変化する競争環境、輸出管理への対応
中国ビジネスの最前線(後編)

2026年3月11日

ジェトロは2025年12月18日、ウェビナー「中国ビジネス最前線:日本企業の課題と対応」を開催した。同ウェビナーでは、ジェトロ調査部中国北アジア課の小宮昇平リサーチマネージャー、小林伶課長代理、藤原智生課長代理がそれぞれ「日系企業の中国ビジネスの現状と課題、黒字企業の取り組み事例」「変化する中国企業との競争環境、中国企業の海外展開とスマート製造の動向」「中国の輸出管理の実態と日系企業の共通課題、対応の方向性」をテーマに中国ビジネスの最前線について講演した。本レポートでは小林課長代理と藤原課長代理の講演について紹介する。連載の後編。

第三国への進出が加速する中国企業

小林課長代理は第三国においても存在感が高まる中国企業の海外展開の状況とスマート製造の動向について解説した。以下は発言要旨となる。

中国市場では引き続き中国企業との競争が激化している。そうした中、中国市場で好調を維持する進出日系企業においては、中国国内生産の推進や権限移譲を含めた中国国内一貫体制の構築など、中国企業が強みとする「スピード」や「価格競争力」の向上に向けた取り組みを強化する事例もみられている。

他方、日系企業の競合先としての中国企業の存在感は、中国市場のみならず、ASEANなど第三国市場でも高まっている(図参照)。

図:競争力が最も強い相手として中国企業を挙げた割合(製造業・ASEAN国別)
ASEANの国別で見ると、タイでは2025年が40.1%、2024年が33.2%。マレーシアでは2025年が34.2%、2024年が32.0%、フィリピンでは2025年が31.3%、2024年が15.2%、ベトナムでは2025年が30.8%、2024年が24.6%、インドネシアでは2025年が29.0%、2024年が17.8%、シンガポールでは2025年が27.8%、2024年が30.8%となり、シンガポールを除き、軒並み増加傾向にある。

注:2024年度調査、2025年度調査ともに有効回答30社以上の国。
出所:ジェトロ「2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

中国企業の海外展開加速には、中国国内の構造問題に起因する動きと、米中対立など外部情勢を受けた動きの二つが影響しているとみられる。国内では、不動産市場の低迷や地方の財源不足、少子高齢化などの構造的な問題が重なり、消費マインドが低下。国内需要が弱い状態が続いている。他方で、こうした状況の中でも持続可能な経済成長を維持するため、中国政府は製造業の高度化や、「新たな質の生産力」(注)の推進など、「強い供給」を生み出す政策を継続してきた。その結果、需要が供給を下回る「需要不足」が顕在化。デフレ圧力の上昇や企業の利益率の低下を招き、「内巻」と呼ばれる厳しい過当競争が深刻化している。こうした国内市場の構造問題を背景に、多くの中国企業が海外市場に活路を求め、海外展開を加速させている。

一方、米中対立により米国の輸出管理が強化されるなどの外部情勢を受けて、中国政府が科学技術の「自立自強」や、サプライチェーンの強靱(きょうじん)化に向けた政策をより強く推進。戦略分野を中心に、研究開発や最新設備導入などに関する投資が後押しされた。その結果、コスト面のみならず技術面でもキャッチアップしてきた中国製品が海外市場でも競争力を得て存在感を高めつつある。加えて、米国による追加関税リスク回避の観点から、米国向け輸出について輸出先の多元化や、ASEANなどへの生産地の変更に取り組む動きも加速している。

実際に中国の対外直接投資統計を見ると、中国の2024年の対外直接投資額(フロー)は前年比8.4%増の1,922億ドルで、2023年に続いて2年連続で増加した。地域別ではASEANへの投資が36.8%増と堅調な伸びとなり、過去最高額を記録。対ASEAN投資では、特にシンガポール、インドネシア、タイ、ベトナム向けなどで急激に増加しており、業種別では製造業が最大の構成比を占め、前年から約7割増となった。

また、中国製造業企業の進出が活発になる中、ASEANでの生産需要の高まりに伴い、中国からASEANへの蓄電池や自動車部品などの中間財の輸出が増加。中国で生産された中間財を ASEANで組み立て、完成品を現地市場・グローバルに輸出するという流れが強まっている(詳細は「中国企業のASEAN展開に関する動向把握(2026年2月)」参照)。

ASEANでの組み立て生産においては、足下では、高いコスト競争力を有する中国からの輸入部品が多くを占めるとされる。進出先の政府の要請や、組み立て工場の稼働率上昇、生産量の増加などに伴い、関連サプライヤーもさらに動いてくる可能性があり、先を見越して進出してくる中国企業もみられるとの指摘も聞かれる。既に蓄電池、プリント回路基板(PCB)など現地政府が奨励する産業分野を中心に、タイ、ベトナムなどで中国企業による生産拠点設置が進むなど、一部産業ではサプライチェーン移管の動きがみられている。まずは大手企業の動向をフォローすることで、サプライチェーンの変化の先読みにつながる。

また、ASEANで投資を拡大する大手中国企業の展開事例からは、競争が激しい中国市場で勝ち抜いてきた企業が、香港市場で上場して資金を調達し、最新鋭の工場設備で大規模な生産能力を構える事例が目立つ。そうした工場の中には、中国で開発・運用してきたスマート製造の技術を横展開するケースもみられ、これらを支える産業用ロボットの輸出や、データセンター建設などにおいても中国企業の動きが活発となっていることから、今後の動向を注視する必要がある。

中国市場で中国企業と競争・連携してきたノウハウや人脈は重要な経営資源だ。日本企業がASEANなど第三国市場での対応を検討する上で、中国企業の戦略、技術力の現在地、強みの源泉を捉えることが重要と考えられ、そのためには中国における企業動向・政策動向を把握していくことも重要となる。また変化するグローバルビジネス環境の中での中国拠点の役割をしっかりと位置付け、海外拠点間の情報・ノウハウ共有や、それらを総合的に踏まえた経営的視点に基づく体制整備が喫緊の課題だ。

中国の輸出管理強化への対応を迫られる日本企業

続いて藤原課長代理は中国の輸出管理の概要と日本企業への影響について講演した。以下は発言要旨となる。

中国の輸出管理に係る法制度の体系は大きく分けて、一般的な貨物・技術の輸出管理と両用品や軍用品などに関する安全保障貿易管理で構成されている。安全保障貿易管理の基本法である輸出管理法に基づき、両用品目に関する具体的な内容を定めたのが、2024年に施行された両用品目輸出管理条例だ。同条例では輸出時に許可が必要な管理規制リストやキャッチオール規定などが整備された。米中摩擦などを背景に、両用品目輸出管理リストにある品目のほか、さまざまな品目が管理品目に新たに追加されている。

最も日本企業への影響が大きかったのが、4月4日から開始した7種のレアアースの輸出管理強化(2025年4月7日付ビジネス短信参照)だ。管理対象となった7種の中でも特に影響が大きかったのは、永久磁石製造に使用されるサマリウム、ジスプロシウム、テルビウムなどであった。

これに伴い磁石全般の中国からの輸出が滞るケースが継続的に発生した。磁石は自動車や電気・電子機器などさまざまな製品に使用されており、許認可の取得可否や、取得のスピードがサプライチェーン上の大きなリスクになっている(2026年3月10日付地域・分析レポート参照)。

輸出許可申請にあたっては最終ユーザー・最終用途を証明する書類などの提出が求められる。書類提出に関して、地方商務局の窓口に提出したが、書類に不備があり修正を求められ手続きに時間を要する例をよく聞く。両用品目輸出許可申請表作成ガイドラインなどを事前によく確認することで、なるべくミスによる遅延を防ぐことができる。また許認可フローについてもよく企業からお問い合わせがある。法令上で規定されている標準処理日数(45営業日)や、その日数よりも長くかかる場合の審査フローなどについて理解する必要がある。

このほか該非判定、営業秘密の保護などが共通する課題として挙げられる。該非判定については、商務部のQ&Aなどを参照し、その上で自社での判断が難しい場合は弁護士など専門家に聞くなどの対応がある。提出する書類については、取引企業との間の営業秘密やその他自社の競争力に直結する情報もあると思われるため、当局からどの法律に基づきどの書類の提出が求められているかについて正確に把握し、慎重に判断することが必要となる。

現在、輸出許可は発出されているものの、現状では輸出許可の運用の多くが「個別許可」のため、企業にとっての予見性が低い状態が継続している。今後、企業の輸出予見性確保のためには「包括許可」の運用が重要となる。今後どのように運用されていくか注視する必要がある。

また2025年10月9日に公布された再輸出規制などを含む6つの措置(2025年10月14日付10月14日付10月31日付ビジネス短信参照)について、米中釜山合意により暫定停止となったが、再輸出規制が実施された場合、日本など中国以外の拠点から第三国への輸出にも影響が及ぶ。日本企業への影響は大きいとみられ、暫定停止措置の再開に備え今から対応が必要だ。


注:
イノベーションが主導的役割を果たし、伝統的な経済成長モデルや生産力の発展ルートを脱した高い技術や効率、品質という特徴を備え、新発展理念に符合する生産力とされる。本文に戻る

中国ビジネスの最前線

執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
和田 拓己(わだ たくみ)
2025年、ジェトロ入構。中国北アジア課で中国関係の調査を担当。