グローバルサウス諸国企業の参入動向と商機
アルジェリア鉱業(3)
2026年9月7日
前稿までに、アルジェリア鉱業部門の制度改革と主要プロジェクトの進展を概観した。本稿では、これらの動きを受けて活発化するグローバルサウス企業の参入動向を整理するとともに、地政学的リスクを背景とした肥料・鉱物資源の供給安定性への関心の高まりを踏まえ、日本企業にとってのビジネス機会を考察する。
グローバルサウス諸国企業のアルジェリア市場への参入動向
アルジェリア鉱業部門では近年、中国、トルコ、パキスタンなどのグローバルサウス諸国に加え、ロシア企業についても参入に向けた動きが顕著に増加している。各国企業は鉄鉱石、リン酸、金などの分野で具体的な関心や投資計画を示しており、国別の主要企業の動向は以下のとおりだ(表参照)。
| 国名 | 企業名 |
時期 (年月) |
提携・協業状況 |
|---|---|---|---|
| 中国 | CMH | 2023年6月、12月 | 代表団は国営鋼鉄公社フェラールおよびエネルギー・鉱業省(当時)を訪問し、採掘・選鉱・輸送インフラの共同事業に向け協定締結。技術評価・投資計画を進める合同作業チームを設置し、包括的協力体制を構築。 |
| Sinosteel | 2024年5月 | フェラールとガラ・ジェブリット鉱山で年400万トン規模の前処理ユニット建設契約を締結。さらにWMZ/BZLとタラ・ハムザ亜鉛・鉛鉱床の地下鉱山共同建設に合意し、鉄鉱石・亜鉛・鉛の複数鉱種で事業拡大を図る。 | |
|
MCC (China Metallurgical Group Corporation) |
2025年8月 | ソナレムおよびフェラール幹部と会談し、ガラ・ジェブリット鉄鉱床の処理技術・脱リン技術での協力可能性を協議。前処理・精錬工程における技術提供に関心を示し、共同事業の検討を進めることで一致。 | |
|
亞鉀国際投資(広州)股份 (Asia Potash International Investment) |
2025年9月 | アルジェを訪問し、リン鉱石と肥料産業バリューチェーン構築に強い関心を示す。採掘・加工・誘導品製造まで一体化した肥料産業整備に向け、総額16億ドルの投資意向を表明し、長期協力を模索。 | |
| 中国中信(CITIC Construction) | 2025年10月 | ソナレムを訪問し、鉄鉱石・リン鉱石・亜鉛・銅・金などの多鉱種で協力機会を協議。技術・経済性評価を共同で行う合同委員会の設置やパイロット生産ユニットの構築、将来の合弁会社設立に向けた工程表の策定で合意。 | |
| CPTDC(CNPC傘下) | 2025年10月 | ソナレムを訪問し、ガラ・ジェブリット鉄鉱石開発への参画に関心。高リン含有鉄鉱石のリン含有量を国際水準まで低減する処理技術やデジタル監視ソリューションを提示し、覚書締結に向けオンライン協議を継続する方針。 | |
| トルコ | トスヤル・ホールディング | 2026年2月 | ソナレムの最重要外国パートナーとして鉄鋼バリューチェーンの統合を推進。ガラ・ジェブリット一次処理工場(年400万トン)の建設に2026年着工し、濃縮・石灰・硫酸ユニットを含む大型設備を建設。2028年完成予定で、国内鉄鋼産業の高度化に寄与する見込み。 |
| パキスタン | ファティマ・ファーティライザー | 2025年8月 | ソナレム傘下ソミフォスと覚書を締結。リン鉱石の販売・濃縮・現地加工に関する協力枠組みを構築し、リン酸肥料の製造や共同投資、人材育成を含む広範な連携を推進。両国市場および国際市場向けの事業を検討。 |
| インド | スリーベル・ミネラル | 2025年10月 | ソナレムと会談し、ティレク・アメスメッサ金鉱の再開に向けた協力を協議。深部地下採掘技術、人材育成、金鉱の高付加価値化に関する連携に強い関心を示し、アルジェリアの金鉱分野への長期参入を模索。 |
| ロシア | ガスプロム傘下ベスナ | 2025年10月 | ソナレムを訪問し、探査・開発における協力機会を協議。遠隔監視、リアルタイム追跡、デジタル監視システムなどの高度技術を紹介し、鉱業のデジタル化と効率化への貢献を強調。 |
| マレーシア | ライオン | 2025年6月 | ソナレムと覚書を締結し、金・銅・マンガンなどを中心に共同探査・開発を推進。鉄鋼・採掘分野での協力を強化し、複数鉱種での投資機会を検討するなど、資源開発における幅広い連携を模索。 |
| インドネシア | ププック・インドネシア | 2026年1月 | ソミフォスと覚書を締結し、リン鉱石の長期供給や採掘・加工に関する協力枠組みを構築。誘導品製造や共同投資の可能性を検討し、肥料産業バリューチェーン強化を目指す。 |
| ブラジル | WEG | 2025年12月 | 政府・ソナレム・ソナトラックとの協力強化を検討。電動機器・産業ソリューションが鉱業・エネルギー分野の近代化に寄与すると評価され、現地製造事業との連携やパートナーシップ構築について協議。 |
| アフリカ諸国 | チュニジア、エジプト、トーゴ、ブルキナファソ、ギニア、チャド(ソネミック)、コートジボワール(ソデミ)、エチオピア | 2025年9月、2026年3月、4月 | ベントナイト、バライト、ポゾラン、炭酸カルシウム、大理石の供給に関し、総額1億6,500万ドルの契約を締結。チュニジア、エジプト、トーゴ、ブルキナファソ、ギニア、チャド、コートジボワール、エチオピアと探査・地質調査・開発支援の合意書を締結し、事業拡大を図る。 |
出所:各企業の自社ウェブサイトおよび報道を基にジェトロ作成
これらの動きは、許可制度の統一化、探査・採掘期間の延長、外資規制の緩和など、アルジェリアが進める鉱業法制の近代化により、新興国企業にとって参入しやすい事業環境が形成されていることを示す。アルジェリアは資源開発パートナーの多角化を進めるとともに、国際的な競争環境の中で投資先としての存在感を高めようとしている。一方で、オーストラリア企業の参入事例はあるものの、欧米企業の新規参入は依然として限定的だ。行政手続きの複雑さ、投資環境の不透明性、技術基盤の弱さなど、アルジェリア経済に残る構造的課題が、欧米企業の慎重姿勢にも影響しているとみられる。
アルジェリアの鉱業分野におけるビジネス機会拡大
アルジェリアの鉱業分野における需要は、従来の破砕設備にとどまらず、鉱山・採石機器、デジタル安全ソリューション、自動計測システム、重機・搬送機材へと拡大している。その一例として、ブルドーザー、エキスカベーター、ショベルローダーなどの建設機械の輸入額が、近年増加傾向を示している(図参照)。
注:一部の国は2025年分の輸出データをまだUN Comtradeに申告していない。
出所:UN Comtrade Databaseを基にジェトロ作成
建設機械の輸入については、法制度上「走行機械」(engins roulants)として乗用車に近い扱いを受ける可能性が指摘されており(2022年11月24日付ビジネス短信参照)、2020~2021年には輸入手続きが一時的に停止された時期もあった。2023年以降、建設機械の輸入額は大きく増加しており、実務上は一定の輸入余地が維持されているとみられる。
なお、アルジェリアでは、探査・探鉱・採掘に直接使用される機器は付加価値税(VAT)が免除され、関連設備・資材・製品は関税および各種税の免除対象となる。これらの税制優遇を受けるには、有効な鉱業権の保有とVAT免除証明書の提出が必要だ。また、国営鉱業企業は入札方式を基本とし、国内製品または公的資本主体の企業に対しては25%の国内優先枠が付与される。
国際情勢の影響とアルジェリア市場の展望
イラン情勢の悪化により、ホルムズ海峡での船舶の通航が妨げられ、湾岸諸国から世界各国へ輸送される硫黄やアンモニアなどの主要原料の供給に深刻な影響が及ぶ懸念が高まっている。これらの原料は、モロッコ、チュニジア、南アフリカ共和国をはじめ、多くの国が自国で肥料を製造する上で不可欠であり、海峡の事実上の封鎖は世界の農業生産にも波及するリスクが指摘されている。
こうした供給不安の中、国内では大規模なリン鉱石・肥料プロジェクトが進展している。また、安定した物流ルートを持つアルジェリアは、第三国にとって肥料調達先、あるいは現地生産拠点としての魅力が一段と高まる可能性がある。湾岸地域以外の供給源の確保を検討する国々にとって、アルジェリアは新たな戦略的パートナーとなることが期待される。
アルジェリアの鉱業分野は制度改革の進展、大型プロジェクトの具体化、そして新興国企業の参入拡大により、中長期的に成長が見込まれる市場となりつつある。グローバルサウス勢の競争が強まる中、イノベーション、現地での技術支援体制、迅速なアフターサービスを組み合わせた提供力が、鉄鉱石、リン鉱石、戦略金属などの大規模案件を獲得する上での重要な優位性となっている。また、現地加工工程を支える鉱物資源の付加価値化技術・設備や、環境負荷低減に資する環境対応型ソリューションにもビジネス機会が広がっている。中国やトルコ企業が資源開発や鉱業分野で存在感を高める一方、鉱山機械・設備の供給、選鉱や環境対策の技術提供、オフテイク契約など高度なノウハウが必要となっている。今後、日本企業にとっては、こうした領域で差別化を図る余地があり、多様なビジネス機会が見込まれる。また、同時に事業リスクの管理や契約条件の精査も合わせて不可欠となる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ - ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。





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