バオチャウの地方浸透戦略
地場企業の語るベトナムEC市場(3)

2026年7月16日

ベトナムは2023年に人口が1億人を超え、消費市場として関心を集めている。しかし、購買力の差や流通網の制約などにより、日本企業のビジネス展開や商品販売は主に都市部に限られており、特に地方部への浸透は容易ではない。本稿では、ベトナム全土を対象としたマーケティングの成功事例として、日本製化粧品の輸入代理店を務める地場企業のバオチャウ・コスメティック(Bao Chau Cosmetic、以下、バオチャウ)のグエン・ティー・トゥー(Nguyen Thi Thu)最高経営責任者(CEO)にインタビューを行った(取材日:2026年5月28日)。

会社設立の経緯

トゥー社長が日本と関わりを持つようになったきっかけは、日本に滞在していた兄の存在だった。兄から日本人の仕事観や品質に対する考え方を聞き、強く影響を受けたことから、2011年ごろから知人とともに日本の化粧品の輸入事業を始めた。2022年に現在のバオチャウを創業し、2026年5月時点の社員数は20名である。現在は日本の化粧品を中心とした輸入・販売事業を展開しており、そのうち「アンプルール(Ampleur)」ブランドは正規販売代理店として独占契約を締結している。ECなどさまざまな販売手法を活用し、ベトナム全土へ販路を拡大している。


グエン・ティー・トゥー社長(バオチャウ提供)
質問:
販売チャネルとECの位置付けは
答え:
事業を始めた当初(2011年ごろ)は、主に小売店へのオフライン販売が中心だった。ベトナムの化粧品分野では、ECが本格的な販売チャネルとして成長を始めたのは2018年前後だった。しかし、当時は、小売りを中心に展開していたバオチャウにとって、ECは魅力的な販売チャネルと言えるほど成長してはいなかった。
転機となったのは2022年ごろである。正規代理店として取り扱いを始めた「アンプルール」が量販店に適さない高価格帯の商品であったことや、消費者の購買チャネルがECへシフトしたことから、ECに本格的に注力するようになった。現在では、売り上げの約6割をオンライン、約4割をオフラインが占めている。今後はECを通じた消費者への直販が化粧品販売の主流になるとみている。

ライブコマースの様子(バオチャウ提供)
質問:
アンプルールの正規代理店となった経緯は。
答え:
独立前から複数の日本企業との取引を通じて実績を築いていた。パートナー企業の1社から紹介を受けてアンプルールを扱うことになり、2022年9月ごろからECで正式に流通を開始した。
当初はプロセスを重視し、慎重かつ丁寧に確認を重ねる日本式の仕事の進め方に戸惑うこともあったが、次第に理解を深めた。特に日本企業の社員の意識の高さや、会社へ貢献しようとする姿勢には見習うことが多いと感じた。
マーケティングでは、日本製品の強みを表現することを重視している。日本ブランドの強みは、品質やデータに裏付けられた実績などの信頼性にある。それらをベトナムのトレンドに合わせて発信し、消費者に訴求した。
質問:
マーケティング面で具体的に取り組んだことは。
答え:
日本とベトナムでは、消費者の行動が全く異なることに注意が必要だ。当初、日本側から提供されたプロモーション素材はシンプルな商品動画や画像が多く、ベトナムではそのまま使用しても効果が低いものが多かった。そこで、ベトナムにおける商品のブランドイメージや市場でのポジショニングを考え、ベトナム消費者の価値観や行動様式に合うように販促コンテンツを一から作り直す必要があった。
例えば、SNSの発信の方法に違いがある。日本では商品イメージをフェイスブックやインスタグラムで投稿し、実店舗の販売につなげる手法が多い。一方、ベトナムでは、TikTokやYouTubeで専門家やインフルエンサーによる商品の効果や使用方法を紹介するレビュー動画を配信し、オンライン上で集客を実施。その上で、オフラインでのマーケティングイベントと組み合わせる手法が主流となっている。YouTubeでは、ショート動画を通じて消費者の認知を獲得し、TikTok Shopでは販売も同時に行っている。ベトナムのトレンドに合わせて適切な媒体で発信することが重要だ。
質問:
日本製商品のマーケティングを行う上で課題と感じることは。
答え:
日本企業にとって最大の課題は、現地市場の変化のスピードを理解し、対応することだ。現在ベトナムでは、オンラインでの購買が主流であり、トレンドの変化が非常に速い。そのため、デジタルマーケティングを拡充するほか、日本製品がベトナムの気候や消費者の肌質に合うか、などの検証も必要である。店頭での流通拡大だけでなく、ECを含むオムニチャネルで顧客体験まで見据えた戦略を持ち、ベトナム市場に向き合うことが重要だ。

商品体験イベントの様子(バオチャウ提供)
質問:
地方部での販売には、都市部とは異なる浸透戦略が求められるか。
答え:
地方部では都市部と異なる戦略が必要だ。都市部は所得水準が高く、スキンケアに対する消費者の理解も浸透しているが、地方部はそうではない。まず顧客教育から検討する必要がある。
具体的には、オンライン広告で認知度の向上に取り組むとともに、地域の代理店や実店舗に商品を送る。その上で、現地でのプロモーションイベントを開催する。イベントには有識者を招き、肌の診断や無料カウンセリングなどを盛り込んだ体験機会を提供し、来場者を見込み顧客としてフォローアップする。こうしたオンラインとオフライン双方のPR施策を講じることで、本格的な販売を行うことができる。弊社はこのような方法で、これまで中部はゲアン省やタインホア省、南部ではカントー市やドンナイ市など、全国での販売実績を積み上げてきた。
商品を扱い始めた当初の3~ 5年間は、こうしたブランディングや認知度向上に向けた取り組みが重要だ。弊社では、広告宣伝費に販管費の2~3割を費やしている。一度ブランドとして認知されればコストを削減することは可能だが、ブランドイメージを十分に構築できていない場合、売り上げは持続しない。
質問:
独占契約以外の商品も扱っているか。販売戦略に違いはあるか。
答え:
弊社では独占契約以外の商品も扱っているが、これらは小売店のみを対象に販売しており、オンラインでは出品していない。例えば、ハトムギ化粧水などの有名ブランドは定番商品であるが、取扱事業者も多く競争が激しい。これらの商品は、ECの販売チャネルで差別化することは困難なため、小売店側からラインアップとしてそろえたいという要望に応じて仕入れている。こうした商品は、日本側のプロモーションや供給価格の変動にも影響を受けやすいため、収益性が低い。弊社は、アンプルールのような独占契約に基づき流通する商品について、ブランディングから携わることで、ベトナム市場でのポジションを確立し、維持することを重視している。
質問:
今後の展開は。
答え:
弊社のコアバリューは「顧客第一」「製品の品質」「誠実さと志」である。これと合致する日本企業の商品を扱い、日本ブランドの価値を浸透させていきたい。現在、新たなブランドとの契約に向けて交渉しているほか、中長期的にはOEM製品を活用して自社ブランドの立ち上げも目指している。
質問:
日本企業へのベトナム市場参入時のアドバイスは。
答え:
ベトナムでは、スピードと柔軟性が求められることは伝えたい。ベトナムにもさまざまな行政手続きがあるが、これらに迅速に対応することが重要だ。書類の準備などに時間をかけていると、その間に他国の企業に市場を取られてしまう。加えて、ベトナム市場向けのパッケージ、商品設計の変更やデジタルマーケティング施策など、ローカライズに向けて工夫の余地があるように見受けられる。
もちろん、働き方や人間性には非常に学ぶところが多く、技術力も高いと感じている。これらの価値をベトナム市場に浸透させるためには、ベトナム市場に合わせた商品設計や現地からのフィードバックを反映する姿勢が不可欠だ。

現地市場に根差したマーケティングとパートナーシップの重要性

高品質な商品であっても適切なマーケティングを行わなければ、競争力を維持することは困難だ。また、日本商品を高く評価してくれる市場であっても、正しく訴求できなければ消費者を振り向かせることはできない。日本の商品の魅力を海外の、特に地方部に浸透させるためには、現地市場の理解に基づくプロモーション戦略立案が重要だ。しかし、日本企業が独力で現地を理解することは容易ではない。バオチャウの取り組みは、バイヤーを単なる販売先ではなく、現地市場への日本商品浸透戦略のパートナーとして位置付けることの重要性を示しているといえる。

執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所 ディレクター
河野 尭広(こうの たかひろ)
2015年、ジェトロ入構。新興国進出支援課、国際ビジネス人材課で高度外国人材活躍推進事業の立ち上げに従事。2021年、ハノイでの語学研修(ベトナム語)、企画課を経て、2024年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所
ファム・トゥイ・ティエン
2022年からジェトロ・ハノイ事務所勤務。ジェトロの日本企業と海外バイヤーをつなぐオンラインマッチングプラットフォーム「Japan Street」事業を担当。