インドネシアの水質改善に、FRP製浄化槽で貢献
輸出拠点として位置付け、今後は国内向けにも注力

2024年2月20日

ジョコ・ウィドド大統領の肝いりの政策として、インドネシアで推し進められた「法律2020年11号」の制定。通称、雇用創出オムニバス法とも呼ばれる同法では、ビジネスに関連する70を超える法令が包括的に更新された。労務分野における最低賃金計算式の改定や有期契約社員の契約期間・回数の拡大、事業許可取得の手続きの変更、外資上限が設定される業種数の変更など、現地での事業運営に影響を与える大きな変更が行われたほか、環境分野も対象として含まれている。

政府は「法律2020年第11号」の細則となる「政府規則2021年第22号」を発出し、水質、大気の質の保護や管理、有害危険産業廃棄物(B3廃棄物)やその他廃棄物の管理などの規制を進めている。こうした環境分野で、繊維強化プラスチック(FRP)製の浄化槽の製造・販売事業を手掛ける日本企業が存在する。ジェトロは、PT. Daiki Axis Indonesia社長を務め、日本本社の取締役常務執行役員や海外事業統括本部本部長を兼任する高岡慎也氏に、同社のビジネスの現状、今後の展開などについてインタビューした(取材日:2023年7月11日)。


PT.Daiki Axis Indonesiaの高岡社長(右)と大本副社長(左)(ジェトロ撮影)
質問:
貴社のビジネス概要は?
答え:
インドネシア国内の工場で、主にFRP製の浄化層を製造している。製造した浄化槽は、インドネシア国内での販売のほか、製造拠点がない他国へ輸出している。FRP製の浄化槽は、主に工場などから出る一般排水の処理のために活用される。
質問:
コロナ禍前と比較したビジネスの現状は?
答え:
新型コロナ禍により、2020年、2021年の業績は落ちた。取引先・納品先の工場が稼働しなかったことが、ビジネスに大きく影響した。新型コロナ禍の終息、ビジネス環境の正常化に伴い、現状はだいぶ回復してきたところだ。
質問:
コロナ禍において輸送費や原材料費の高騰などはあったか?
答え:
当社はインドネシアを拠点として、アジア各国に輸出している。輸送関係については、コンテナ不足が著しかった時期にコンテナが予約できず、予約できたとしても(通常の)3倍から4倍に輸送費が高騰していた。原材料に関してもほぼ輸入している。主原料であるFRPを製造している取引先は限られるが、輸入がストップしていることはない。
質問:
現在の顧客(日系企業とインドネシア内資企業)の割合について
答え:
企業数の割合では、インドネシア内資企業が6割、日系企業が4割というところだが、日系企業だと大型案件が多いため、売り上げ比率では日系企業のほうが多い。
質問:
直近のインドネシアでの大型案件・プロジェクトの稼働状況について
答え:
大型案件は日系企業との取引に多い。図面段階から参画させていただけるためだ。直近では、西ジャワ州ブカシ・チカランでの排水処理設備や、ボゴール近辺での廃棄物処理場の排水処理設備などに当社の製品・技術を活用いただいている。
質問:
インドネシアに2013年に進出された経緯は?
答え:
ダイキアクシスが設立されたのが2005年で、2013年11月に東京証券取引所に上場した。上場を検討する際に、株主還元を考えるには日本国内の事業のみならず、海外進出が肝になるとの社内での論調が高まり、上場に先駆けて2013年10月にインドネシア内資の企業を買収する形で、海外展開に踏み切った。インドネシアを最初の海外進出先に選んだ理由は、インドネシア国内でFRP製浄化槽を製造している企業が既に存在したからだ。浄化槽の製造には、職人の手作業で行うアナログな部分が残っており、熟練した職人が必須になる。買収した企業内に熟練した職人がある程度そろっていた点は、人的資源の面からすると大きな魅力だった。

難しい市場だが今後の成長に期待、政府との関係も鍵か

質問:
他市場・他拠点と比較した際のインドネシアの魅力は?
答え:
世界的にも、人口が多く、人口ボーナスが今後も続くところは大きな魅力だろう。人口が増え、経済が成長していく中で、顧客の環境意識が高まり、仕事がしやすくなるだろうと予測をしている。
質問:
インドネシアの市場やビジネス環境において難しさを感じる点は?
答え:
インドネシアでビジネスをするには、まずイスラム教とその文化に対する理解が必要だと実感している。一般的には、インドでのビジネスも非常に難しいということは聞くが、私の感覚では、インドのハードシップは高いものの、我々のビジネスにおいては、スピード感をもって仕事ができている。一方、インドネシアは、国民性が親しみやすい国ではあるが、ビジネスの進み方・スピード感がインドより遅いと感じる。
また、法規制に関しても、現地の商習慣をみると、規制順守の意識、規制自体の未整備の両面で、まだまだ課題があるのではと思う。インドネシアには排水の基準はあるが、それがあまり守られていないのではない状況と理解している。加えて、日本の場合は、建築基準法と浄化槽法がセットになっているような形で、建築物によって導入しなければいけない浄化槽の規格が細かく定められているが、インドネシアはそこまで厳格に定められていない。
さらに、浄化槽はメンテナンスが必要となる製品で、きちんとメンテナンスをしないときれいな水質を保つことができないが、インドネシアでは一度入れたら終わりという顧客が多いと認識している。顧客にメンテナンスを提案すると、なぜメンテナンスが必要なのか、と逆に質問されることが多い。
こうした法規制の順守を含む環境意識の面で、ほとんどの日系企業がしっかりとした対応を取っている一方、インドネシア内資企業は、意識が高い企業と低い企業で差が激しい状況だ。
質問:
インドネシア企業とビジネスをする際の課題について
答え:
往々にして支払いが遅いことが問題点としてある。インドネシアの商習慣によるものだろうが、頭金以外の支払いが契約で決められた期日より遅れることが多々ある。
質問:
労働組合やインドネシア人従業員との関係は?
答え:
労働組合との賃金交渉は容易ではなく、交渉は数回にわたる。しかしながら、これまでストライキに発展するまでもめたことはない。買収した企業の従業員が多く残っているため、買収前よりも良い就業環境を創出することを意識している。その結果、これまで特に大きな不満をぶつけられたことはない。
質問:
インドネシア政府との関係や働きかけの状況は?
答え:
インドネシアでビジネスを行う上で、現地政府との関係は非常に重要だと認識している。関連省庁への働きかけはインドネシア法人設立当初から続けている。現在は、自社による取り組みのみならず、本社の所在する愛媛県からも手厚い支援を受けている。2023年1月に愛媛県知事がインドネシアを訪問した際には、環境・林業省副大臣との面談に同席し、自社の取り組みを説明した。
環境・林業省との関係でいうと、直接の面談をして、当社の言い分や提案も聞いていただいている。今のところ具体的な連携まで至っていないものの、今後、関係を深化させたいと思っている。省庁の対応という点では、インド、スリランカのほうが前向きに対応してくれる印象を持っており、当社を招いたセミナーでの啓発活動を積極的に展開してくれている。

インドネシアは輸出拠点、FRP浄化槽の販売事業に注力

質問:
今後の展望について、本社で手掛けている再生可能エネルギー事業などをインドネシアで取り組む予定はあるか?
答え:
インドネシアだけではなく、拠点を持つインドなど他地域でも同様だが、海外進出時の目的である「FRP浄化槽の販売事業」という土台をしっかりさせることが重要だと考えている。再生可能エネルギーなど他事業に関しては、浄化槽事業が軌道に乗ってからでも、チャンスがあると認識している。
質問:
インドでのビジネスを強化するとの方針が決算資料などにも記載されているが、御社にとってのインドネシア拠点の役割は?また、インドネシア拠点の役割は今後変化させていくのか?
答え:
インドネシア拠点は、国内市場での販売に加えて、「他アジア市場への輸出拠点」として捉えており、その役割を変化させる予定はない。インド拠点は、あくまでインド国内向けの拠点だ。インドネシア国内で製造したFRP浄化槽の2023年の輸出先・割合については、ミャンマー24%、スリランカ30%、インド28%、バングラデシュ12%、その他6%だ。インド工場の稼働開始に伴い、インド向け輸出はゼロになり、スリランカ、バングラデシュが増える予定だ。今後はインドネシア国内での販売も強めていきたいと思っている。輸出のみならず、当社にとって重要かつ難しいインドネシア市場でのビジネスを軌道に乗せることにも注力していきたい。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
尾崎 航(おざき こう)
2014年、ジェトロ入構。生活文化産業企画課、サービス産業課、商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部 EC・流通ビジネス課を経て、2020年9月から現職。