特集:アジア大洋州における米中貿易摩擦の影響現時点で影響は限定的、軽微と判断(ラオス)

2019年2月22日

「タイプラスワン」や「チャイナプラスワン」など、タイや中国といった近隣諸国から、低廉な賃金を求めて一部または全部の生産移管が進むラオスだが、米中貿易摩擦の影響は、現時点では限定的のようだ。ジェトロが実施した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」では、ラオスで何らかの形で米中貿易摩擦のマイナスの影響を受けていると回答した企業は4社で、いずれも製造業だった。プラスの影響があると回答した企業は非製造業の1社だけだ。総回答数は製造業15社、非製造業12社で、ほとんどの企業が影響を受けていないと回答しており、ラオスで操業している日系企業の多くが影響は軽微と判断している。

移管コスト、セーフガードでマイナスの影響

マイナスの影響を受けたと回答した4社のうち、実際に影響が顕在化しているのは、ともに電気・電子のA社とB社の2社で、残りの2社はマイナスの影響を懸念している段階だった。

A社は、中国で系列企業が製造していた部品の米国向けの関税上昇を受け、顧客側の要望に合わせて、既にラオスに生産拠点を移管したという。それに伴う設備の追加、移動、教育訓練などのコストを全て顧客側に負担してもらうのは難しく、全体としてコストが上昇したという。中国から他国への生産拠点のシフトが企業にとって必ずしもプラスにならないとする見方もある。

B社は、米国が中国企業による迂回(うかい)行為への対抗措置として課したセーフガード措置の影響を受けているという。B社はラオスで生産した部品を中国以外に納品しているものの、輸出先の完成品がセーフガード対象となっており、間接的に影響を受けている。

電気・電子C社は、マイナスの影響を懸念している。同社は、ラオスで部品を製造し中国へ輸出、中国国内で完成品にして米国に輸出していることから、今後関税引き上げにより米国向けの完成品輸出が鈍化し、部品の生産が減少する可能性を警戒している。これらは今後の米中の関税協議の行方にも左右されるであろう。

ラオス国内で完成品を製造し、主に日本に輸出しているアパレル製造D社では、原材料を中国に多く依存しており、今後原材料調達が不安定化する可能性を心配した。また、インドから輸入している原料についても、米中貿易摩擦の影響で他企業が一斉にインドへ調達先を変更することで価格が上昇するリスクも警戒しているという。

中国からの生産拠点シフトは「様子見」

米中貿易摩擦を受けて中国の生産拠点をラオスへ新たにシフトする動きについて、2018年12月現在、ラオスの日系企業に積極的な動きはほとんどない。一部の製造業者がラオス視察を実施しているが、それでも「様子見」段階にあると言えるだろう。

ラオスとしては、中国からの生産拠点のシフトを期待する声もある。中国国務院は2018年7月1日から、インド、ラオス、韓国、バングラデシュ、スリランカから輸入する製品に対して、「アジア太平洋貿易協定(APTA)・第2修正案」協定税率を付与すると発表した。これにより、農産物、化学製品、医療用品、服装、鋼鉄とアルミニウムの製品など2,323種目の関税が削減され、農産物では大豆は3%から0%へ、バナナは10%から6.9%へ、茶は15%から7.5%へ引き下げられるなどした。新制度によって、中国が米国から輸入している一部品目がラオス産農産物に代替されるという期待である。しかし現状は、中国企業を含め直接的な動きはまだ見られず、総じて「様子見」と言えるであろう。

農産物を取り扱う首都ビエンチャンのクアディン市場(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員