脱炭素と経済多角化に向けEV普及が進む(サウジアラビア)
各国企業と業務提携

2025年8月6日

2024年において、サウジアラビアは石油減産の影響下でも経済成長を維持し、自動車市場では乗用車の販売数が増加した。トヨタ自動車と現代自動車が市場シェア上位を維持する一方、中国EVメーカーの進出が加速し、EV生産体制の整備が進展した。サウジアラビアでは自動車の生産台数(組立含む)は少ないが、「ビジョン2030」の一環としてEV生産を脱石油依存・産業多角化の重要分野と位置づけ、EV生産に注力している。本稿では、サウジアラビア市場における自動車市場の現況について報告する。

サウジアラビア経済はプラス成長も、商用車の販売台数が減少

2024年のサウジアラビア経済は、石油減産延長の影響を受けながらも実質GDPが1.3%のプラス成長(2025年2月10日付ビジネス短信参照)となり、乗用車の販売台数は緩やかに増加傾向となったが、商用車の販売台数は減少した。国際自動車工業連合会(OICA)によると、2024年のサウジアラビアの自動車販売台数は、乗用車が前年比9.3%増の70万5,527台と伸張した一方で、商用車は12.0%減の9万9,507台と前年を下回った。サウジアラビア産業・鉱物資源省付属の国家産業開発センター(NIDC)によると、2024年のサウジアラビアでの自動車メーカーの販売台数シェアは、トヨタ自動車が32%を占めて最大であった。続いて現代自動車が15%、長安汽車(Changan)、いすゞ自動車、上海汽車(MG)が5%で拮抗(きっこう)しており、フォード、起亜(KIA)、マツダ、日産自動車などの各自動車メーカーが残りのシェアを占めている(表1参照)。また、同年の車種別ではセダン車44%、スポーツ用多目的車(SUV)38%、ピックアップトラック13%、多目的乗用車(MPV)2%、ハイブリッドバン(HVAN)2%であった。販売台数順に見ると、セダン車では、Dセグメント(注1)が最も多く12万7,052台で、トヨタ自動車とフォードが上位2位を占めた。Cセグメントは10万3,085台で、現代自動車とトヨタ自動車が上位であり、Bセグメントは8万2,067台でトヨタ自動車とスズキが占めた(表2参照)。近年は、いずれのメーカーでも若年層を中心にSUVの人気が高まっており、DセグメントとBセグメントでそれぞれ15%、13%増加した。

表1:サウジアラビアにおけるメーカー別販売台数シェア (単位:%)

グループ名 シェア
トヨタ自動車 32%
現代自動車 15%
長安汽車(Changan) 5%
いすゞ自動車 5%
上海汽車(MG) 5%
フォード 4%
起亜(KIA) 4%
マツダ 4%
日産自動車 4%
吉利汽車(Geely) 3%
ゼネラルモーターズ(シボレー) 3%
三菱自動車 2%
トヨタ(レクサス) 2%
スズキ 1%
ホンダ 1%
ゼネラルモーターズ(GMC) 1%
長城汽車(HAVAL) 1%
プジョー 1%
長城汽車(Great Wall) 1%
BMW 1%
その他 6%

注1:上海汽車(SAIC)はMGブランド、長城汽車はGreat WallとHAVALブランドで展開。ゼネラルモーターズ(GM)はシボレーとGMCブランドで展開。
注2:端数処理の関係で合計が100にならない。
出所:国家産業開発センター(NIDC)からジェトロ作成

表2:セグメント別販売台数(2024年) (単位:台数、%)(△はマイナス値、-は記載なし)

セダン車
セグメント 2023年 2024年 伸び率 上位2車種
D 131,753 127,052 △ 3.6 Camry(トヨタ自動車)、Taurus(フォード)
C 109,163 103,085 △ 5.6 Elantra(現代自動車)、Corolla(トヨタ自動車)
B 78,047 82,067 5.2 Yaris(トヨタ自動車)、Swift(スズキ)
E 13,113 15,491 18.1 Lexus ES(トヨタ自動車)、Kia K8(起亜)
A 4,176 3,361 △ 19.5 Hyundai i10(現代自動車)、 Fiat500(フィアット)
F 195 253 29.7 Bentley Flying Spur(ベントレー) 、Continental(ベントレー)
合計 336,447 331,309 △ 1.5
SUV車
セグメント 2023年 2024年 伸び率 上位2車種
C 110,681 102,905 △ 7.0 Tucson(現代自動車)、 Rush(トヨタ自動車)
D 65,943 76,150 15.5 Fortuner(トヨタ自動車)、Santa Fe(現代自動車)
B 54,799 61,679 12.6 Creta(現代自動車)、MG ZS(上海汽車)
E 44,423 40,544 △ 8.7 Land Cruiser(トヨタ自動車)、Patrol(日産自動車)
A 156 22 △ 85.9 Jimmy(スズキ)、 Casper(現代自動車)
合計 276,002 281,300 1.9
ピックアップ車
セグメント 2023年 2024年 伸び率 上位2車種
C 62,728 78,147 24.6 Hilux(いすゞ)、D-Max(いすゞ)
D 15,137 17,108 13.0 Land Cruiser 70(トヨタ自動車)、Changan Hunter(長安汽車)
A 205 479 133.7 Suzuki Carry Van(スズキ)
合計 78,070 95,734 22.6

出所:国家産業開発センター(NIDC)からジェトロ作成

サウジアラビア向けの小型車・中型車の乗用車輸出は引き続き好調を維持

主要国の2024年におけるサウジアラビア向けの乗用車輸出を見ると、日本からの輸出は、排気量1,000cc以上1,500cc未満の小型車は前年比1.5倍の3,610台、排気量1,500cc以上3,000cc未満の中型車は前年比1.1倍の9万5,476台、3,000cc以上の大型車は5.4%減の3万3,200台であった。中国は、小型車が前年比1.2倍の13万9,011台、中型車が前年比1.3倍の7万9,309台、大型車の輸出実績はなく、小型車と中型車がともに増加に転じた。インドやタイからは小型車輸出が増加傾向にあり、インドは前年比1.1倍の11万9,258台、タイは前年比1.2倍の4万9,859台。中型車はインドが前年比61.9%減の2,145台、タイは前年比1.4倍の1万141台。大型車は、インドは輸出実績がなく、タイは前年比78.2%減の130台であった(図1参照)。

小型車や中型車の需要が高まっている背景として、女性の運転免許取得の解禁がある。2016年4月に発表された国家改革戦略「ビジョン2030」において、女性の社会進出が重要な施策の1つとして掲げられ、その一環として2018年に女性による運転免許の取得が解禁された(2018年6月26日付ビジネス短信参照)。都市部では女性の運転免許の取得が進み、セカンドカーの需要が拡大。各自動車メーカーは、女性をターゲットとしたプロモーション施策を実施したことにより、手頃な価格帯の車種が市場で高い関心を集めた。また、中国の各自動車メーカーが低価格かつ高機能な小型・中型車のラインアップを推進したことが小型車の需要を後押しする要因にもなっている。中型車はファミリー層を中心に安定した人気を維持している。

図1:主要国の対サウジアラビア乗用車輸出推移
日本からの輸出は、排気量1,000㏄以上1,500cc未満の小型車は前年比1.5倍の3,610台、排気量1,500㏄以上3,000cc未満の中型車は前年比1.1倍の9万5,476台、3,000㏄以上を大型車は5.4%減の3万3,200台であった。中国は小型車が前年比1.2倍の13万9,011台、中型車が前年比1.3倍の7万9,309台でともに増加に転じた。インドやタイからは小型車輸出が増加傾向にあり、インドは前年比1.1倍の11万9,258台、タイは前年比1.2倍の4万9,859台であった。

注1:便宜的名称として排気量1,000cc以上1,500cc未満を小型車、同1,500cc以上3,000cc未満を中型車、同3,000cc以上を大型車とした。
注2:小型車・中型車・大型車の2024年輸出台数が多い国順に列挙。
注3:サウジアラビア総合統計庁(GASTAT)は独自の製品群ごとにグループ化しているため、Global Trade Atlasにて輸出側の統計を利用。
出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

中国からの商用車の輸出が拡大

2024年の主要国のサウジアラビア向け商用車の輸出をみると、小型・中型・大型トラックは中国からの輸出が増加しているが、他の主要国はほぼ軒並み大きく減少している。5トン未満の小型トラックでは、中国が前年比1.6倍の1万7,014台、インドが前年比23.0%減の1万5,349台となった。5トン以上20トン未満の中型トラックでは、日本が前年比43.1%減の9,319台、中国が前年比1.5倍の1,017台だった。20トン以上の大型トラックは中国が前年比1.8倍の5,617台、EUが46.8%減の1,428台となった。なお、商用車の車種別の販売統計は発表されていない。

図2:主要国の対サウジアラビア商用車輸出推移
小型・中型・大型は中国からの輸出が増加しているが、他の主要国は軒並み大きく減少している。5トン未満の小型トラックでは、中国が前年比1.6倍の1万7,014台、インドが前年比23.0%減の1万5,349台となった。5トン以上20トン未満の中型トラックでは、日本が前年比43.1%減の9,319台、中国が前年比1.5倍の1,017台だった。20トン以上の大型トラックは中国が前年比1.8倍の5,617台、EUが46.8%減の1,428台となった。

注1:便宜的名称として、5トン未満を小型トラック、5トン以上20トン未満を中型トラック、20トン以上を大型トラックとする。
注2:小型トラック・中型トラック・大型トラックの2024年輸出台数が多い国順に列挙。
注3:サウジアラビア総合統計庁(GASTAT)は独自の製品群ごとにグループ化しているため、Global Trade Atlasにて輸出側の統計を利用。
出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

EV市場は拡大、今後も生産増加を予測

サウジアラビア政府は「ビジョン2030」で、自国での生産や技術開発を重視する方針を掲げており、その取り組みの一環として、自動車産業を重要な成長分野の1つとして育成していく方針を示している。中でも、電気自動車(EV)の生産と普及に取り組んでおり、同国のEVの普及状況については、2023年のEVの輸入台数は合計779台と限定的だったが(2024年10月8日付地域・分析レポート参照)、イタリア大手自動車コンサルティング会社「forcus2move」によると、2024年の販売台数は2万4,092台に達し、サウジアラビアのモビリティー分野における転換点となったとしている。2021年に発足したサウジ・グリーン・イニシアチブ(SGI)(2022年11月9日付ビジネス短信参照)において、サウジアラビア政府は2060年までにカーボンニュートラルの達成を目標に掲げており、2030年までに首都リヤドの全車両30%をEVに切り替えるとしている。大手コンサルティング会社PwCの「eMobility Outlook 2024」によると、サウジアラビアの消費者の40%以上が今後3年以内にEVの購入を検討していると回答しており、政府はEVセクターの開発に推定390億ドルも投資をしている。2024年9月にリヤド市内で開催された「第3回EVオートショー2024」において、登壇者がサウジアラビア全土でEVディーラーが増加している現状について「2025と2026年はレンタカー業界・法人向け(B2B)セクターがEV導入の原動力となる。2026年末までに米国や欧州のブランドを含むディーラーが店舗を開設し、2026年までにEV生産が増加するだろう。業界にとって大きな転換点となり、市場の購買力や車の調達先に変化をもたらす」と述べた。今後は、テスラの市場参入、Ceerやルシード・モータースの現地生産(後述)、サウジアラビア政府支援によるインフラ投資により、EVシフトを急速に進めていくとしている。

Ceerが多くの業務提携を締結、他国のEVメーカーも進出

サウジアラビア初のEVブランド「Ceer」は2022年11月、サウジアラビア公的投資基金(PIF)と台湾の鴻海科技集団(フォックスコン・テクノロジー・グループ)の鴻海精密工業との間の合弁企業として設立された(2022年11月7日付ビジネス短信参照)。Ceerは2024年3月に、キング・アブドゥッラー経済都市(KAEC)内にEV製造施設、シーア・マニュファクチャリング・コンプレックス(Ceer Manufacturing Complex)を建設するため、同国の建設会社モダン・ビルディング・リーダーズ(Modern Building Leaders)と50億リヤル(約1,925億円、1リヤル=約38.5円)の建設業務を受注したと発表した。この施設には、プレス工場、ボディ工場、塗装工場、一般組立工場など、自動車生産の各段階に対応する専用ゾーンのほか、物流、廃棄物管理、倉庫、オフィス、水処理システム、車両テストコースなども設置された。また、同年12月にドイツのプレス機械メーカーのシューラーと提携し、全自動プレス工場の供給・設置を行った。

2024年6月にCeerは、国連グローバル・コンパクトに加盟した(注2)。また、同月には韓国の現代トランシスと、電気自動車駆動システム(EDS)(注3)の供給に対し82億リヤルの業務提携を行った。同年10月、PIFとサウジ電力会社(SEC)の合弁会社であるイーヴィー・アイ・キュー(EVIQ)と、充電インフラ整備を強化する覚書を締結した。また、同月には西部州のヤンブー王立委員会(RCY)とも、産業・人材開発の協力について覚書を締結した。同年11月にクロアチアのリマック・テクノロジー(Rimac Technology)と、Ceerの主力モデル向けの高性能電動駆動システムの供給について覚書を締結した。2025年2月には自動車用高性能シートの製造を行うイタリアのサベルト(Sabelt)と5億4,300万リヤルの業務提携を発表し、Ceerの次期フラッグシップモデルであるEセダンおよびSUV向けに革新的なスポーツシートの設計、開発、製造を行うとした。また、Ceerは同年2月にリヤドで開催された第3回PIF公共部門フォーラムにおいて、サウジアラビア企業を中心に総額55億リヤルになる11件の新規パートナーシップ提携を発表した(表3参照)。

表3:第3回PIFフォーラム パートナーシップ提携
No 企業名 提携内容
1 ジャミール・セントラル・エアコンディショナーズ HVAC(空調)システムの製造
2 ジャミール・プラスチック・インダストリアル プラスチック射出成形部品の供給
3 オベイカン・グラス ガラス部品の供給
4 アブドゥル・ラティフ・ジャミール・エンタープライゼス アルミホイールの供給
5 サウジ・カンパニー・フォー・コントロールズ・アンド・メンテナンス EV用ポータブル充電器の供給
6 アラビアン・プラスチック・インダストリアル ブロー成形部品の供給
7 サウジ・アルミニウム・キャスティング・カンパニー アルミ鋳造部品の供給
8 ファースト・テレコム・インダストリーズ 小型プレス部品の供給
9 シーティーアール(CTR、韓国) アルミ鍛造部品の現地生産化

注:11件の契約締結を行っているが、残り2件のパートナーシップ提携は不明。
出所:Ceerプレスリリースを基にジェトロ作成

Ceerは、これまでフォックスコン、BMW、シーメンス、リマック、現代トランシス、サベルト、シューラー、ドイツの機械・設備大手デュルなどグローバル展開している企業と業務提携している。また、キング・サルマン・オートモーティブ・クラスター(King Salman Automotive Cluster)(注4)に、米国の自動車用シートシステムのリア(Lear)、フランスの自動車シート・コックピット部品のフォルヴィア(Forvia)、韓国の車体部品・プレス加工品のシンヨン、オーストリアのバッテリーシステム製造のベンテラー(Benteler)、米国の自動車産業向けのプラスチック成形部品のジェイビス(JVIS)、イタリアのタイヤメーカーのピレリ(Pirelli)などが現地生産を進めている。Ceerはサプライヤーエコシステムの構築において現地化の重要性を認識しており、現地企業263社とも業務提携を確立している。モダン・ビルディング・リーダーズ(MBL)、ナヒル・コンピューター(Nahil Computer)、ブーパ・アラビア(Bupa Arabia)、アトラス・インダストリアル・イクイップメント(Atlas Industrial Equipment Co.)、サウジ・ビジネス・マシーンズ(Saudi Business Machines)、リヴァ・インシュアランス(Liva Insurance)などに、総額66億リヤルの事業を発注している。

米国の新興EVメーカー、ルシード・モータース(Lucid Motors)は2022年5月、KAECに工場建設を開始した(2022年5月27日付ビジネス短信参照)。その後、2024年3月にPIFは、ルシードに約10億ドルを融資する形で出資した。同年8月には、PIFから総額15億ドルの資金提供が行われた。2025年1月には「Made in Saudi」プログラムに認定され、製品に「Saudi Made」のロゴを使用することが許可された。同年3月には、ルシード・モータースの中東担当マネージャーがサウジアラビアの番組「Frankly Speaking(Arab News)」に出演し、「サウジアラビア工場は2026年末に完成予定で生産能力は15万台。2027年初頭から世界向けに生産を開始する予定」だと言及した。同年5月にキング・アブドゥッラー科学技術大学(KAUST)と、EV技術・自動運転分野での戦略的提携契約を締結したことを発表した。

その他、EV関連の動きとしては、2024年5月にBYDがリヤド市内に販売店を開設(2024年10月8日付地域・分析レポート参照)、現地代理店アル・フッタイム・エレクトリック・モビリティ・ソリューションズ(Al-Futtaim Electric Mobility Solutions)を通して運営している。また、2025年4月、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコの完全子会社であるサウジアラムコテクノロジーとBYDが共同開発契約、新エネルギー車の共同開発に関する戦略的提携契約の締結をした。

2025年6月には米国のEVメーカーであるテスラが、リヤドに初のテスラセンターをオープン。モデル3、モデルY、サイバートラックの販売を開始した。また、リヤド、ジッダ、ダンマンの3カ所に合計24基のスーパーチャージャーが導入されている。


テスラのサイバートラック(ジェトロ撮影)

EV普及に取り組むも、多くの課題を抱える

サウジアラビア政府はEVの普及に向け、Ceerやルシード・モータースへの投資、EV充電インフラの拡充に加え、政府車両のEV化、EV関連の製造業者や部品供給業者に対する法人税免除、関税優遇などのインセンティブを用意している。NEOM(未来型都市)では先行して、ガソリン車の乗り入れを禁止、EV・水素車のみを許可するなどの取り組みを実施している。しかし、EV普及の課題として、リヤド、ジッダ、ダンマンなどを除く地方では、充電ステーションが極めて少なく、幹線道路や駐車場への急速充電器の設置が進んでいない。特にリヤドとメッカ間(約900キロメートル)の幹線道路には、充電ステーションが十分に設置されていない。また、高温によるバッテリー性能や寿命への影響が懸念されている。

Ceerのように国産EVブランドの開発が進められているが、量産段階には入っておらず、EV普及にはまだ時間がかかると見られている。また、消費者視点では、欧州や中国のようなEV購入補助金や税制優遇、EV専用レーンや登録優遇などの購入を促すための政策インセンティブは限定的となっている。産油国であるサウジアラビアでは、レギュラーガソリン価格(オクタン価91)が1リットルあたり0.58ドル(2025年7月時点)と非常に安価のため、EVを購入することのメリットが薄く、コスト意識によるEVシフトが起きにくい土壌がある。そのほか、同国ではEV用部品を取り扱う専門業者は少なく、地方では修理やメンテナンスへのアクセスが困難などアフターサービス体制は未整備である。また、トラック・バスなどの商用車向けEVの導入が進んでおらず、商用分野の脱炭素も課題となっている。これら諸課題をクリアしていくことがサウジアラビア政府に求められており、EV普及の鍵となるだろう。


注1:
セグメントA:軽自動車、セグメントB:小型車、セグメントC:中型車、セグメントD:大型車、セグメントE:上級車、セグメントF:高級車。
注2:
企業が人権、労働、環境、腐敗防止に関する10原則を支持し、責任ある行動を実践することを求める国連のイニシアチブ。
注3:
電気自動車駆動システム(EDS)は、電気自動車の動力源であるモーターを制御し、車両を走行させるためのシステム。同社のEDSは電気自動車駆動に必要なモーター、電力を変換してモーターのトルクを制御するインバータ、動力を車両に必要なトルクと速度に変換して伝達する減速機を一体型に構成した「3-in-1」製品。
注4:
サウジアラビアがキング・アブドラ経済都市(KAEC)に設立する、自動車産業に特化した産業団地。2025年2月に、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子兼首相が、KAEC内の自動車製造ハブを「キング・サルマン・オートモーティブ・クラスター」と命名。
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
林 憲忠(はやし のりただ)
2005年、ジェトロ入構。市場開拓部、ジェトロ大阪、ジェトロ・プノンペン事務所、ジェトロ・チェンナイ事務所、農林水産部、国税庁、海外調査部中東アフリカ課を経て、2022年8月から現職。