売るだけではない越境ECの活用可能性(日本)
市場調査からブランド構築、販路拡大まで

2026年8月7日

越境EC(電子商取引)は、単なる販売チャネルとしてだけでなく、さまざまな目的で活用できる。例えば、海外消費者のニーズや意見を把握するための市場調査の場、ブランド価値を高めるための情報発信の拠点、さらには将来のBtoB取引につながる実績づくりの場として機能する。このように、越境ECは企業と海外市場をつなぐ重要なタッチポイントとなる。

本稿では、ジェトロの越境EC出品販売プログラムの参加企業の取り組み実績を踏まえ、越境ECの活用について実例とともに紹介する。

消費者の生の反応を得て、マーケット起点の販売につなげる

活用方法の1つ目として、商品に対する消費者の反応を踏まえ、販売方法を考えたり、商品開発に生かしたりするための市場調査の場として活用できる。

海外市場では関税や物流費が加わる影響により、単なる価格での競争が難しいことに加え、文化や嗜好(しこう)の違い、ブランド認知度の低さから、日本では売れる商品がそのまま売れるとは限らない。そのため、現地ニーズを踏まえた商品選定・改善や訴求といった販売戦略の策定が重要となる。

ジェトロが実施するアマゾンでの越境EC出品販売プログラムJAPAN STORE(注1)の参加企業に対し、2025年度に実施したアンケートによると、米国アマゾンへの販売を通じて得られた知見・変化として最も多く挙げられた点は「市場調査・戦略策定」であった(図1参照)。ECを通じて消費者の反応を見ることで、海外消費者ニーズの把握や商品改良、訴求方法の見直しにつながったと考えられる。

図1:米国アマゾンへの販売を通じて得られた知見・変化
Amazon.com出品準備で今年度向上したまたは変化があった点についてのグラフ。「市場調査・戦略策定」35%、「物流対応」30%、「商品選定」28%、「Amazonアカウント開設」26%、「商品登録・ページ作成(翻訳・画像等制作を含む)」24%、「ラベル・パッケージ対応」20%、「規制・認証対応」17%、「商標・ブランド登録」16%、「海外口座対応」15%、「税制対応」9%、「その他」2%、「なし」17%。

注:2025年度に米国アマゾン向けの出品準備を行ったと回答した事業者466社を対象とした設問。複数回答。
出所:2025年度JAPAN STORE参加企業向けアンケート(2025年3月実施)を基にジェトロ作成

ECは、購入者が記入した商品レビューや購入データを通じて、出品商品に対する消費者の評価や利用方法を把握できる。実際に、スピーカーなどの家電を販売するある事業者は、アマゾンのレビューをヒントに製品開発につなげているという(注2)。日本と海外では文化が異なるため、自社では想定していなかった用途や受け止められ方をされる場合がある。そうしたフィードバックや需要を受けて、商品開発や訴求内容に反映できるという。

また、ニーズ理解の方法として、他社の売れ筋商品や購入者コメントの比較も有効だ。競合商品の販売ページやレビューを分析することで、訴求ポイントや消費者ニーズの違いも把握できる。先ほどの事業者は、米国アマゾンで同様のスピーカー商品を検索したところ、日本の販売ページでは製品スペックや細かい数値情報が重視される一方、米国ではバーベキューやパーティーなど複数人での使用シーンが強調される傾向にあるなど、付加価値の置き方が異なることに気づいたという。販売先国の文化に応じて、より消費者に刺さる訴求内容となるよう、販売ページを調整することがポイントとなる。

このように、越境ECを通じて世界各地の消費者の反応や市場動向をつかむことができる。その上で、商品開発や販売方法の試行錯誤を重ねることで、マーケット起点で自社の強みを生かした戦略設定が可能となる。

こだわりや世界観を訴求し、ファン獲得につなげる

活用方法の2つ目として、ECは商品スペックだけでなく、生産背景やこだわりなどのストーリーを伝えることにたけており、ブランド価値の訴求に適している。

例えば、茶や味噌(みそ)、菓子などの加工食品を販売するある事業者は、海外の消費者は自身が感じる付加価値を価格より優先するという感触から、自社のこだわりを積極的に訴求している(ジェトロ活用事例参照)。具体的には、「その商品によって購入者の生活がどのように変わるか」を伝えるために、商品販売ページで食品の生産工程や産地の良さ、作り手の思いなどを丁寧に説明している。また、画像や動画などのクリエーティブを通じて、購入後の使い方や食べ方を提案するなど、自社が大切にしている付加価値を丁寧に訴求している。これらが他社との差別化につながり、結果としてリピート客の獲得にもつながっているという。

リピート客となるファンの獲得にあたっては、ECサイトやSNSなどのさまざまなチャネルで消費者の購入動線を複数用意し、総合的なブランド戦略を展開する事業者もいる。

前述のJAPAN STORE参加事業者のうち、自社ECサイトを並行して運用している事業者は34%、インスタグラムのショッピング機能(Instagram Shop)やTikTokショップなどのSNSを活用した販売は8%の事業者が取り組んでいると回答した(図2参照)。チャネルの使い分けは各社さまざまだが、事業者によってはアマゾンやインスタグラム、YouTubeといったデジタルチャネルを、ブランドの世界観を伝える接点として位置付けている場合も多い。

図2:アマゾン販売事業者がアマゾン以外に活用しているチャネル
「海外向けEC販売について、Amazon以外で実施しているもの」のグラフ。「自社EC」34%、「ebay」8%、「Shopee」8%、「SNSを活用した販売(Instagram Shop, Tiktok shopなど)」6%、「Qoo10」3%、「Lazada」2%、「Walmart」2%、「Tmall Global」1%、「JD」1%、「その他」4%、「なし」56%。

注:米英アマゾンに取り組む事業者971社を対象とした設問。複数回答。
出所:2025年度JAPAN STORE参加企業向けアンケート(2025年3月実施)を基にジェトロ作成

ある盆栽用品販売事業者の例を紹介しよう。この事業者はアマゾン、自社EC、各種SNSを活用した総合的なブランド戦略を展開している(ジェトロ活用事例参照)。多くの消費者にリーチできる利点を持つアマゾンを、ブランド認知の裾野を広げるための入り口として位置付けている。関心を持った消費者に対しては、より深い情報を伝えるためにYouTubeページに誘導するなど、各接点を最終的に自社サイトにつなげ、ファン獲得とリピート購入を図っているという。

JAPAN STOREプログラムに参加しているアマゾン販売事業者へのアンケートでは、今後海外アマゾン販売を縮小・撤退すると回答した企業の約4割が、「売り上げがない・採算が合わない」ことを理由に挙げている。「売り上げがあっても利益が残らない」という声もみられ、販売コストが売り上げに見合わないことが大きな課題だ。近年の米国の関税措置やデミニミスルールの撤廃などによるコスト増加といった外部環境を踏まえても、こうしたコスト増を補う売り上げの向上が求められる(2025年10月23日付ビジネス短信参照)。そのためには、付加価値の訴求やリピート購入の増加の重要性がより重要になる。消費者の声を基に訴求を改善し、自社EC・越境EC・SNSを連携させながらデータ分析を繰り返すことで、ファン獲得と売り上げ拡大を狙うことができる。

実績を作りBtoB販売との相乗効果を狙う

市場調査やファン獲得によって海外販売の実績を積み重ねると、将来的なBtoB販売にもつなげやすくなる。これが3つ目の活用方法だ。ブランド認知や販売経験・実績が蓄積されることで、卸売りバイヤーからの評価向上にもつながるためだ。

越境ECでの販売実績は、バイヤーの商品購入への心理的ハードルを下げる安心材料の1つとなる。BtoBに取り組むJAPAN STOREプログラム参加企業からも、越境ECの実績が商談時の信頼獲得につながったとの声が聞かれる。

また海外販売の経験や知識を証明でき、交渉の土台に立ちやすくなることも副次的効果といえるだろう。バイヤーとの交渉においては、取得済みの認証はもちろんのこと、越境EC販売で得られた販売個数や価格、物流に関する知識も活用できる。自社での商流も確保されており、消費者の購入相場や価格感覚を生かせるため、価格交渉や商談を進めやすくなると考えられる。

ある工芸品制作販売事業者は、越境ECで一定の実績があったことでBtoB商談が進めやすくなったという(ジェトロ活用事例参照)。生産数量が限定される工芸品では、価格を売りにした販売が難しい。しかし、越境ECで自社のブランディングにより付加価値を付けた販売実績を一定数確保できていたため、バイヤーとの商談では利益が出ない場合には妥協せず断ることができた。越境ECという自社の販売チャネルを確保していたからこそ、「いざとなったら自ら販売する」という選択肢を持つことができたといえる。越境ECが売り上げだけでなく、海外取引における交渉力を高める役割も果たした事例だ。

ただし、商流に関しては、BtoBとBtoCの両方で販売する場合、バイヤーによってはECなどの別販路での販売を認めないケースもある。販売権や商流管理については事前に十分な確認や調整が必要となるため、留意しておきたい。

越境ECの利点を生かし海外展開を

越境ECは、消費者の反応を活用した市場調査から始まり、ブランド構築やファン獲得を経て、最終的にはBtoB商談や海外販路拡大につなげることができる(図3参照)。消費者とのタッチポイントを起点に事業を発展させていく点が、越境ECの大きな特徴の1つといえる。

図3:越境EC活用の発展モデル
越境ECへの出品・販売→海外消費者の反応取得(レビュー・購買データ)→商品改良・訴求改善→ブランド構築→ファン獲得・リピート購入→販売実績獲得・認知度向上→BtoB商談の信頼性向上→海外販路拡大。海外消費者の反応取得(レビュー・購買データ)→商品改良・訴求改善が市場調査、ブランド構築→ファン獲得・リピート購入→販売実績獲得・認知度向上がブランド構築、販売実績獲得・認知度向上→BtoB商談の信頼性向上→海外販路拡大がBtoB展開に類別される。

出所:ジェトロ作成

越境EC販売は、BtoB販売のように一度で大量の発注が来るものではない。一方で、取り組み方次第では幅広い顧客層にリーチし、継続的な接点を持つことで活用の可能性を広げることができる。越境ECを販売チャネルとしてのみ評価せず、市場調査・ブランド構築・BtoB展開を含めた投資として捉えることが重要だ(注3)


注1:
ジェトロのサービス「JAPAN STOREプログラム」を参照のこと。 本文に戻る
注2:
アマゾンでの販売事例外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参考に記載。 本文に戻る
注3:
実際に取り組む場合には、実務者目線で生じる課題を取り上げた次の記事も参考にされたい(2025年11月18日付地域・分析レポート参照)。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロデジタルマーケティング部ECビジネス課
松田 かなえ(まつだ かなえ)
2020年、ジェトロ入構。企画部、ジェトロ・ベンガルール事務所を経て、2023年9月から現職。