メルコスールの特徴を盛り込んだ協定に
EUメルコスールFTA(2)
2026年4月17日
2026年1月17日、メルコスール正式加盟4カ国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)とEUはパラグアイの首都アスンシオンでパートナーシップ協定(EMPA)および暫定貿易協定(iTA)に署名した。当該FTAは、メルコスール諸国が中南米域外国・地域と締結する初めての包括的なFTAだ。そうした中、メルコスール諸国が農産品で高い競争力をもつことや重要鉱物資源で高い埋蔵量を誇ることなどから、当該FTAにはメルコスールならではの特徴的な条項が盛り込まれている。EUメルコスールFTAを概観する本稿の後編では、農産品に関する物品貿易や重要鉱物に関連する条項を確認する。また、メルコスールが初めてFTAに盛り込む政府調達の章に関して、ブラジルの産業政策を概観しながら紹介する。
メルコスールのEU向け輸出で、鶏肉、豚肉、牛肉に関税数量割当枠を付与
EUメルコスールFTAの発効に時間を要している主因の1つが、この協定に強く反対してきた欧州の農業団体の存在だ(注1)。2026年1月17日にメルコスールとEUがEMPAおよびiTAへ署名した直後、欧州最大の農業協同組合・農業生産者団体であるCOPA-COGECAは、域内生産者が高い基準順守やコスト上昇に苦しむ中、EU基準を満たさない農産物の流入を認めるような通商政策を続けるべきではないと強く主張した。
メルコスール諸国のEU向け主要輸出品目の中には、コーヒー(NCMコード0901.11)、大豆(NCMコード1201.90)、牛肉(NCMコード0201.30、0202.30)、とうもろこし(NCMコード1005.90)、オレンジジュース(NCMコード2009.10、2009.12、2009.11)といった農産品が含まれる(注2)(表1参照)。こうした背景もあり、EUメルコスールFTAでは、鶏肉、豚肉、牛肉に関税割当数量枠が設けられている。
| NCMコード | 品目 | 金額 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 270900 | 石油及び歴青油(原油に限る。) | 9,938 | 17.2 |
| 090111 | カフェインを除いていないコーヒー | 7,188 | 12.5 |
| 230400 | 大豆油かす | 5,436 | 9.4 |
| 260300 | 銅鉱 | 3,066 | 5.3 |
| 120190 | 大豆 | 2,460 | 4.3 |
| 470329 | 化学木材パルプ | 2,089 | 3.6 |
| 020130 | 骨なし牛肉 | 1,427 | 2.5 |
| 240120 | たばこ | 1,140 | 2.0 |
| 271019 | 石油及び歴青油(原油を除く。) | 1,097 | 1.9 |
| 260111 | 鉄鉱 | 866 | 1.5 |
| 020230 | 骨なし冷凍牛肉 | 854 | 1.5 |
| 880240 | 飛行機その他の航空機 | 776 | 1.3 |
| 120242 | 落花生 | 738 | 1.3 |
| 200919 | 冷凍したオレンジジュース | 643 | 1.1 |
| 100590 | とうもろこし | 620 | 1.1 |
| 720293 | フェロアロイ | 466 | 0.8 |
| 200912 | 冷凍していないオレンジジュース | 412 | 0.7 |
| 200911 | 冷凍したオレンジジュース | 403 | 0.7 |
注1:データは2025年のもの。
注2:メルコスール諸国は、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの4カ国。
出所:メルコスール事務局統計
EUメルコスールFTAの協定文書を確認すると、メルコスール4カ国加盟国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)に対して設定されるEUの鶏肉輸入における関税割当枠は、骨つき鶏肉が9万トン、骨なし鶏肉が9万トン(表2、表3)。ともに、割当枠は、協定発効年は1万5,000トン、翌年は3万トンで、5年目に9万トンとなる。5年目以降の割当枠は年間9万トンが維持される。豚肉についても、鶏肉と同様に段階的に割当枠が増加し、5年目以降は2万5,000トンの割当枠が維持される(表4)。割当数量枠内の関税(従量税)は、1トン当たり83ユーロとなっている。牛肉は、生鮮牛肉が最大5万4,450トン、冷凍牛肉が最大4万4,550トン(表5、表6)。生鮮牛肉は、協定発効年は9,075トン、翌年は1万8,150トンで、5年目に5万4,450トンとなる。冷凍牛肉は、協定発効年は7,425トン、翌年は1万4,850トンで、5年目以降に4万4,550トンとなる。割当内税率は7.5%。
| 年目 | 年間総量(トン数) |
|---|---|
| 0 | 15,000 |
| 1 | 30,000 |
| 2 | 45,000 |
| 3 | 60,000 |
| 4 | 75,000 |
| 5年目およびそれ以降 | 90,000 |
注:該当するHSコードは以下のとおり(0207.11.10, 0207.11.30, 0207.11.90, 0207.12.10, 0207.12.90, 0207.13.20, 0207.13.30, 0207.13.40, 0207.13.50, 0207.13.60, 0207.13.70, 0207.14.20, 0207.14.30, 0207.14.40, 0207.14.50, 0207.14.60, 0207.14.70, 0207.24.10, 0207.24.90, 0207.25.10, 0207.25.90, 0207.26.20, 0207.26.30, 0207.26.40, 0207.26.50, 0207.26.60, 0207.26.70, 0207.26.80, 0207.27.20, 0207.27.30, 0207.27.40, 0207.27.50, 0207.27.60, 0207.27.70, 0207.27.80, 0207.41.20, 0207.41.30, 0207.41.80, 0207.42.30, 0207.42.80, 0207.44.21, 0207.44.31, 0207.44.41, 0207.44.51, 0207.44.61, 0207.44.71, 0207.44.81, 0207.44.99, 0207.45.21, 0207.45.31, 0207.45.41, 0207.45.51, 0207.45.61, 0207.45.71, 0207.45.81, 0207.45.99, 0207.51.10, 0207.51 90, 0207.52.10, 0207.52.90, 0207.54.21, 0207.54.31, 0207.54.41, 0207.54.51, 0207.54.61, 0207.54.71, 0207.54.81, 0207.54.99, 0207.55.21, 0207.55.31, 0207.55.41, 0207.55.51, 0207.55.61, 0207.55.71, 0207.55.81, 0207.55.99, 0207.60.05, 0207.60.21, 0207.60.31, 0207.60.41, 0207.60.51, 0207.60.61, 0207.60.81, 0207.60.99, 0209.90.00)。
出所:EUメルコスールFTA譲許表
| 年目 | 年間総量(トン数) |
|---|---|
| 0 | 15,000 |
| 1 | 30,000 |
| 2 | 45,000 |
| 3 | 60,000 |
| 4 | 75,000 |
| 5年目およびそれ以降 | 90,000 |
注:該当するHSコードは以下のとおり(0207.13.10, 0207.13.99, 0207.14.10, 0207.14.99, 0207.26.10, 0207.26.99, 0207.27.10, 0207.27.99, 0207.44.10, 0207.45.10, 0207.54.10, 0207.55.10, 0207.60.10, 0210.92.91, 0210.99.39, 1602.31.11.1602.31.19, 1602.31.80, 1602.32.11, 1602.32.19, 1602.32.30, 1602.32.90, 1602.39.21, 1602.39.29, 1602.39.85)。
出所:EUメルコスールFTA譲許表
| 年目 | 年間総量(トン数) |
|---|---|
| 0 | 4,167 |
| 1 | 8,333 |
| 2 | 12,500 |
| 3 | 16,667 |
| 4 | 20,833 |
| 5年目およびそれ以降 | 25,000 |
注:該当するHSコードは以下のとおり(0203.11.10, 0203.12.11, 0203.12.19, 0203.19.11, 0203.19.13, 0203.19.15, 0203.19.55, 0203.19.59, 0203.21.10, 0203.22.11, 0203.22.19, 0203.29.11, 0203.29.13, 0203.29.15, 0203.29.55, 0203.29.59, 0210.11.11, 0210.11.19, 0210.11.31, 0210.11.39, 0210.12.11, 0210.12.19, 0210.19.10, 0210.19.30, 0210.19.40, 0210.19.50, 0210.19.60, 0210.19.70, 0210.19.81, 0210.19.89, 0210.99.41, 0210.99.49, 1602.41.10, 1602.42.10, 1602.49.11, 1602.49.13, 1602.49.15, 1602.49.19, 1602.49.30, 1602.49.50, 1602.90.51)。
出所:EUメルコスールFTA譲許表
| 年目 | 年間総量(トン数) | 枠内税率 |
|---|---|---|
| 0 | 9,075 | 7.50% |
| 1 | 18,150 | 7.50% |
| 2 | 27,225 | 7.50% |
| 3 | 36,300 | 7.50% |
| 4 | 45,375 | 7.50% |
| 5年目およびそれ以降 | 54,450 | 7.50% |
注:該当するHSコードは以下のとおり(0201.10.00, 0201.20.20, 0201.20.30, 0201.20.50, 0201.20.90, 0201.30.00, 0206.10.95)。
出所:EUメルコスールFTA譲許表
| 年目 | 年間総量(トン数) | 枠内税率 |
|---|---|---|
| 0 | 7,425 | 7.50% |
| 1 | 14,850 | 7.50% |
| 2 | 22,275 | 7.50% |
| 3 | 29,700 | 7.50% |
| 4 | 37,125 | 7.50% |
| 5年目およびそれ以降 | 44,550 | 7.50% |
注:該当するHSコードは以下のとおり(0202.10.00, 0202.20.10, 0202.20.30, 0202.20.50, 0202.20.90, 0202.30.10, 0202.30.50, 0202.30.90, 0206.29.91, 0210.20.10, 021020.90, 0210.99.51, 0210.99.90, 1602.50.10, 1602.90.61)。
出所:EUメルコスールFTA譲許表
ブラジル牛肉輸出業協会(ABIEC)とブラジル動物性タンパク質協会(ABPA)は、ともに当該FTAの進展を評価している。ABPAのリカルド・サンティン会長はABPAの公式HPを通じて、「鶏肉や豚肉などで関税割当が導入されるため、EU市場への輸出機会が増加するだろう」と述べている。
ブラジル原産の重要鉱物は輸出税の賦課が認められるもEU向けには他国より低税率
ブラジルやアルゼンチンは、豊富な重要鉱物資源の埋蔵量を誇る。米州開発銀行(IDB)が2026年3月3日に公開したレポート「Resilience and Growth Prospects in a Shifting Global Economy」によれば、ブラジルやアルゼンチンの盾状地の地下には、銅、リチウム、ニッケル、グラファイト、レアアース(希土類)などの豊富な埋蔵量が存在する(注3)(表7)。重要鉱物は、(1)主要な経済活動に不可欠であり、(2)供給リスクが高いという2つの特性を持つ材料を指す。その上で、各国は自国の産業構造や戦略的優先順位に基づき独自のリストを作成しており、リストに差異はあるものの、一般的には銅、グラファイト、リチウム、ニッケル、レアアースが含まれている。こうした鉱物の需要は、エネルギーシステムの構造変化や新技術の急速な普及により近年急増している。例えば、EVは内燃機関車と比較しても多くの鉱物を必要とし、風力や太陽光発電設備も化石燃料発電以上に大量の鉱物を使用する。
| 鉱物 | 国名 |
|---|---|
| アルミニウム(ボーキサイト含む) | ブラジル、ガイアナ、スリナム、ベネズエラ |
| レアアース | ブラジル(潜在的な生産国) |
| コバルト | ブラジル(潜在的な生産国) |
| 銅 | アルゼンチン、チリ、メキシコ、ペルー、パナマ(潜在的な生産国) |
| グラファイト | ブラジル、メキシコ |
| リチウム | アルゼンチン、ボリビア(潜在的な生産国)、ブラジル(潜在的な生産国)、チリ、メキシコ(潜在的な生産国)、ペルー(潜在的な生産国) |
| マグネシウム | ブラジル |
| ニッケル | ブラジル、コロンビア、グアテマラ |
| 銀 | アルゼンチン、ボリビア、チリ、メキシコ、ペルー |
| バナジウム | ブラジル |
| ウラン | ブラジル(潜在的な生産国) |
出所:IDBの資料を基にジェトロにて作成
こうした背景に基づき、EUメルコスールFTAには、重要鉱物に関連する規定が含まれている。貿易と持続可能な開発の章(第18章)では、責任ある調達に関する義務を規定している。具体的には、第18.11条で、「OECD 紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」の普及や導入を促進および支援すること、そして鉱物サプライチェーンにおける責任ある企業行動に関して、情報交換、共同作業、能力構築を通じて協力することを締約国に求めている。
また、ブラジルに限り、政府が公共政策上適切と判断した場合、重要鉱物に対して輸出規制(輸出税を含む)を課すことが可能だ。ただし、輸出税を課す場合には、EU向けの税率は他の輸出先に課す税率より低く設定しなければならない旨が規定されている(注4)。
ブラジルでは公的医療分野が政府調達から除外
ブラジルは、WTO政府調達協定に加入しておらず、これまでメルコスールが締結したFTAには政府調達に関する条項は盛り込まれていなかった。EUメルコスールFTAは、メルコスールが政府調達に関する条項を盛り込んだ初めてのFTAだ。ただ、ブラジルにおける公的医療保険としての統一保健医療システム(SUS)は政府調達から除外されている。
SUSは、1988年から導入されている公的医療保険で、これにより国民は原則として薬剤費を除く全ての医療サービスを無償で受けることができる。2024年は全国民の76%がSUSを利用した(2025年9月19日付政府系ニュース「アジェンシア・ブラジル」)。SUSが政府調達から除外された背景として、ブラジル政府関係者によれば、ブラジル政府が国産医療機器のシェア拡大を目指していることや、SUS適用医療機関である公的病院の医療機器調達で国内製品や国産技術を優先する、いわゆる特恵マージン(マージン・オブ・プレファレンス)を適用していることが挙げられる。
2024年1月にブラジル政府が発表した「新ブラジル産業プログラム」では、政府はブラジル医療市場における国産医療製品のシェアを、現在の42%から70%まで引き上げることを目指している(注5)。ブラジル政府が医療製品の国産化を急ぐ背景には、新型コロナ感染拡大で直面した医療機器不足、また医療分野の貿易赤字が拡大していることが挙げられる。新型コロナ禍では、感染拡大初期から深刻な医療物資の不足が顕在化し、医療分野における輸入依存度の高さがあらためて浮き彫りとなった。そのため、ブラジル政府は、将来的なパンデミックや少子高齢化社会への対応を見据え、医療機器の安定確保や医療製品の技術移転を重視し、輸入品依存からの脱却を図るべく国産品の競争力強化を目指している。
また、ブラジル保健省は2025年8月、公的医療機関による機器の調達では、特恵マージン(マージン・オブ・プレファレンス)を適用し、国産医療機器が輸入品の価格より10~20%高くても購入されることを明らかにした。適用対象となる製品は、心電計、AED、超音波装置などの医療用品17品目と、手術台、麻酔器、眼科用レーザーなどの専門診療用品(手術用品)11品目。ブラジルでは、外資企業は原則として内資企業(ブラジル企業)と同じ扱いを受けることが憲法により保障されているものの、公的医療および福祉事業については、現在も外資の参入が原則禁止されている(注6)。
- 注1:
-
2026年1月27日付ビジネス短信参照。
- 注2:
-
ここでいうメルコスール諸国とは、メルコスール4カ国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)を指す。NCMコードとは、メルコスール共通関税番号。上6桁はHSコードと同じ。データは2025年(1月~12月)のもの。
- 注3:
-
詳細は、IDB「Resilience and Growth Prospects in a Shifting Global Economy」レポート
参照。 - 注4:
-
EUメルコスールFTA協定文書、ANNEX 2-B EXPORT DUTIES
参照。ブラジル大手法律事務所のピニェイロ・ネット弁護士事務所によれば、2019年にEUとメルコスールが当該協定で大筋合意した際には、ブラジルとEU間の貿易では輸出税の賦課を禁止する輸出税禁止条項が含まれていた。ただ、その後の再協議を経て、同条項の代替条項として記載の条項が盛り込まれた。 - 注5:
-
2026年1月14日付地域・分析レポート参照。
- 注6:
-
ブラジルにおける外資参入規制については、外資に関する規制を参照。
EUメルコスールFTA
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- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部米州課 課長代理(中南米)
辻本 希世(つじもと きよ) - 2006年、ジェトロ入構。ジェトロ北九州、ジェトロ・サンパウロ事務所などを経て、2019年7月から現職。





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