Tepbac-エビ養殖支援サービス
ベトナムスタートアップに聞く(7)
2025年2月28日
ASEAN域内で「コンシューマードリブン(Consumer-driven)イノベーション」の地として分類されるベトナム(注1)で、さまざまな社会課題の解決に取り組むスタートアップ創業者などへのインタビューを通じ、同国のスタートアップエコシステム、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)の最新動向や、日本企業との協業に向けたヒントを探る本シリーズ。第7回は、ベトナムの主要水産輸出物の1つであるエビ養殖の事業者を対象に、多面的な支援プラットフォームを展開するTepbac(テップバック)を取り上げる。同社は、水産養殖における水環境の自動監視IoT(モノのインターネット)デバイスや、養殖飼料の量やトレーサビリティーの管理が可能な養殖場管理アプリ、養殖用品購入のEC(電子商取引)プラットフォーム、金融サービスなどを開発・提供している。
2023年にホーチミン市で開催されたカンファレンスにおけるベトナム農業農村開発省副大臣の発言によると、エビ産業は過去20年間、ベトナム水産物の世界への輸出において重要な役割を果たしてきており、毎年、総水産物輸出額の約40~45%を占める(35億~43億ドル相当)。また、ベトナムは世界第2位のエビ輸出国であり、輸出額は全世界のエビ総輸出額の13~14%を占め、世界100カ国に輸出されている。エビ産業は100万人以上の労働者を有するが、エビ養殖事業者は、伝染病や安定しない品質、気候変動と環境変化の影響、事業資金不足など、多くの困難や課題にも直面している(2023年7月25日付ベトナムプラス紙)。
Tepbacは、こうしたエビ養殖事業者を支援するソリューションを提供するスタートアップで、2013年創業後、これまで国内外のコンテストで数々の受賞歴があるほか、GROW Impact Accelerator、Aqua Spark、AgFunder、Son Techから2022年に17万ドル(シードラウンド)、2023年に225万ドル(プレシリーズAラウンド、注2)の資金調達を実現している。同社の起業の経緯から今後の展望まで、同社創業者で最高責任者(CEO)のチャン・ズイ・フォン氏に聞いた(インタビュー日:2024年8月23日)。

- 質問:
- 提供しているサービスは。
- 答え:
- 当社は、ベトナムのエビ養殖業者に、データ駆動型プラットフォーム、IoT機器、定期的な水質検査、資金調達支援、購入者との接点を提供し、持続可能なエコシステムを構築している。具体的には、3つのアプローチで養殖業者を支援している。
- 1つ目は、養殖場管理モバイル/ウェブアプリケーション「Farmext」の開発・運用だ。同アプリは、養殖場をリアルタイムでモニタリングし、データ記録、コスト/在庫追跡、スマートフィーダーや水質モニターなどのIoTデバイスのリモートコントロール機能を備える。2つ目は、現場サポートとして、当社が持つ養殖試験場のネットワークより、現場での技術サポートと検査サービス(エビの病気のスクリーニングに特化)を提供している。3つ目は、ダイレクトサービスソリューションとして、250以上のショップと100以上のブランドからのオンライン調達が可能な養殖用品を扱う「Famext eShop」、養殖業者の経済的不安を軽減するためのローンプログラムなどの金融サービス、さらに養殖業者とバイヤーを直接つなぐマーケットプレイスを提供している。また、当社のウェブサイトでは、ベトナムで最もアクセスの多い養殖関連の役立ち情報の発信を行っている。
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同社のアプリケーション「Farmext」および水質管理IoTデバイス(同社提供) - 質問:
- 設立のきっかけと、本分野を選んだ理由は。
- 答え:
- 自身の出身地が、ベトナム最大のエビ養殖場がある南部バクリュウ省であることが大きく影響している。養殖事業を営む人々に囲まれて育ち、養殖工学の学位を取得した。養殖業について学ぶにつれ、なぜ農林水産業が盛んであるベトナムに貧しい農家や漁師が多いのか疑問に感じていた。そのため、彼らを助ける方法を見つけたいと思うようになったことがきっかけだ。卒業後はさまざまな養殖会社に勤め、営業担当として日々、養殖業者と接した。この経験を通して、養殖業者が主にコストと収益、つまり利益を出すことに主眼を置いている一方で、養殖に伴うさまざまなリスク(水害、疾病、費用の高騰など)をしばしば見落としていることに気づいた。このリスク管理の欠如が、彼らに大きな損失をもたらしていると感じていた。そこで、養殖業者がリスクを算出・管理し、コストを最適化できるようなソリューションやアプリを開発することを決意した。
- 質問:
- 本分野に対するベトナムの市場のポテンシャルは。
- 答え:
- 水産養殖、特にエビの輸出において、ベトナムは大きなアドバンテージを持っている。ベトナムが世界で第2位のエビ輸出国であるのは、エビ養殖に適した自然環境を生かした生産能力によるところが大きい。全国に無数の養殖業者と豊富なエビ養殖池があり、ベトナム全土でのエビ生産量は年々、増え続けている。世界的にエビ市場は今後も大きくなることが予想されているため、引き続き国内外で多くの需要があるだろう。
- 質問:
- 本分野に対するベトナム市場での困難な点は
- 答え:
- ベトナムの養殖業は、まだまだ課題も多い。疾病などの発生による高い不良率や、養殖業者が水質管理に貴重なリソースを浪費し、生産効率が低下してしまうなど、多くの課題に直面している。そのため、養殖業者はこれらの課題に対処するため、養殖プロセスのあらゆる側面を適切に管理し、最適化するための解決策を模索している。問題は、養殖業者自らこれらの課題にすべて対処することには限界があるため、支援が必要となる一方で、当社のようなソリューションサービスの導入に対して、コスト負担を重く感じる養殖業者も少なくないということだ。
- 質問:
- 今後の事業計画は。
- 答え:
- 2025年は、金融サービスや養殖試験場ネットワークの拡大のほか、Farmextプラットフォームに多くの養殖場・養殖業者を追加していく。また、養殖業者とエンドユーザーをつなぐ水産流通プラットフォームの開発を計画している。さらには近い将来、インドをはじめとする海外市場に進出する計画があり、具体的に現在、プラットフォームのヒンディー語版を開発中で、インドとタイのパートナーと協議している。
- 質問:
- 日本企業に期待することは。
- 答え:
- 養殖池の手入れや飼料などの養殖関連製品をベトナム市場で販売したいと考えている日本企業や、ベトナムのエビを日本に輸出するために、日本のエビ輸入業者との提携を期待している。そのほか、事業開発のための資金調達も希望する。
- 注1:
- ジェトロの調査レポート「東南アジアにおけるイノベーション創造活動に関する調査」(2022年8月)「概要版」P9、「調査報告書」P14を参照。
- 注2:
- スタートアップの資金調達のラウンドを指す言葉の1つ。スタートアップが創業する段階での最初の資金調達のラウンドをシードラウンド、その次の調達ラウンドをシリーズAと呼ぶ。プレシリーズAは、シリーズA調達に向けた準備として行う資金調達ラウンド。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ホーチミン事務所
二神 直穀(ふたがみ なおき) - 2019年、愛媛銀行入行。2023年からジェトロに出向。ジェトロ愛媛を経て、2024年4月から現職。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ホーチミン事務所 事業統括ディレクター
三木 貴博(みき たかひろ) - 2014年、ジェトロ入構。海外見本市課、ものづくり産業課、ジェトロ岐阜を経て海外調査部アジア大洋州課にてベトナムをはじめとしたASEANの調査業務に従事。2022年7月から現職。