インドネシアの化粧品市場の動向
拡大する市場と競争激化
2025年5月1日
インドネシアで、スキンケア、メイクアップ、ハラール化粧品などの需要が拡大している。その背景には、中間所得層の拡大や美容意識の高まりがある。
本稿では、同国の化粧品市場について、市場規模、成長率、競争環境などの観点から報告する。
市場は拡大、中韓勢の製品が多く流入
インドネシアの化粧品市場は、堅調に成長を続けている。ユーロモニター・インターナショナルのデータによると、2023年の市場規模(小売総額)は101兆9,656億ルピア(日本円で9,278億円、1ルピア=0.0091円で算出)。前年比5%の増加だった(図1参照)。2028年には、151兆6,136億ルピアまで市場規模が拡大するという予測がある。
市場をけん引するのはスキンケア製品とヘアケア製品だ。2023年時点で総額の半分以上を占めた。

注:2024年以降は推計値。
出所:Euromoniter Internationalデータからジェトロ作成
特に比較的廉価な大衆向けの製品は、全体の約9割を占める92兆7,870億ルピア(2023年時点)だった。大衆向け製品市場は、2028年に138兆4,471億ルピアまで成長すると予測されている。
当地化粧品関連製品の市場拡大に伴い、諸外国からの輸入が増加している。2014年に約4億2,500万ドルだったインドネシアの化粧品関連製品の輸入額は、2024年に約7億3,700万ドルまで増加した(表参照)。
相手国 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
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中国 | 30,435.6 | 34,149.7 | 44,800.3 | 74,782.6 | 91,836.2 | 74,718.1 | 97,759.0 | 169,498.8 | 262,436.8 | 294,019.2 |
韓国 | 4,810.4 | 7,942.0 | 13,150.7 | 33,608.8 | 43,760.8 | 51,130.5 | 66,973.7 | 46,124.4 | 63,636.0 | 104,244.3 |
フランス | 67,052.1 | 81,823.4 | 106,417.3 | 147,096.9 | 70,491.1 | 67,360.7 | 149,401.3 | 131,435.4 | 123,559.0 | 94,726.4 |
タイ | 131,754.2 | 126,038.1 | 59,866.1 | 63,269.5 | 58,017.3 | 47,877.1 | 44,347.6 | 45,708.1 | 44,072.9 | 36,021.0 |
米国 | 34,338.5 | 35,956.7 | 47,337.4 | 63,806.7 | 55,092.7 | 58,358.6 | 61,757.9 | 43,621.2 | 51,065.1 | 33,772.6 |
スペイン | 10,126.6 | 10,705.4 | 13,488.8 | 22,500.9 | 16,201.5 | 11,566.8 | 19,210.6 | 27,016.7 | 38,194.2 | 31,544.0 |
イタリア | 15,367.4 | 15,315.6 | 21,043.3 | 26,175.9 | 14,202.3 | 10,572.1 | 18,461.3 | 18,377.7 | 30,426.7 | 28,977.5 |
インド | 7,056.3 | 10,794.6 | 15,983.7 | 19,543.3 | 27,451.5 | 23,879.1 | 27,683.2 | 24,673.4 | 25,757.2 | 21,171.5 |
日本 | 27,412.5 | 28,697.5 | 32,679.3 | 35,410.9 | 34,710.7 | 21,019.2 | 27,591.3 | 22,463.3 | 18,298.3 | 19,377.2 |
マレーシア | 10,950.1 | 11,541.8 | 8,586.2 | 14,156.9 | 16,187.6 | 22,080.1 | 16,174.8 | 16,186.2 | 14,580.8 | 17,974.0 |
その他 | 86,393.9 | 103,912.1 | 145,990.4 | 154,787.2 | 209,795.3 | 116,190.4 | 83,426.2 | 55,675.7 | 63,240.8 | 55,180.0 |
合計 | 425,697.4 | 466,876.9 | 509,343.5 | 655,139.5 | 637,746.8 | 504,752.7 | 612,786.9 | 600,780.9 | 735,267.9 | 737,007.7 |
注:金額は、HSコード3303(香水類及びオーデコロン類)、3304(美容用、メーキャップ用又は皮膚の手入れ用の調製品)、3305(頭髪用の調製品)、3307(髭剃り及び浴用の調製品、身体用の防臭剤等)の品目の合計額。
出所:グローバル・トレード・アトラスからジェトロ作成
2024年の輸入相手国・地域別輸入額をみると、中国が2億9,401万9,200ドルで首位。韓国が1億424万4,300ドルで続いた。両国で全体の54.0%を占めた。両国は顕著な伸びをみせており、2015年と比較した2024年の輸出量の伸びをみると、中国は9.7倍、韓国は21.7倍に達した。3位以降は、フランス(9,472万6,400ドル)、タイ(3,602万1,000ドル)、米国(3,377万2,600ドル)だった。
HSコード3304「美容用、メーキャップ用又は皮膚の手入れ用の調製品」に限定すると、2024年の輸入額4億8,738万6,600ドルのうち、50.1%を中国が占める。この分野では特に、中国から多くの製品が流入していることがわかる(図2参照)。

出所:グローバル・トレード・アトラスからジェトロ作成
競争環境は激化、販売チャネルも変化
インドネシアの巨大市場を取り込もうと、日本企業や日本ブランドも動いている。例えば、カネボウ、資生堂、コーセー、SK-IIインドネシア、マンダム(男性用化粧品)がインドネシアでビジネスを展開する。また、ロート製薬、花王、Dr.ルルルン、DHCコーポレーションなどが洗顔料や日焼け止めなどを製造・販売する。
日本や台湾から製品を輸入し、自社商品をインドネシアで販売する日系企業A社は2024年12月17日、ジェトロのインタビューに「中国・韓国製品との競争が激化している」と指摘した。同社によると、中国勢、韓国勢には現地生産を開始している企業もあり、価格面で日本製品が劣ることが多い。また、韓国製品は、韓国発のコンテンツを活用した巧みなプロモーションが際立つ。日本企業と比べプロモーションにかける予算も大きいようだ。
一方で、日本商品の中で売れ行きが好調なカテゴリーは、日焼け止めや洗顔だ。同社は、「サラサラとした日本製品の質感や美白といったイメージを、消費者が好意的に受け取めている」と述べた。
また、販売チャネルも変化している。これまでは店舗でのオフライン販売が多かった。しかし今では、WhatsAppの活用やECサイト上での売買が主流になりつつある。既述のA社もECサイト上での販売について「2023年比で10%ぐらい販売額が伸びている。取組強化が遅れてしまったこともあり、もっと早く始めていれば、さらにEC上での売り上げが伸びただろう」と述べた。
ECサイトとショッピングモール内の実店舗の両方でビジネスを展開し、存在感を高めている企業がある。インドネシア発のソシオラ(Sociolla)だ。同社は他社商品を輸入・販売しているほか、製造機能も持つ。日系企業のパートナーの、競合にもなりうる。同社は日本を想起する舞妓の絵柄を使用し、自社商品を開発するなどしている。


韓国メーカーには、ソシオラに多額のマーケティング・フィーを支払うメーカーもある。ソシオラとしては韓国製品のプロモーションを優先することが多いようだ。
BPOMへの商品登録やハラールへの対応に注意が必要
インドネシアで化粧品を流通させるには、食品・医薬品監督庁(BPOM)へ申請し販売許可を取得する必要がある。輸入品の場合は、製造メーカーが代理指名した輸入業者が申請する。申請には、事業者識別番号(NIB)などの法人情報のほか、自由販売証明書(CFS)、適正製造基準証明書(GMP)、製造工程表、安全データ試験証明、成分表、製品のパッケージと写真データ、製品サンプル、表示ラベルなどが必要だ。
また、申請後、販売許可が出るまで3カ月ほど、時間を要する。既述のA社もBPOMへの商品登録で問題を抱えている。「特に大統領が交代したあたりから、化粧品のネーミングに対して、成分と商品名が直結しているべきとの指摘が多くなった」という。実際、日本で販売している商品名を使えなくなった製品もある。
また、インドネシアでは、ハラール製品保証に関する法律2014年33号(ハラール製品保証法)の公布以降、ハラール認証表示義務化に向けて議論が進んだ。2025年4月時点で、化粧品での表示は任意だ。しかし、2026年10月以降は、表示を義務化する予定だ。現在市場に出回っている商品には、既にハラール認証を取得・表示している商品が多い。インドネシアのマス市場を狙っていくとすると、取得を検討する必要があるだろう。
域内随一の人口を誇るインドネシアの巨大市場は、国の経済成長を凌駕するペースで成長を続けている。そのビジネスチャンスを狙って、中国・韓国企業が製品を投入しており、日系各社にとって競争環境が厳しくなっている。また、販売チャネルの変化や、ハラール対策、BPOMへの商品登録など、新たな展開を目指す企業が対応すべき事項も多い。特にハラール認証については2026年10月以降、表示義務化予定で、注意を払う必要がある。
今後も成長を続けるとみられるインドネシアの化粧品市場に、注目が集まっている。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課リサーチ・マネージャー
尾﨑 航(おざき こう) - 2014年、ジェトロ入構。生活文化産業企画課、サービス産業課、商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部 EC・流通ビジネス課を経て、2020年9月からジェトロ・ジャカルタ事務所で調査担当として勤務。2023年12月から現職。