ドイツを目指すディープテック企業
スタートアップの挑戦(1)
2026年3月26日
ジェトロは、横浜市および川崎市の後援のもと、2025年9月29日~10月2日にかけて、スタートアップのグローバル展開を支援することを目的に、「ディープテック・ドイツミッション」をミュンヘンに派遣した。ディープテックとは深いレベルの核心課題(ディープイシュー)に着目し、その解決のあり方を変える革新的なテクノロジー、またはその研究開発に取り組むスタートアップのことだ。同ミッションには、社会課題や地球規模課題への理解、技術の独自性・優位性、実現可能性、市場性、海外展開力などの観点から選定された、RealImage(リアルイメージ)、Zrek(ゼレック)、エニィエッジ、Xtelligence(エクステリジェンス) の4社が参加した(注1)。
4社は同ミッション期間中、ミュンヘンで開催された欧州最大級のスタートアップイベント「Bits & Pretzels 2025」へ参加した。ドイツをはじめ欧州各国および世界各地から集まる起業家、投資家、産業界のリーダー、アカデミア関係者に対し、自社の製品やソリューションを発信し、フィードバックを得ることが主な目的だ。また、ミュンヘン市内のインキュベーションセンターへの訪問などを行った。
本稿は、同ミッションの参加企業に実施したインタビューの内容を取りまとめたものである。前編では、RealImageの小池崇文代表取締役(取材日:2025年12月12日)、Zrekの江口遼馬取締役兼最高執行責任者(COO)(取材日:2025年12月17日)へのインタビューを基に、創業初期段階のスタートアップが海外展開を目指す背景や進出先としてのドイツの魅力について紹介する。
専用機器を必要としない裸眼3D表示ソリューション
RealImage(本社:神奈川県)は、2023年に設立された大阪公立大学および東京工業大学(現・東京科学大学)発のスタートアップである。創業メンバーは2000年代前半から3D技術の研究に携わっており、長年にわたる研究開発によって、商用化可能な裸眼3Dディスプレーの実用化に成功した。同社が開発するディスプレーは、仮想現実(VR)などで用いられるヘッドマウント(頭部装着型)ディスプレーなどの専用機器を必要とせず、裸眼でディスプレーを見るだけで立体映像を認識できるものだ。当初より医療分野を主なターゲットとしており、現在、医療現場で使用されている眼鏡式の3Dディスプレーの代替となる製品の開発を目指している。器具を装着せずに立体視が可能となることで、医療従事者の負担軽減につながる点が特徴だ。
事業展開の可能性について、医療機関向けなどBtoBに加え、 BtoC市場への展開も視野に入れている。まるで目の前に人物が存在するかのような臨場感を提供できる技術的優位性を生かし、オンライン会議など、よりリアルな体験を伝えるための技術として幅広く普及させるためだ。また、ハードウエアの発売にとどまらず、コンテンツの使い方や撮影方法などを指導するコンサル業務を提供していくことも見込んでいる。

人口知能(AI)×ロボットによる工場の自動化で中小企業の人手不足に対応
Zrek(本社:東京都)は2021年に設立。同社は、従来の産業用ロボットは中小企業では導入が難しいという課題に着目した。これまでの産業用ロボットは安全柵の設置が義務付けられていることで広い設置スペースが必要となっていたことに加え、単に繰り返し作業を自動化する仕組みゆえに生産工程の固定化や部品の均一化が求められていた。
同社は、製造業に特化したAIシステムと協働ロボット(注2)を組み合わせ、中小企業でも導入しやすい自動化ソリューションの実現に取り組んでいる。このソフトウェアは、現場で取得した映像を用いてデータを分析し、人が判断するのと同じように、環境の変化や作業工程の変更に自動的に対応ができることが最大の特徴である。また、既存の工作機械・検査機に後から導入可能な点もポイントとなっている。この製造現場への高い適応性を活かし、旋盤への素材投入・取り出し作業などの無人化に取り組んでいる。2025年12月には、神奈川県内の製作所にて実証実験を開始し、国内での実績を確保していく見通しだ。
また、特定業種に特化した模倣学習とシミュレーション技術を活用することで、従来は自動化が難しかった非定型作業の自動化に取り組んでいる。これにより、多品種少量生産や工程変更が頻繁に発生する現場にも適用可能なソリューションの実現を目指しており、人手不足の解消や省人化、生産性向上への貢献が期待される。

海外進出への展望と課題
RealImage、Zrekともに設立間もないスタートアップだが、設立当初から国内市場だけでなく、海外市場への展開も視野に入れている。市場をグローバルに捉え、地球規模の社会課題へのソリューションを展開するディープテックならではの特徴といえる。
RealImageの小池氏は、起業当初から国内外の市場を区別せずに考えてきたという。現在、設立から3年目を迎え、今後の海外展開に向けた情報収集を本格化している段階にある。海外に出ることで、より多くの企業との提携で技術刷新の機会が得られる可能性があると考え、海外展開に対して積極的だ。また、同社の製品に欠かせないハードウエアであるディスプレーは、日本国内の製造事業者が減少している状況だ。特に大型ディスプレーは海外の方が調達しやすいという背景もあり、今後の事業拡大に当たっては、海外企業との連携が重要となっている。
Zrekの江口氏は、製造業における人手不足や自動化ニーズが世界共通の課題であることから、創業初期より海外展開も視野に入れてきたという。加えて、日本では少子高齢化の進展に伴う市場構造の変化も見据え、早い段階から海外市場との接点づくりの重要性を意識してきた。同社は現在、製品の実証実験の段階にあるが、今後はドイツのノルトライン・ウェストファーレン(NRW)州も視野に入れながら、現地での事業機会の探索を進めていく考えだ。今後もドイツへ積極的に赴きながら、現地でのコネクション形成やディストリビューターの確保を進め、資金調達後、現地法人を設立するというロードマップを描いている。
海外展開における課題として両社がともに挙げたのは、現地の法制度や規制、ビジネス慣習に詳しい人材の確保だ。例えば、エンドユーザーへの販売展開に向けて、現地ディストリビューターを見つけることが重要となるが、在住日本人を含む現地コミュニティーに積極的に入り込み、ネットワークを形成していく必要があると考えているという。
ドイツ進出を世界への足掛かりに
両社は今回参加したディープテック・ドイツミッションを通じて、海外展開の第一歩としてドイツを重視する姿勢がさらに高まったという。その理由は大きく、(1)産業インフラ基盤が整っている点、(2)ドイツを起点にEU域内への事業展開の可能性がある点、(3)充実した産学連携の仕組みが整えられている点の3つにまとめられる。
まず、ドイツは産業インフラが充実していることが大きな魅力である。RealImage は、ドイツの医療分野は高度に発展していることから、BtoB事業を展開できる可能性が高いと考えている。またZrekは、同国には自社製品の普及に不可欠となる機械産業の基盤が整っており、加えて作業ラインへのロボット導入に対する抵抗感が低い点を高く評価している。また、ドイツの製造業は成熟しており、高い品質基準を重視する文化がある。そのため、ドイツ市場で事業を成功させることができれば、その実績に基づきEU全域への展開が容易になることが期待できる。さらに、ドイツでは分野別に地域の産業集積が発達しており、産学官連携が整備されている点も魅力だ(2023年12月18日付地域・分析レポート参照、同日付地域・分析レポート参照)。今回のミッションで訪問したミュンヘンの場合、ミュンヘン工科大学(TUM)が産業連携のハブとなっており、同大学を通じた、現地ディストリビューターやベンチャーキャピタル(VC)などの投資家とのネットワーキングがしやすいという声があった。
両社はいずれも将来的には米国への進出も視野に入れているが、進出コストや事業環境などの観点からは、まずドイツで事業基盤を確立していく考えだ。ドイツでの実績を足がかりとしてEU域内へ展開し、その後に米国市場へ進出するという段階的なアプローチを目指す。両社の今後の事業展開に注目したい。
- 注1:
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ドイツミッションの詳細は「ジェトロ横浜、ディープテック・スタートアップの欧州展開を支援 ―ドイツミッション参加4社を決定― 」参照。
- 注2:
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人と同じ作業空間で安全に協力して作業できるよう設計された産業ロボット。従来の産業用ロボットのように柵で隔離せず、人のそばで補助作業・反復作業を担えることが特徴。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部調査企画課
中村 周(なかむら あまね) - 2024年、ジェトロ入構。同年4月から現職
- 執筆者紹介
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ジェトロ香川
中田 智士(なかた さとし) - 2024年、ジェトロ入構。2025年から現職。






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