企業事例とトレンド
日本のみそ、特色とストーリー性がミソ(2)
2026年1月23日
日本の調味料を代表するみその認知度が向上し、みその輸出は着実に増加している。世界的な健康ブームも相まって、みそは健康に良いとされる発酵食品の1つとして、また日本料理のみならずさまざまな料理の調味料、隠し味などに利用できる点で注目されている。シリーズ1本目では、既にみそが海外市場で浸透する中、今後、独自のストーリーや特色のあるみそが海外展開における「ミソ」(キーワード)となることを示した(「日本のみそ、特色とストーリー性がミソ(1)輸出動向と市場分析」」参照)。
シリーズ2本目の本稿では、実際に海外展開やインバウンド需要を見越し独自性を追求する企業の取り組みと、海外バイヤーの視点を取り上げる。まず、伝統的製法にこだわったみそ「信州三年味噌」を製造する石井味噌
(本社:長野県松本市)の石井康介氏(代表取締役)と牛山寛章氏(営業担当)に、同社のみそ造りや輸出状況、インバウンド観光客向けのみそ蔵見学などの取り組みなどについて聞いた(取材日:2025年11月21日)。
石井味噌、杉桶を使った「天然醸造」にこだわったみそ造り
石井味噌は、長野県松本市にて1868年創業。150年以上にわたり、伝統製法である杉桶を使った製造方法や原料にこだわったみそを製造、販売する老舗企業だ。信州・松本は水資源が豊富で、石井味噌は敷地内から湧き出る北アルプス山系の水を使っている。国産大豆(主に長野県産)、国産米こうじ、天然塩のみを原料として使用。また、食品添加物や保存料を一切加えず、加熱殺菌や酒かす添加の保存処理をしないため、酵母や乳酸菌、酵素が生きたままの状態で、安全で健康効果が高い。その中でも、同社の主力ブランドは「信州三年味噌」だ。
一般的に、近年のみそ造りは合理性を重視して、ステンレスの桶を利用し「速醸法」(注1)を採用する。2~3カ月の短期間で酵母を発酵させる。他方、日本の伝統的な手法である「天然醸造」は、自然の温度変化の中で約1年間かけて熟成させる。そうすることで、ふくよかで自然な旨味を引き出し、みそ本来の奥深い香りが生まれる。
同社の「信州三年味噌」は、この「天然醸造」を守り続けて造られている。手間を惜しまず、「昔そのままのこだわり」の伝統を貫き、より長く3年間熟成させることが特徴だ。信州では古くから「三年味噌に余念(四年)なし」と言われ、その味・香りはともに最高品として重宝されていた。みそは、熟成の過程で大豆のアミノ酸と米こうじの糖分が反応し、メラノイジンという褐色色素が生成される。長期間熟成されたみそほど、色が濃く、独特の熟成された香りがでる。また、細胞の老化防止やガン予防、血圧低下、糖尿病の予防効果など、健康に良いとされている。

(石井味噌提供)

インバウンド観光客に大人気、みそ蔵見学ツアー
同社のみそは直販のみならず、有名百貨店での取り扱いやカタログギフト掲載もあり長野県外からも高い評価を受けている。国内市場、特に贈答市場の縮小を見据え、2022年頃から海外ビジネスを始めた。現在、米国、英国、フランス、ドイツ、台湾、シンガポールへ輸出している。2025年に入り、いわゆるトランプ関税の影響で米国向けの輸出が減少しており、輸出先国の拡大を目指して、ジェトロや長野県などが主催する商談会へ参加するようになった。
また、特徴的な取り組みとして、みそ蔵見学ツアー
を開催している。大手旅行会社と提携して、海外から松本市をはじめ長野県に訪れるインバウンド観光客を積極的に受け入れている。多い時は1日300人もの参加者を受け入れており、新型コロナウイルス禍以降、ツアー参加者の半数以上が外国人だ。英国やフランス、ベルギー、米国やカナダ、オーストラリアなど欧米からの観光客が多いが、台湾やタイ、シンガポールからも参加があった。多くの外国人参加者は、みその「健康によい、ヘルシー」「グルテンフリー」といったキーワードに関心を持ち、ツアー中はみその効能の説明を興味深く聞いている。また、多くの質問が寄せられるという。みその知識やおいしさのみならず、同社の杉桶を使った「天然醸造」での伝統的なみそ造りを知り、そのストーリーや文化、造り手の考え方に共感する人が多いという。
牛山氏は、「今までみそ蔵見学にインバウンド観光客を多く受け入れてきた。外国人にもみそに関する知識、文化、おいしさを正しく知ってもらい、帰国後も『信州三年味噌』を購入してもらえるようにしたい。海外の高級スーパーなどの小売店、EC(電子商取引)サイトに販売網を広げて、インバウンドと輸出拡大の相乗効果を目指したい」と話す。
なお、同社は、木桶仕込み味噌輸出促進コンソーシアム
に参加しており、国内外に「木桶味噌(KIOKE MISO)」の魅力を発信、輸出拡大を目指して活動中だ。


(石井味噌提供)
日本食人気を追い風に、描くみそ戦略
海外バイヤーからも、日本産みそに高い関心が寄せられている。12月3~4日にジェトロが主催した食品輸出商談会(2025年11月28日付お知らせ・記者発表参照)には、日本産の飲料、調味料、菓子類に関心を持つ15カ国16社のバイヤーが参加した。今回、みそを含む調味料に注目している、インドのアイストアダイレクトトレーディング(Istore Direct Trading)創業者兼最高経営責任者(CEO)、チラグ・ケニア氏に、現地の消費動向や今後の市場展望についてインタビューを行った(取材日:2025年12月4日)。
2015年に創業した同社は「Urban Platter
」のブランド名で店舗、プライベートブランド(PB)製品を展開している。販売先は450以上の小売店舗やホテル、レストラン、カフェと幅広い。また、2021年からは直営店を展開し、今後5年間でインド国内に50店舗以上の出店を目指している。さらに、ECサイトでの販売にも力を入れ、年間300万人以上の顧客に多様な商品を提供している。 同社は現在、幅広い商品のラインナップ、品質へのこだわり、消費者志向を背景にインド国内での信頼を高めている。チラグ氏は、現地での日本食需要の高まりをきっかけにみその取り扱いを開始した。現在、取り扱いのある全てのみそは中国企業からPB製品として仕入れており、現地での小売価格は300グラムあたり約640円である。チラグ氏は「日本産みそは高品質な素材、熟成期間、伝統、技術力で他国産と大いに差別化できる」とし、今後は本物の日本の味を求めるために、日本産への切り替えを希望している。

インド人バイヤーが語る日本産みその勝機とは
チラグ氏によると、近年インドでは、薄い色や減塩のみそが人気となっている。消費者はみそに対して濃くはっきりとした味よりも、健康志向でうま味を重視する傾向が強い。また、インドならではの用途として、バターチキンカレーなどに隠し味として入れることや、ティッカなどタンドール料理のディップソースとして応用する人もいるという。一方で、現地での認知度の観点では課題もある。同氏は、インドの消費者にみその使い方や、日本産みその魅力などを伝えるために、自社スタジオで料理教室を開き日本食理解への啓発活動も行っている。
チラグ氏は、「今後のインドでの需要喚起や認知度の向上のために、日本の事業者はみそが持つ健康的利点や伝統・日本文化を訴求できるようなストーリー性を強調するべきだ。また、世界中のヴィーガンやベジタリアン人口が増えていることに加え、インド料理や中東料理などとの相性も良いため、みそ市場には将来性があり、今後はさらなる需要拡大が期待できる」と話した。
世界的に発酵食品への関心が高まる中、みそは健康志向や多様な食文化との親和性の高さから、今後も需要拡大が期待される。一方で、単なる品質やおいしさの訴求だけでは競争力の維持が難しく、差別化には減塩・無添加・オーガニックなどの付加価値に加え、伝統的な製法や地域性を活かしたストーリー性が重要となる。こうした特徴を明確に打ち出すことが、海外市場でのブランド力強化につながるだろう。
また、EUなどへ輸出する際には、みその包装に一般的に使用されるプラスチックや合成樹脂製カップ容器について留意が必要だ。EUの包装・包装廃棄物規則(PPWR)などの法規制の対象となる可能性が高く(注2)、商談時の障壁となり得る。今後は環境負荷を低減する工夫や代替素材の検討が求められるだろう。
- 注1:
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速醸法とは、発酵過程で加熱処理を行い、短時間で熟成させる方法。気温の低い季節でも熟成を進めることができ、生産期間の短縮、大量生産が可能。安定した品質や均一の風味を保ちやすくなる。
- 注2:
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EU域内の包装廃棄物削減などを目的とし、リサイクル可能であることなど持続可能性要件を定める規則案。2024年12月に採択された(2024年12月20日付ビジネス短信参照)。規則案の詳細は2024年3月26日付ビジネス短信や、調査レポート「EU循環型経済関連法の最新概要‐エコデザイン規則、修理する権利指令、包装・包装廃棄物規則案を」参照。
日本のみそ、特色とストーリー性がミソ
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- 執筆者紹介
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ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや) - 2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。
- 執筆者紹介
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ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム
庄田 幸生(しょうだ こうき) - 2025年、ジェトロ入構。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の市場情報や輸入規制、法令などの調査を担当。




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