気候変動などスコア表示も
食品環境ラベル、欧州でルール化へ(1)

2022年5月18日

欧州で、食品の環境ラベルの制度化に向けた動きが進む。例えばフランスでは、食品のライフサイクル上、環境負荷に関する評価を明示する取り組みが先行。スコア表示を軸に制度化に向け政府が動いている。大手小売りも、スコア表示の試験導入に取り組む。これらに関連し、消費者からの反応などを含め、2回に分けてみていく。

本稿では、EUやフランスなどでの環境ラベル制度化に向けた取り組みや、アジアなど欧州域外国の対応を紹介する。

コロナ禍の外出規制で食品の環境負荷への関心高まる

新型コロナウイルス感染拡大による外出規制などにより、外食の機会が減り、自宅で自炊する機会が増えた。食材に向き合う時間が増えたことで、食材の地産地消や、動物福祉、気候変動への対応など、食品の環境負荷に関心を持つ消費者が増えている。この点は、ドイツ連邦食料・農業省が実施した有機食品に関する消費者アンケート(2022年2月発表、注1)でも確認できる。このアンケートによると、有機食品の購入頻度の設問で、5%が「有機食品だけを購入する」、33%は「有機食品をよく購入する」と回答。2016年発表の結果(それぞれ3%、21%)に比べて増加した。また、有機食品を購入する動機では、「環境・気候保護およびそれぞれの家畜の種類や特性に適した飼育方法」が最大だった。

持続可能な食品への関心の高まりなどから、一部の企業や業界では、環境負荷など条件をクリアした食品にラベルを付ける独自の取り組みを進めている。競合商品との差別化につなげるのも狙いだ。他方で、そのようなラベルは複数ある。その結果、それぞれのラベルに関する情報を消費者がきちんと理解できていない面もあるようだ。「インパクト・フランス」が実施したアンケート(注2)では、食品ラベル(有機食品、フェアトレードなど)を複数認識している回答者のうち、ラベルの運営者・機関までは知らないとした回答者が45%あった。ラベル貼付により(食品メーカーなど)企業がコミットしている内容を知らないという回答者は38%。理解できていない回答者が、それぞれ半数近くに上ったことになる(注3)。

また、インパクト・フランスの調査上、フランス企業の社会・環境への責任レベルを示す指標として、スコア表示を公的機関が制度的に導入することについては、87%が賛成している(注4)。同じ傾向は、欧州全体でもみられる。欧州消費者機構(BEUC)が実施したアンケート(注5)では、持続可能性に関する情報を食品ラベルに含めるべきかとの問いに対し、57%が「賛成」と回答した。

EU、2024年までに持続可能な食品ラベル表示を提案

食品の環境ラベル表示は、EUレベルでまだ制度化はされていない。しかし10年ほど前から、その準備は行われてきた。

欧州委員会は2013年4月、「製品と組織のライフサイクル環境評価のための共通手法の使用に関する勧告」(2013/179/EU)を発表。その中で、「異なる環境パフォーマンスの評価・伝達方法やイニシアチブが乱立して広まると、それらの情報が混乱を引き起こし、信頼性を担保できなくなる」と言及した。その上で、公的機関や民間イニシアチブなどが導入する複数の異なる評価手法への対応が、ビジネス関係者にとってコスト負担増となると指摘していた。

さらに欧州委は2020年5月、持続可能な食料システムを目指して「ファーム・トゥ・フォーク(Farm to Fork)戦略」を発表。その中で、2024年までに持続可能な食品ラベル表示の枠組みを提案する計画が示された。また、欧州委は2022年3月、農産品の地理的表示(GI)制度を見直し、新たな登録手続きなどを定める規則案を発表した(2022年4月7日付ビジネス短信参照)。その際、製品の仕様に、気候変動対応や動物福祉(注6)など「環境に対する持続可能性」を認定要件として含め得る、とも提案している。

なお、欧州市民イニシアチブ(European Citizens' Initiative、ECI、注7)制度に基づいて「欧州エコ・スコア」が提案されていることも注目に値する。欧州エコ・スコアは、食品を含むあらゆる製品に関する環境負荷を示すEUの統一マークだ。その導入を目指し、欧州の若い世代の市民グループが2021年7月から署名集めを開始した。このように、行政と市民の双方から、欧州ワイドでの食品の環境ラベル表示制度導入に向けた取り組みが着々と進められている。

気候変動を含むスコア表示を軸に、フランスで2023年から導入へ

EU加盟国での制度導入に向けた取り組みとしては、フランスが先行している。

フランスでは、ライフサイクルアセスメント(LCA、注8)を軸に、食品の環境負荷を数値化してスコア表示する制度の導入が検討されてきた。政府だけでなく、市民からも食品の環境ラベル表示制度導入が要請されている。例えば、気候変動対策・レジリエンス強化法(2021年8月施行)が策定されたのは、「気候変動市民評議会」(注9)の政策提言(2020年6月公表、2021年2月19日付ビジネス短信参照)に基づくものだった。同法第2条には、「試験導入プロジェクトを実施した上で、食品を含む製品・サービスの環境負荷をラベルに表示する制度を導入する」との主旨の記載がある。また、そもそもの評議会提言にも、環境ラベル表示の導入案が含まれていた(2021年12月6日付地域・分析レポート参照)。

なお、政府は、同法施行以前(注10)の2020年2月~2021年12月、食品の環境ラベルに関し、すでに実証プログラムを実施済みだ。その目的は、食品の環境へのインパクトに関する消費者の意識向上と、(同じ食品の中でも)環境負荷の低い商品選択を導入する仕組みづくりにあった。同プログラムは、テーマ別に複数プロジェクトで構成された(具体的には、(1)食品や農業の研究機関によるプロジェクト、(2)(スコア表示などの)専門家によるプロジェクト、(3)(小売りなどの)民間企業が消費者の反応をみる試験導入プロジェクト、など)。導入後に短期間で広く普及できるよう、企業が認証機関から認証を得て環境ラベルを貼付する手法が想定されているとみられる。環境移行庁(ADEME)は2022年1月、同実証プログラムの結果を踏まえたレポート「食品の環境ラベル」を議会に提出。具体的な検討が進められている。

事前の審査を経た民間企業(グループ)提案の試験導入プロジェクトは18あり、環境負荷の評価項目やスコア表示などが異なる。実施された環境ラベルの代表例に、「エコ・スコア(注11)」と「プラネット・スコア(注12)」がある(表参照)。

表:フランスで試験導入された代表的な環境ラベル
ラベル名 始動
時期
スコア表示方法 主な評価項目・方法 提案者
エコ・スコア
(Eco-Score)
2021年1月 総合評価だけ
総合評価を、AからEの5段階のスコアでカラー表示。
既存のLCAで評価しつつ、(補完的に)ボーナス(例:有機栽培)とペナルティ(例:生物多様性に大きな影響をもたらす原材料)を加減。 Yuka、Eco2Initiativeなどのコンソーシアム
プラネット・スコア
(Planet Score)
2021年7月 総合評価と個別評価の組み合わせ
総合評価と個別評価(農薬、生物多様性、気候変動対応、動物福祉)それぞれを、AからEの5段階のスコアでカラー表示。
一部のLCAの指標の改定もしくは補完的な指標の新設を行った上で、LCAで評価。 Institute of Organic Agriculture and Food(ITAB)、Sayari、Very Good Future

出所:各種ウェブサイトを基にジェトロ作成

同レポート上、食品に対する環境負荷の評価項目・方法は、基本的にLCAの考え方に基づく。ただし、評価にあたって何らか補完するべきことについても提案した。試験導入プロジェクトに参加したNPO法人「ラ・ノート・グローバル」も、LCA手法だけで評価するのでは不十分と指摘する。それでは、(1)土壌による炭素隔離(注13)、(2)農薬の限定的な使用、(3)生物多様性の保護、(4)景観保護や土壌保全・水質保護など、加点要素が反映されないためだ。

現時点で示されているスコア表示方法の提案は、(1)AからEなど、段階別にカラー表示する、(2)上段に総合評価を、下段に個別指標(「資源(利用)」「生物多様性」「気候変動」など)別の評価を並べるというものだ。その上で、「プラネット・スコアをベースにしたものか、別の表示方法が望ましい」(同レポート)としている。そして、スコアの説明とともに、スコアの根拠となった指標の定義やスコア算出方法などの詳細情報に消費者がアクセスできる補完的な仕組みの導入にも言及した。

なお、同レポートの議会への提出前には、プラネット・スコアに基づくスコア表示方式支持を表明する声が挙がっていた。オーシャン(フランスの小売り大手)や、リドル・フランス(ドイツ系ディスカウントスーパーマーケット)、ラ・ノート・グローバルなどがその一例だ。また、リドル・フランスやビオコープ(有機食品小売り)などは、プラネット・スコアを2022年に試験導入することを発表している。なお、試験導入プロジェクトにまだ参加していない企業が、プロジェクト期間終了後に参加して消費者の反応をみることも可能だ。

これまで環境ラベル表示制度の導入に取り組んできたマクロン大統領は、2022年4月の大統領選挙で再選された。そのため、引き続き同制度導入に向けて取り組むとみられる。最終的な導入の際、統一的なラベルに集約され、企業はその統一ラベルに従うことになる。統一ラベル作成に向け、2022年中に(1)スコア算出用データベースの改定(LCA手法の一部補完など)、(2)スコア算出ツールの導入、(3)スコア算出方法の確定、(4)消費者にわかりやすいロゴの作成、などの検討・準備が進められる。フランスで本格導入されるのは、2023年初めの予定だ。

ドイツでも2022年に、畜産ラベル表示制度を導入予定

ドイツは、2020年に栄養スコア表示を導入した。そのドイツでも、食品による環境負荷を可視化させるラベル導入が検討されている。現政権が発足した2021年12月、連立を構成する3党(注14)が合意した連立協定書では、(1)動物の輸送や食肉処理時の環境も加味した畜産ラベル表示制度について、2022年中の導入を予定すること(2022年1月21日付ビジネス短信参照)、(2)動物福祉を考慮しながら、動物から排出されるメタンガスなどのGHGの削減にも取り組むこと、が盛り込まれた。

なお、民間レベルでも、業界の垣根を越えて、スコア表示による食品の環境ラベル導入を進める動きがみられる。NPO法人のファウンデーション・アース(英国)は2021年9月、アルファベットによるスコア表示の環境ラベル「エコ・インパクト」を提案した。欧州の一部小売りチェーンが2022年から、その試験導入を進めるとしている。

アジアなど域外国で、食品輸出事業者に対応を呼びかけ

欧州での食品環境ラベル制度化に向けた動きは、アジアなど欧州以外にも波紋を及ぼしている。そうした国々の政府機関は、エコ・スコアの試験導入発表前後(2021年半ばごろ)、食品・食材を対欧輸出する国内事業者向けに、同制度化をにらんだ対応を呼びかけた。例えば、EUと自由貿易協定(FTA)交渉中のオーストラリア。同国の輸出促進機関、オーストラリア貿易投資促進庁(Austrade)は、「(輸出事業者は)EUにおける制度化の動きを注視すべき」と注意喚起した。その上で「(試験導入に参加している)EU域内の大手小売り向けにすでに輸出している事業者にとっては、試験導入プロジェクトに(早期に)関わることができるチャンスになる」と指摘している。

他方、タイ工業規格局は、フランスにおけるエコ・スコア(のようなスコア表示ラベル)の導入を受け、「将来的にはEUの基準として導入され得る」とみている。その上で、「(エコ・スコアなどのラベルの導入は、アジアなど)地球の反対側からEUに輸出する(フランスやEU以外の)第三国にとっては、遠距離輸送となり輸送時の排出量が多く、不利になる。タイ(の事業者)は今後、(環境負荷の)スコア算定指標を開発して対応していくべき」と言及。それにより、「欧州域内や競合国で生産された同種食品を上回る高スコアを獲得する食品を、タイから提供できるようになる」ためだ。より具体的に例示されたのは、有機米、旬の野菜、鶏肉などだ。制度化を踏まえて準備を進めることでビジネス「リスク」を回避できる、と呼びかけたかたちだ。

同様に大韓貿易投資振興公社(KOTRA)も、欧州におけるコロナ後の食の消費パターンの変化の1つとして、エコ・スコアの導入を紹介している。

スコア表示など、欧州での食品環境ラベル制度化は、具体的な対応事項などが明確になっていない。道のりはまだ長いだろう。ただ、既述のとおり、消費者や市民が導入に強い関心を持っている以上、将来的なルール化自体は回避できそうもない。スコア表示指標に気候変動対応が含まれる場合、相当な手間と準備時間がかかるだろう。例えば、自社やサプライチェーンで取り扱う食品・食材について、生産から販売までのライフサイクル全体でGHG排出量などのデータを集めるだけでも、だ。ルールが導入されてからの対応では間に合わない。欧州で食品ビジネスを手がける日本企業は、気候変動対応や動物福祉など食品の環境スコア表示のルール化に向けた欧州の動きを注視する必要がある。進められる部分は今から準備をすることで、自社の食品・食材が欧州市場から締め出される「リスク」を回避できるよう備えることができるのだ。


注1:
ドイツ連邦食料・農業省は、消費者の有機食品の買い物習慣に関して、「有機バロメーター」と題しアンケートを実施した。実施期間は2021年9月~10月中旬。電話インタビューにより1,022人が回答した(2022年3月2日付ビジネス短信参照)。
有機食品の購入動機に関する設問は、4つの選択肢から「最も重要な動機」「2番目に重要な動機」としてそれぞれ1つずつ回答する方式で設定された。選択肢「環境・気候保護およびそれぞれの家畜の種類や特性に適した飼育方法」を「最も重要な動機」とした回答が51%、「2番目に重要な動機」とした回答が27%だった。なお、2つの選択肢の合計割合の2位は「健康的な食品」、3位は「生産および流通における公正な条件」、4位は「味」だった。ちなみに、この設問の有効回答者数は824人(有機食品を全く買わない人などを除いて計上された)。
注2:
「インパクト・フランス」は、フランスの起業家ネットワーク。当該調査は、調査会社ハリス・インタラクティブに委託された(2022年1月26~27日にオンラインで実施)。対象は18歳以上のフランス人で、有効回答数1,001人。
注3:
ここで言う「知らない」とは、「正しく知らない」と「どちらかというと知らない」の合計。
注4:
この設問上の「スコア表示」とは、栄養スコア表示に準じたものという前提で問われた。ちなみに、栄養スコア表示はフランスで既に導入済み(2020年10月16日付ビジネス短信参照)。
また、ここでの「賛成」は、「大いに賛成」と「どちらかというと賛成」の合計。
注5:
BEUCが2020年6月に発表したアンケート調査結果「消費者と持続可能な食品への移行」。調査対象は、EUの11加盟国(オーストリア、ベルギー、ドイツ、ギリシャ、イタリア、リトアニア、オランダ、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペイン)。各国それぞれで、1,000人超が回答した。オンライン方式により実施。実施時期は2019年10~11月。新型コロナ感染拡大前に実施されたため、発表時点と傾向が異なる可能性にも言及している。
注6:
人間が与える痛みやストレスなどの苦痛を最小限に抑えることなどにより、動物の心理的幸福を追求する考え方。
注7:
ECIは、一種の直接請求制度。加盟国7カ国から合計100万人以上の署名を集めると、欧州委に対して立法を提案することが可能になる。
注8:
LCAとは、製品やサービスのライフサイクルを通じて環境への影響を評価する手法。作成から廃棄に至るまでの温室効果ガス(GHG)の排出量などが問題にされる。
注9:
気候変動市民評議会は、抽選で選ばれた市民150人で構成される。当評議会は、エマニュエル・マクロン大統領が2019年10月に設置したもの。
注10:
試験導入プロジェクトは、もともと循環経済法(2020年2月施行)を基に導入された(2020年6月4日付地域・分析レポート参照)。その後、気候変動対策・レジリエンス強化法(2021年8月施行)に組み込まれた。
注11:
エコ・スコアは、ユカ(フランス)とエコ2イニシアチブ(フランス)の2社が開発した。この2社や食品ケータリング企業、市民団体などのコンソーシアムにより、2021年1月にフランスで試験導入された(2021年1月18日付ビジネス短信参照)。
なお、ユカは、食品やトイレタリー商品などの健康への影響を数値化するアプリ「ユカ」の開発者だ。また、エコ2イニシアチブは、環境コンサルタント。周辺地域で生産された食品(地産地消)や旬の食材の消費を促すことでGHG排出削減につなげる消費者および料理人向けのアプリ「エチケタブル」を開発したことでも知られる。
注12:
プラネット・スコアは、2021年7月に提案された。提案者は、有機農業技術研究所(ITAB)、デザイン会社のサヤリ、投資家や起業家などによるネットワークのベリー・グッド・フューチャー。
注13:
大気中の二酸化炭素(CO2)を土壌に吸収させることで気候変動を緩和する手法。炭素は土壌内に蓄積されていることを踏まえたもの。
注14:
ドイツの連立政権を構成する3党は、社会民主党(中道左派)、緑の党(環境政党として知られる)、自由民主党(中道リベラル)。

食品環境ラベル、欧州でルール化へ

  1. 気候変動などスコア表示も
  2. 栄養スコアとの区別が課題
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。