非常事態宣言を4年ぶりに解除、2022年のCOP27招致に向けた印象改善も狙う

(エジプト)

カイロ発

2021年10月29日

エジプトのアブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領は10月25日、国内全土に発令していた非常事態宣言を延長しないと発表した。宣言は3カ月ごとに延長しており、前回は7月24日に延長し、その継続が注目されていた。非常事態宣言は、2013年にイスラム過激派によるテロ行為に対する措置として北シナイ県を対象に発令し、その後2017年4月に発生したコプト教教会爆破テロの発生を契機に、範囲を国内全土に拡大していた。近年、エジプトでは目立ったテロは発生しておらず、シナイ半島北部の反政府勢力の抑え込みに成功しており、治安の安定が解除につながった。

宣言解除の背景には、欧米諸国からの圧力もあるとみられる。非常事態宣言によって政府は、国家の安全を脅かすと見なした場合、民間人でも緊急国家治安裁判所で起訴することが可能となっていた。これに対し、欧米など人権保護を重視する諸国は、現政権が反対勢力の弾圧に利用しているとの懸念を表明していた。アンソニー・ブリンケン米国務長官は9月14日、人権保護に関する状況が改善しなければ、2017年以降継続していた1億3,000万ドル相当の軍事支援を差し止めると言及。エジプト政府は9月11日に国家人権戦略を立ち上げるなど、人権重視の姿勢を見せていた。

正常化に向けた動きに合わせて、幾つかの動きも見られた。エジプト観光考古省は10月22日、新型コロナウイルス対策として70%に抑えられていた宿泊施設の稼働率制限を解除した。2015年にシナイ半島で発生したロシア航空機爆破テロに端を発して停止していたモスクワとシナイ半島南端シャルムエル・シェイクを結ぶ便の8月再開後、ホテル稼働率が高まる中(2021年9月24日付地域・分析レポート参照)、制限解除が期待されていた。シャルムエル・シェイクは、2022年の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)の候補地として名乗りを上げており、非常事態宣言解除はイメージ改善も狙っているようだ。

(福山豊和)

(エジプト)

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