原料にこだわる
日本のみそ、特色とストーリー性がミソ(4)
2026年10月26日
日本の調味料を代表するみその認知度が海外でも向上し、みその輸出は着実に増加している。本シリーズでは、既にみそが海外市場で浸透する中、今後は独自のストーリーや特色のあるみそが海外展開における「ミソ」(キーワード)となり得ることを考察した(2026年1月23日付地域・分析レポート「日本のみそ、特色とストーリー性がミソ(1)輸出動向と市場分析」参照)。
本稿では、原料の生産者情報を明示するトレーサビリティーや契約農家との連携を通じて独自の価値を創出する武田味噌醸造
(本社:長野県上田市)の事例を紹介する。海外市場において商品の背景にあるストーリーや生産過程への関心が高まる中、同社の事例から差別化の方向性を考察する。同社の取締役・経営企画部長の武田晴太郎氏に、みそ造りや輸出の状況、海外展開への取り組みについて聞いた(取材日:2026年9月9日、24日)。
原料にこだわったみそ造り
武田味噌醸造は1930年創業のみそ蔵だ。同社は原料へのこだわりを最大の特徴とし、大豆や米の品質を最大限に引き出すみそ造りに取り組んでいる。例えば、原料である大豆の加熱方法(煮る、蒸す)や加熱時間、米の洗米強度・洗米時間を、米の状態や気温などに応じて調整している。また、みそごとに糀(こうじ)菌の種類や糀室の温度、みその熟成場所、熟成期間などを変えている(注)。
1970年には枕型のパッケージ(生詰)、1984年にはカップ型の無添加みそ、1990年には原料の生産者と栽培契約を結び、生産者を明記する試みなど、業界で初めての製品や取り組みに挑戦してきた。現在は、主力製品である「銘醸みそ」のほか、長野県上田市産の原料に限定した「華(はな)城下」、原料に玄米を使用した「玄米みそ」、同社のみそだれを使った「銘醸せんべい」などを製造している。
そのほか、納入先や販売先の特徴に合わせて、オーダーメイドでみそ造りもしている。例えば、長野駅近くの納入先では日本人観光客がお土産として購入するケースが多いことから、旧来の信州みその特徴であるコクと深みのある淡色系辛口のみそを提供している。また、軽井沢駅近くの納入先ではインバウンド観光客が多いため、甘みと塩味のバランスが良く、食べやすい淡色系甘口のみそを販売している。
先駆的な原料トレーサビリティーの確立
同社の主力製品である「銘醸みそ」のパッケージには、原料である大豆や米の生産者情報(フルネーム、住所など)を明記する。単に産地を表示するだけでなく、「誰が生産した原料なのか」を示すことで、トレーサビリティー(Traceability、追跡可能性)を確保している点が特徴だ。
さらに同社は契約農家と連携し、栽培・生産方法や自然環境、土壌づくりにこだわった原料生産に取り組む。専門機関による土壌分析を活用し、肥料管理などを通じて最適な栽培環境を整えている。これらの農地で生産された大豆や米を、みその原料として厳選している。
武田氏は、「土壌分析や最新農業技術を活用しながら、大豆や米本来の特性を引き出すことで、みそに適した原料づくりにつなげている」と説明する。原料づくりの段階から品質向上に取り組む姿勢は、同社にとって大きな付加価値となっている。


海外イベントでPR、用途提案
同社は以前から国内商社経由で、米国、香港、台湾などへの間接貿易の実績があった。より戦略的に海外ビジネスを進めるべく、2022年頃から中小機構の海外展開支援を利用し、その後、2026年からはジェトロの新輸出大国コンソーシアムパートナー(専門家)による伴走型支援を受けながら海外展開を進めている。
海外市場における自社製品の強みや弱みを分析し、自社のこだわりや特色、ストーリー性をどのように伝えるべきかについて、専門家やジェトロ長野など関係機関からの助言を受けながら試行錯誤を重ねている。その結果、競合品との差別化戦略として、商談資料やPR方法をブラッシュアップするなど、海外市場への挑戦を続けている。具体的な取り組みとして、同社は2025年、2026年と2年連続でFood Taipei(台湾)の長野県ブースに出展した。長野県天龍村産のゆずを使った「ゆず味噌」は、現地バイヤーから高い評価を得た。
また、海外バイヤーに対しては、用途提案を重視していることも同社の特徴だ。例えば、「銘醸みそ」は柔らかい風味を生かしたみそ汁や豚汁などのスープ料理に、「玄米みそ」はコクやうま味を生かしてナスのみそ炒めやラーメンなどに適していることを、商談資料とともに示し、具体的な食べ方や調理方法を提案している。
さらに、2026年9月には台北の現地高級食品スーパーで開催された長野物産展(長野県農産物等輸出事業者協議会主催)に参加した。物産展では、武田氏自らがブースに立ち、「銘醸みそ」を使った豚汁の試食を通じてみそを販売し、現地の消費者向けにプロモーションを実施した。そのほか、出展した県内他事業者のきのこの炊き込みご飯とのペアリングを提案するなどの工夫も行った。武田氏は、「現地で試食販売することで、実際の売り上げ以上に現地消費者やバイヤーの生の声を聞くことができ、今後の海外戦略に生かせる情報を数多く得ることができた」と話す。
海外販促活動を継続することで、同社はさらなる取引の拡大を図り、台湾国内はもとより他国への新たな販路開拓も目指している。



みそ輸出の「ミソ」は語れる特色とストーリー性
本シリーズでは、みその輸出動向や海外市場の状況を踏まえながら、輸出拡大を目指す事業者の事例を紹介してきた。みその認知度が世界的に高まる中、海外の消費者やバイヤーは、商品そのものだけでなく、その背景にある価値や物語にも注目している。
前稿で取り上げた糀屋本藤醸造舗、および本稿の武田味噌醸造に共通するのは、原料や生産方法、伝統的手法へのこだわり、競合品との差別化、ストーリー性だ。それぞれ独自のこだわりを持ち、その価値を海外展示会や商談、販促資料などを通じて積極的に発信している。そこには、単なる調味料としてのみそではなく、「誰がどのような原料で、どのように造っているのか」という明確なストーリーがある。
今後、海外市場では、伝統的な製法や職人の技術、地域の風土や原料へのこだわりが大きな差別化の要素となり得る。自社ならではの特色とストーリー性を海外の顧客に分かりやすく伝え、付加価値として訴求することが、みそ輸出拡大の「ミソ」といえそうだ。
- 執筆者紹介
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ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや) - 2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。
- 執筆者紹介
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ジェトロ長野 新輸出大国コンシェルジュ
中川 知彦(なかがわ ともひこ) - 2026年、ジェトロ入構。民間企業での海外駐在等を経て現職。現在、長野県内企業に対しての輸出や海外進出支援を担当。





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