ルーマニアのコンスタンツァ港、地政学的変化で重要性高まる
2026年5月19日
ルーマニアのコンスタンツァ港は、黒海に面する欧州の最大の港だ。中国から欧州をつなぐ東西の物流ルート(中央回廊)と、中東・アフリカから欧州へ向かう南北の物流ルートが交差する要衝だ。ロシアによるウクライナ侵攻によってウクライナの黒海港湾の機能が制限された際には、同国の輸出入を支える代替港としての機能を担った。ウクライナと道路・鉄道、海路でつながる同港は、現在においてもウクライナ向け物流における重要拠点となっている。本稿では、国際情勢の変化に応じて重要性が増すコンスタンツァ港の役割および他地域との接続性の発展状況を概観する。
コンスタンツァ港は汎(はん)欧州運輸ネットワーク(TEN-T)の中核ネットワークの一部を形成し、海上、内陸河川航路、鉄道、道路、パイプラインとあらゆる輸送網で欧州域内外に接続する。港湾には38のオペレーターがおり、港湾全体の処理能力は年間1億トンに上る。貨物の内訳は、穀物が約3分の1、原油や石油製品がそれぞれ1割強を占める。
ウクライナ情勢で取扱貨物量が急増、インフラ整備が加速
コンスタンツァ港はウクライナと黒海、内陸河川航路、鉄道、道路で接続している。ロシアによるウクライナ侵攻によって、ウクライナの黒海港湾が機能停止したことを受け、最も影響の大きかった2023年には9,269万トンと、港湾全体の処理能力に迫る過去最大の取扱量を記録した(図1)。同年の貨物取扱量のうち、ウクライナ関連貨物は28.7%を占め、穀物(58.0%)や採油用種子(20.3%)、鉄鉱石(11.9%)などが主要品目だった(表)。2024年はウクライナの港湾が徐々にオペレーションを再開し、コンスタンツァ港の全体取扱貨物量は減少したものの、長期的に見ると同港の取扱貨物量は上昇傾向にある。
出所:コンスタンツァ港湾公社の資料を基にジェトロ作成
| 項目 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 貨物量 | 貨物量 | 増減(%) | 貨物量 | 増減(%) | |
| 港湾全体取扱量 | 75,537 | 92,690 | 22.7 | 77,537 | △ 16.3 |
| ウクライナ関連貨物 | 11,231 | 26,582 | 136.7 | 10,187 | △ 61.7 |
| 穀物 | 6,556 | 15,414 | 135.1 | 6,189 | △ 59.8 |
| 採油用種子 | 1,743 | 5,393 | 209.4 | 1,507 | △ 72.1 |
| 石油製品 | 258 | 700 | 171.3 | 1,123 | 60.4 |
| 鉄鉱石 | 1,830 | 3,151 | 72.2 | 853 | △ 72.9 |
| 肥料 | 112 | 557 | 397.3 | 220 | △ 60.5 |
| 金属製品 | 341 | 536 | 57.2 | 166 | △ 69.0 |
| 固体鉱物燃料 | 95 | 268 | 182.1 | 64 | △ 76.1 |
出所:コンスタンツァ港湾公社の発表を基にジェトロ作成
ウクライナ向け貨物輸送においては、コンスタンツァ港まで海上輸送された貨物が、道路や鉄道などの輸送方法でウクライナまで輸送される事例も多い。道路輸送においては、ルーマニア南部からウクライナに向かって南北に走るA7高速道路の建設や、ルーマニアからモルドバとウクライナ(オデーサ)を東西につなぐ高速道路プロジェクトが進展し、ウクライナとの接続性が強化されている(2026年4月28日地域・分析レポート参照)。
また、コンスタンツァ港湾公社は2025年12月、モルドバのジュルジュレシュティ港買収に係る契約を、同港の運営会社ダヌベ・ロジスティクスの株主であった欧州復興開発銀行(EBRD)と締結し、2026年4月に買収を完了した(2026年5月12日付ビジネス短信参照)。ジュルジュレシュティ港は、モルドバ南部に位置する唯一の国際河川港だ。ルーマニアとウクライナの間に位置するモルドバは、旧ソ連国としてウクライナと互換性のある鉄道インフラや倉庫・輸送施設を有しており、物流面において仲介役を果たし得る。本契約により、コンスタンツァ港を欧州および隣接地域との強固な接続性を備える物流ハブに変革するとともに、ルーマニア、モルドバの事業者によるウクライナ復興支援を促進することが期待されている。また、ルーマニア、モルドバ、ウクライナの3カ国は道路・鉄道インフラの整備、共同の税関管理や事前の情報交換による国境手続きの最適化などにおいて協議を重ね、ウクライナ復興に係る物流の地域的なハブになることを目指している。
欧州へのゲートウェイ、中央回廊との接続性を強化
中央回廊(カスピ海横断国際輸送ルート、TITR)は、中国から、カザフスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、ジョージア、トルコなどを経由して欧州までをつなぐ国際複合輸送ルートだ。2022年2月以降、ロシアを迂回する物流ルートとして重要性が高まり、輸送量も増加している。2025年4月に行われたEUと中央アジアの初の首脳会談で、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、TITRによって欧州と中央アジア間の輸送所要日数が15日まで半減し、両地域間の未開のビジネスチャンスを開放すると、TITRの重要性を強調した(2025年4月16日付ビジネス短信参照)。
黒海に面するコンスタンツァ港は、TITRにおける欧州へのゲートウェイとして重要な役割を担い、ジョージアやトルコとの輸送網強化に係る投資が加速している。黒海の対岸に位置するジョージアのポチ港とはコンテナ定期船およびRO-RO船が運航する。トルコのカラス港ともRO-RO船が就航する。ボスポラス海峡を通らずにトルコの産業地帯のブルサやアンカラへの輸送が可能となり、時間およびコスト面で強みを発揮する。
出所:ジェトロ作成
コンスタンツァ港から欧州方面への輸送網も、水上・陸上ともに発展している。特に、コンスタンツァ港が直接接続するドナウ川の内陸河川航路は、黒海から中欧までをつないでおり、とりわけバルク輸送において、陸上輸送と比べてコストや環境負荷の観点で優位性を発揮する。ルーマニアから欧州域内の陸上輸送網を強化するプロジェクトも進展している。
3SIプロジェクトで欧州諸国との連結性が強化
3海域イニシアチブ(3SI)は、バルト海と黒海、アドリア海地域の13カ国の経済協力枠組みで、エネルギーや輸送、デジタル分野のインフラ整備の協力促進や、新規投資、経済成長、エネルギー安全保障の実現を目標としている(2025年5月1日付ビジネス短信参照)。黒海に面する主要な港湾であるコンスタンツァ港は、以下の3プロジェクトで大きく関与しており、中・東欧との接続性強化が期待される。
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フェアウェイ・ダヌベ(FAIRWAY DANUBE)
ドナウ川の内陸河川航路の安全性、効率性の向上、環境負荷の低減のために、2015~2021年にオーストリア、スロバキア、ハンガリー、クロアチア、ブルガリア、ルーマニアの6カ国が共同で実施したプロジェクト。水路の監視船、水位観測所、水路管理システムや水位レベル予測システムなどに投資が行われ、航路インフラや輸送の予測可能性の改善、積載能力の最適化などが実現した。 -
高速道路カルパチア経由線(VIA CARPATHIA)
リトアニアのバルト海に面するクライペダからポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、ギリシャのテッサロニキまでをつなぐ道路輸送回廊プロジェクト。2006年にリトアニア、ポーランド、スロバキア、ハンガリーの4カ国が本プロジェクトに係る共同宣言に署名した。2010年にルーマニア、ブルガリア、ギリシャがプロジェクトに加わった。 -
RAIL2SEA
ポーランドのバルト海に面するグダニスクからスロバキア、ハンガリー、ルーマニアのコンスタンツァまでの鉄道網を整備するプロジェクト。鉄道インフラを高度化し、トランジット時間の短縮、輸送効率の改善や環境負荷の低減などを推進する。
コンスタンツァ港はTITRを象徴とする東西ルートと、3SIに関連する黒海から欧州北部を陸上輸送網がつなぐ南北ルートの発展に伴い、両ルートが交差する国際物流の要衝としての重要性が高まっている。加えて、ウクライナ・モルドバとの陸上輸送網の拡充により、ウクライナ復興における物流ハブとしての地位も向上する。
同港自体も、ウクライナ情勢による貨物需要の増大を受容できるよう、港湾内の道路・鉄道インフラの改善やオペレーションシステムのデジタル化などの開発・投資を加速させ、今後も継続していく予定だ。ルーマニア国内および接続する周辺地域との物流インフラ整備の加速と相まって、国際物流の要衝としてのコンスタンツァ港の存在感が増している。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部欧州課ロシアCIS班
柴田 紗英(しばた さえ) - 2021年、ジェトロ入構。農林水産食品部、ジェトロ・ワルシャワ事務所を経て、2024年9月から現職。





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