での売り上げ。
注3:母数は、有効回答数。
出所:「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

日系企業による中国からの生産移管は中長期的視点から

当地の報道によると、韓国系、台湾系企業などでは、米中貿易摩擦の影響を受けて中国からベトナムに生産移管する動きが見られる。一方、日系企業では、生産拠点の変更を実際に検討している企業は「プラスの影響がある」と回答した企業の11.7%(9社)、「マイナスの影響がある」と回答した企業の1.8%(2社)にとどまった(図4参照)。

図4:具体的にどのような対応策を講じるのか(ベトナム全体)
図1で「マイナスの影響がある」、「プラスの影響がある」と回答した企業のうちそれぞれ最も高い割合を占めたのが、「何も変更しない」であった。

注1:生産拠点の変更には一部変更を含む。
注2:母数は、有効回答数。
出所:「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

中国からベトナムへの生産移管は、中国の人件費高騰や各種規制強化などを受けて、以前から始まっており、直近の米中貿易摩擦が直接的な要因となって生産移管が進むと捉えている企業は少ないようだ。また、迅速に生産移管を実施できない要因もある。製造業では取引先から使用部材を指定されていたり、部材変更に伴う監査で時間とコストを要したりと、調達先を容易に変更できないケースが多い。また、当地の日系繊維企業のE社によると、たとえ生産移管しても、そもそもベトナムで仕入れ可能な材料が限られるため、中国と比べて部材の現地調達が難しく、輸入に依存せざるを得ないという。

今後、米中貿易摩擦の長期化に伴い、中国製品への継続的な高関税賦課による収益悪化や新たな貿易リスクが顕在化すると、日系企業でも、中国からベトナムへの生産移管などの具体的対応がより一層求められることが考えられる。一方、中国製部材を用いたベトナム製品が米国の制裁対象となる可能性も否定できないことから、米中貿易摩擦の動向を注視する必要がある。

執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所
柴田 知賢(しばた ともたか)
2011年、蒲郡信用金庫入庫。2017年、ジェトロ名古屋(出向)、2018年よりジェトロ・ハノイ事務所勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所
山下 大輔(やました だいすけ)
2001年、株式会社きらぼし銀行入行。2017年、ジェトロ・ものづくり産業部ものづくり産業課(出向)、2018年よりジェトロ・ホーチミン事務所勤務。

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