多言語作品への受容性高く
ルーマニアのコンテンツ市場動向(1)
2026年3月27日
中・東欧で第2の人口規模(約1,900万人)を誇るルーマニアでは、経済成長に伴う所得向上を背景に映画、動画配信、音楽、アニメ・マンガ、ゲームなどの市場が拡大している。日本のポップカルチャーは1990年代初頭から2000年代初頭にかけ、ルーマニア国営テレビ局TVRで放送された『美少女戦士セーラームーン』や『ドラゴンボールZ』などのアニメを通じて浸透した。2004年にはアニメ専門チャンネルでルーマニア語の字幕付き放送が始まり、ファン層が拡大した。近年はソーシャルメディアによるコミュニティー形成やオンライン・ストリーミングの普及が市場成長を後押ししている。さらに、コミコンや日本映画祭、書店イベントなどの開催がコンテンツ文化の体験の場を広げ、ファンエンゲージメントを高めている。
こうした背景からジェトロ・ブカレスト事務所では、ルーマニア・アメリカ大学(Romanian-American University)のシェルバン・ジョルジェスク氏と共同で、「ルーマニア・アニメ市場に関する消費者動向アンケート」(実施期間2025年6月6~23日)を実施。ルーマニアのコンテンツ市場動向を概観する全3本のシリーズの1本目となる本稿では、アンケート結果を紹介し、ルーマニアのアニメ・マンガ市場を分析する。
配信プラットフォームがアニメ視聴の中心
今回実施したアンケートでは1,222件の回答を得た。回答者属性は、15~35歳が全体の約86%、15~18歳が21.5%、19~25歳が36.5%、26~35歳が27.9%で、うち51.5%が学生、42.7%が就業する社会人となっている。
「アニメ・マンガの視聴・読書頻度」では、アニメは「時々」37.6%と「毎週」34.9%の割合が高く、「毎日」は12.9%、「まれに」が14.6%だった(図1-1参照)。一方、マンガは「時々」34.8%と「まれに」34.3%が多く、「毎週」が21.3%、「毎日」が9.7%と、日常的な習慣は限定的であることが分かった(図1-2参照)。好みのジャンルでは、アクションが72.2%、ファンタジーが68.2%と高い割合で、ロマンスが57.9%、ミステリーが54.1%、コメディーが51.2%と続いた(図2参照)。アニメ・マンガの視聴習慣の違いの背景には、アクセス性と利用チャネルがある。アニメは圧倒的に視聴しやすく、回答者の75.0%が配信プラットフォームを利用して容易にアニメにアクセスしていることが分かった。なお、映画館での視聴はわずか2.2%にとどまった。一方で、22.7%が非公式ソースからダウンロードしている現状も確認された。人気のある定額制配信プラットフォームは、ネットフリックス(Netflix)が69.6%、次いでアニメカゲ(AnimeKage)が35.1%、クランチロール(Crunchyroll)が34.5%、アマゾンプライム(Amazon Prime)が8.3%と続く。マンガのフォーマットはデジタル媒体が54.5%と紙媒体をやや上回り、両者が併存する市場構造となっている。
出所:アンケート結果を基にジェトロ作成
出所:アンケート結果を基にジェトロ作成(複数回答)
マンガは英語、アニメはオリジナル音声と字幕好む
アニメに初めて触れた時期については中学校が32.7%で最も高く、次いで小学校入学後が27.3%、小学校入学前が22.3%と続く(図3-1参照)。きっかけはテレビが45.3%と主流で、次いでクラスメートによる推薦が26.3%、配信プラットフォームが13.8%となっている(図3-2参照)。マンガへの関心は教育期、特に10〜18歳で始まる傾向が強く、初めてマンガに触れた時期については中学校が39.5%で最も多く、次いで高校が26.8%となった(図3-3参照)。きっかけはオンラインが65.1%と突出している(図3-4参照)。
出所:アンケート結果を基にジェトロ作成
言語選好(複数回答)では、アニメ視聴はオリジナル音声(字幕付)が90.4%と非母語での視聴が一般的だ。マンガは英語が91.4%と圧倒的で、ルーマニア語は18.7%、日本語は12.2%となっている。
マンガの購買に関する質問では、マンガ読者の71.5%が購買志向を示しており、コレクション文化の根強さが確認された。月間支出については、回答者の84.7%が100レイ未満(約3,600円、レイは通貨単位レウの複数形、1レウ=約36円)と答えた。購買元に関する質問では、回答者の75.5%はルーマニア最大手書店チェーンのカルトゥレシュティ(Cărturești)で購入している。オンライン(国内・海外サイト)での購入は、若年層を中心に普及している。
コンベンションや映画祭などのアニメやマンガに関するイベントは、コンテンツ文化の体験と物販を兼ねるハイブリッド拠点として台頭し、回答者の58.3%が参加料への支出を厭わない意向を示している。21.2%がイベントでの購入経験があり、30.7%がイベントへの潜在的関心を示している。また、回答者の76.3%はオンラインフォーラム、ファンアート、コンテンツ制作、コスプレなど、アニメ関連のコミュニティー活動に関与しており、イベントへの参加意欲の高さがうかがえる。
ルーマニア語版のマンガの値段は約半数が高いとの回答
アニメ・マンガの入手環境については、回答者の80%以上が「平均的」から「良好」と評価しており、一定の発展段階にあるものの、さらなる成長の余地が残されていることを示唆している。
言語面では、ルーマニア語版マンガの利用率は限定的で、51.1%が読んでいないと回答。その背景には、ルーマニア語版タイトル数の不足があると考えられる。一方、ルーマニア語版を読む層の評価はおおむね良好で、43.3%が翻訳品質を「満足」から「非常に良い」と回答し、低評価はわずか5.5%にとどまる。
価格認識では、47.0%がルーマニア語版マンガを「高い」と回答。これは、主要な消費者層が若年層であることを反映しているものと思われる。ただし、40%は「適正」と捉えており、現行価格体系が一部の層には受容可能であることも確認された。
マンガ・アニメ市場にはデジタル露出が不可欠
マンガ作品の好みについては、長編人気シリーズが47.2%と最も支持されている一方、短編シリーズは37.6%、単独作品は15.1%と続き、いずれの形式にも一定の需要がある。出版社別では、集英社/VIZが53.1%、講談社が40.0%、白泉社が23.1%と上位を占めた。購入決定要因では、オンラインでの人気が70.8%と圧倒的に多く、日本での人気が38.6%、著者のブカレスト訪問が28.3%、大きなローンチイベントが26.2%と続く(図4参照)。これは、SNSや電子商取引(EC)連動型マーケティングの重要性を裏付けている。
出所:アンケート結果を基にジェトロ作成(複数回答)
人気アニメ作品を監督別に見ると、宮崎駿氏の作品が55.6%で最も高く、次いで新海誠氏31.3%、荒木哲郎氏21.4%、小林寛氏21.3%、細田守氏21.2%と続く。制作会社別では、スタジオジブリが映画館で最も人気のあるアニメにおいて60.1%の支持を得て首位となり、次いでマッパ45.5%、東映アニメーション34.8%が続いた(図5参照)。
出所:アンケート結果を基にジェトロ作成(複数回答)
映画館でのアニメ視聴動機では、オンライン広告が56.5%、友人の影響が48.3%、国際的評価が45.1%と続き、デジタルプロモーションとコミュニティー連携の不可欠性が示された(図6参照)。さらに、アニメを視聴する際にサウンドトラックを重視するかと質問したところ、84.2%が重視すると回答しており、音楽とのコラボは高い訴求力を持つといえる。ファンの支持表現の方法では、アニメ関連アクセサリー購入が62.6%、フィギュア購入が61.7%と高く、ファンコミュニティーへの参加44.1%、アニメのテーマ服の着用42.6%、コスプレ23.3%が続く。ピンバッジ、キーチェーン、Tシャツなどの象徴的グッズの需要が高いことも確認された。
出所:アンケート結果を基にジェトロ作成(複数回答)
回答者の過半数は日本文化・ポップカルチャー関連イベントに参加
ルーマニアのアニメ・マンガコミュニティーは、ルーマニアで毎年開催される日本アニメ映画の専門映画祭イザナギ日本映画祭や、ルーマニアで毎年1〜2回開催される東欧最大級のポップカルチャーイベント「イースト・ヨーロピアン・コミコン
」(2025年5月2日付、2025年9月24日付ビジネス短信参照)など、組織化された文化イベントへの参加意欲が高い。これらのイベントは、知的財産(IP)についての認知度向上、ブランドプロモーション、ファンとの直接交流を促進する場として機能している。調査では、回答者の82.0%以上がコミコンの中で日本文化はとても重要な要素であると認識し、73.8%が今後のコミコンでの日本コンテンツの存在感向上を希望している。コスプレへの関心は中程度ながら拡大傾向にあり、57.8%がコスプレによるイベントへの参加または将来的な参加意向を示した。イベントでの支出額は、回答者の55.8%がイベントあたり50ユーロ未満、36.2%が50〜100ユーロだが、8.0%は100ユーロ超の額を支出しており、プレミアム商品やコレクター向けグッズの需要が見込まれる。
今回の調査では、日本のアニメ・マンガはルーマニアで広く浸透しつつあるものの、メインストリームとして定着しているとは言い切れないことがわかった。回答者の46.6%がメインカルチャーと捉える一方、29.4%はサブカルチャー、24.0%はマイナーと認識している。一方、68.2%がアニメ・マンガを個人の成長に重要と回答し、単なる娯楽を超えた価値を持つと考えていることが示された。アニメ・マンガのコアバリューとして、精神的な成長、共感、日本文化への理解などが挙げられ、教育的、心理的側面でのある一定の影響力も存在することがうかがえる。また、日本のアニメ・マンガは、食、音楽、ゲーム、ファッション、アクセサリーなど多様なジャンルに影響を与えている。
今回のアンケート調査ではルーマニアのアニメ・マンガ市場は若年層中心で、デジタル重視という特徴が浮き彫りになった。同市場へのアプローチにおいては、配信プラットフォームでの露出強化、イベント連動型プロモーション、SNSやEC連動型、異業種のクロスオーバー型マーケティングなどが有効な手段になり得る。
ルーマニアのコンテンツ市場動向
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・ブカレスト事務所
本吉 美友(もとよし みゆ) - 2025年からジェトロ・ブカレスト事務所勤務。主に調査を担当。






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