中国、米中協議の合意内容を発表、米国は対中関税10%分を撤廃、中国は輸出管理関連措置などを1年停止

(中国、米国)

調査部中国北アジア課

2025年10月31日

中国商務部は10月30日、米中の経済貿易交渉団がマレーシア・クアラルンプールで行った協議の主な合意事項を報道官談話の形式で発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。発表は国営メディア新華網にも掲載外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますされた。主な発表内容は次のとおり。

(1)米国は、中国産品(香港・マカオを含む、以下同)に対する追加関税10%分(いわゆる「フェンタニル関税」)の賦課を取り消す。また、中国産品に対して賦課している相互関税のうち、24%分の賦課を引き続き1年間暫定停止する(注1)。中国はこれに応じて、米国の前述の関税に対して取っている対抗措置を調整する。また、双方は一部の関税適用除外措置の延長に同意する。

(2)米国は、9月29日に公布した輸出管理50%ルール(注2)の実施を1年間暫定停止する。中国は、10月9日に公布した関連の輸出管理措置の実施を1年間暫定停止する(注3)。具体的なプランは今後検討する。

(3)米国は、中国の海事、物流、造船業に対する301条調査の実施を1年間暫定停止する。米国が関連措置の実施を停止した後、中国も米国に対する対抗措置の実施を1年間暫定停止する(注4)。

また、双方は、合成麻薬フェンタニルの禁止に関する協力、農産品貿易の拡大、関連企業の個別案件処理などの問題についても合意したとしている。このほか、双方はスペイン・マドリードにおける協議の成果を再確認し、米国は投資などの分野において積極的なコミットメントを行い、中国は米国とともにTikTok関連問題を適切に解決するとした(注5)。

習国家主席は米中首脳会談で合意実行の重要性を強調

習近平国家主席は10月30日、米国のドナルド・トランプ大統領と韓国・釜山で第2次トランプ政権発足後では初となる対面での首脳会談を行った。

習国家主席は「中米関係はわれわれがともに牽引する下で全体的に安定を保っている」とした上で、「両国は国情が異なり、世界第1位、第2位の経済体であることから、対立や摩擦があるのは正常なことであり、困難や課題に直面しても、両国のトップがしっかりとかじを取り、方向を誤らず、中米関係という大きな船を前進させている」と評価した。

習国家主席は今回の合意について、双方のチームが今後具体化に取り組むとした上で、合意を維持・実行し、成果を上げることが中米両国と世界経済の安心材料になると指摘した。また、経済貿易は中米関係の安定装置や推進装置であり続けるべきで、衝突点になってはならず、双方が大局的な観点で協力による長期的利益に目を向け、相互報復の悪循環に陥ってはならないとも述べた。

新華社報道によると、会談で、両首脳は経済貿易、エネルギーなどの分野での協力強化に合意した。また、両首脳は定期的な往来を行うことに合意し、トランプ大統領は2026年の早期の中国訪問を希望し、習国家主席を米国に招待したとされた。

(注1)スイス・ジュネーブで5月12日に開催された米中経済貿易ハイレベル協議に基づき、米国側は、中国に対して125%まで引き上げた相互関税率を当初の34%に戻し、そのうち24%分の執行を90日間停止し、ベースライン関税の10%を適用していた。また、中国側は、税委会公告2025年第4号で定めた米国商品に対する追加関税34%のうち24%分の実施を5月14日から90日間停止し、残りの10%の関税は適用を継続するとしていた。その後、スウェーデン・ストックホルムでの協議を受けて、米国の対中相互関税24%分の停止と中国による米国への対抗措置の停止はそれぞれ90日間延長されていた(2025年7月30日記事参照)。このほか、相互関税以外に、米国は2月1日、フェンタニルをはじめとする違法に製造された麻薬性鎮痛薬の米国への流入阻止を目的に、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、中国に対して10%の追加関税を2月4日から課す大統領令を発令、その後3月3日に、同追加関税率を10%から20%に引き上げる大統領令を発表していた(2025年3月4日記事参照)。なお、第2次トランプ政権以降の米中間の関税賦課の状況についてはジェトロの特集ページ「米国関税措置への対応」の「米国・中国間関税PDFファイル(426KB)」(10月14日時点)も参照。

(注2)米国商務省産業安全保障局(BIS)は9月29日、輸出管理規則(EAR)の適用範囲を拡大する暫定最終規則(IFR)を公表し、同日から施行した(2025年9月30日記事10月3日記事参照)。この規則改正により、EARのエンティティー・リスト(EL)に掲載される事業体に加えて、新たにEL掲載事業体が株式を50%以上所有する事業体もEARの適用対象となっており、中国政府は同措置に対して強く反発していた。

(注3)中国商務部は10月9日、商務部公告2025年第61号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます「海外における関連レアアース品目に対する輸出管理実施の決定」、商務部公告2025年第62号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます「レアアース関連技術に対する輸出管理実施の決定」、商務部・海関総署公告2025第57号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます「一部の中・重希土類(レアアース)関連品目に対する輸出管理実施の決定」、商務部・海関総署公告2025第56号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます「一部のレアアース関連設備および原材料関連品目に対する輸出管理実施の決定」など複数の輸出管理措置を公布していた(2025年10月14日記事同日記事参照)。

(注4)米国通商代表部(USTR)は、中国の海事・物流・造船分野に対する1974年通商法301条に基づく措置として、10月14日から中国企業が所有または運営する船舶、中国製船舶、中国籍船舶に対して追加料金を徴収しており、中国交通運輸部はこれに対抗するかたちで10月14日より米国船舶に対する特別料金の徴収を実施していた(2025年4月22日記事10月15日記事参照)。

(注5)中国の何立峰副首相(中国共産党中央政治局委員)は9月14~15日、スペインのマドリードで米国のスコット・ベッセント財務長官、ジェミソン・グリア通商代表部(USTR)代表と協議を実施した。同協議で、米中双方は、TikTok関連問題の適切な解決や、投資障壁の削減、経済・貿易協力の促進などについて、協力的な方法で取り組むことに関し、基本的枠組みに合意したと発表した。また、双方が成果文書について協議を進め、それぞれの国内手続きを完了するとしていた(2025年9月18日記事参照)。

(小宮昇平)

(中国、米国)

ビジネス短信 308888b9f0abaa2a