東欧市場参入のゲートウェイ
ルーマニアのコンテンツ市場動向(3)

2026年4月23日

ルーマニアのコンテンツ市場動向を概観する全3本のシリーズの最後となる本稿では、同国での日本のIPコンテンツ関連のイベント動向を概観する。その上で、日本のIP商品についての代表的な欧州ディストリビューターの機能と流通プロセスを整理し、ルーマニア市場における課題を提示する。さらに、IPコンテンツの競合状況と中長期的な日本のIPビジネスの拡大機会について展望する。

ルーマニアでもポップカルチャー関連イベントが定着

日本のアニメやマンガを扱うポップカルチャー関連イベントは現在欧州各地で開催されており、IP商品の市場拡大や日本のIPコンテンツの認知度向上に重要な役割を果たしている。ルーマニアも例外ではなく、首都ブカレストを中心にポップカルチャー関連イベントが定着しつつある(表参照)。ブカレストで毎年2回(4月、9月)開催されるイースト・ヨーロピアン・コミコン2025年5月2日付2025年9月24日付ビジネス短信参照)は、2025年9月の開催時には3日間(12~14日)の会期中に延べ6万人超の来場者を集め、東欧最大級のイベントとなっている。ほかにもアニメスト国際アニメーション映画祭(ルーマニア語)や日本映画を扱うイザナギ日本映画祭などを通じ、日本関連作品に触れる機会も増えており、同国内での日本IPコンテンツファン層の拡大と認知度向上につながっている。

表:ルーマニアの主要ポップカルチャー関連イベント
イベント・展示会​ 開催場所​ 特徴​
イースト・ヨーロピアン・コミコン(East European Comic Con) ブカレスト 東欧最大級のポップカルチャーイベントで、コミック、映画、ゲーム、アニメなど幅広いジャンルを扱う。来場者数は年々増加しており、2025年9月開催時には約6万人規模の来場者を集めたとされる。会場ではコスプレコンテストが実施され、国内外の著名ゲストも参加する。
アニメスト国際アニメーション映画祭(Animest International Animation Film Festival) ブカレスト ルーマニア最大のアニメーション映画祭で、欧州や日本のアニメーション作品を上映。ワークショップ・マスタークラスなどが行われ、業界向けの交流機会も多い。
イザナギ日本映画祭(IZANAGI FESTIVAL) ブカレスト 日本のマンガ・アニメを通じて日本文化の普及を目指すプロジェクト「IZANAGI」が開催する日本映画に特化した映画祭で、アニメ映画や実写映画を上映。日本文化紹介イベントも併催される。

出所:各社ウェブサイトを基にジェトロ作成


2025年9月開催のイースト・ヨーロピアン・コミコン会場の様子(ジェトロ撮影)

西欧ディストリビューターからの調達が主流

ルーマニア市場における日本のIP商品の商流と物流は、西欧を中心とする欧州域内の正規ディストリビューターが中心的役割を担っている。IP商品は権利元から欧州のディストリビューターを経由し、電子商取引(EC)、専門店、イベントなどの小売チャネルへと供給される。ルーマニアの小売業者も、ライセンス管理や企画、製造、在庫保有、EU域内配送などの主要機能を担うこれらの正規ディストリビューターから仕入れている。

例えばフランスのアビス(Abysse)は、欧州を代表する主要ディストリビューターで、フィギュアやキャラクター商品を取り扱う自社ブランドのアビスタイル(ABYstyle)を展開している。日本のIP商品を含むアニメ・マンガから映画やゲームまで、幅広い商品を扱う。ルーマニアのみならず、スペイン、ポルトガル、イタリア、ポーランド、ドイツ、英国、日本、米国などに子会社があり、約3万7,000店舗をカバーする供給網を構築している。ルーマニアでも、同社の拠点を通じて小売事業者や卸業者への販売を行っている。

ドイツのポップカルチャー商品会社ヘオ(heo)は、フィギュア、モデルキット、アパレル、レプリカなどを展開する大手ディストリビューターで、5,000社以上の取引先を持ち、3万点以上の製品を扱う。日本のホビー商品メーカーであるグッドスマイルカンパニーや玩具大手バンダイなど、日本の複数ブランドの商品を取り扱っている。また日本のキャラクター・スタチューメーカーであるプライム1スタジオの欧州公式ディストリビューターでもあり、ルーマニアの小売事業者や卸業者は、取引用アカウントを開設することで同社カタログから直接発注できる。

ほかにも、イタリアとフランスを拠点とするホビー系コレクター商品を展開するコズミック・グループ(Cosmic Group)は、バンダイ・スピリッツ(BANDAI SPIRITS)の欧州公式ディストリビューターとしてガンダムのプラモデル関連商品などを供給し、「BLEACH(ブリーチ)」「DEATH NOTE(デスノート)」「ガンダム」「NARUTO(ナルト)」「ONE PIECE(ワンピース)」「聖闘士星矢」など広範な日本のIP商品を扱う。ルーマニアの小売事業者や卸業者も、同社のイタリアの倉庫から商品調達が可能だ。

なお、上述のグッドスマイルカンパニーは、英国拠点グッドスマイルカンパニー・ヨーロッパ(Good Smile Company Europe)を持ち、フィギュア商品などをEU域内倉庫から出荷し、ルーマニアを含むEU各国の小売事業者や卸業者に出荷している。

アパレル領域では、英国のバイオワールド・マーチャンダイジング(Bioworld Merchandising)が「鬼滅の刃」「ドラゴンボールZ」「NARUTO(ナルト)」などのライセンス衣料品(日本のアニメIP商品を含む)を、欧州全域の小売事業者や卸業者に販売している。

またECチャネルでは、ソニー傘下で米国のクランチロールが運営し、アニメ公式グッズを販売するクランチロールストアEU(Crunchyroll Store EU)が、公式ライセンス商品をEU域内一律送料でルーマニアの消費者にも販売している。

このように多くのルーマニアの小売業者は、主に西欧を中心としたEU域内の正規ディストリビューターからIP商品を調達している。しかし、EU域内でも国境を超える際の付加価値税(VAT)などの手続きに時間がかかり、配送遅延が発生することがある。また、アニメ・マンガを専門とする小売店が比較的少ないため、販売チャネルはオンラインやイベントのポップアップ、一般書店・雑貨店の一部の棚などに限定されることもあり、需要の予測が困難であることも課題となっている。

政府支援を受ける韓流は拡大し日本のIPコンテンツは競争激化に直面

ルーマニアのIPコンテンツ市場にも課題がある。同国のコンテンツ市場の歴史的背景として、1980~1990年代の民主化への移行期に公式チャネルが整備されていなかったことから、海賊版が広く流通した時期があり、その影響は今も完全にはなくなっていない。現在、正規品への認知とアクセスは向上しているものの、非正規品の流通が依然として正規品市場を拡大する上での障壁となっている。

また、IPコンテンツの著作権や放映権について、権利元へのアクセスが限定されていることも、同国における日本のアニメ放映やマンガの翻訳などに影響を与えている。

さらに近年においては、韓国ポップカルチャーの台頭がルーマニアのコンテンツ市場における競争環境を大きく変えている。韓国政府が支援し、韓国音楽(K-POP)を中心に同国IPコンテンツの積極的なプロモーションが行われた。その結果、韓国語や韓国文化への関心を持つ層やファン層が拡大し、オンラインコミュニティの規模や文化的影響力の面で日本を上回る局面もみられる。

加えて、ネットフリックス(Netflix)をはじめとする定額制配信プラットフォームの出現により、オリジナル作品の増加や、中国や韓国の制作会社によるコンテンツ供給が拡大している。これにより、消費者の視聴機会と選択肢が広がり、各国のコンテンツ間の競争が一段と激しさを増している。また、米国・中国・韓国のデジタルエンターテインメントとの日常的な接点が増えることで、ルーマニアでも日本関連製品が相対的に認知度や販売面で不利となる局面もみられる。

日本のIPビジネスの中・長期的成長の可能性

ルーマニアのコンテンツ市場における日本アニメ・マンガの成長余地は大きいと言える。例えば、日EU経済連携協定(EPA)や日・ルーマニア戦略的パートナーシップ協定の枠組みは、文化交流、クリエイティブ産業、技術分野での二国間協力を後押ししており、コンテンツ分野にもメリットをもたらす可能性がある。2024年11月にはルーマニア文化研究所(ICR)東京事務所が開設され、二国間の文化交流のハブ機能を強化し、双方向で文化の紹介が進んでいる。またICRが主催する各種支援プログラムを活用し、ルーマニアのアーティストやイラストレーターを日本市場へ紹介する取り組みも行われており、人材交流と育成の観点でも有望である。また、ルーマニアはEU加盟国であり、地理的には東欧地域の中心に位置し、日本IP商品の物流拠点となり得る潜在性を持つ。同国内の出版社やIP商品の制作会社が日本の権利元と連携し、ローカライズや共同制作を進めることができれば、中長期的な産業基盤の整備につながる可能性もある。

今後ビジネス拡大が期待されるルーマニアのポップカルチャー市場。日本のIPコンテンツのデジタル化を拡大するとともに、日・ルーマニア戦略的パートナーシップ協定の枠組みや支援プログラムなどを活用して日本文化への理解を深めてもらうことは、日本のマンガ・アニメの認知度をさらに向上させることにつながる。さらには、日本の権利元とルーマニアの映画配給会社や出版社との連携強化や、ルーマニア語への翻訳などローカライズの拡大も期待できる。また、IP商品市場では、日本関連のIP商品を取り扱う主要正規ディストリビューターと小売業者間のオペレーション課題の改善も重要である。改善策を検討する際、ルーマニアが東欧におけるIP商品の地域拠点(東欧ゲートウェイ)となり得ることも考慮したい。

今後、IPコンテンツおよびIP商品それぞれのビジネスにおいて持続可能な市場展開を進めていくために、官民協働で実務課題の最適化を推進していくことが求められる。

執筆者紹介
ジェトロ・ブカレスト事務所
本吉 美友(もとよし みゆ)
2025年からジェトロ・ブカレスト事務所勤務。主に調査を担当。