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トランプ大統領、キューバに対する経済制裁を強化-個人渡航の制限や軍関連企業との新規取引禁止-

(米国、キューバ)

ニューヨーク発

2017年06月28日

トランプ大統領は6月16日、キューバに対する経済制裁の強化を発表した。オバマ前政権が大統領権限で進めてきた制裁緩和措置の一部を撤廃または制限する内容になっている。具体的には、キューバへの個人渡航の規制を再度強化するほか、軍関連の企業との新規取引を原則として禁止する。米国産業界からは、キューバ事業への影響を懸念する声が高まっている。

大統領権限に基づく前政権の制裁緩和を一部撤廃

トランプ大統領は6月16日、亡命キューバ人が多く住むフロリダ州マイアミで演説し、キューバへの制裁強化を指示する大統領覚書に署名した。

オバマ前大統領は2014年12月、経済制裁を軸としてきたキューバ政策を、積極的な関与で民主化を図る方向へと転換すると宣言し、大統領権限の範囲内(注1)で同国に対する経済制裁を段階的に緩和してきた(大統領就任直後の2009年にもキューバ系米国人による親族訪問や、親族送金の制限撤廃など一部の制裁緩和を実施)。今回、トランプ大統領が発表したキューバ政策は、これら大統領権限に基づく制裁緩和措置の一部を撤廃または制限する内容になっている。

観光旅行の禁止を徹底

トランプ政権はまず、米国人のキューバ渡航に関する規制を再び強化する。オバマ前政権では、政府の事前許可が必要だったキューバへの渡航について、財務省外国資産管理局(OFAC)が定める12の渡航カテゴリー(注2)に該当する場合は事前許可を不要にした。また2016年3月には、これまで団体旅行にしか許可してこなかった教育関連活動・人的交流を目的とした渡航を、個人にも認めるルール変更を行っていた。

トランプ政権は、この教育関連活動・人的交流に基づく個人渡航を再び禁止する。政権幹部は、同項目による個人渡航が、通商制裁改革・輸出促進法に基づき本来は禁止されている観光目的に利用されていることを理由として挙げた。政府はまた、渡航者が渡航条件を順守しているかを定期的に監査するとしている。キューバへの米国人渡航者には、旅行中の支出に係る証憑(しょうひょう)を5年間保存することが義務付けられている。

一方、事前許可の取得免除は維持される。上記の12の渡航カテゴリーに該当すれば、米国人は引き続き、政府の事前許可なくしてキューバへの渡航を行うことが可能だ。オバマ前政権下で認められた米国・キューバ間の航空便やクルーズ船の運航も引き続き認められる。

軍関連企業との取引を原則として禁止

政府はまた、キューバ軍傘下の企業集団GAESAなど軍関連企業との取引を禁止する。GAESAは銀行、ホテル、通信、小売りなどキューバの幅広い分野で事業を行っている。ロイター通信(6月15日)は、キューバの外貨収入の4~6割をGAESA傘下の企業が稼いでいる、とのキューバ人エコノミストの見解を紹介している。

取引が禁止される具体的な企業リストは、国務省が今後作成する。規制が広範囲に適用されれば、米国企業のキューバでの事業拡大に及ぼす影響は大きいとみられるが、大統領覚書は「取引を行った場合に、キューバの人々や民間企業ではなく、軍や諜報機関などに偏った利益をもたらす機関」などを対象にリスト化するとしており、実際にどの程度の範囲の企業が対象となるかは依然明らかではない。

なお、航空海運関連、民主化支援関連、通信・インターネット関連、キューバ民主主義法や通商制裁改革・輸出促進法で定められた条件に基づく農産品や医薬品・医療機器の輸出などは、取引規制の対象から外されている。

また、新たな規制が導入される前までに軍関連の企業との間で実施された「商業取引(commercial engagement)」も規制対象外とされている。米国・キューバ貿易経済評議会によると、オバマ前大統領によるキューバ政策転換の発表以降にキューバ事業を開始した米国企業は、宿泊予約やホテル運営、金融、クルーズを中心に49社ある(注3)。商業取引の定義は示されていないが、財務省は「合法的な商業機会に従事する米国企業に対して負の影響は与えない」としている。

米国産業界や企業からは懸念の声

トランプ大統領は、2016年の大統領選挙期間中から、ピッグ湾事件を戦ったキューバ系米国人の退役軍人団体の支持を受け、オバマ前政権が推進したキューバ政策の撤廃を訴えてきた。

政治情報サイト「ポリティコ」(6月16日)は、フロリダ州民やキューバ系米国人を対象としたほぼ全ての世論調査において、オバマ前大統領によるキューバとの関係正常化を支持する結果が出ている中、キューバ系米国人の共和党員は引き続きキューバに対する強硬策を支持しており、トランプ大統領やフロリダ州の共和党議員にとっての重要な票田だ、と報じている。

政権幹部によると、大統領予備選挙の対立候補だったキューバ系のマルコ・ルビオ上院議員(共和党、フロリダ州)は、今回の政策の立案に主要な役割を果たした。ルビオ議員は大統領の演説前に登壇し、制裁緩和措置の撤廃を支持した。同議員は現在、上院外交委員長を務めている。

他方、産業界からはキューバ事業への影響を懸念する声が高まっている。米国商工会議所は今回の政権の動きに対し、「(キューバにおいて)前向きな変化が生じる可能性を狭め、『人権を尊重した自由で民主的なキューバ』という米国が望む利益を共有しない国に対して、成長機会を譲り渡す危険性がある」との声明を出した。

キューバとの関係正常化を志向するロビイング団体エンゲージ・キューバも「トランプ大統領がキューバの民間セクターを支援したいと思っていることは歓迎するが、残念ながら今回の政策により最も負の影響を受けるのはキューバの起業家たちだ」と批判している。同団体には、2016年3月にキューバでホテルを開業したホテルチェーンのスターウッドホテル&リゾートのほか、SAP、ハネウェル、バイアコム、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)などの大企業が加盟している。

2015年4月からキューバでの事業を開始している民泊仲介サイトのエアビーアンドビー(Airbnb)は、政権や議会と今後対話していくとしながら、「(当社は)キューバの人々が新たな収入を稼ぐことを支援してきた」「米国からキューバへの旅行は民際外交(people-to-people diplomacy)を促進する重要な手段だ」と述べている。

なお、今回の規制変更を管轄する財務省と商務省には、6月16日から30日以内に新しい政策の立案に着手するよう指示が出されている。トランプ政権は、新しい規則が導入されるまでには数カ月かかるとの見通しを示した。

(注1)キューバに対する経済制裁は、キューバ民主主義法(通称:トリセリ法、1992年成立)、キューバ自由民主連帯法(通称:ヘルムズ・バートン法、1996年成立)、通商制裁改革・輸出促進法(2000年成立)で法制化されており、抜本的な制裁緩和にはこれら法律で定められた基準を満たすか、法改正が必要。

(注2)12の渡航カテゴリーは以下のとおり。(1)家族訪問、(2)公務、(3)報道関連の活動、(4)専門家による研究や専門家会議、(5)教育関連活動・人的交流、(6)宗教活動、(7)公演、クリニック、ワークショップ、スポーツその他の競技会や展示会、(8)キューバ国民の支援、(9)人道的プロジェクト、(10)私立財団または研究・教育機関による活動、(11)情報または資料の輸出、輸入、輸送、(12)商務省から許可を受けた輸出取引に関連する旅行。

(注3)旅行代理店および旅行運営会社、キューバ民主主義法またはキューバ自由民主連帯法に基づき農産品や医薬品・医療機器などの輸出を行っている企業は、リストには含まれていない。

(鈴木敦)

(米国、キューバ)

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