FTA発効で貿易投資が活性化
EUメルコスールFTA(1)

2026年4月17日

2026年1月17日、メルコスール正式加盟4カ国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)とEUはパラグアイの首都アスンシオンでパートナーシップ協定(EMPA)および暫定貿易協定(iTA)に署名した。EUとメルコスールの交渉開始が正式にアナウンスされたのが1999年6月28日であるため、交渉開始から25年以上をかけて署名に至ったことになる。EUとメルコスールの自由貿易協定(FTA)は、物品貿易に関するものだけでなく、サービス貿易、貿易の技術的障壁(TBT)、衛生植物検疫(SPS)、政府調達、競争政策、知的財産などから構成される包括的なものだ。EUとメルコスールは歴史的なつながりが深い。そのためEU企業は、メルコスール最大の経済規模を誇るブラジル市場でのプレゼンスが高い。そうした中、本協定の発効により両国・地域の貿易投資はより活性化するとみられる。本稿では、前編としてEUとブラジルの貿易投資動向を概観し、当該FTAが署名に至るまでの経緯を確認した上で、メルコスール側のセンシティブ品目である自動車と自動車部品の関税削減スケジュールについて紹介する。

メルコスールの重要な貿易投資相手としてのEU

メルコスール域内で最大の経済規模を誇るブラジルにとって、EUは中国に次ぐ貿易相手だ。メルコスール事務局が公開している2024年の貿易統計を確認すると、ブラジルの対EU輸出は輸出額全体の17.1%を占め、輸入でも輸入額全体の23%を占める(表1および2参照)。なお、輸出入ともに相手国第1位の中国は、輸出28%、輸入24.2%を占めるため、ブラジルの貿易は中国とEU向けで5割弱を占めている。

表1:2024年のブラジルの主要国地域・輸出(FOB)(通関ベース)(単位:100万ドル、%)
国・地域名 2024年
金額 構成比
中国 94,372 28.0
EU 57,716 17.1
米国 40,369 12.0
アルゼンチン 13,778 4.1
オランダ 11,720 3.5
スペイン 9,970 3.0
シンガポール 7,875 2.3
メキシコ 7,802 2.3
チリ 6,658 2.0
カナダ 6,317 1.9
ドイツ 5,847 1.7
日本 5,578 1.7
韓国 5,503 1.6
合計(その他含む) 337,046 100.0

出所:メルコスール事務局

表2:2024年のブラジルの主要国地域・輸入(FOB)(通関ベース)(単位:100万ドル、%)
国・地域名 2024年
金額 構成比
中国 63,636 24.2
EU 60,543 23.0
米国 40,652 15.5
ドイツ 13,783 5.2
アルゼンチン 13,577 5.2
ロシア 10,965 4.2
インド 6,850 2.6
イタリア 6,388 2.4
フランス 6,190 2.4
メキシコ 5,767 2.2
日本 5,431 2.1
韓国 5,157 2.0
チリ 4,953 1.9
合計(その他含む) 262,870 100.0

出所:メルコスール事務局

ブラジルと日本の貿易には拡大の余地があるものの、ブラジルの対日本輸出は輸出額全体の1.7%、輸入でも2.1%にとどまる。さらに、ブラジルとの貿易においてメルコスールが自由貿易協定(FTA)交渉を開始していない、あるいはFTAを締結していない主要な貿易相手国(表1および2に記載の上位13カ国)は、中国、米国、ロシア、日本の4カ国のみだ。シンガポールとは2023年12月にメルコスール・シンガポール自由貿易協定(MCSFTA)に署名し、2026年2月1日にシンガポールとパラグアイの間で、2026年3月1日にシンガポールとウルグアイの間で発効した(注1)。韓国とは、2018年5月に交渉を開始し、その後新型コロナ禍で交渉が中断していたが、2026年2月に交渉再開を確認した。

ブラジル向けの投資でもEU企業の存在感は大きい。ブラジル中央銀行によれば、2024年のブラジルの国・地域別対内直接投資では、投資相手国上位13カ国のうち4カ国がEU諸国だ(注2)(表3参照)。メルコスール諸国とEU諸国は歴史的なつながりも深く、EU企業はブラジルにおいて、製造業、農業、食品飲料、エネルギー、物流など幅広い分野へ投資しているのが特徴だ。なお、主要な投資相手国の中で、メルコスールとのFTAがない、あるいはFTA交渉を開始していないのは米国と日本の2カ国のみ。投資相手国第3位のスイスやノルウェーが加盟する欧州自由貿易連合(EFTA)とメルコスールは2025年9月にFTAに署名している。

表3:ブラジルの国・地域別対内直接投資(国際収支ベース、グロス、フロー)(単位:100万ドル、%)
国・地域名 2024年
金額 構成比
米国 8,479 24.4
オランダ 5,369 15.4
スイス 2,166 6.2
チリ 2,074 6.0
英国 1,720 4.9
カナダ 1,690 4.9
スペイン 1,422 4.1
日本 1,348 3.9
シンガポール 1,288 3.7
フランス 1,187 3.4
イタリア 901 2.6
ノルウェー 757 2.2
メキシコ 691 2.0
合計(その他含む) 34,772 100.0

出所:ブラジル中央銀行

二大国における自由貿易志向政権の誕生と第二次トランプ政権の発足がFTA推進を後押し

EUとメルコスールは2026年1月EMPAおよびiTAに署名した。両地域がFTA交渉を開始したのは1999年6月28日のため、25年以上の時間をかけて協議が続いたことになる。メルコスールは、ブラジルやアルゼンチンを中心に、大豆をはじめとする穀物、牛肉、とうもろこしなどの一次農産品に競争力があり、一方EUは、ドイツなどを中心に製造業の特に自動車産業に競争力がある。そのため、フランスやポーランドといったEUの農業大国やブラジルの自動車関連業界団体との協議に時間を要したとみられる。また、1999年以降のブラジルおよびアルゼンチンにおける度重なる政権交代により、メルコスールにおける自由貿易に対する政策的立場が一貫しなかったことも、協議の長期化を招いた要因の1つとみられる。

そうした中、EUメルコスールFTAが署名に至った背景には、2023年1月のブラジルにおけるルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領の就任、2023年12月にアルゼンチンで自由貿易を志向するミレイ政権が誕生したことも影響を与えている。ルーラ大統領は2023年1月の大統領就任時から対EU・FTAをブラジル通商政策の最優先事項の1つに挙げ、メルコスール域内国や欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長との協議を重ねてきた。また、米国トランプ政権の保護主義的な政策により、EUとメルコスールがともに貿易多角化の必要性に迫られたことも、当該FTA協議を加速させた一因だ。

ブラジルでは、2025年4月に国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税措置として、米国での輸入時にブラジル産品に対して10%の追加関税措置が賦課され、2025年7月にはさらに40%の追加関税措置が課された(ブラジルの最大の対米輸出品である原油(HSコード2709.00)や、輸出額の大きい航空機(HSコード8802.30)、オレンジジュース(HSコード2009.12)などは追加関税措置の対象外)。最大の貿易相手である米国向け輸出が制限される中にあって、4億人以上の人口を抱え、域内GDP21兆968億ドルの市場を有するEUとのFTAは、ブラジル政府が目指す自由貿易を推進する通商政策に沿うものだ(表4参照)。

表4:メルコスールとEUの経済規模比較注1:ボリビアは2024年7月、議会で加盟議定書を批准した。現在は、2028年までに国内法規をメルコスールの規制・枠組み(主に関税制度)に適用させるべく準備中のため、メルコスールは4カ国と記載。 注2:データは2024年。
項目 加盟国数 人口 GDP(USD)
メルコスール 4 2億7,141万人 3兆727億
EU 27 4億5,074万人 21兆968億

注1:ボリビアは2024年7月、議会で加盟議定書を批准した。現在は、2028年までに国内法規をメルコスールの規制・枠組み(主に関税制度)に適用させるべく準備中のため、メルコスールは4カ国と記載。
注2:データは2024年。

出所:IMF等

EUメルコスールFTAは、メルコスール加盟各国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)での批准およびEU側での法的手続きを経て発効する(注3)。EUでは、域内の利害関係の調整が難航しているものの、フォン・デア・ライエン委員長は2026年2月27日、当該協定の暫定適用に向けた手続きを進めるとの声明を発表した(注4)。メルコスール側では、同年2月26日にアルゼンチンおよびウルグアイでの批准が完了し、翌月の3月4日には、ブラジルでの批准も完了した。メルコスール側では批准が完了した国から発効できるため、EU側の法的手続きが完了すれば、これらの3カ国とEUとの間で協定が効力を発揮することになる。

内燃機関車は15年かけて関税を撤廃

EUとのFTAが発効すれば、メルコスールとEUの貿易はこれまで以上に活性化するとみられる。当該FTAでは、メルコスール側はEUからの輸入品について品目ベースで91%(金額ベースでも91%)を最長10年、特別な取り扱いを要するセンシティブ品目は最長15年から30年かけて無関税化、EU側はメルコスールからの輸入品について品目ベースで95%(金額ベースで92%)を最長10年かけて無関税化する。

メルコスール諸国側でセンシティブ品目に挙げられているのが自動車および自動車部品だ。2024年のブラジルの自動車生産台数は254万9,000台で、世界第8位(表5参照)。新車販売台数は263万5,000台で世界第6位だ(表6参照)。人口2億人以上を抱えるため内需が大きく、またガソリンエタノールを混合して走行するフレックス・フューエル車が市場の7割強を占める独自の市場であるため、自動車市場は地産地消だ。完成車のMFN税率が35%、自動車部品のMFN税率がおおむね12~15%と高い税率が賦課されていることも、輸入車がブラジル市場で競争力を持ちづらい要因の1つだ。

表5:国別の自動車生産台数(単位:1,000台)
順位 生産国 生産台数
1 中国 31,282
2 米国 10,562
3 日本 8,235
4 インド 6,015
5 メキシコ 4,203
6 韓国 4,127
7 ドイツ 4,069
8 ブラジル 2,550
9 スペイン 2,377
10 タイ 1,469

出所:OICA(国際自動車工業連合会)

表6:国別の新車販売台数(単位:1,000台)
順位 生産国 生産台数
1 中国 31,436
2 米国 16,340
3 インド 5,227
4 日本 4,421
5 ドイツ 3,192
6 ブラジル 2,635
7 英国 2,369
8 フランス 2,155
9 カナダ 1,907
10 ロシア 1,834

出所:OICA(国際自動車工業連合会)

ブラジルの全国自動車製造業者協会(Anfavea)によれば、2024年の新車販売台数のうち最もシェアが大きいのはフィアットで全体の25.5%を占める。次いでフォルクスワーゲン(15.2%)、ゼネラルモーターズ(12%)、トヨタ(7.8%)と続く。欧州メーカーであるフィアットとフォルクスワーゲンの2社のみでブラジル新車販売市場の4割強を占める。また、近年はBYDや長城汽車を中心とした中資系メーカーによる価格競争力を持つ輸入車の販売が増加している影響もあり、日系自動車関連企業は新たな戦略を求められている。

こうした状況下で、EUメルコスールFTAが発効するとEU自動車関連企業の競争力が増すことは避けられない。iTAの協定文を確認すると、メルコスール側では、完成車は協定発効日から関税割当数量枠が設けられ、枠内の関税削減が始まる。8年目まで当該枠が維持される。枠内税率はベースレートから半減される。枠外税率は、6年目までベースレートが維持される。ブラジルの関税割当数量枠は32,000台、アルゼンチンは15,500台、ウルグアイは1,750台、パラグアイは750台だ。15年目で関税は0%になる(表7、表8参照)。

表7:完成車の関税削減スケジュール(ICE、ブラジルおよびアルゼンチン)(2026年内発効を仮定した場合、%)注:「0」年目とは発効日から当該年の年末までの期間を指す。
年目 枠外税率 枠内税率
0 2026 35.0 17.5
1 2027 35.0 17.5
2 2028 35.0 17.5
3 2029 35.0 17.5
4 2030 35.0 17.5
5 2031 35.0 17.5
6 2032 35.0 17.5
7 2033 28.4 17.5
8 2034 21.7 17.5
9 2035 15.0 15.0
10 2036 12.5 12.5
11 2037 10.0 10.0
12 2038 7.5 7.5
13 2039 5.0 5.0
14 2040 2.5 2.5
15 2041 0.0 0.0

注:「0」年目とは発効日から当該年の年末までの期間を指す。

出所:EUメルコスールFTA譲許表

表8:各国の完成車のベースレート(%)
国名 ベースレート 半減
ブラジル 35 17.5
アルゼンチン 35 17.5
ウルグアイ 23 11.5
パラグアイ 10/15/20 5/7.5/10

出所:EUメルコスールFTA譲許表

また、フルハイブリッド車(HEV),プラグインハイブリッド車(PHEV),バッテリー式電気自動車(BEV)を含むいわゆるxEVや燃料電池自動車(FCV)といった新技術搭載車については、内燃機関車よりも長く、18年から30年かけて関税を撤廃する(表9、表10、表11参照)。HEV, PHEV, BEVは18年目に関税が撤廃される。FCVはさらに長く、25年目に撤廃される。

表9:HEV,PHEV,BEVの関税削減スケジュール(FCVを除く)(2026年発効を仮定した場合、%)注1:「0」年目とは発効日から当該年の年末までの期間を指す。 注2:HEV(HSコード8703.40、8703.50)、PHEV(HSコード8703.60、8703.70)、BEV(HSコード8703.80※FCV除く)。
年目 関税率 軽減税率
0 2026 25.0 28.6
1 2027 25.0 28.6
2 2028 25.0 28.6
3 2029 25.0 28.6
4 2030 25.0 28.6
5 2031 25.0 28.6
6 2032 20.0 42.9
7 2033 20.0 42.9
8 2034 20.0 42.9
9 2035 15.0 57.1
10 2036 15.0 57.1
11 2037 15.0 57.1
12 2038 10.0 71.4
13 2039 10.0 71.4
14 2040 10.0 71.4
15 2041 5.0 85.7
16 2042 5.0 85.7
17 2043 5.0 85.7
18 2044 0.0 100

注1:「0」年目とは発効日から当該年の年末までの期間を指す。
注2:HEV(HSコード8703.40、8703.50)、PHEV(HSコード8703.60、8703.70)、BEV(HSコード8703.80※FCV除く)。

出所:EUメルコスールFTA譲許表

表10:FCVの関税削減スケジュール(2026年発効を仮定した場合、%)(ーは値なし)注1:「0」年目とは発効日から当該年の年末までの期間を指す。 注2:FCV(HSコード8708.80)。
年目 関税率 軽減税率
0~6 2026~2032 35.0
7~12 2033~2038 25.0 28.6
13 2039 20.0 42.9
14 2040 20.0 42.9
15 2041 20.0 42.9
16 2042 15.0 57.1
17 2043 15.0 57.1
18 2044 15.0 57.1
19 2045 10.0 71.4
20 2046 10.0 71.4
21 2047 10.0 71.4
22 2048 5.0 85.7
23 2049 5.0 85.7
24 2050 5.0 85.7
25 2051 0.0 100

注1:「0」年目とは発効日から当該年の年末までの期間を指す。
注2:FCV(HSコード8708.80)。

出所:EUメルコスールFTA譲許表

表11:その他の乗用車の関税削減スケジュール(2026年発効を仮定した場合、%)(ーは値なし)注1:「0」年目とは発効日から当該年の年末までの期間を指す。 注2:FCV(HSコード8708.80)。
年目 関税率 軽減税率
0~6 2026~2032 35.0
7~17 2033~2043 25.0 28.6
18 2044 20.0 42.9
19 2045 20.0 42.9
20 2046 20.0 42.9
21 2047 15.0 57.1
22 2048 15.0 57.1
23 2049 15.0 57.1
24 2050 10.0 71.4
25 2051 10.0 71.4
26 2052 10.0 71.4
27 2053 5.0 85.7
28 2054 5.0 85.7
29 2055 5.0 85.7
30 2056 0.0 100

注1:「0」年目とは発効日から当該年の年末までの期間を指す。
注2:FCV(HSコード8708.80)。

出所:EUメルコスールFTA譲許表


注1:
詳細は、2026年2月9日付ビジネス短信2026年3月6日付ビジネス短信参照。 本文に戻る
注2:
中国企業によるブラジル向け投資は、パナマ、ケイマン諸島、英領バージン諸島といったタックスヘイブン(租税回避地)を経由するものがあり、中銀が公開している統計に表れてこない場合が多い。同統計上では3億600万ドルにとどまる。ただし、企業ごとの投資発表を見ると中国企業の勢いは顕著だ。 本文に戻る
注3:
暫定貿易協定(iTA)の協定文23.3条によると両者が寄託国(メルコスールの場合はパラグアイ)に通知した翌々月の1日から効力が発揮される。 本文に戻る
注4:
2026年3月4日付ビジネス短信参照。 本文に戻る

EUメルコスールFTA

執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課 課長代理(中南米)
辻本 希世(つじもと きよ)
2006年、ジェトロ入構。ジェトロ北九州、ジェトロ・サンパウロ事務所などを経て、2019年7月から現職。