OMEコスメティックの戦略
地場企業の語るベトナムEC市場(2)

2025年10月9日

本連載は、無店舗型のオンライン販売事業に特化するベトナム企業へのインタビューを通じ、ビジネスモデルや、電子商取引(EC)とデジタルマーケティングの活用方法など、日本企業のベトナム市場参入機会を探る。

後編では、輸入化粧品の代理店として事業拡大に成功したベトナムの地場企業オーエムイー(OME)コスメティック(以下、OME)のグエン・ティエン・ナム(Nguyen Tien Nam)最高経営責任者(CEO)に話を聞いた(ヒアリング日:2025年7月2日)。

OMEの成り立ち

輸入化粧品の販売を手がけるOMEは、2020年に新型コロナウイルスの世界的流行が始まった時期に設立された。当時、ベトナムは新型コロナウイルスの感染拡大防止に成功し、流行は他国と比較すると小規模だったが、消費者の購買経路はオンラインへ移行しつつあった。OMEはコストの最適化、販売網の拡大、顧客体験の向上を目指し、従来の店舗販売ではなくECとデジタルマーケティングを基盤とする戦略を採った。

創業時の従業員数は約30人で、取り扱いブランドも1〜2品目程度の小規模だった。その後、オンライン教育事業を展開する親会社のサン・ユニ・グローバル・グループ(SUGグループ)の事業ノウハウも活用し、ビジネスを拡大していった。現在(2025年7月時点)、従業員数は約150人で、日本と韓国の化粧品ブランド15〜17種の独占販売を行っている。


グエン・ティエン・ナムCEO(OME社提供)
質問:
利用するECプラットフォームの内訳と、その変遷は。
答え:
創業当初はフェイスブックを中心にデジタルマーケティングを展開し、メッセンジャー機能を通じて受注していた。その後1〜2年を経て、ベトナムの主要なECプラットフォームのTikTokショップ、ショッピー、ラザダへ出店を拡大した。また、国内で最も利用者が多いSNSアプリ「Zalo」を活用し、情報発信や販売も手がけている。
マーケティング手法は、グーグルにおけるSEO(検索エンジン最適化)対策、YouTubeを通じた動画の発信、KOL(Key Opinion Leader:キーオピニオンリーダー)の起用など、多岐にわたっている。
現在、最も売り上げが多いのはフェイスブック、ショッピー、ラザダで、その他のプラットフォームへの出店はブランド構築を主な目的としている。
顧客層はプラットフォームごとに異なる。フェイスブックの利用者は比較的高年齢かつ高所得層であるのに対し、TikTokの利用者は若年層でトレンドに敏感だ。製品仕様・価格は基本的に統一しているが、購買意欲を高めるため、一部製品は特定プラットフォームで限定販売している。また、製品特性に応じてプラットフォームを使い分けるため、購買状況の分析や広報戦略の最適化を担当する専門チームを設けている。公式サイト経由の購入は少ないが、商品情報の提供を目的に運営を継続しており、一定のアクセス数を確保している。
支払い方法は、銀行振込や代金引換など複数に対応しており、各販路の受注データは統一システムに集約され、担当者が確認・梱包(こんぽう)・配送を行っている。
質問:
KOLの活用はどのように行っているか。
答え:
複数の著名人やインフルエンサーを起用している。しかし、KOLを通じた広告は、最近では作為的な情報発信(やらせ)や偽情報の流布などの社会問題に直面しており、信頼性確保の観点からさまざまな対策をとっている。具体的には、KOLに製品情報を提供する際には試用期間を設け、商品の特長や効果を十分に理解、納得してもらう。その後、契約を締結し、宣伝を依頼することで宣伝内容の信頼性を確保するとともに、KOL自身のブランド価値や信用の維持につなげている。当社が起用するKOLの多くは認証済みアカウントを保有し、高いエンゲージメントを獲得している。

KOLによるPR(OME社提供)
質問:
デジタルマーケティング効果測定やキャンペーンはどのように行っているか。
答え:
売り上げに対するマーケティング費用の比率、消費者からの反応、リピート率などを指標としている。
複数のプラットフォームで試験的に販売し、期待値を下回れば、そのプラットフォームでの販売を中止している。マーケティングは、外注や他の代理店を使用せず、社内でデジタルマーケティングを完結させることで、製品に対する理解度の浸透と効果測定精度を高めている。
販売促進のプロモーションは、ベトナムでは季節や行事に応じた割引のキャンペーンが一般的だが、当社ではこのようなキャンペーンではなく、あくまでもヒット後に顧客に感謝を示し、還元するかたちで割引を行っている。
また、地域ごとの気候に合わせた製品展開を重視している。ベトナムは南北に細長い地形の国土を持つため、北部のハノイ市と南部のホーチミン市の間でも湿度や気温など、気候の差が大きい。地域によって、得られる効果や使用感が異なる場合があるため、各地域での試行錯誤を経て販売製品を選定している。
質問:
オンライン販売の課題は。
答え:
マーケティング費用や仕入れ価格の上昇、在庫管理などは課題と感じており、それぞれ対策を講じている。マーケティング費用は、内製化によってノウハウを蓄積し、効率化を図っている。商品価格は、独占販売により価格の決定権を持つことが強みであり、ブランド価値の維持・向上を通じて、過度な価格競争を回避しつつ、適正化に取り組んでいる。在庫管理では、過去に想定を上回る注文や、供給メーカーの事情により、供給不足で広告宣伝を中止したこともあった。しかし、最近では商品の特性や販売傾向を把握し、最適な在庫量を予測することが可能となった。需要予測を早期に行うことで、注文時期に十分な在庫を確保できるよう工夫している。
質問:
今後の計画は。
答え:
これまではオンライン販売のみだったが、ハノイ市、ダナン市、ホーチミン市にショールームを開設する予定だ。ただし、目的は店舗販売ではなく、ブランド認知向上と体験の提供が主体だ。販路は今後もオンラインを中心に予定している。
質問:
日本企業へのメッセージは。
答え:
少なくとも化粧品分野で、ECはまだまだ伸長し、実店舗に取って代わる可能性が高いと考えている。当社に限らず他社でも、実店舗はブランド構築の拠点となり、売り上げはオンラインへ集中することが見込まれる。そのため、日本企業は実店舗以上にECに注意を向ける必要がある。
ただし、その際に、注意すべきは地域ごとの特性だ。ECは隔たりがなくさまざまな地域に販売チャネルを構築できるが、市場に受け入れられるかどうかは別の問題だ。日本商品をそのままベトナムに輸出販売しても、日本国内での販売と同じ効果や使用感が得られるか不透明で、ベトナムの都市間で違いが出る可能性もある。
ベトナムや東南アジア市場を狙う日本企業は、たとえばハノイ市の高い湿度や、ダナン市やホーチミン市の強い紫外線など、気候条件に適応した製品の開発が重要だ。

地場企業の語るベトナムEC市場

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執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所 ディレクター
河野 尭広(こうの たかひろ)
2015年、ジェトロ入構。新興国進出支援課、国際ビジネス人材課で高度外国人材活躍推進事業の立ち上げに従事。2021年、ハノイでの語学研修(ベトナム語)、企画課を経て、2024年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所
ファム・トゥイ・ティエン
2022年からジェトロ・ハノイ事務所勤務。ジェトロの日本企業と海外バイヤーをつなぐオンラインマッチングプラットフォーム「Japan Street」事業を担当。