Rootopia-学生向けP2P教育貸付PF
ベトナムスタートアップに聞く(1)

2024年1月11日

ベトナムを含めた東南アジア地域は、日系企業の「生産拠点」であることに加えて、多くの人口と購買力の向上により「消費市場」としての魅力が増している。近年は、さらに「イノベーション創出拠点」としても注目されている。中でもベトナムは、(1)1億人に増加した人口を背景とした消費市場拡大への期待、(2)依然として金融、交通・物流、医療などを中心とした多くの社会課題が山積していること、(3)高いインターネット利用率やデジタルネイティブな若年層人口が豊富であることを背景としたリープフロッグ現象(注1)の出現、などの観点から、インドネシアなどとともに「コンシューマードリブン(Consumer-driven)イノベーション」 の地として分類される(注2)。

本シリーズでは、さまざまな社会課題の解決に取り組むスタートアップ創業者などへのインタビューを通じ、ベトナムのスタートアップ・エコシステム、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)の最新動向や日本企業との協業に向けたヒントを探る。

第1回は、ベトナムの若者世代に教育の機会を提供するため、P2P(個人間)で手頃な金利で教育ローンを受けられるオンラインプラットフォームを展開する、南部ホーチミン市のスタートアップ「ルートピア(Rootopia)」(ベトナム語)を取り上げる。ベトナム統計総局によると、ベトナムでは子供の教育費への支出額が年々増加しており、世帯収入に占める教育費の割合も高い。2020年の各家庭の子供の教育への支出額は2016年比で約30%増加している。このような状況下で近年、教育費の捻出方法が各家庭で課題となっている(「ラオ・ドン紙」2022年6月11日付)。この問題を解決するため、ルートピアの事業は注目されている。同社には、日系ベンチャーキャピタル(VC)のジェネシアベンチャーズ(注3)や、地場VCなど複数が出資している。起業の経緯から今後の展望まで、ルートピアの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のグエン・スアン・チュオン氏に聞いた(インタビュー日:2023年7月20日、9月19日)。


グエン・スアン・チュオン共同創業者兼CEO(ルートピア提供)
質問:
提供しているサービスは。
答え:
当社は、教育機会を求める若者や保護者と、スポンサーとなるエンジェル投資家を結び、比較的手頃な金利で教育ローンを提供するオンラインプラットフォーム(ウェブアプリ)を開発した。銀行からの借り入れには、信用面から複数の条件が設定されており、安定した収入がない家庭では借り入れが難しい。そのため、借り入れの選択肢は、金利が高い消費者金融などに限られていた。当社のサービスでは、1カ月当たり0.9~1.2%と比較的低い金利で教育ローンの融資を受けることができる。貸主であるエンジェル投資家は、オンライン上で自身の支援先を選ぶことができ、投資後は元本と投資の利息を受け取ることができる。また、投資家から預かった資金は、融資希望の保護者との契約により、通学先の学校や教育機関に当社から授業料として直接支払う。融資を受けた者は、教育ローンを返済し、投資家は元本分に加えて利子を受け取ることができる。2021年11月にベータ版をローンチして以降、全国100校以上の学校や教育機関で3,300人以上の生徒を支援しており、エンジェル投資家は1,000人を超えた。

ルートピアウェブアプリの画面(援助先の詳細や利回りなどの情報が確認できる)

ルートピアのビジネスモデル(同社提供)
質問:
設立のきっかけと、本分野を選んだ理由は。
答え:
私は奨学金の支援を受けて米国に留学した。帰国後、軽トラックの配車アプリを提供する「アハムーブ(Ahamove)」を共同創業した。同社では、効果的なビジネスモデルを構築する上での重要な教訓を学んだ。急速に成長するために、起業家はまず適切なポテンシャル市場を選択する必要がある。また、プラットフォームとして、仮に需要が急拡大したとしても、それに見合う供給体制を確立し、プロダクト・マーケット・フィット(PMF)を実現することを目指す必要がある。PMFが達成されれば、市場が持続的かつ効果的に拡大していく。アハムーブではそういった戦略で事業を進めた結果、2018年末までアクティブユーザー数の拡大が続き、1カ月間のユーザー数は5万人を超えた。その後、ベトナム最大手の電子決済サービス「MoMo」でソーシャル・ペイメント・サービスのディレクターを務めた。送金サービスを通じたモバイル決済のソーシャル化、特に保護者や生徒の教育サービスに対するニーズや、授業料の支払い習慣への理解を基に製品開発することを学び、フィンテック領域での経験を蓄積した。ベトナムで学費の高騰に悩まされ、銀行ローンを利用できない人でも経済的支援にアクセスできるようなプラットフォームを創出することに自分の使命を見いだし、ルートピアの設立を決意した。
質問:
今後の事業計画は。
答え:
短期的には、保護者がローンと返済スケジュールを確認・管理できるアプリを構築する予定だ。中長期では、学生のアカデミック・プロフィールに基づく信用スコアリングの構築を行うことで、学生向けにはより低金利のローンを提供し、投資家向けにはより良い金融商品のサービスを提供する。
質問:
日本企業に期待することは。
答え:
日本企業に対しては、(当社に対しての)資金調達だけでなく、エンジェル投資家となり得る層とルートピアをつなぐネットワーキングの役割も含め、自社のユーザーにさらなる価値を提供できるパートナーとなることを期待したい(注4)。

注1:
新興国で新しい技術やサービスなどが、先進国が歩んできた過程を飛び越えて急速に広まること。
注2:
ジェトロ調査レポート「東南アジアにおけるイノベーション創造活動に関する調査」(2022年8月)を参照。
注3:
2022年12月13日付同社プレスリリース。
注4:
本スタートアップへの取り次ぎを希望する場合は、ジェトロ・ホーチミン事務所(VHO@jetro.go.jp)まで連絡を。
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所 事業統括ディレクター
三木 貴博(みき たかひろ)
2014年、ジェトロ入構。海外見本市課、ものづくり産業課、ジェトロ岐阜を経て海外調査部アジア大洋州課にてベトナムをはじめとしたASEANの調査業務に従事。2022年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所
ファン・ウィン
2023年から、ジェトロ・ホーチミン事務所勤務。日本とASEANなどの企業によるデジタル技術を活用した連携を推進する「J-Bridge」事業を担当。