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特集:アジア大洋州における米中貿易摩擦の影響在オセアニア日系企業の1割強がマイナス影響と回答

2019年2月22日

ジェトロが2018年10~11月にかけて実施した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によれば、米中貿易摩擦など保護主義的な動きにより、オーストラリア進出日系企業の17%が事業にマイナスの影響を受けるという結果となった。日系企業は、オーストラリア産の原料・資源への国際需要の縮小、価格低下を懸念し、輸出への影響を案じている。オーストラリアは、政府、財界とも保護主義には反対の立場をとっている。一方、ニュージーランド進出日系企業については、影響が限定的であることが分かった。本稿では、保護主義的な動きがオセアニア進出日系企業の事業に与える影響について、回答結果の概要などに基づいて報告する。

17%の在豪企業にマイナス影響

保護主義的な動きによる事業への影響の有無について、回答があった企業(154社)のうち、「影響はない」とした企業が47.4%と半数を占めた。続いて、「分からない」という企業は33.1%、「マイナスの影響がある」と回答した企業は16.9%、「プラスの影響がある」とした企業は3.9%という結果となった(図1参照)。

「マイナスの影響がある」という回答した企業の内訳をみると、販売会社(27%)が最も多く、商社(15%)、鉱業(15%)などが続いた。

図1:保護主義的な動きによる事業への影響の有無
(複数回答、オーストラリア)
分からないが49.6%、影響はないが25.0%、マイナスの影響があるが19.5%、プラスの影響があるが9.8%。母数は有効回答数で154社。企業によって、サプライチェーン上、「プラス」「マイナス」の影響が考えられるために、「複数回答」としている。出所はジェトロの2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査。

注:母数は有効回答数。企業によって、サプライチェーン上、「プラス」「マイナス」の影響が考えられるために、「複数回答」としている。
出所:2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査

「マイナスの影響の及ぶ主な対象」については、回答企業24社のうち、「海外売り上げ(輸出での売り上げ)」を挙げた企業が45.8%、「調達・輸入コスト」が37.5%、「国内売り上げ(現地市場での売り上げ)」が20.8%だった(図2参照)。「プラスの影響の及ぶ主な対象」では、回答企業が6社と少なかったが、「海外売り上げ(輸出での売り上げ)」を挙げた企業が5社と、ほとんどであった。

図2:マイナス影響の及ぶ主な対象(複数回答、オーストラリア)
海外売上(輸出での売上)が45.8%、調達・輸入コストが37.5%、国内売上(現地市場での売上)が20.8%、生産コストが8.3%、事務手続きが4.2%。母数は有効回答数で24社。出所は図1に同じ。

注1:海外売り上げは、輸出での売り上げ。
注2:国内売り上げは、現地市場での売り上げ。
注3:母数は有効回答数。
出所:図1に同じ

「具体的にどのような政策に影響を受けるか」の設問では、回答28社のうち64.3%が「米国の対中制裁措置(通商法301条)」だとした。「米国の鉄鋼・アルミニウムを対象とした追加関税賦課(通商拡大法232条)」も35.7%と多かった。

「具体的にどのような対応策を講じるのか」については、「分からない」「何も変更しない」という回答がほとんどだった。保護主義的な動きが自社事業に「マイナスの影響を与える」と回答した企業(24社)では、「分からない」と「何も変更しない」が41.7%で同率だった。販売先や調達先を変更する企業は5%に満たなかった。

図3:具体的にどのような対応策を講じるのか(複数回答、オーストラリア)
マイナスの影響があると回答した企業では、分からないが41.7%、何も変更しないが41.7%、販売先の変更が4.2%、調達先の変更が4.2%、その他が8.3%。プラスの影響があると回答した企業では、分からないが33.3%、何も変更しないが33.3%、販売先の変更が16.7%、その他が16.7%。

注:母数は有効回答数。
出所:図1に同じ

オーストラリア産の原料や資源の需要・価格低下に懸念

オーストラリア進出日系企業にヒアリング調査を実施したところ、直接的に影響を受けている企業は確認できず、間接的な影響があるとする企業が多かった。商社A社は「貿易戦争が世界経済・中国経済に悪影響を及ぼし、中国におけるオーストラリア産原料の需要が減退する可能性がある」という。鉱物資源関係のB社は「鉱物資源の生産者としては、米中貿易戦争によって資源価格が下がった場合、当社の業績が悪化する恐れがある」とした。

機械メーカーのC社は国内売り上げの影響を懸念している。「米中貿易戦争によりオーストラリアの財政状況が悪化する可能性がある。それによって政府補助金が削減されれば、当社製品の政府向け売り上げが減退する懸念がある」という。

豪州政府、業界団体とも保護主義には反対の立場

オーストラリア財界を代表するオーストラリア産業グループ(AIグループ)は、2018年9月の記者発表で、「世界銀行のレポートにあるように、関税の引き上げは世界貿易を9%減少させる可能性がある。これは2008年~2009年に起きた金融危機の状況と似ている。主要国の貿易政策が世界経済に悪影響を及ぼす可能性がある」と警告した。AIグループは「ルールに基づいたグローバル貿易システムの安定性を懸念している」とした上で、世界の繁栄のために予見可能性・安定性・信頼性を備えた近代的国際ルールが必要と指摘した。

オーストラリア貿易投資促進庁(Austrade)のステファニー・フェイ長官も、「世界の2大大国による本格的な貿易戦争による勝者は、世界中で誰もいない」「既存のサプライチェーンや輸出市場を不安定なものにする」「オーストラリアの輸出企業はこの不安定な状況に備えるべきだ」などと、取材に対してコメントしている(2018年11月18日付「オーストラリア・フィナンシャル・レビュー」)。

オーストラリア外務貿易省(DFAT)のフランセス・アダムソン次官は、「トランプ政権下の保護主義的な政策には同意しかねるものの、米国とオーストラリアは引き続き緊密なパートナーである」と前置きした上で、「超大国が貿易障壁を設ける方向に回帰することで、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールのような小規模で自由貿易に開放的な国が失うものは多い」「地域レベル、世界レベルで貿易戦争が勃発すると、貿易障壁の度合いや期間によっては、オーストラリア経済が大幅に悪化する恐れがある」とした。さらに、アダムソン次官は「大国を説得することは容易ではないが、われわれの最前の策は、ルールに基づいた国際的なルールを追求することだ」とした。

ニュージーランド進出日系企業に対する米中貿易摩擦の影響は限定的

ニュージーランドについては、回答のあった当地日系企業82社のうち、「影響はない」45.1%(37社)および「分からない」37.8%(31社)と回答した企業が8割を占めた。一方、マイナスの影響があると答えた企業が13.4%(11社)、プラスの影響があると答えた企業は3.7%(3社)にとどまった。(図4参照)

図4:保護主義的な動きによる事業への影響の有無
(ニュージーランド)
影響はないが45.1%、分からないが37.8%、マイナスの影響があるが13.4%、プラスの影響があるが3.7%。母数は有効回答数で82社。

注:母数は有効回答数。企業によって、サプライチェーン上、「プラス」「マイナス」の影響が考えられるため、「複数回答」としている。
出所:図1に同じ。

マイナスの影響が及ぶ対象としては、「調達・輸入コスト」を挙げた企業の割合が63.6%と最多だった。プラスの影響が及ぶ対象については、回答数が少ないものの、「中国向け輸出で米国産と競合関係にある商材については、米国産に対する高関税が賦課されることで、ニュージーランド産商材の競争力が相対的に高まる」(日系商社)とのコメントがあった。

具体的な対応策については、「分からない」が81.8%、「何も変更しない」が18.2%で、進出日系企業の間では当面状況を静観する姿勢が明らかになった。

ニュージーランドにとっては、中国は輸出入ともに最大の貿易相手国、米国は第3 位の貿易相手国である。また、当地の主要な輸出産品である酪農品、肉、木材、果物などは、海外市場で米国からの輸出品と競合している。このため、今後の米中間の交渉状況によっては、当地の貿易状況をはじめとする経済環境に大きな変化がもたらされる可能性があり、引き続き状況を注視していく必要がある。

執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
小柳 智美(こやなぎ ともみ)
2016年6月、ジェトロ入構。同月よりジェトロ・シドニー事務所所員。
執筆者紹介
ジェトロ・オークランド事務所長
奥 貴史(おく たかし)
1996年、ジェトロ入構。海外はジェトロ・ダルエスサラーム事務所、国内は本部の他、ジェトロ盛岡、ジェトロ青森などを経て、2018年より現職。

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