資源の高付加価値化と大型鉱山開発の進展
アルジェリア鉱業(2)
2026年8月7日
前稿では、アルジェリア鉱業部門の歴史的背景と制度改革の動向を整理した。今回は、同国が有する豊富な鉱物資源と、それらを活用した大型プロジェクトの進展状況に焦点を当てる。鉄鉱石、亜鉛、リン鉱石など主要鉱床を対象とした複数の国家的プロジェクトが本格的に進展しており、インフラ整備や国営企業と外資企業との協業を通じて事業化が加速している。
鉱物資源開発の現状
アルジェリアは鉄鉱石、リン鉱石、亜鉛など多様な鉱物資源を有しているものの、開発は依然として限定的だ。天然ガスや石油などの炭化水素部門は輸出総額の約9割を占める一方、リン鉱石を原料とする肥料などを含む「化学製品および関連製品」は4.4%にとどまる(2025年12月15日付ビジネス短信参照)。
稼働中の国内18鉱山のうち、チュニジア国境に近い東部テベッサ県ビル・エル・アテルに位置するジェベル・エル・オンク鉱山のリン鉱石コンプレックスが国内最大級の生産拠点であり、年間生産能力は約200万トンだ。
国家主導で進む大型鉱山プロジェクト開発
リン鉱石は、アルジェリア政府が推進する経済多角化戦略における重要な柱であり、世界的な肥料の需要増加を背景に外貨獲得源としての戦略的価値が高まっている。政府は鉱業分野を非炭化水素部門成長の牽引役と位置付け、採掘のみならず、高付加価値の肥料や関連化学製品を製造する加工産業の育成を重視している。
こうした中、大理石、炭酸カルシウム、バライト、マンガン、長石、カオリン、ベントナイトなど鉱物原料の加工産業を視野に入れつつ、アルジェリアを鉱物資源市場の主要プレーヤーへと押し上げることを目的に、鉄鉱石、リン鉱石、亜鉛を対象とした3つの大型鉱山プロジェクトの事業化が優先的に進められている。
出所:Global Dataを基にジェトロ作成
主要プロジェクトの進展状況
(1)ガラ・ジェブリット鉄鉱山
面積約4万ヘクタール、推定埋蔵量約35億トンを誇る南西部ガラ・ジェブリット鉄鉱山は、約70年間未開発であったが、政府が経済多角化の重要な柱として位置付けて以降、開発が急速に進展した。
同鉱山は2022年7月に着工し、2023年12月には一次処理工場の建設が開始されるなど、短期間で事業が進んでいる。
同鉱山はサハラ地域に位置するため、長年の課題は北部への輸送難であった。そのような中で、ティンドゥフ近郊の鉱山と約950キロメートル北方のベシャール市、そしてさらに北方のオラン県に位置するトルコ鉄鋼大手トスヤル・ホールディング(以下、トスヤル)の製鉄所を結ぶ鉄道が約24カ月で建設され、2026年2月1日に正式開通した。同鉄道は国家予算で建設され、中国鉄建(CRCC)とアルジェリア企業が施工を担当した。
トスヤルはオラン県にある製鉄コンプレックス内の一次処理工場の建設も予定しており、2026年中に着工する予定だ。事業は国営鉱業公社ソナレムとの協業で進められ、年産能力は400万トンを見込む。工場は選鉱設備、石灰製造設備、硫酸生産設備で構成され、2028年12月の完成を予定している。プロジェクト実施に向け、年初にはソナレムとの合弁会社が設立された。ソナレム子会社フェラールの生産計画では、鉄鉱石の年間生産量は初期段階で400万トン、2030年をめどに1,200万トン、その後は5,000万トンを見込む。
(2)タラ・ハムザ亜鉛・鉛鉱山
タラ・ハムザ亜鉛・鉛鉱山は北部ベジャイア県に位置し、地中海沿岸から約15キロメートルの内陸部に所在する。同地域は深水港を備えるベジャイア市に近接し、港湾・電力・水資源など基盤インフラが整っている点が特徴だ。
プロジェクトは、テラミン・オーストラリア(49%)、ソナレム傘下のアルジェリア非鉄金属鉱山資源公社(ENOF、48.5%)、アルジェリア地質・鉱山研究局(ORGM、2.5%)による合弁会社ベジャイア・ジンク&レッド(BZL)が推進し、テラミンが運営権を有する。年間200万トン規模の処理能力を前提とした鉱山開発計画が策定されている。
2018年のフィージビリティースタディー(Detailed Feasibility Study:DFS)に続き、2025年に改定版DFSが完了し、経済性が再確認された。年間処理能力は132万トンから200万トンへ増強され、採掘のカットオフ品位(cut-off grade)(注) の引き下げにより資源の経済性が改善した。テラミンは国際市場で十分採算が取れると評価している。
なお、鉱量は亜鉛・鉛を含む鉱石約5,300万トンとされ、世界的にも大規模な亜鉛鉱山となる可能性が指摘される。
同プロジェクトは2023年に鉱業許可を取得し、環境・財務・規制要件を満たして正式な開発段階に入った。2024年には操業に必要な234ヘクタールの土地取得と住民移転が完了した。2026年3月にはアクセス道路整備が開始され、地下鉱山の最終設計に向けた調査も進行中だ。EPC(設計・調達・建設)契約は中国のシノスチールMECCと締結済みで、処理プラントおよび地下鉱山設備の建設準備が進んでいる。資金調達は、アルジェリア政府系銀行との協議が最終段階にあるという。
本プロジェクトはアルジェリア投資促進庁(AAPI)に正式登録され、最大7年間の法人税免除、建設期間中の付加価値税(VAT)・関税免除、低利融資枠へのアクセスなど複数の優遇措置を受ける。また、政府は港湾バース整備や電力接続、アクセス道路改善など周辺インフラを公費で整備している。外資企業も参画する一方、国家的プロジェクトとして政府が全面的に支援している点が特徴だ。
(3)ブレド・エル・ハドバ統合リン酸プロジェクト(PPI)
東部地域には30億トン超のリン鉱石が埋蔵されているとされる。その大部分がブレド・エル・ハドバ鉱床に集中しており、約12億トンが80年以上の期間、採掘可能だ。本プロジェクトは国内肥料供給の安定化と輸出拡大を目的とした国家的プロジェクトであり、現在稼働中のジェベル・エル・オンク鉱山と同じ東部テベッサ県に位置する。豊富なリン鉱石資源を対象とした大規模な鉱業・化学一体型プロジェクトだ。採掘、選鉱、化学処理、輸送、輸出までを一貫して行う統合型バリューチェーンを構築する点が特徴で、ソナレムおよび国営炭化水素公社ソナトラックが主体となって推進している。 計画には、露天掘り鉱山、現地での一次処理施設、化学コンプレックス、アナバ港への輸送インフラが含まれる。
本PPIプロジェクトに関し、ソナトラックは2025年6月、イタリアのエンジニアリング大手サイペムにFeasibility Study(事業化調査)および基本設計(FEED)業務を発注した。サイペムとドイツ企業(名称非公開)がそれぞれFEEDを実施し、両案を比較した上で最適案を選定する。対象は採掘インフラ、肥料生産設備、アナバ港改修、鉄道接続などである。
2024年以降、東部地域の鉱山区域の整地や関連インフラ整備が段階的に進展し、ガス供給ラインや送電インフラが優先整備されている。
政府は、本PPIプロジェクトについて、港湾施設の拡張や鉄道網整備など関連インフラの早期完成を指示しており、2026年5月の閣議でも「最短期間での生産開始」が求められた。リン酸、硫酸、アンモニア、肥料を生産する化学コンプレックスの建設準備がウエド・ケブリトで進められており、2027年3月の稼働開始が予定されている。投資総額は約70億ドル、年間生産能力はリン鉱石約1,000万トン、肥料約600万トンと見込まれる。政府は原鉱石輸出から脱却し、高付加価値の肥料の国内生産と世界的な肥料輸出国への転換を目指している。
本PPIプロジェクトの物流面では、テベッサ県とアナバ港を結ぶ約422キロメートルの鉄道路線の改修・複線化が進み、この鉄道整備は、ジェベル・エル・オンク鉱山など同県の既存鉱山も対象に含む国家インフラ計画の一環だ。一方で、アナバ港では、年間約1,000万トンのリン鉱石・派生品を扱う専用バース整備が進行中だ。
アジア市場を見据えた国際提携
2025年8月以降、東南アジア最大級の尿素メーカーであるインドネシアのププク・インドネシアおよび南アジアの大手であるパキスタンのファティマ・ファーティライザーズが、前述の(3)のリン酸プロジェクトを推進しているソナトラックおよびソナレムと肥料購入に関する覚書を締結し、主要オフテーカー(引き取り先)の候補となっている。
アジア市場向け販路確保が進む背景には、EUが2026年から肥料輸入に炭素国境調整メカニズム(CBAM)(2026年2月18日付調査レポート参照)を本格適用することがあり、CBAMによる追加負担を直接受けないアジア市場は、アルジェリアにとって相対的に魅力を増している。
中長期的に大規模な採掘・運搬・処理設備の需要が見込まれる中、これらの国際提携は、原料輸出型モデルから付加価値の高い肥料や鉄鋼産業への転換を進める上で重要な役割を果たしており、同時にグローバル・サウス企業の関与拡大を後押ししている。
主要プロジェクトの進展は、アルジェリアの鉱業部門が原料輸出型モデルから付加価値創出型へと転換する上で重要な役割を果たしている。次稿では、こうしたプロジェクトの進展を背景に広がる外資参入の動きと、日本企業を含む各国企業にとってのビジネス機会を取り上げる。
アルジェリア鉱業
シリーズの前の記事も読む
- 執筆者紹介
-
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ - ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。





閉じる





