進出日系企業の景況感回復も、国ごとにばらつき(アフリカ)
有望分野は消費財、インフラ、再エネ

2022年3月22日

2021年のアフリカ経済は上向いた。これは主に、新型コロナウイルス感染拡大により未曽有の危機に直面した2020年の反動によるものだ。ただし、度重なる変異株の発生に翻弄され、必ずしも期待どおりの回復にならなかった。IMFによるサブサハラアフリカの経済見通しでは、世界平均の5.9%を下回る3.7%にとどまる。ワクチン接種の遅れが見込まれることが、その要因として挙げられている(2021年11月15日付ビジネス短信参照)。

こうした状況の中、現地に進出する日系企業はアフリカでのビジネスをどのよう捉えているのか。今後の展望をあわせ、ジェトロが2021年9月に実施した「2021年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)」の調査結果をもとに解説する(注1)。

今後も続くか、景気回復

2021年の営業利益見込みを「黒字」と回答した企業の割合は、49.2%。例年並みに回復した(図1参照)。新型コロナの影響で低迷した前年と比較して、12.7ポイント増だ。ただし黒字割合は、他国を含む日系企業実態調査(注2)全体の平均62.9%と比較して、13.4ポイント小さい。国別でみると、南アフリカ共和国(南ア)、エジプト、コートジボワールで、半数以上が「黒字」と回答。特に南アは69.1%と日系企業調査全体の平均を上回った。

なお、「赤字」と回答した企業は7.2ポイント減少して21.9%だった。

図1:営業利益見込み推移
2021年の営業利益見込みを「黒字」と回答した企業の割合は、新型コロナの影響により低迷した前年と比較して、12.7ポイント増の49.2%と例年並みに回復した(図1)。ただし、同割合は世界全体の62.9%と比較して、13.4ポイント小さい結果となった。国別でみると、南ア、エジプト、コートジボワールで半数以上が「黒字」と回答しており、特に南アは69.1%と世界平均を上回った。なお、「赤字」と回答した企業は8.0ポイント減少して21.9%だった。

出所:「海外進出日系企業実態調査」「2021年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)」(ジェトロ)

ここで、アフリカ主要9カ国(注3)について、営業利益見込みの回復状況を比較してみる。その結果、大きく3分類できることがわかる(図2参照)。すなわち、(1)新型コロナ前(2019年)を上回る水準に回復した(南ア、エジプト、コートジボワール)、(2)前年より回復するも、新型コロナ前の水準に達しなかった(ケニア、モロッコ、ナイジェリア、ガーナ)、(3) 2019年、2020年より黒字回答が減少した(モザンビーク、エチオピア)、それぞれのグループだ。アフリカの中でも、各国の回復状況に差が出ているのだ。

南アでは、黒字転換した企業が、前年から赤字転換したり赤字幅が増加したりした企業数を上回った。企業活動の復調が見られるわけだ。南ア企業の景況感は、新型コロナ前(2019年)の水準(黒字回答68.1%)まで完全に回復したとみてよいだろう。(2)のグループも、2021年に入って総じて順調に持ち直してきた。2022年には、コロナ前の黒字割合に達すると見込まれる。なお、ガーナの黒字見込みが低迷した理由は、回答企業の7割がコロナウイルスの影響を受けやすかった業種(卸売りや小売りなど)だったことが考えられる。(3)グループのモザンビークとエチオピアでは、新型コロナによる輸出低迷や稼働率の低下の影響のほか、治安に対する懸念を訴える回答も見られた(注4)。もっとも、エチオピアでは2022年2月に国家非常事態宣言を解除(2022年2月17日付ビジネス短信参照)。事態が正常化に向かっていることから、今後の経済活動復旧が期待される。

図2:2019-2021年の国別営業利益見込み

南アフリカ共和国・エジプト・コートジボワール
営業利益見込みの回復状況は、アフリカで日系進出企業の多い主要9か国(南ア、ケニア、エジプト、モロッコ、ナイジェリア、ガーナ、コートジボワール、モザンビーク、エチオピア)で比較したところ、大きく3つに分類できる。南ア、エジプト、コートジボワールは、新型コロナ前(2019年)を上回る水準に回復。
ナイジェリア・ケニア・ガーナ・モロッコ
営業利益見込みの回復状況は、アフリカで日系進出企業の多い主要9か国(南ア、ケニア、エジプト、モロッコ、ナイジェリア、ガーナ、コートジボワール、モザンビーク、エチオピア)で比較したところ、大きく3つに分類できる。ケニア、モロッコ、ナイジェリア、ガーナは前年より回復するも、新型コロナ前の水準に達せず。
モザンビーク・エチオピア
営業利益見込みの回復状況は、アフリカで日系進出企業の多い主要9か国(南ア、ケニア、エジプト、モロッコ、ナイジェリア、ガーナ、コートジボワール、モザンビーク、エチオピア)で比較したところ、大きく3つに分類できる。モザンビーク、エチオピアは2019年、20年より黒字回答が減少。

出所:「2021年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)」(ジェトロ)

2022年の営業利益見通しでは、「改善」を見込む回答がさらに増加(50.4%)。それに伴って、「悪化」は減少した(6.0%)。また、今後1、2年の事業展開を「拡大」すると回答した企業は、前年比6.8ポイント増の48.6%。期待はますます大きくなっている。その理由としては「現地での売り上げ増加」「成長性、潜在力の高さ」などが挙げられた。

海外戦略の位置づけについて、5年前と比較して「重要性が増した」と回答した企業も、約半数(46.8%)にのぼる。また、今後5年間について「重要性が増す」とする回答も、約6割あった。

ただし、2021年の勢いで2022年も景気回復が続くかどうかについては、留意が必要だ。2021年に営業利益が改善した理由で多かった回答は、「現地市場の売り上げ増加」(78.3%、複数回答可)と「輸出拡大による売り上げ増加」(30.2%、同)だった。しかし、そのうち半数以上の企業が、新型コロナウイルスによる売り上げ減の反動に起因するとしていた。また、回答企業の中から、今後のビジネスにまつわる不透明性に不安も聞かれた(例えば、「新型コロナの影響を受け、今後を見通せなくなった」「脱炭素によって自社の活動に影響が出る」など)。2021年にコロナ禍からの回復が鮮明になったとは言え、今後の見通しを楽観視できるかどうかは不明確ということになる。

投資環境の魅力は市場の将来性、リスクは規制・法令

アフリカにおける投資環境面の魅力について最多の回答は、「市場規模/成長性」だった。有効回答に占めるその構成比は、71.7%に及ぶ。国別に回答割合が特に目立ったのは、域内最大規模の人口を擁するナイジェリアとエチオピアだった。次いで回答の多かった「安定した政治・社会情勢」については、モロッコとガーナで評価が高かった。総合的に評価が高かったのは、モロッコとケニアだ。特にモロッコは、「言語・コミュニケーション上の障害の少なさ」を除くと(注5)、すべての項目で平均を上回った。言語上の障壁をさておくと、欧州市場とアフリカ市場の結節点としての役割を持つ進出企業にとって魅力的ということが明らかになった。

投資環境面で改善した点としては、「政治・社会情勢」が最大だった。その中で「政治リスク」と答えたのは8割以上だった。「政治・社会情勢」と回答した企業では、エジプト、ガーナ、コートジボワールが全体の4割を占めた。エジプトでは、イスラム過激派のテロを契機に発令されていた非常事態宣言が4年ぶりに解除されるなど、治安の安定が続いている(2021年10月29日付ビジネス短信参照)。また、コートジボワールでは、2020年の大統領選挙で、憲法で禁止される現職の3選をめぐって緊張が高まっていた(2020年11月4日付ビジネス短信参照)。しかし、現在は政局が安定している。こうした状況が、今回の結果に反映されたと考えられる。

一方、投資環境のリスクについては、6割以上の企業が「規制・法令の整備、運用」を挙げた。その回答率が8割を超えたのは、エジプト、モザンビーク、ガーナ、エチオピアだった。「外資系企業に対する税務当局のハラスメントや理不尽な追徴課税」というコメントもみられる。この背景には、アフリカの多くの国々で、新型コロナ禍により税収が落ち込んだことがある。その裏返しとして、税収をできるだけ確保する目的で、外資系企業に過剰な税務調査が進められているというわけだ。そのほか南アでは、黒人の経済力強化政策(BEE政策)に基づく要求が厳しいとの声が散見された。

次いで多かった回答が「不安定な政治・社会情勢」(56.4%)だった。国別には、南アとエチオピアの回答が最も多かった。うち、南アの回答割合は、前年比で19.0ポイント増加。ジェイコブ・ズマ前大統領収監に伴い2021年7月に発生した暴動の拡大が影響したとみられる(2021年7月14日付ビジネス短信参照)。エチオピアの治安状況については、先述の通りだ。

AfCFTAに期待高まる

アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が、2021年1月に運用を開始した。この制度について「利用を検討する」と回答した企業は、55.8%。前年比18.6ポイント増と、ますます関心が高まっていることが分かった。ただし、その効果に評価が定まっているわけではない。AfCFTAの影響について、「メリット」と回答した企業が32%だった一方で、「わからない」と回答した企業が43.9%にのぼった。運用が不透明で、ビジネスに与える影響がいまだ未知数という実感なのだろう。期待は高いものの、原産地規則や譲許表で交渉が続いていることから、自社のビジネスにどのように裨益(ひえき)するか様子見の状態が続いている。

この点、AfCFTAのワムケレ・メネ事務局長は、国連からのインタビュー(2022年1月)に対して、既に原産地規則の87.9%が合意に達した点を指摘。「近く原産地規則と通関手続きをまとめた冊子を公開する予定」と答えた。

有望ビジネス分野は食品、電力、再エネ

アフリカ進出日系企業が有望視するビジネス分野については、「消費市場」が46.3%とトップだった。次いで「インフラ」(43.2%)、「資源エネルギー」(43.2%)、「サービス業」(30.4%)、「新産業」(28.4%)、「農業・食品加工」(25.3%)、輸送機器(13.2%)、その他(5.4%)という結果になった(図3参照)。上位3項目それぞれの内訳をみると、「消費市場」では「食品」が61.8%と最も高かった。次いで、「生活用品」52.7%、「輸送機器」46.4%が続く。「インフラ」では、「電力」が72.6%と最高。次いで「水」が50.9%、「道路」が50.0%だった。「資源・エネルギー」では、「再生可能エネルギー」(以下「再エネ」)が81.3%と最も高く、天然ガスや石油を大きく上回った。このように、世界的な脱炭素化を背景にかつてないスピードで注目が集まっている。

図3:有望ビジネス分野

有望視するビジネス分野(複数回答可)
「消費市場」が46.3%とトップだった。次いで「インフラ」(43.2%)、「資源エネルギー」(43.2%)、「サービス業」(30.4%)、「新産業」(28.4%)、「農業・食品加工」(25.3%)、輸送機器(13.2%)、その他(5.4%)という結果になった。
消費市場(複数回答可)
上位3項目それぞれの内訳をみると、「消費市場」では、「食品」が61.8%と最も高く、次いで「生活用品」52.7%、「輸送機器」46.4%だった。
資源・エネルギー(複数回答可)
「再生可能エネルギー」が81.3%と最も高く、天然ガスや石油を大きく上回るなど、世界的な脱炭素化を背景にかつてないスピードで注目が集まっている。
インフラ(複数回答可)
「電力」が72.6%と最も高く、次いで「水」が50.9%、「道路」が50.0%だった。

出所:「2021年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)」(ジェトロ)

国別には、「消費市場」と回答した割合が高かったのはナイジェリアとエチオピアだった。いずれも、人口規模の大きな国だ。ナイジェリアでは「食品」と「生活用品」、エチオピアでは「生活用品」「ベビー・子供」が最多になった。

「インフラ」については、エジプト、ガーナ、コートジボワール、モザンビーク、エチオピアなど多国で回答が見られた。

「資源・エネルギー」の回答割合が高かった国は、セネガル、モザンビークだ。ただし、「再エネ」の回答が多かった国は、南アとエジプトが圧倒的だ。この両国合わせて、回答全体の4割を超える。南アは、2022年2月に「水素社会ロードマップ」を発表した。その中で、日本を有望な水素輸出先の1つとして強調している(2021年2月28日付ビジネス短信参照)。エジプトも、COP27(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)の開催国になった。今後も、両国を中心に再エネの重要性がアフリカ全体に波及していくと予想される。

2021年時点での「今後の注目国」は、上位3カ国がケニア、南ア、ナイジェリアだった。これは、例年通りの結果だ。一方でガーナが年々順位を上げてきた。当該調査では、4位に浮上している。同国が評価された理由としては、(1)西アフリカの拠点としての機能、(2)安定した治安や公用語が英語という理由から、ビジネスがしやすいこと、(3)日本企業の集積、などが考えられる。そのほか、近年順位を上げているのが、タンザニアとエジプトだ。いずれも、人口規模が大きい国という特徴がある。

なお、本調査では、エジプトはアフリカ地域として調査を行っている。一方で、多くの日本企業がエジプトを中東・北アフリカ地域(MENA)として管轄していることにも留意したい。その副作用として、本調査ではMENA視点からエジプトを見ている企業の声が反映されてにくくなっている可能性がある。結果、エジプトの回答率が低く出てしまっているとも考えられる。


注1:
アフリカでの当該調査は、のべ23カ国で実施し、回答が得られた国は20ヶ国。抽出された対象企業数は、335社。回答企業数は258社で、有効回答率77.0%だった。
注2:
ジェトロでは、海外事務所ネットワークを活用して日系企業を抽出し、世界各国で「進出日系企業実態調査」を実施している。2021年度は、海外82カ国・地域の18,932社が対象(出資比率10%以上の現地法人のほか、日本企業の支店・駐在員事務所が含まれることがある)。うち、7,575社から有効回答を得た。有効回答率は、40%だった。実施時期は、各地とも8月下旬~9月。
注3:
ここでアフリカ主要9カ国とは、当該地域で日系進出企業の多い「南ア」「ケニア」「エジプト」「モロッコ」「ナイジェリア」「ガーナ」「コートジボワール」「モザンビーク」「エチオピア」。
注4:
例えばモザンビークについては、北部カーボ・デルガド州でイスラム系武装勢力による襲撃が発生した(2021年3月30日付ビジネス短信参照)。またエチオピアも、北部ティグライ州で治安悪化に懸念材料含みだ。
注5:
「言語・コミュニケーション上の障害」としては、モロッコがフランス語圏にあることが響いたと考えられる。そうした障壁から、進出先として敬遠されがちなことも読み取れる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
小林 淳平(こばやし じゅんぺい)
2021年、ジェトロ入構。同年から現職。