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特集:どう描く?今後の中南米戦略ベネズエラの経済混乱を受けたALBA主要国の状況(キューバ・ボリビア・エクアドル)

2018年6月22日

2004年に米国主導の米州自由貿易地域(FTAA)に対抗するかたちで、当時のキューバのフィデル・カストロ国家評議会議長と、ベネズエラのウーゴ・チャベス大統領の主導で結成された、米州ボリバル同盟(ALBA)の主要国が岐路に立たされている。かつてラファエル・コレア大統領の下で結束を固めていたエクアドルは、後任のレニン・モレノ新大統領による方針転換で同盟との距離を置きつつあり、地域の右傾化の中で主要国のベネズエラ、キューバ、ボリビアなどの孤立が進んでいるが、その反動で3カ国における結束は固まっている。

ベネズエラ:マドゥーロ再選により国際的な孤立が進む

ALBAを主導してきたベネズエラは、チャベスの後継者であるニコラス・マドゥーロ大統領政権下で、国際的な原油価格の下落を背景とした外貨準備高の減少とハイパーインフレ、米国の経済制裁などの影響により、国内の食料や医薬品の供給が滞っている。危機にひんした国民の一部は、コロンビアなど近隣国への避難を始めている。また、南米の左傾化が進んだ2000年代初頭に加盟した南米南部共同市場(メルコスール)についても、右派政権が台頭したその他のメンバー国から、人権順守のメルコスール規則の導入がされていないことを理由に、加盟国としての資格を停止(2017年8月5日付)されており、さらには2018年4月にペルーで開催された米州機構総会にもマドゥーロ大統領は公式招待を受けられず、ALBA同盟国の一部の国を除いて、中南米域内での孤立が進んでいる。この様な状況下で唯一の頼みの綱が中国とロシアの支援だ。中国からの融資は、2009~2016年に主にエネルギー分野で行われてきた(表1参照)。返済が滞ってきた近年は、ロシアの石油大手ロスチネフなどに対する油田の権益などの長期譲渡で得た資金でしのいでいる状況だ。

表1:中国の対ベネズエラ融資 (単位:10億ドル)
融資額 融資分野 融資元
2009年 5.5 エネルギー、鉱業 国家開発銀行、中国進出口銀行
2010年 21.4 エネルギー、その他 国家開発銀行、ポルトガルBES
2011年 5.5 エネルギー 国家開発銀行
2012年 4.5 エネルギー 国家開発銀行
2013年 10.1 エネルギー、インフラ 国家開発銀行、中国進出口銀行
2014年 4.0 インフラ 中国進出口銀行
2015年 5.0 エネルギー 国家開発銀行
2016年 2.2 エネルギー 国家開発銀行
出所:
The Inter-American Dialogue

混迷するベネズエラ経済について、IMFは同国の2018年のGDP成長率予想を2017年末予想(マイナス6.0%)から大幅に修正してマイナス15.0%と予測している。さらには、2018年の年間インフレ率についても同様に前年末の2,530%から1万3,860%に悪化すると予測している。

政治面では、2015年末の国会選挙で野党連合(MUD)が勝利したにもかかわらず、与党の操作によって、大統領罷免運動なども阻まれてきた。さらに、マドゥーロ大統領は、2017年7月に野党連合が反対する中、制憲議会選挙を強行し、全員与党の制憲議会を発足させた(2019年8月まで継続の予定)。制憲議会の発足によりベネズエラは、国際的な非難を浴びることになり、米国は2017年8月に自国国民や組織の国内外におけるベネズエラ政府への融資禁止や国債、PDVSA(国営石油会社)債の取引禁止などの金融制裁を発動した。これに対してベネズエラ政府は、12月に仮想通貨PETRO(ペトロ)の導入や、2018年3月には通貨単位の1,000分の1切り下げを発表(当初6月に切り替えの予定が8月に延期)することで事態打開を図ってきた。

そのような中、2018年5月に、制憲議会主導の大統領選挙が開催され、MUDは同選挙への抗議を表すために、代表候補を出さず、事実上のボイコットを行った。マドゥーロ大統領の有力対抗馬には、MUDを離脱して革新発展党(AP)から立候補したヘンリ・ファルコン党首が有力視されていたが、結果的には400万票以上の大差をつけられて敗退し、マドゥーロ大統領は、自身の2期目の就任を宣言した(表2参照)。ファルコン氏の掲げる主な公約は、経済のドル化政策と、産業の多角化、地方分権や就労支援などだったが、選挙をボイコットしたMUDを離脱したことで、MUDのタカ派からは同氏に投票をしないように呼び掛ける妨害発言も出ており、これが影響した可能性も否定できない。さらには、MUDが選挙の正当性を否定したことから、投票率も46.01%と半分に満たなかった。

マドゥーロ氏の政権継続により、ベネズエラの孤立が今後さらに進むことが懸念される。

キューバ:カストロ引退後も社会主義の基軸は堅持

ベネズエラと並んでもう1つのALBA同盟の主導国がキューバだ。オバマ前米大統領の訪問で同国との関係改善が期待されたキューバだが、トランプ政権の台頭により、その関係は悪化している。2017年2月には在ハバナ米国大使館における外交官とその家族への音波攻撃による健康被害疑惑(注1)が発生し、9月には同館の6割の職員とその家族が本国の命令により帰国した。2018年3月時点で、米国は大使館の体制については現状維持を正式表明した。ただし、館員の家族帯同を認めず、またその業務内容については、米国国民を対象とした緊急時サービスのみとしたポストとして継続することになった。また、トランプ大統領は2017年6月、対キューバ経済制裁の強化を発表し、大統領覚書に署名(2017年6月28日付ビジネス短信参照)。同年11月には新規則が発表され、キューバへの渡航制限の強化に加えて、内務省のほか、革命軍事省とその傘下にある企業経営上級組織のGAESAとその傘下にある観光産業企業GAVIOTAや総合商社CIMEXなど179のホールディング会社、ホテル、団体などを「キューバ軍や諜報(ちょうほう)機関の傘下にあり、取引を行えばこれらの機関に偏った利益をもたらす組織」に指定し、米国法の管轄権に服する企業や個人との取引を禁止した(2017年11月10日付ビジネス短信参照)。この措置は、キューバ政府の外貨収入を阻止する狙いがある。2017年のキューバは、経済制裁に加えてハリケーン災害にも見舞われており、近年の大きな外貨収入源でもある観光産業への影響が懸念されたが、マヌエル・マレーロ観光相は、2017年中に来訪した観光客数は前年を大きく上回る468万9,894人であると発表している(表3参照)。皮肉にも増加した国の中には米国も含まれており、2017年のキューバへの渡航者は、61万9,777人と過去最多に上っている。加えて、近年キューバ進出が目立つ中国やロシアについても、増加傾向にある。

表3:キューバの来訪観光客数 (単位:人)
来訪元 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年*
合計 2,847,255 2,862,273 3,013,584 3,540,175 4,009,169 4,689,894
在外キューバ人 384,181 373,371 361,210 390,111 427,747 453,905
米国 99,052 93,420 92,325 162,972 284,552 619,777
ロシア 87,518 71,200 70,310 44,208 65,386 105,946
中国 19,495 22,713 28,997 33,875 40,572 45,846
出所:
国家統計庁(ONE)、*観光省プレス発表
表4:キューバの観光産業収入 (単位:100万キューバ・ペソ(CUC))
項目 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年
国際観光 2,613.3 2,325.1 2,367.3 2,600.8 2,907.1
非国営分野 358.3 365.0 378.9 485.2 537.3
注:
CUCはキューバ兌換(だかん)ペソ。
出所:
国家統計庁(ONE)

対外貿易高では、2011年から2016年にかけて36.5%減少しているが、そのうちの78.4%を占めているのが、ベネズエラとの取引だ。特に2015年以降のベネズエラからの輸入額の減少が顕著で、これは同国からの原油の輸入量が国際価格の下落によって生産量が抑えられたためとみられる。キューバのエネルギー市場は、ベネズエラからの原油に頼るところが大きい(注2)上、余剰分は外貨収入の一端を担っていたため、輸入の減少とともに国家財政統計上の外貨準備高は一切公表されることがなくなると同時に、対外取引における代金回収期間も、1~2年が通常条件となっており、同国の懐事情の厳しさを物語っている。一方で、対外公的債務の支払いは政府の最優先事項となっており、日本を含めた各国への支払いは現状では守られており、対外的な信用の確保に真摯(しんし)に取り組む姿勢も見て取れる。

前述のような状況下で、キューバが近年あらためて歩み寄っているのが、旧盟友ロシアだ。同国は自国の石油大手ロスネフチを通じて、キューバがベネズエラ国営石油会社のPDVSAと合弁で運営していた製油所(元は旧ソ連が製造)への支援や、観光産業支援でアフトワズ製のLADA車の販売、鉄道網の近代化支援でSINARA製機関車の販売などを進めており、今後も両国の緊密化が予想される。

政治面では、2017年末から中央・地方いずれも議会選挙が実施された。これに併せて国家評議会メンバーの互選会も実施されたが、同評議会議長でキューバの最高指導者であるラウル・カストロ国家評議会議長は同評議会から退き、後継には元第一副議長で指導部の中でも比較的若い(57歳)ミゲル・ディアス・カネル議員が満場一致で選出されている。なお、カストロ氏は、2021年まではキューバ共産党中央委員会の第一書記として残るため、ある程度の影響力を引き続き保持するとみられるが、既に同ポストの任期満了とともに引退することと、その後継者をディアス・カネル氏にすることを議会の場で宣言している。行政の上位組織である閣僚評議会については、議長ディアス・カネル氏と第一副議長のサルバドル・バルデス・メサ氏のみが選出され、その他閣僚については7月に組閣人事を行うことが宣言されている。

政策面では、既に2017年6月の人民権力全国議会の場において発表されている「経済・社会開発における国家計画基盤2030:国家ビジョン、戦略軸と分野」と、「2016-2021期・共産党と革命の経済社会政策のガイドライン」の中で、前者は生産力向上への転換と国際社会への参加をうたいつつ、憲法の順守も記しており、生産力向上対象分野として、建設、電力、情報通信技術、輸送ロジスティックス、水と浄水施設の統合ロジスティックス、観光、多種技術サービス、食品産業、製薬・バイオテクノロジー、製糖産業と同加工品、軽工業の11分野が挙げられている。また、後者においては、金融政策の中で二重通貨の是正、過剰な無料サービスと補助金の段階的な削減を明記。地域経済統合においては、引き続きALBAへの参加を最優先事項とした上で、その他のラテンアメリカ統合連合(ALADI)やカリブ共同体(CARICOM)、カリブ諸国連合(AEC)におけるさらなる関係強化をうたっている。今後、新指導部の下で、どこまで政策の緩和とそれを裏付ける憲法改正が進むかが注目される。


チェ・ゲバラが掲げられたキューバ内務省(ジェトロ撮影)

ボリビア:不出馬宣言を撤回し三期連続を目指すモラレス大統領

ALBAの中で、ベネズエラと同じく、ボリビアでも長年にわたり左派政権が権力を維持している。エボ・モラレス大統領は政権第1期(2006~2010年)、第2期(2010~2015年)と任期を務めた。同国憲法下では大統領の連続再選を2回までとしているため、本来の任期は2015年までであったが、2009年1月に国民への補助金拡大や先住民への権利拡大などを盛り込んだ新憲法を制定していたことによって、新憲法下としては当初の第2期が事実上の第1期とみなされ、2015年の大統領選挙に立候補して、3期連続当選を果たした。

2016年2月、モラレス大統領のさらなる長期政権確立に反対する国民投票が実施され、現憲法下での3期連続を認めない投票結果が出て、モラレス大統領もその結果を容認する発言をしていた。しかし、2017年11月に同国の憲法裁判所が再選上限規定を無効と判断したことにより、2016年の発言を撤回し、2019年に実施予定の大統領選へ立候補する意向を発表した。その立候補宣言には否認票を投じた国民や野党勢力から非難が続出している。

エクアドル:前政権政策から大きく方針転換を図るモレノ政権

エクアドルでは2007年から2017年まで左派のラファエル・コレア前大統領が政権を握っていたが、2017年5月に就任したレニン・モレノ現大統領は、経済・外交政策では穏健な方向に転換し、財政再建を進めている。2014年以降の原油価格の下落は同国にとって二重の足かせとなった。同国はドルを法定通貨としているため、周辺新興国の通貨が対ドルで下落した際、相対的に自国輸出産品の価格競争力が低下してしまう。また輸出額の約7割を石油製品が占める構造のため、原油価格下落は追い打ちをかけ、2015年の原油輸出額は前年比50%と激減した(図1参照)。実質GDP成長率も2013年の5.2%をピークに、2015年にはマイナス0.9%まで下落した。2016年からはプラス成長に戻ったが、1%台で推移している。

貿易面では、2016年後半からの原油価格の緩やかな価格上昇と輸入額の減少によって2016~2017年は若干の貿易黒字となった(図2参照)。エクアドルは2015年3月~2017年6月まで国際収支防衛を目的として品目に応じて5~45%の追加関税措置を発動していた。しかし、こうしたコモディティ(市況商品)輸出に依存した体質では長期的な国際収支の安定を図ることは難しいため、非石油分野の輸出拡大と外国投資誘致の強化を目指している。その一環として、2018年3月、モレノ大統領はメキシコ、コロンビア、ペルー、チリが正式加盟国となっている自由貿易圏の太平洋同盟への参加意思を表明した。

図1:エクアドルの実質GDP成長率、原油輸出額、輸出平均価格
実質GDP成長率は、2012年は4.3%、2013年は5.2%、2014年は0.2%、2015年はマイナス0.9%、2016年は1.5%、2017年は1.2%。原油輸出額は、2012年は13.8億ドル、2013年は14.1億ドル、2014年は13.3億ドル、2015年は6.7億ドル、2016年は5.5億ドル、2017年は6.9億ドル。輸出平均価格は、2012年は1バレル98.50ドル、2013年は1バレル95.87ドル、2014年は1バレル84.32ドル、2015年は1バレル42.17ドル、2016年は1バレル35.25ドル、2017年は1バレル45.70ドル。
注:
輸出平均価格は国営企業ペトロエクアドールによるもの。
出所:
エクアドル中央銀行
図2:エクアドルの貿易収支と原油価格
2012年の輸出額は237億6,500万ドル、輸入額は242億500万ドル、貿易収支は4億4,100万ドルの赤字、2013年の輸出額は247億5,100万ドル、輸入額は258億2,600万ドル、貿易収支は10億7,500万ドルの赤字、2014年の輸出額は257億2,400万ドル、輸入額は264億4,800万ドル、貿易収支は7億2,300万ドルの赤字、2015年の輸出額は183億3,100万ドル、輸入額は204億6,000万ドル、貿易収支は21億3,000万ドルの赤字、2016年の輸出額は167億9,800万ドル、輸入額は155億5,100万ドル、貿易収支は12億4,700万ドルの黒字、2017年の輸出額は191億2,300万ドル、輸入額は190億3,300万ドル、貿易収支は9,000万ドルの黒字。
出所:
エクアドル中央銀行

内政においては、モレノ大統領は国家の透明性を国内外に示す方針を取り、汚職疑惑のある公職者や前政権の一部の閣僚への捜査を強化した。与党内の対立は深刻化したものの、国民からの支持は大きい。2018年2月には国民投票というかたちで現政権の政策の正当性を問うた。その結果、大統領の長期政権を防ぐことができるよう、直接選挙により選出された公職者の再選を1度限りとするなど、7項目全てで賛成多数となった(表5参照)。透明でクリーンな政治運営を望む国民の意思が反映されたものとして、モレノ政権の大きな後ろ盾となるとともに、コレア前大統領の再立候補が事実上困難なものとなったことも意味している。

表5:国民投票開票結果 (単位:%)
項目 問いの内容 賛成 反対
1 汚職で有罪となった者の政治参加の永久禁止と財産没収 73.71 26.29
2 直接選挙により選ばれた公職の再選を1回に制限 64.19 35.81
3 市民参加・社会的管理評議会の再編 63.07 36.93
4 青少年や幼児への性的犯罪者に対する恩赦の禁止 73.53 26.47
5 自然保護地域や都市部における金属資源鉱山開発の禁止 68.61 31.39
6 土地投機防止法の廃止 63.09 36.91
7 ヤスニ国立公園における立ち入り禁止地域の設定と石油開発承認区域の削減 67.31 32.69
出所:
選挙管理委員会

注1:
米国政府の主張であり、キューバ政府はいかなる攻撃も否定。双方ともに調査を行っているが、いまだに攻撃を裏付ける証拠は出ていない。
注2:
2000年10月に当時のチャベス大統領とフィデル・カストロ国家評議会議長との間で、「包括的協力合意書」が締結され、ベネズエラはキューバへの石油輸出の対価としてキューバから医師団の派遣を受けることになっている。

ベネズエラ、キューバ

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 主査(中南米)
設楽 隆裕(しだら たかひろ)
1992年、ジェトロ入構。1997年~2001年スペイン駐在。2006年~2010年アルゼンチン駐在。

ボリビア、エクアドル

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
志賀 大祐(しが だいすけ)
2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課(2011~2014年)、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習(2014~2015年)、お客様サポート部貿易投資相談課(2015~2017年)などを経て現職。

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