糀づくりを強みに
日本のみそ、特色とストーリー性がミソ(3)

2026年10月26日

日本の調味料を代表するみその認知度が海外でも向上し、みその輸出は着実に増加している。本シリーズでは、既に海外市場に浸透しているみその中で、今後、独自のストーリーや特色を持つ商品が今後の海外展開における「ミソ」(キーワード)となり得ることを考察した(2026年1月23日付地域・分析レポート「日本のみそ、特色とストーリー性がミソ(1)輸出動向と市場分析」参照)。

本稿では、糀(こうじ)づくりへのこだわりを強みに海外展開を進める糀屋本藤醸造舗外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:長野県須坂市)の事例を紹介し、海外市場における差別化の可能性を探る。同社代表取締役社長の本藤浩史氏に、みそ造りや輸出状況、海外展開の取り組みについて聞いた(取材日:2026年9月9日)。

みその輸出額は2025年も過去最高を更新

日本からのみその輸出は好調だ。2021年から2025年までのみその輸出動向を年別に見ると、輸出量、輸出額ともに堅調に増加している(図参照)。2025年には、輸出量・輸出額ともに過去最大を記録した。輸出量は2万3,825トン(前年比1.4%増)、輸出額は71億4,180万円(同13.1%増)だった。

次に2025年の輸出額を国・地域別に見ると、1位が米国で21億2,080万円(前年比24.0%増)だった。2位はオランダで5億3,050万円、3位は英国で3億7,750万円、4位は台湾(3億7,520万円)、5位がカナダ(3億3,380万円)の順となる。数量ベースでは、1位が米国(6,707トン)、2位が英国(1,666トン)、3位がタイ(1,315トン)、4位が韓国(1,259トン)、5位がカナダ(1,222トン)だった。

このように、金額ベースと数量ベースでは、1位の米国を除くと順位が変動する。遠方のオランダや英国向けは比較的単価が高く、タイや韓国向けには比較的単価の低い傾向がみられる。

そのほか、2025年の輸出実績を見ると、上位10カ国・地域を含む65カ国・地域へみそが輸出されている。図で「その他」に分類される地域への輸出が数量・金額ともに増加し、一定の割合を占めていることが見て取れる。今後、さらなる輸出拡大や輸出先国の多角化が期待される。

図:みその年別輸出動向(2021年~2025年)
2021年から2025年までのみその輸出動向を示したグラフ。世界全体の輸出数量は2021年の約1万9,654トンから2025年の約2万3,825トンへ増加し、2023年に一時的な減少がみられるものの、その後再び増加している。輸出額は2021年の44億4,800万円から2025年の71億4,200万円へ拡大し、期間を通じて増加傾向にある。2025年の前年比は数量が1.4%増、金額が13.1%増で、輸出額の伸びが数量の伸びを大きく上回っている。輸出金額を主要輸出先で見ると、米国向けが最大市場で、2025年の輸出額は21億2,100万円と全体の約3割を占める。オランダ向けは5億3,000万円、英国向けは3億7,700万円、台湾向けは3億7,500万円、カナダ向けは3億3,400万円などとなっている。オランダ、英国に加え、オーストラリア(3億3,100万円)、フランス(3億1,500万円)、タイ(2億7,400万円)は2025年に期間中の最高額を更新した。一方、中国向けは2022年の4億8,400万円をピークに減少傾向にあり、韓国向けは2024年の3億6,200万円をピークに2025年は減少した。全体として、日本産みその海外需要は拡大傾向にあり、特に北米および欧州向け輸出の伸びが輸出額の増加を牽引している。

注:HSコード=210390100。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

糀屋ならではの糀づくり

糀屋本藤醸造舗は1869年創業の老舗みそ蔵だ。国産原料100%使用、手造り・木桶仕込みにこだわり、1年以上かけて「天然醸造」(注1)し、みそを熟成させる。糀屋伝統の米糀(注2)を使い、上質な国産米と国産大豆、自然塩で仕込む製法が特徴だ。

同社は2020年頃から、長野県、長野県信用組合、ジェトロ長野・諏訪などと相談しながら、海外販路開拓を進めている。台湾での「長野県物産展」や、シンガポールでの「Food Japan2023」「FHA-HoReCa 2024」(長野県信用組合主催の長野ブース)などの海外展示会に参加した。その結果、現在では台湾の現地高級スーパーなどを中心に、台湾やシンガポールへの輸出が実現している。

もともと同社は糀屋であり、糀から全て人の手でみそ造りを行う。発酵機で糀を造ることが一般的なところ、「箱糀製法」と呼ぶ方式で、職人のノウハウや技術によって手づくりで手間をかけて、糀をつくっている。

近年は健康志向の高まりを背景に、国内外で発酵食品への関心が高まっている。日本国内では2011年頃の塩糀ブームを契機として、糀への関心や認知が広がった。特にインバウンド観光客や在日外国人の間では、みそや甘酒など糀を活用した食品への関心が高いという。実際、台湾やシンガポールの展示会や物産展では、糀や発酵自体への質問も寄せられたという。みそのみならず、糀を知っている人も多くて驚いたと本藤氏は話す。こうした市場環境の変化は、糀にこだわるみその価値の訴求にとって追い風となっている。今後、糀へのこだわりは、海外市場で特色や差別化のミソとなるだろう。


糀の説明をする本藤氏(ジェトロ撮影)

シンガポール展示会の様子(ジェトロ撮影)

市場ニーズにこたえるみその種類と柔軟性

糀づくりの特性アピールに加え、海外展開において同社が重視しているのは、顧客の声を直接聞きながら商品開発や提案につなげることだ。本藤氏は、「国内外での小売店や特設会場において、顧客から直接声を聞くように心がけている」と話す。消費者ニーズが多様化する中、同社は多様なみそをそろえている。特選、低温、低塩、玉造り、匠白、匠赤、麦糀、雑穀糀、そば糀など、原料や糀の違い、調合により甘味、塩味などの風味が異なり、それぞれ特徴あるみそだ。中でも「匠白みそ」は、長野県みそ品評会で2年連続「長野県知事賞」を受賞するなど評価が高い。

また、通常サイズ(500グラムや1キログラム)より小さい300グラムの「ソムリエみそ」を展開している点も特徴的だ。種類だけではなく、容量面でも顧客ニーズに応じた商品を展開している。初めて購入する消費者や複数の商品を試したい消費者にとって購入しやすく、海外バイヤーのトライアル発注にも適しているという。

近年は、みそを使った加工品や関連商品にも注力している。「塩こうじ」などの糀商品をはじめ、「ぼたんこしょうみそ」(注3)や「山椒みそ」などの加工品、甘酒、納豆なども手掛ける。加えて、みそを使った「バウムクーヘン」や「みそケーキ」「信州味噌豚骨ラーメン」など積極的に地元企業などとコラボした商品もある。特に、「山椒みそ」は、シンガポールの展示会で高い評価を受けるなど、海外市場でも受容される可能性を示した。

加えて、海外展示会やイベントなどに向けて、自社のみそ造りの特徴や歴史、ストーリー性を動画やポスターなどで分かりやすく発信している。ポスターに記載されたQRコードをスマートフォンで読み込むと、ウェブ上で公開される同社の動画を見ることができる。商品の機能や味だけでなく、生産背景を伝えるこの取り組みは、海外市場での理解促進に寄与している。


「ソムリエみそ」(同社提供)

同社の海外用ポスター(ジェトロ撮影)

新工場で伝統的なみそ造り

2026年7月、同社は敷地内にて新工場を本格稼働した。木桶(おけ)による「天然醸造」や「箱糀製法」など伝統的な生産方法は守りつつ、品質管理や生産体制をより一層強化した。新工場では、新たな設備や機械、糀室(こうじむろ)を導入する一方で、職人に受け継がれてきた技術やノウハウを尊重しながら製造している。伝統と革新を融合させることで、次世代を見据えた持続的なみそ造りを進めている。

工場建て替えの背景には老朽化への対応があるものの、新工場の設立を通じて、長期的な視点で次世代へみそ造りの技術と文化を継承していくことを目指している。


新工場の糀室(ジェトロ撮影)

新工場の木桶(ジェトロ撮影)

糀が生み出す特色とストーリー

みその輸出が拡大する中、海外市場では商品そのものだけでなく、その背景にある価値や物語への関心も高まっている。糀屋本藤醸造舗の事例からは、手造りの糀や木桶による天然醸造に加え、それらを動画や販促ツールを通じて発信する取り組みが、海外市場での差別化の手法となり得ることが分かる。

今後、みそ輸出の拡大を目指す上では、自社ならではの技術やこだわりを、海外の消費者に分かりやすく伝えることが重要になるだろう。糀づくりに代表される伝統技術と、それを支えるストーリーは、みその海外市場開拓において新たな価値を生み出す可能性を秘めている。


注1:
一般的に、近年のみそ造りは合理性を重視して、ステンレスの桶を利用し「速醸法」が採用されることが多い。発酵過程で加熱処理を行い、短時間で熟成させる方法だ。気温の低い季節でも熟成を進めることができ、生産期間の短縮、大量生産が可能になる。安定した品質や均一の風味を保ちやすくなる。 他方、日本の伝統的な手法である「天然醸造」は、自然の温度変化の中で約1年間かけて熟成させる。ふくよかで自然なうま味を引き出し、みそ本来の奥深い香りが生まれる。 本文に戻る
注2:
「麹」と「糀」はいずれも「こうじ」と読む。「麹」は麦などの穀類を使い麹菌を繁殖させたものを指す。中でも、米に麹菌が繁殖すると、白い胞子が花を咲かせたように見えることから「糀」とされたことが語源といわれており、米のこうじは糀と表現される場合が多い。本稿では米を使ったこうじは、糀と表記する。 本文に戻る
注3:
ぼたんこしょうは、ピーマンに似た形状の唐辛子。長野県北部の伝統野菜。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや)
2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。
執筆者紹介
ジェトロ諏訪 アドバイザー
植松 麻早(うえまつ まさ)
2011年、ジェトロ入構。ジェトロ諏訪のアシスタントを経て2018年から現職。現在、諏訪地域を中心に長野県内企業に対して、輸出や海外進出の支援を担当。