ファンコミュニティー主導で拡大
ルーマニアのコンテンツ市場動向(2)
2026年3月27日
ルーマニアのコンテンツ市場動向を概観する全3本のシリーズのうち2本目となる本稿では、ジェトロとルーマニア・アメリカン大学が共同で実施した調査を基に、日本コンテンツ市場の拡大を支える主要企業・団体へのヒアリング結果を紹介する(注1)。
コミコンや日本映画祭がポップカルチャー人気を牽引
当地では、東欧最大級のコミコンや日本映画祭が開催されており、ポップカルチャーのトレンド発信地として位置付けられている。3つのイベント・映画祭の主催者にヒアリングを行った結果を紹介する。イベントの回を重ねるごとに着実にファン層が拡大していることがうかがえた。
イースト・ヨーロピアン・コミコン(EECC)(2025年9月24日付ビジネス短信参照)
ユズ・イベンツ・アンド・コミコン(Yuzu Events & Comic Con)が主催するEECCは、2013年に初開催して以来、2025年9月には6万人超を動員する東欧最大級のポップカルチャーイベントに成長した。来場者の中心は19~25歳で、IP(知的財産)商品(注2)の中では、ポップカルチャー製品の製造・販売を行う米国のファンコ(Funko)の「ファンコ・ポップ(Funko POP!)」というフィギュアが圧倒的な人気を誇る。次に人気が高いのは衣料品とぬいぐるみで、次にその他のフィギュアとポスターが続く。これらの商品に次いでマンガ出版物も人気があり、特に「鬼滅の刃」「呪術廻戦」「チェンソーマン」が若年層に高い支持を得ている。同社はコミコンのジャパン・エリアを拡大し、アニメやマンガを通して自然に日本文化に興味を持つ流れを生み出すことで、新たなファンの獲得を目指している。

イザナギ日本映画祭(IZANAGI Japanese Film Festival)
本映画祭は2019年にルーマニア・ブカレストで初めて開催して以降、日本のアニメ上映や討論会、ポッドキャストを通じて日本文化を紹介するイベントとして発展してきた。現在では、ブカレストをはじめ9都市で開催する全国規模の映画祭へと拡大している。2025年3月に開催された同映画祭では約7作品を上映し、1万人超を動員した。上映会では、在ルーマニア日本大使館や日本文化機関、配給会社の協力のもと、パネルディスカッションやワークショップなど関連企画も実施している。来場客の年齢層は18~40歳と幅広く、上映作品の中では特に、「パーフェクト・ブルー(PERFECT BLUE )」「アキラ(AKIRA)」「火垂るの墓」など、日本で人気が高く、ルーマニアでは正式に上映されたことのない名作が評価されている。同映画祭の主催者は今後、上映都市の拡大に加え、ネットワークの拡大を目指している。日本から監督や声優を招いて来場者に直接的な文化体験を提供することや、国内外のアニメ・マンガ関連クリエーターや団体との協業に注力することを考えている。また、現在はルーマニア語字幕で上映しているが、英語字幕を導入することで、外国人来場者が参加しやすい映画祭への発展も目指している。その中で、映画祭全体の運営面で、作品ごとに大きく異なる著作権交渉と上映料金負担が依然として大きなボトルネックとなっているという。
アニメスト国際アニメーション映画祭(Animest International Animation Film Festival)
2006年に始まった国際映画祭で、ルーマニア国内で唯一、米国アカデミー賞の短編アニメ部門への推薦が公認されている。主催者はブカレストでの映画祭開催に加え、若者向けのアニメーションワークショップや学校プログラム、さらにルーマニアおよびモルドバ各地でのサテライトイベントなど、年間を通じて多面的な活動を展開している。2022年からは14〜30歳を対象とした「ジャパニーズ・デイ」を実施し、複数の映画上映のほか、特別ゲストによる特別講義やテーマ企画を開催している。これまで、日本人ゲストとして湯浅政明氏(2022年)、原恵一氏(2023年)、森本晃司氏(2024年)といった著名な映画監督を招いてきた。上映作品について、「マインド・ゲーム(MIND GAME)」「百日紅 ~ミス・ホクサイ(Miss HOKUSAI)」といった古典に加え、「犬王」「君たちはどう生きるか」など最新の話題作も高い評価を得ている。一方で、資金の多くをEUの文化基金から調達しているため、予算は主に欧州作品や欧州クリエーターの支援に充てることが求められ、日本作品の上映料やゲスト招聘(しょうへい)費に十分な予算を割くことが難しいのが運営面の課題。特に上映権料やゲストの渡航費の負担は大きく、長期的な運営の制約となっている。日本側のプロデューサーや権利保有者、関連機関との連携を一層強化することが今後の活動を前進させる上で不可欠と考えている。
映画、出版、書店での専門コーナーも拡充
続いて、日本のコンテンツを扱う映画配給会社、出版社、大手書店へのヒアリング結果を紹介する。当地で他社に先駆けて日本のアニメ作品配給やマンガのルーマニア語訳に取り組む先行企業ならではの苦労が垣間みられた。
バッド・ユニコーン(Bad Unicorn)
2018年に設立された映画配給会社で、年間約15作品を扱い、そのうち1〜2作品が日本も含むアニメ作品。2022年には細田守監督「竜とそばかすの姫」をルーマニア国内で初めて大規模公開し、日本アニメの市場開拓を本格的に進める契機となった。同社が取り扱ったアニメ作品の動員数はその後も高い成果を挙げている。2022〜2024年の3年間の日本アニメ作品の中では「劇場版 呪術廻戦 0」(3万4,014人)が最大の動員数を記録し、続いて「ワンピース・フィルム・レッド(ONE PIECE FILM RED)」(2万9,072人)などの人気タイトルが並ぶ。
一方で、運営上の課題は少なくない。まず、日本アニメを扱う際のライセンス手続きやプロモーション審査の簡素化が進んでおらず、作品獲得から公開までに相当の時間と労力がかかることが大きな障壁となっている。財政的インセンティブや助成金取得の支援も不十分で、独立系配給会社にとってリスクが重くのしかかる状況が続いている。さらに、日本のアニメ作品の情報追跡が難しく、権利保有者や日本側の市場構造が閉鎖的であることから、交渉の初期段階からスムーズに進まないケースも多い。国際的な配給会社による大型知的財産(IP)の買い付けがクランチロール(Crunchyroll)やソニーなどに集中しているため、一部作品はアクセス自体が不可能となり、大規模マーケティングキャンペーン展開にも限界が生じる。加えて、アートワーク制作(注3)、翻訳、ローカライズ作業(注4)には多大な労力が必要だ。また、コスプレについては、映画マーケティングに組み込む際の判断が難しいことが、市場拡大を妨げる要因となっている。コスプレはアニメファンによる映画プロモーションを後押しする重要な文化である一方、社会的な受容度が読みにくいという。
こうした状況の中で、プロジェクトの透明性向上や担当者との迅速なコミュニケーション体制の構築、そしてライセンス交渉を円滑化する制度的支援の強化が不可欠だと考えている。日本側との連携が深まれば、ルーマニアにおける日本アニメ市場はさらに成長できる余地が大きいとみている。
ネミラ(Nemira)出版
ルーマニア語で初めて本格的にマンガを出版したレーベル「ネズミ(NEZUMI)」を立ち上げた。日本語からの直接翻訳にこだわり、革新的な出版レーベルとして作品を展開してきた。これまでに「進撃の巨人」「四月は君の嘘」「東京卍リベンジャーズ」などを刊行し、ティーンから大人まで幅広い読者層を獲得している。特に女性向け短編シリーズ、少年マンガ、異世界系タイトルが好調で、オンライン販売、書店、イベント、学校ネットワークなど多様なルートを通じて流通を拡大している。
一方、レーベル立ち上げに際して多くの課題があった。非欧州圏のグラフィックノベル(注5)出版の実績が乏しいことや、日本語からの直接翻訳に伴うコストの高さ、英語版との競合、書籍にかかる付加価値税(VAT)、海賊版の存在、そして市場規模そのものの小ささなど複数の障壁が重なった。それでも新規タイトルを投入し、「ツレ猫 マルルとハチ(講談社)」や「とつくにの少女(マッグガーデン)」などを新たにラインアップに加えた。さらに、若年層との接点を増やすため、ブカレストの中学・高校で読者交流イベントを開催している。
マンガ専用エリアをもつ大手書店カルトゥレシュティ(Cărturești)と同社のパートナーシップは極めて強固だ。英語版とルーマニア語版を専用のスペースに並列展示することで可視性を高め、新規読者の獲得につなげている。さらに、日・ルーマニア語の翻訳に強い若手翻訳者の登用による翻訳体制の強化、日本文化イベントへの参加などを通じて日本側との連携も深化している。今後は主要タイトルとニッチ作品の双方を継続的に獲得し、レーベル拡大を推進するつもりだ。
カルトゥレシュティ(Cărturești)
2000年に創業し、国内に59店舗を展開するルーマニア最大の書店チェーンであり、そのうち4店舗ではポップカルチャー専門ブランド「ファンダム・カルトゥレシュティ(Fandom Cărturești)」を併設している。最初のファンダム店舗は店頭で急速に高まっていたポップカルチャー需要に応えるかたちで立ち上げたものだ。書籍やマンガ、コレクターズアイテム、関連グッズなどを総合的に扱い、ファン同士が「居心地の良さ」と「つながり」を実感できるコミュニティーハブとして設計した。単なる商品陳列の場ではなく、発見・交流・情熱共有のための文化空間として位置付けている点が特徴だ。
新型コロナウイルス感染拡大期間中には、マンガやアニメのジャンルを問わずほぼ全てのシリーズで前例のない需要増が起こり、市場は急拡大した。しかし、ロックダウン後は市場が成熟段階に入り、消費者行動は衝動買いから品質、シリーズ認知度、ブランド力を重視した選択的購買へと変化した。この潮流に合わせて戦略の再構築を進めている。マンガ・アニメ関連では、「呪術廻戦」「ワンピース(ONEPIECE)」「鬼滅の刃」「チェンソーマン」「ブルーロック」「ナルト(NARUTO)」「ナナ(NANA)」などが主要タイトルとなっている。購入者層は15歳未満から40歳代まで幅広い。アニメ新作の放送、ポップカルチャーイベントの開催、シリーズ最新巻の発売などに合わせて販売が大きく伸びる傾向が明確に出ており、取り扱うファンダム関連商品の約70%が日本のポップカルチャーに由来する。
ファンダムエリアの拡大プロジェクトも継続中で、首都ブカレスト、ルーマニア西部のティミショアラなど、全国的なネットワーク強化が進んでいる。イベント活動も活発で、ネズミ・バイ・ネミラ(NEZUMI by Nemira)やアリス・ブック(Alice Books)と連携したマンガ新刊イベント、ライトノベル発売会、コスプレデー、ポケモン大会、記念日企画などを実施してきた。日本の出版社、アーティスト、コスプレイヤー、インフルエンサーとの協働も広がっている。
一方、EU・米国以外からの調達難、安定的な物流ルートの構築、信頼できる供給元の確保、偽造品対策といった課題も抱えている。特に日本のIP商品に関しては継続的な品質管理と供給改善が重要テーマとなっており、今後も各パートナーとの連携強化を進めていく姿勢を維持する。
日本IP市場の成長機会と持続的発展に向けた課題
近年ルーマニアでは、イベント・映像・出版・書籍販売など各分野で日本コンテンツの需要が大きく拡大しており、同国の企業や団体も新たな機会を捉え積極的に市場参入を進めている。とりわけ若年層を中心にポップカルチャーへの関心が高まっており、これが日本のコンテンツ市場の成長を後押ししている。一方で、各企業にとってはライセンス取得競争の激化や海賊版対策、価格設定や物流の不安定さなど複数の課題が依然として障壁となっている。また、新興市場であるがゆえに、新規参入企業はゼロから市場基盤を構築する必要があり、情報共有や業界横断的な協力体制が日本のコンテンツ市場の継続的成長には不可欠だ。今後、各分野の先駆的プレーヤーが日本のIPライセンサーとより適切に連携し、透明性の高いビジネス環境を整えることで、市場全体の発展のさらなる加速が期待される。
ルーマニアのコンテンツ市場動向
シリーズの前の記事も読む
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・ブカレスト事務所
本吉 美友(もとよし みゆ) - 2025年からジェトロ・ブカレスト事務所勤務。主に調査を担当。






閉じる




