鉱業部門の歴史と制度改革の動向
アルジェリア鉱業(1)
2026年6月26日
2026年5月6日、アルジェリアで鉱業部門の国有化60周年記念式典が開催された。同式典は、近年進む鉱業分野の制度改革と投資拡大の流れを象徴する出来事と位置付けられる。国営通信は、今回の式典は前例のない投資拡大の流れの中で実施されたもので、その動きは鉱業部門を経済多角化の真の原動力とすることを期待させる大規模なプロジェクトに反映されていると述べている。
現在、同国の鉱業部門は、高い潜在力を背景に、アブデルマジド・テブン大統領による経済多様化方針の下で、投資拡大と制度整備が進展している。政府は2024年以降、同部門の再活性化に向けて、鉱業を専門に所管する省の新設、法制度の改正、支援機関の整備、プロジェクトの拡大などの取り組みを強化している。
本連載では、アルジェリア鉱業の歴史的背景や制度改革の概要、さらに、それらを踏まえた現在進行中のプロジェクトやグローバルサウス企業の参入動向など最新動向を、前・中・後編の3回に分けて概説する。
前編では、植民地時代から続く鉱業部門の形成過程と、国営企業ソナレムを中心とした制度基盤の整備、鉱山・鉱業省の再編や新鉱業法の導入など、近年進む制度改革の全体像を整理する。
鉱業分野の歴史的背景
フランス植民地期におけるアルジェリアの鉱業は、石炭、鉄鉱石、リン鉱石、鉛、亜鉛、大理石など、主としてフランス産業向けの原料輸出に特化しており、国内付加価値の創出は限定的であった。
1962年の独立後、1966年5月6日に、アルジェリア政府は、それまで外国企業が操業していたエル・ウェンザ、ハンマム・ンバイルス、ブカイド、シディ・カンベル、ミリアナなど11鉱山の国有化を発表した。こうした資源に対する主権の回復は、植民地型経済からの脱却を具体化する取り組みの一環であった。国有化の翌1967年には、国営鉱業公社ソナレムが設立された。
ソナレムの役割と現状
ソナレム
は設立以来、国内鉱物資源の開発・採掘・加工を、国内外企業との戦略的提携を通じて推進している。同グループは本社および12の子会社で構成され(表参照)、現地報道によれば、2024年の輸出額は約2億ドルに達した。このうち約1億9,300万ドル超をリン鉱石が占めた(2025年1月1日付エル・ムジャヒド)。グループ全体の従業員数は約9,000人となっている。
| 社名 | 社名(仮訳) | 活動内容 |
|---|---|---|
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SONAREM |
ソナレム鉱業公社 | グループ総括 |
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ORGM |
地質・鉱業研究局 | 公的機関、ソナレム・グループ各社および第三者企業を対象とした各種の地質、探鉱および鉱業開発関連調査の提供 |
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SOMIPHOS |
ソミフォスリン鉱業公社 | リン鉱石の採掘・加工 |
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SOMIFER |
ソミフェル鉄鋼公社 | 鉄鉱石の採掘・加工 |
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MFE |
イースタン鉄鋼公社 | 鉄鉱石の採掘・加工・販売 |
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FERAAL |
フェラール鉄鋼公社 | 鉄鋼分野におけるプロジェクト開発、ソリューション提供 |
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ENG |
骨材公社 | 骨材 、炭酸カルシウム、大理石などの装飾用石材およびポゾランの生産・販売 |
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ENOF |
エノフ非鉄金属鉱山資源公社 | 重晶石 、カオリン、長石、塩、シリカ、炭酸カルシウム、石こう、滑石などの採掘・加工・販売 |
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ENAMARBRE |
エナマルブレ大理石公社 | 大理石の採掘・加工・販売 |
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ENASEL |
エナセル製塩公社 | 塩の製造・販売 |
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AGENOR |
アジェノール鉱産公社 | 貴金属を原料とする製品の加工・販売 |
|
ENOR |
エノール金鉱公社 | 金、貴金属の探査・採掘・開発 |
出所:ソナレムのウェブサイト
を基にジェトロ作成
ソナレムは、主要輸出品目であるリン鉱石に加え、新規プロジェクトの開発を進めている。2021年には26件の探査プロジェクトを実施し、長石やリチウムなど新規資源の鉱山開発に注力している。
2026年5月には、ウメル・ブアーギ県ウレド・ハムラ地区で、ガラス、セラミック、化粧品などの加工産業向けのドロマイト加工工場が稼働を開始した。同工場の年産能力は10万トン規模で、粉砕ドロマイトおよび焼成ドロマイト専用の2ラインで構成される。
金鉱分野では、2022年から2025年9月までの国内生産量は合計約400キログラムにとどまったが、今後は増加する可能性がある。タマンラセット県のティレク鉱山とアムスミッサ鉱山は、2013年以降操業が停止していたが、2026年中に再稼働が見込まれている。金鉱山開発を担うソナレム傘下のエノールは、2001~2013年に、両鉱山で深さ60メートルの露天掘りにより合計7トン以上を採掘した。最新のデータによると、鉱床の大部分は深さ約400メートルに位置しており、地下採掘への移行が必要とされる。事前評価では、金埋蔵量約60トン、価値は40億ドル超と見込まれている。
さらに、新規鉱区の探査・開発に必要となる投資資金や高度技術について、ソナレムは海外企業との連携を前提とする方針を明確化している。同社は、巨額投資を伴う高リスクの鉱業プロジェクトを単独で進めることに慎重であり、リスク分散の観点から外国企業の参入を重視している。こうした姿勢は、炭化水素分野で積極投資に慎重さを強める国営炭化水素公社ソナトラックの動きとも軌を一にする(2026年1月21日付地域・分析レポート参照)。現在、ソナレムは、中国やトルコをはじめとするグローバルサウス諸国の企業との協議を進め、資金・技術面でのパートナーシップ構築を図っている。
主要監督機関ANAMとASGAの機能
ソナレムに加え、アルジェリアの鉱業分野では、国家鉱山活動庁(ANAM)と地質サービス庁(ASGA)が、それぞれ異なる中核機能を担っている。
ANAMは、鉱業投資・鉱区管理・鉱業権監督の中枢として、投資企業が鉱業活動を行うための制度・手続き・規制を一元管理する役割を担う。主な業務は次のとおり。
- 鉱業投資の促進・支援
- 鉱区の管理
- 鉱業権の付与・監督
- 鉱山活動の行政・技術監督、鉱山警察および環境管理
一方、ASGAは地質情報・基礎データ・地質インフラを所管する国家機関であり、投資企業にとっては探査前における基礎情報の入手や地質評価の主要な窓口となる。主な業務は次のとおり。
- 地質図・地球物理(注1)・地球化学図(注2)の作成と更新
- 地質データの収集・保存・公開
- 地質リスク(地震以外)の分析・予防
- 鉱物資源・埋蔵量の算定およびモニタリング
- 地質遺産の保全、鉱山博物館の運営
- 地質調査・サンプリング・隕石(いんせき)採取などの許可発給
鉱業行政の体制強化
ソナレムおよび両庁の管轄機関は鉱山・鉱業省だ。同省は、もともと炭化水素・鉱業省の一部であり、同省の鉱業担当長官が所管していたが、2026年4月、大統領の構想により、炭化水素省と鉱山・鉱業省に分割された。この再編は、鉱業分野の重要性を一段と高め、同分野が経済多角化や産業基盤強化において中核的役割を果たせるよう、体制を強化することを目的としている。
再編を受け、ムラド・ハニーフィー氏が2026年4月11日に鉱山・鉱業相に就任した。同相は、アルジェの大学で鉱山地質工学を専攻した後、ANAM指導委員会議長、エネルギー・鉱業省(当時)鉱業総局長などの主要ポストを歴任してきた。鉱業分野で25年以上の経験を有しており、後述する新鉱業法25-12号の策定や、世界最大級の未開発鉱山であるガラ・ジェブリットの開発などにも関与した。
鉱業法制の近代化
アルジェリア政府は、炭化水素やシェールガス・石油以外の鉱物資源の採掘活動に適用される法的枠組みの近代化に着手し、2014年公布の旧鉱業法に代わり、2025年8月3日に新鉱業法(法律第25-12号)が採択された。
同法は、民間投資、特に外国直接投資(FDI)の誘致と促進を目的とし、行政手続きの簡素化や外資による鉱山採掘活動への規制を大幅に緩和することで、投資環境の改善を図る。
従来、鉱業は「戦略的部門」に分類されていたため(2021年1月6日付ビジネス短信参照)、外資の出資比率を最大49%に制限する「49/51措置」が適用され、採掘許可を申請する企業はアルジェリア法人または個人が51%の資本を保有することが必須であった。この義務は、外国投資家の経営自由度を大きく制限する要因となっていた。しかし、新法第101条により、国営鉱業企業(またはその子会社)の最低出資比率が20%に引き下げられ、外資系企業はプロジェクトの最大80%を所有することが可能となった。ただし、鉱山採掘活動自体は引き続きアルジェリア法人に限定される。また、新法第102条に基づき、採石場(carrières)の採掘許可は、引き続き資本の少なくとも51%をアルジェリア法人または個人が保有する法人にのみ付与される。 その他のポイントは以下のとおり。
- 鉱業権制度の統一化:
従来の戦略物質区分が廃止され、全ての鉱物資源が単一の制度下に置かれ、各種許可手続きが標準化された。 - 中核機関の活動内容の整理(第49、50条):
鉱業分野への参入に際し、企業が関与する中核機関であるANAMとASGAの機能が整理された。 - 鉱業権の法的地位および譲渡性の明確化(第52~55条):
鉱業権の法的性質が明確化され、その譲渡・移転・担保設定に関する枠組みが整備された。探査許可は、譲渡・移転が可能な「動産」(biens meubles)として位置付けられる。採掘許可については、所定の承認を条件に賃貸や抵当設定が認められている。 - 探査許可の期間延長(第88条):
初回4年間、最大2回(各2年)更新可能で、最長8年間の探査活動が認められる。 - 採掘許可の長期化(第99条):
採掘期間は最大30年間で、その後最大20年間の更新が複数回可能。
これらの改革により、事業計画の予見性向上と長期投資の安定性は一定程度高まったと評価される。一方で、制度運用の透明性や政策の一貫性がどこまで確保されるかは、今後の実施状況に左右される。加えて、炭化水素分野と同様、資金調達や事業リスクの相当部分が国家側から民間・外国企業側に移転されるという側面もあり、外国企業にとって必ずしもリスクが軽減されるとは限らない。それでもなお、制度整備と資源ポテンシャルを踏まえれば、初期参入企業にとっては権益確保の好機となる可能性がある。
以上のように、制度面の再編により、アルジェリアの鉱業部門は新たな発展段階に入ったとみられる。中編では、こうした制度改革を背景に進展する主要鉱物資源と大型プロジェクトの現状を取り上げ、現場レベルの動向を詳述する。
- 執筆者紹介
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ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ - ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。





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